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人権に関するデータベース

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研修講義資料

東京会場 講義7 平成23年9月16日(金)

「災害と人権―職場における惨事ストレス対策―」

著者
飛鳥井 望
寄稿日(掲載日)
2012/03/28



 皆さんこんにちは。財団法人東京都医学総合研究所の飛鳥井と申します。
 私自身はずっと精神医学研究に携わっております精神科医ですが、特に専門が、よくお聞きになることがあるかもしれませんが、PTSD・心的外傷後ストレス障害ということの臨床研究をこの15年ほど携わってきております。
 それで、最初、阪神・淡路大震災とか地下鉄サリン事件の時から研究を始めまして、その後、色々な国内の事案があったときなどは出向いて調査研究等をしております。それから、色々症状の診断をするための評価尺度の開発ですとか、最近はもっぱら治療研究、特に認知行動療法と言われるような治療研究をしておりますが、むしろ新たな領域は犯罪被害者支援のほうが多くて、初期の被害者支援と人権というのは、本当は今の仕事には正にぴったりなのです。したがいまして、東京都には被害者支援都民センターというところがございますが、そこで理事もさせていただいております。
 ということで、そこでは精神的支援は、東京都の人権部との共同事業として被害者支援の活動もしております。
 それから、東京都の被害者支援連絡会の会長も去年から務めさせていただきまして、むしろそういうネットワークや司法とのかかわりといったようなことも携わっております。
 災害とはもう余り縁がないかなと思いましたところに、この平成23年3月の大震災がございまして、また色々な形でかかわるようになりました。特に東京都はオール東京都でチームを組んで、陸前高田市という大変被害の大きかったところに継続的に心のケアチームというものを派遣しております。
 そこで、私も現地を訪れたりしまして、それから、派遣される職員のストレス対策、まさに今日のテーマですが、いわゆる惨事ストレスと呼ばれる、救援者が大変大きなストレスを浴びますので、そのため説明会ですとか、心のアフターケア対策ですとか、そういうことに携わっております。
 惨事ストレスということでは、阪神・淡路のときには兵庫県の消防士さんたちの色々なストレスの問題の調査研究をしたり、ケア対策を一緒に考えたりしました。
 それから、数年前には、今日のお話しにも加えますが、九州南西沖海域で、海上保安官が戦闘行為に巻き込まれるということがございまして、それをきっかけに海上保安庁でも職員の惨事ストレス対策ということをしなければいけないということで、それにも協力をさせていただいて、大規模な調査をしたり、それに基づいて対策を立てたりしています。
 今現在も各地で色々な事案がありますと、すぐ惨事ストレスアドバイザーである心理専門職の方が連絡をとって、アフターケアができるような体制を取っております。今日はそういったようなことでお話をさせていただきます。
 
 災害とは、「人と環境との生態的な関係における広範な破壊の結果、被災社会がそれに対処するのに非常な努力を要し、被災地外からの援助を必要とするほどの深刻かつ急激な出来事である」というふうにも定義されております。
 まさに今の東日本の大震災ということをいえば、この言葉がぴったり当てはまるような事態が生じているということは皆さんもご承知のとおりでございます。
 そういうときに、体はもちろんケガをすることはあるのですが、それだけではなくて、心もケガをするということが、特にこの四半世紀ぐらい精神医学の領域でも注目されるようになりました。やはり、ベトナム戦争の帰還兵の問題とか、それから、1970年代に色々な犯罪被害者の方たち、特にレイプ被害のような深刻な精神的後遺症ということが精神医学的にも注目をされるようになりました。
 昔は別に被害者の問題というのは正に被害者個人の問題でしょうと、もともと気が弱いのではないですかといったようなことで、個人の特性で片づけられたのですが、どうもそうではない、みんな同じような反応なのです。
 片一方は若い兵士だったり、片一方は女性だったり、あるいは片一方は災害の被害者だったりしても似たような反応が出るということで、こういうトラウマにより心もケガをする特徴的な状態があるのではないかということが注目されるようになりました。
 「圧倒されるような精神的衝撃で強い恐怖や不安を伴い、個人がその対処に困難を感じるような外的出来事を体験する。」命や身体安全への脅威、あるいは大きなケガをしそうだと。それから、悲惨でグロテスクな場面の目撃等、具体的には自然災害、人為災害、犯罪被害、事故被害、戦闘といったようなものがございます。こういうことに巻き込まれますと、どうも生身の人間は共通の反応が出るということが明らかになりました。
 これが、ここからまた惨事ストレスということも出てきます。つまり、これは単に直接の被災者、あるいは被害者だけではなくて、それにかかわった人、救援者というものも間接的にその場面を目撃したり、あるいは生々しい出来事に仲間が巻き込まれるということがあります。そこで、その救援者も心をケガしたような状態になるということがあります。そういうことがございまして、近年は色々なところで惨事ストレスということが注目され、対策が立てられるようになりました。
 心的外傷によるトラウマによるストレス反応ですが、今、医学的にわかっていることは、前のスライドでお示ししましたような色々な深刻な衝撃を受けるほどのことを体験しますと、ほとんどの人が何らかの程度のストレス反応を体験します。8割、9割といったところです。
 ただ、どんなことでも全く何も感じないという人もいないわけではありませんが、ほとんどの人は何らかの程度、強い衝撃だったりそんなに強くない衝撃だったりすることがありますけれど、濃淡はあっても何らかの程度のストレス反応を体験します。
 したがいまして、このようなストレス反応そのものは正常な普通の反応だというふうにとらえられております。生身の人間がそういう異常な事態の体験をすれば誰にも出てくる可能性のある正常な普通の反応だということです。
 この言葉は、実は世界各国で使われている金科玉条のような言葉であります。といいますのは、実際に自分の身にそういうストレス反応が出てくると、どなたでもやはりちょっと不安が出てくるのです。自分は頭が変になったのではないかとか、非常に弱い人間なのではないかとか。
 例えば、そういう生々しい体験をした後、何日間も悪夢でうなされるとか、フラッシュバックのようにしてよみがえってくるとか、ちょっとしたことでも、冷や汗が出るなど、特徴的な反応が出てくるのですが、普段はそんなことを体験したことがないので、そういうことを体験しますと、やはり精神的におかしくなっちゃうのではないかと。
 ですから、他の人が見たら、そんなに弱い人のように見えないのに、自分だけ何故かこんなことで反応が出て、精神的に弱い人間なのではないか。ひいてはこの仕事をすることが精神的にもたないのではないか。などと色々と考え込んでしまったり、不安が強まりますが、そのときに起きていることを本人に理解してもらって、それは正常な反応だと受けとめてもらいます。
 「体験したことが異常な事態だったのですよ。」というふうに説明してあげます。この一言でご本人の気持ちが大分軽くなるのです。
 ということで、最後のほうでお話ししますけれども、世界各国でまずそういう方たちへ心のケアをするときに初めに理解していただくのはこの言葉であります。
 それから、用量反応関係というのは、強い精神的衝撃を受けた分ほど反応も強くなります。例えば、地震の例でいえば建物が全壊した、あるいは全焼した場合と、一部損壊、あるいはほとんど被害がなかった時とを比べた場合、きれいにストレス反応の程度というものは相関をしておりますが、被害程度が大きいほどストレス反応が大きく出るということがあります。
 ただ、一人一人の方を見ると、かなり大きな被害でも余り反応が出ない人もいるし、そんなに強い被害でなくても反応が大きく出る人がいます。個人差がありますが、集団として見た場合には、必ず被害の程度とストレス反応の程度が相関をしております。
 当たり前だろうと思われることですが、これもある意味で大事なことでありまして、色々な対策を立てるときに、押しなべて全部平均的にするのではなく、被害が重かったグループから優先的に援助支援をするということを考えることにしております。
 そういったような対策を立てるときには、そういう濃淡をつけるということが大事です。そのときの大きな柱が、この用量反応関係ということになります。
 それから、ストレス反応は多くの場合、数週間から数カ月で自然に改善していきます。自然という意味は、ご自分自身で気持ちを取り直したりすることや、それから、人間は必ず回復力、復元力というものを持っていますので、一時的に精神的衝撃によって打ちのめされてしまっても、自分の力だったり、家族や友人、支援者の支えによって、多くの場合、ほとんどの方は時間とともに回復をしていきます。全ての人が特に専門的なケアを必要とするわけではありません。それを必要とするのは一部の方です。
 したがって、過剰に専門的ケアのサービスを提供する必要はないわけです。ただし、全ての人が6ヶ月、1年としばらく経てば回復するので、めでたしめでたしとなってくれるのかというと、そうはいきません。一部の方は改善せずに、いわゆるPTSDといわれるような状態、あるいはそれに関連する色々な状態がありますが、そういう状態になります。改善は大体早い段階に多くて、6ヶ月から1年経っても症状が改善しない場合は、より支援が長期化しやすいということも言われております。
 災害によるストレス反応を、スライドで示しますが、1つは、今お話ししましたようなPTSDと言われるような、急性ストレス反応、急性ストレス障害と呼ばれる状態が、急性期の状態から心的外傷後ストレス障害、PTSDへと発展していくものです。
 それから、悲嘆反応です。ご家族を失った方の反応です。例えば今回の東日本大震災が、これまでの阪神・淡路大震災や中越地震と大きく違うところは、ご家族を失った方が大変多いということです。したがって、この悲嘆反応が出現している割合は大変多いと思います。
 悲嘆反応そのものも、かけがえのない人を失ったときに生じる正常な反応です。人間はそういったような大きな喪失体験をしますと、このような自然な反応が出てきます。これを悲嘆反応といいますが、それは正常な反応なのです。しかし、そこからなかなか出口が見えずに、ずっと苦痛感が強く残ってしまう。
 昔は病的悲嘆反応と呼ばれていましたが、今は複雑性悲嘆とか遷延性悲嘆障害といいます。本来ならば時間とともに和らいでいってくれるようなものが、出口が見えない状態になってしまい、そこですっかり時間が止まって前に進めなくなってしまうといったような、このような問題が出てくることもあります。
 それから、もう少し一般的な不安反応があります。特に災害の場合ですと、生活再建のストレスというものが大きいですから、深刻な災害の場合は、もちろん仕事の問題、仕事場を失った方はまた何とか仕事を見つけていかなければいけない。それから、住居を多く破壊された方は家を再建していかなければいけない。生活の再建過程で出てくる二次的なストレス、それが大変な自然災害の場合は大きいです。
 ですから、こういうことで不安とか抑うつというものを強めることがあります。こういったようなことから時間が経つとともに一般的なうつ病とか、不安障害とか恐怖症とか、あるいはアルコール依存の問題が強まってくるということもあります。
 これは変わった案件で病的高揚気分と書いてありますが、これは特に救援者の方、いわゆる災害ボランティアのような方で時として起こることがあります。日常生活から被災地という非日常的な世界に行って活動をしていますと、だんだん過覚醒状態になります。ずっと張り詰めた状態から突き抜けちゃって、非常に病的に高揚したような状態で帰ってくる。
 それから普段の日常生活に戻っていっても、その後の生活サイクルが合わず、ずっと高ぶったような気持ちになりっぱなしだとか、逆にがっくりして落ち込んでくるような状態になったりするなど、気持ちが高ぶり過ぎたまま帰ってきて、なかなか普段の生活に戻ることができないといったような、場合によっては治療が必要になるような、躁状態という状態になってしまう、こういったような問題もあります。
 先ほどPTSDのお話をしましたが、いわゆる災害ストレス反応というのは別にPTSDだけではありません。一連の色々な問題が出てくる可能性があり、それから、またこういったような心の病に発展するという可能性もあります。
 それから、ちょっとこれはご理解しておいていただきたいことですが、災害の種類により心理的影響の違いというのがあります。今回の震災は正に自然災害ですが、家屋・資産など経済的損失と復興過程の二次的ストレスが大変大きい。生活再建のストレス、今正にそれが被災者の方にものしかかっておりますけども、多大なストレスがかかります。
 それから、地域コミュニティ全体が変貌します。住みなれた世界が解されて大きく変わるわけです。それは進行形の喪失になります。ただ、スケールの大きいマイナスな面がある反面、メンタルヘルス上はプラスに働く面もあります。
 つまり、日本に住んでいて地震に遭った、集中豪雨の被害や、あるいは東北地方であれば津波に遭ったということは、これは誰を恨んでもしょうがない。最終的には受けとめるよりしょうがないということなのです。天のなせるわざですから。ということで、恨みつらみというものを生じる割合は少ないです。
 それから、被災地体験を広く共有できます。自分だけではなく、周りの人も同じように被害に遭っています。地域全体が被害を受けているということで、被災体験を広く共有できますし、それから、被災者同士の団結心というのが生まれやすいのです。もう1回力を合わせて、苦しいときは助け合おう、それから、協力してまたこの地域を立て直そうということで、被災者同士が団結して人心と凝集力が強まります。
 これは、メンタルヘルス上はプラスに働く、ポジティブな面を生み出すということで、何とかこの苦境を乗り越えて、みんなで力を合わせてもう1回立ち上がろうといったような気持ちが働きやすいというのが自然災害ではあります。
 一方、人為災害です。大型の事故等、最近の例では福知山線の事故です。一挙に大体100名余の方が亡くなられて、500名余の方がケガをするということがありました。
 財産損失を生じる場合というのは少ないです。ただし、加害者なり過失責任者への怨恨感情は続きやすいです。つまり、割り切れない気持ちです。誰か大ケガをした、あるいは家族をそれで失ってしまった。自分や家族の人生を狂わせてしまった加害者なり過失責任者がいるわけです。
 大きな事故でした、しかも色々な問題があった、過失があった、あるいは場合によっては加害者がいたなどというときに、それを甘んじて受けましょうなんて気持ちにはならないです。割り切れない思いがあります。
 それから、場合によっては、もちろん裁判ということが出ますので、ますますそういう複雑な感情が残ります。
 それから、周囲と被災体験を共有しにくい。たまたま乗り合わせた乗客です。、家庭の中にも職場の中にも自分と同じ体験した人は余りいないです。職場自体が巻き込まれているときでは別ですけれども、通常は、大型の交通災害でもたまたま居合わせた人ですから、日常生活の中での接点がない。
 だから、被災者相互の絆はもろくなりますから団結力が悪い、弱いということになります。したがって、一般には人為災害のほうではこういったようなことがメンタルヘルス上もマイナスに働くということがございます。むしろこういう人為災害のほうが後々そういう意味でのメンタルヘルス上の問題というのが出やすいということもあります。
 それから、もう1つは環境汚染災害、まさに今回の福島の原発の問題もそうです。単に自然災害、人為災害というだけではなくて、環境が大きく汚染される災害であります。この場合、特徴的なことは、2つの不安が強く出ます。
 1つは健康不安です。もちろん放射性物質の影響による発がん性の問題、それから、遺伝するのではないか、何らかの後遺症が出てくるのではないか、といったような健康不安が募ってまいります。
 それに関して色々な情報が出てまいりますが、それこそどれを信じていいのかわからないといったような状態です。特に過失責任者、今回で言えば直接かかわった電力会社の人は当然です。
 それから、行政関係です。監督官庁等、そちらのほうから特に情報が流れてくることがあるわけですが、どうしてもそれを信じるという気持ちになれない。何かやっぱり裏があるのではないか、とりあえずなだめようとしてうまく言っているのではないかといったような情報不安が出てきます。
 それから、色々な説が唱えられてきて、何シーベルトだったらどうだ、何マイクロシーベルトだったらどうだ、どこそこがホットスポットだった。といったような色々な情報が出てくる。そういったようなことで、情報不安と、その1つに対して自分の家族、子どもは大丈夫なのだろうか、といったような不安が出てくるといったような特徴的な不安が出ています。
 このように、一口に「災害」と言ってもそれぞれ顔つきが違うということです。それによって人々がどのような気持ちになるかということは、違いというものがございます。それに合わせた対策ということが必要だと思います。
 心のケアということが言われております。ほとんどの方が耳にされたと思いますが、現在はこの2段階で考えております。大きな事件・事故・災害になりますと、先ほど言いましたように、ほとんどの方に何らかのストレス反応、トラウマ反応が起きます。
 これそのものは、ほとんどの方は自然に、こじらさなければ自然に回復をしていきます。復元力がありますから。したがって、その時の対応は、何もそれを病気だとか症状だとかといって、その治療をするといったような考えではありません。こじれないようにうまくサポートをしてあげる、ご本人の復元力・回復力がまず出てくるように支えてあげるということです。
 この考え方がサイコロジカル・ファーストエイド、日本語で言えば心理的な応急処置という考え方です。決して病気だとか治療だという考えではありません。まず安全を保障してあげて、それからトラウマへのストレス反応に対する色々な知識を身につけてもらう。
 それから、ストレスの解消法について色々、サゼッションといいますか、少しこれについても知識を提供したり、何か必要な援助支援、物があれば、それらの活用に優先順位をつけたリストを作成する。といったような一連の取り組みがございます。
 これは、ご関心のある方は、アメリカでつくられたものが日本語で翻訳されています。「サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き」という本が、兵庫県心のケアセンターのサイトで無料ダウンロードができます。 ただし、それですべて終われば、これもめでたしめでたしなのですが、先ほど言いましたように、一部の方はPTSDと言われるような状態、それから、その他の何らかの治療が必要な心の状態になりますので、そうなりますと応急処置では間に合わないのです。ファーストエイドだけでは間に合わないので、きちんとした心理療法ですとか薬物療法というものが必要になってくる。そこら辺を見きわめます。
 とりあえずはまずファーストエイドをしてあげて、しかし、ちょっとこの人は少しメンタルに深刻なものに発展しているな。という場合には、もう少し専門的なケアを提供したり、そこを見守りながら道筋をつけてあげる。心のケアをこのように今では2段階で考えるようになっております。
 ファーストエイドの段階で、私がかかわった事案をご紹介しますが、セプテンバーイレブン(9.11)の後、米国系航空会社の客室乗務員の人たちが一斉に浮き足立ってしまい、飛行機に乗れなくなってしまった、というようなことがありました。もちろん日本人の乗務員ですが、実際にアメリカ人の乗務員が米国では真っ先に殺されておりますので、他人事ではないわけです。
 何か機内で不審な動きをした男性がいたとしますが、いきなり男性の乗務員が行くと、その男性が興奮してしまう可能性がありますので、まず女性の客室乗務員が行って、少しなだめる。といったようなマニュアルがあったのですが、そのマニュアルどおりにしたら真っ先に殺されてしまった、というようなことです。
 乗務員の方が一斉に、恐怖でなかなか搭乗できなくなってしまうということがありまして、このときは、頼まれまして成田まで行き、先ほどのファーストエイドのようなことを行いました。具体的には職場に来ていただいたり、電話でお一人一人カウンセリングをしました。
 それぐらいの介入なのですが、最初1週目はストレス障害で表情もがちがちだったのですが、だいたい10週ぐらい経ってくると色々なものが順調に下がってきて、ほとんどの方がまた業務に復帰することができております。
 これは、別に介入した効果ということではないのです。1回やったらどうこうというわけではないのですが、自然に処理能力が治まっていくということなのです。10週ぐらいかけて最初は本当に浮き足だったのが治まっていくという、それがこじれないように少し一、二回カウンセリングをするということです。
 こういうふうに早期のストレス反応というのは治まっていくということをお伝えできるということの例です。
 この写真は先ほど冒頭でお話ししました、東京都の心のケアチームが今ずっと継続で派遣をしております陸前高田市ですが、これが市庁舎。これが、たしか市民文化会館です。これは全く破壊され尽くしております。これは基幹病院でありました県立高田病院です。これも完全に破壊をされております。こういう状態です。
 なぜこれをお見せしたかといいますと、まさにここで職員が働いていたからです。陸前高田市の市民1割弱の方が亡くなられるか行方不明ですが、いわゆる行政職員の方、消防団といったような方も大変な犠牲を出しております。たしか市職員の方が68名、4分の1とも3分の1とも言われていますが、それぐらいの犠牲を出しております。
 東京都が依頼されて、職員のメンタルヘルス検診を5月からスタートいたしました。実際一人一人なかなか業務が忙しくて全ての人は来られなかったのですけれども、場所と時間を設定して健診をしていきました。
 
 きょうは惨事ストレスの話をしますが、最も深刻な惨事ストレスということになりますが、本来は行政職員、あるいは病院職員ですから、住民のために当然救援活動をするわけです。職務が救援活動のわけですが、実は、自分たち自身も正に被災者であります。自宅も流されていますし、家族も何人も失っております。
 そのように自分自身も被災者であると同時に、かつ、しかし住民のために救援活動をしなければいけないというような状況が続いています。正にこういう深刻な状況ですので、外部から支援に入るのが私どものチームです。
 要するに一般の市民の被災者たちでも、まず職員の人をどうやって支えるか、その人たちがばたばたと倒れてしまうと、結局、市民サービスというものができなくなってしまうので、心のケアチームは、大きな役目の1つがこういったような、地元で被災され、かつ市民サービスをその後、続けなければいけない人たちのメンタルヘルス対策等も大きな支援になります。
 本題に入りますが、災害救援者の話しをします。二次的被災者と呼ばれております隠れた被災者。つまり、救援者自身が心的外傷体験としての惨事ストレスを浴びます。ストレス要因は精神体験、惨状目撃です。大体、被災地で続々と運ばれる遺体の安置所で身元確認や遺体処理などを担当する行政職員ですけれども、ずっとそういう過酷な大量の精神体験というものをいたします。こんなことをするのは生まれて初めてです。そういう方がほとんどだと思います。
 それから、自分自身も命からがら助かったという状況です。ということで、その命については恐怖体験です。
 それから、被災者への感情的同一化です。例えば同僚を失って、たまたま自分は助かったけども、本当に傍にいた人が亡くなってしまった。ということですね。それから、被災者の中にも見知った人がたくさんいますし、小さなお子さんがいる人ですと、同じようにお子さんを失った被災者を見ると、強く感情を揺さぶられます。他人事だと思えず身につまされます。感情的同一化というのは、簡単に言えば身につまされるということであります。それが大きなストレスになっています。
 それから、役割不全です。一生懸命やっているつもりなのだけども、でも、これでもまだ十分ではないのではないかという自責感。それから、自分の能力に対する自信喪失というものがあります。
 それから、単純に長時間作業です。休みがとれないで、ずっと長時間作業することで心身に疲れが生じる。災害救援者というものもこういった一連のストレスにさらされているということであります。
 このようなことが、阪神・淡路大震災以来、日本でもわかってまいりました。これはアメリカを中心にそういうことが注目されて、日本でもこの面では色々な調査研究が行われて、私もかかわってまいりましたし、それに基づいて対策というものは取っております。
 一次被災者の周りに、必ず災害におきましては二次被災者がおります。消防士であったり警察官であったり海上保安官、自衛官、医療関係者、行政職員、それから、支援ボランティアの方ですね。
 こういう災害救援者がさらされるストレスを惨事ストレスと言います。英語ではクリティカル・インシデント・ストレスで、緊急事態ストレスとか危機的事態ストレスとか言われたのですが、東京消防庁が「惨事ストレス」というなかなか上手いネーミングをつけました。すっきりして、わかりやすいですね。
 したがって、ずっとこのネーミングが生きておりまして、今ではどこでも惨事ストレスという言葉が使われています。いわゆる災害救援者がこうむるストレスです。それに対してもちゃんとケアをしなければいけない。
 これは、職場の安全配慮義務だというように私は考えております。送り出す側は、当然送り出された職員がこういうストレスにさらされてくるということを承知の上で対策を立てなければいけません。それをしないで単に色々な反応で、それはお前の気が弱いからだろう。といったような理由では明らかに安全配慮に欠けるということです。したがって、事前にある程度の教育をしてあげたり、心の準備をさせる必要があります。
 活動中についてのメンタルヘルスも十分注意し、それから、帰ってきたらアフターケアをするということも必要です。一連のことを考えなければいけません。具体的には、消防庁でも海上保安庁でも自衛隊でもそういうことは対策を立てております。常にそういう現場に真っ先に駆けつけるのですから、そのように対策が進んでおります。
 ちょっとデータを示しますと、これは私どもの調査で、阪神・淡路大震災の13カ月後の惨事ストレスのストレス障害です。惨事ストレスがあった方というのは、これは被災地内に勤務していた兵庫県の消防職員、あるいは1週間以内に派遣されたという方で、色々な惨事ストレスがあったという方が1,770名です。命の危険にさらされたとか、悲惨な光景を見たことがかなり堪えたと言われています。
 それから、そのような体験はなかったという方が1,650名おられましたけども、明らかにそういう惨事ストレス体験のある方のほうが、IESというトラウマによるストレス反応、CHQという一般的な精神健康を比較すると、13ヶ月経っても色々なメンタルヘルス上の影響があったというようなデータが出ております。
 それから、海上保安官の惨事ストレス対策というのも協力をさせていただきました。海上保安官は海上災害、海難救助だとか、あとは遺体処理の問題があります。
 時々ニュースなどにもなっていますが、所属の船舶が航空機事故による危機的状況になったり、訓練中やあるいは何々の活動中にヘリコプターが落ちたとか、色々なことを見聞きすることがありますが、そういったようなことがございます。
 それから、正に活動中の戦闘体験というものがあります。今、日本の色々な組織の中では、海上保安庁が一番この戦闘にかかわる確率が高いということです。ちょっとした漁船に近づく時も、いつどういったような戦闘行為になってしまうのかがわからないといったような状況があるなど、そういう緊張感を持って仕事をされております。
 ということで、この調査は2003年に実施したものですが、全国11本部の現場勤務の海上保安官5,300名から5分の1の系統抽出をしました。1,000名余の方に協力をいただきまして、有効回答率は80%です。過去10年間に強いストレスとかの事案に遭遇したという方が45.5%、約半数の方は過去10年間にやはり強いストレスだったといったような事案に遭遇しております。
 しかし、そのうち、実は早期に色々なストレス反応が出たという方は7割なのです。これがほとんどの方に出るというのが、7割、8割。3割ぐらいの方がストレスとしては、余り何も感じなかったということです。ということで、やはり、ほとんどの方は何らかの早期のストレスを受けているのです。
 そのうち、現在のIES─R得点が25点以上という、現在もそういうPTSD関連の色々な外傷性トラウマによるストレス症状が高いという方が、大体1割強くらいいます。
 つまり、7割ぐらいの方は早期にはみんなストレスは出ていますが、長い目でずっと見ると、その中の1割ぐらいの人がずっと尾を引くということがあります。
 それで、このようなデータに基づきまして、実際どんなストレス症状があって、どういったような早期のストレス症状があると尾を引きやすいかといったようなことを統計学的に分析しまして、JCG惨事ストレスチェックリストというものをつくりました。海上保安庁さんの惨事ストレスチェックリスト、9項目です。
 「よく眠れない。酒の量が増えてきた。憂うつで気がめいる。涙もろくなった。イライラしやすく怒りっぽい。現場の光景がくりかえし目に浮かび、感覚がぶり返す。その事件や事故のことは考えないようにしている。悪夢を繰り返し見る。無力感や自責の念を強く感じる。」ということで、特にイライラしやすく怒りっぽいというのと、悪夢を繰り返し見るというのは、その後のメンタルヘルス上に、ほかの項目よりもっと影響していますので、配点を高くしております。
 ということで、11点満点のチェックリストを作りまして、これをすべての職員に配付をしております。要するに、まず自分で気づいてもらうということなのです。こういったような何か大きな出来事に巻き込まれたときに、ちょっとこれでセルフチェックしてください。得点が高い場合は要注意ですよ、セルフケアに気をつけてください、場合によっては惨事ストレス対策ができますので、職場のほうに相談してくださいということを、気づいてもらうためです。
 もちろん管理者側も同じものを持っておりますので、職員のメンタルヘルスの管理を考えるときに、こういうことを参考にするといったような今対策を立てております。
 惨事ストレスの増強要因ですが、より悲惨な場面を目撃した、自分自身にも切迫した命の危険がある、殉職者の発生、です。同僚が亡くなっていることは大きなストレスになります。何故かというと、次の罪責感につながるのです。もしかして自分が違う行動をとっておれば、同僚が亡くならなかったかもしれない、何が間違っていたのだろうか。といったようなことで強いストレスを感じます。
 それから、予測を超えた未経験の実態です。もちろん消防士でも自衛官でも海上保安官でも行政職員でもそうですけれども、仕事のキャリアというものを積み重ねていますし、あるいは色々な訓練を受けております。
 たいていある程度のことは大体は訓練の過程で体験済みといいますか、こういうときはこういうふうに対処するといったことが予測できるのですが、しかし、本当に予測を超えた未経験の体験ということがあります。
 阪神・淡路大震災の消防士さんの場合は、災害現場でそもそも水が出ない。徒手空拳といいますか、ただ燃えているのを見ているだけで何もできない。これは経験をしたことがないわけです。消防士さんは、通常はちゃんと水があって、どのようにして消火するということを、消火訓練でやっています。その前提になるようなことができない。
 それから、海上保安庁では、不審船がいた場合は普通に偵察して調べるそうですが、偵察しようと思った途端に機関銃で攻撃されてしまうという予測も何もしていないことに巻き込まれて、全員でブリッジの下で避難しなければならない。というような不意打ちの出来事があります。
 非常に厳しい状況でも、ちゃんとそれに実践訓練といいますか、こういうときにはこういう行動をする。ああいう行動をする。という心の準備ができていることについては、かなりのストレスも耐えられますが、不意打ちのこと、全然どうしていいかわからないといったようなことは大きなストレスになります。
 それから罪責感です。判断や行動を誤った時に自分のせいにします。こんな自分とは思わなかったなどと思います。これがずっと心に突き刺さっていると大きなストレスになりますし、メンタルヘルス上、後々尾を引くことがあります。職場で色々な問題があったときに、こういう罪責感を持っておられる方というのは、色々な意味で要注意でメンタルヘルスの対策が必要なことであります。
 惨事ストレスの影響による心理的変化、それでは、具体的には惨事ストレスというのがあったときに、それがどういったような心理的変化を巻き起こすかということで、ここに例を上げました。
 具体的には「気持ちが落ち着かない。気持ちがふさぐ。神経が過敏となる。涙が込み上げてくる。胸が詰まる。いらいらしやすい。怒りがおさまらない。無力感やむなしさに襲われる。過度に自分を責める。よく眠れない。悪い夢を見る。突然思い出して気分が悪くなる。人と話したくない。引きこもる。何も楽しめない。集中できない。周囲に疑い深くなる。飲酒や喫煙が増える。」などです。
 アルコールで何とか気を紛らわしている。あるいはたばこを吸う。飲酒や喫煙が増えるといったような一連の変化がしばしば見られています。
 どうでしょう、こういう変化が自分に起きたら人に言えますか?上司や同僚にすぐに言えないですよね。あいつおかしいんのではないか?と思われるかもしれませんし、何かちょっとやっぱり精神的に脆いのではないのか?と思われるかもしれません。あるいはこんなふうな脆さや弱点を見せたら、業績評価や勤務評定を悪くつけられるのではないか、とか、管理職の受けが悪くなる。そういうふうに心配すると思います。
 「ちょっとメンタルに問題あり」というふうに業績評価シートでつけられてしまうかもしれないと思うと、もう言うことができず、そのまま1人で考え、抱え込んでしまうという問題があります。
 したがって、職場としてそういったような方向、どんどん悪い方に悪いほう、つまり限りなくご本人が1人で抱え込んでいって、いつの間にかその人は能力的にどんどんダウンしまうというふうなことを避けるためにどういう対策を立てたらいいかというのは、この惨事ストレスで正に考えなければならないことです。
 災害救援者のストレス反応です。繰り返しになりますが、フラッシュバックというのは、そのときの思考がぱっとよみがえってくる、被災地から帰ってきても被災地の生々しい現状がずっと、昼間仕事をしていてもぱっとよみがえってくるという状況です。場合によっては夢に出てくることもあります。
 それから、色々な刺激に過敏に反応して、びくっとしやすかったり、すぐ警戒的になったりとか、驚きやすくなったりする。それから集中力が低下する。それから、災害場所、状況を回避する。災害のニュースは見たくないとか、それに思い起こさせるようなものは避けたいという回避の反応です。それから感情が不安定になったりイライラします。
 また、先ほど申し上げましたように、自責感ですとか役割不全、孤立感、不信感、また、場合によっては自分や家族が被災している場合もありますし、それから、いわゆる過労による心身不調が重なることもあります。
 また、もう1つ、これは得てして起こりがちなことなのですが、二次的ストレスとして、危機の際にお互いの精神的余裕が乏しくなっていることで葛藤や不安が存在しやすいということがあります。
 お互い同士があっぷあっぷな状態で仕事をしておりますと、特にこういう災害救援とか、あるいはご自分自身も被災者で、その被災地の現場で働かなければならないというとき、お互い同士気持ちがあっぷあっぷしていますので、色々な言葉のやりとりの中で諍いが起きやすいです。
 あのときああ言われた、こうされたといったようなことが後々までそれがずっとわだかまりとなって残るということがあります。
 ストレスの症状をもうちょっと詳しく話しますと、フラッシュバック。そのときの状況が突然よみがえってしまう、あるいは夢でうなされる。それから、もちろん眠れない。また、身体性的な変化として体の緊張が起きるなどだったり味覚が変化したり動機や冷や汗が出る。というようなものが何かの刺激で出やすくなったり、あるいはのどが渇いたり、下痢や便秘が続くというようなことも出てきます。
 また、過敏反応というのは、不意の刺激や物音などに非常にびくっと驚きやすくなるというものです。過剰な警戒心を常に執拗なほどに、神経質なほど必要以上に周囲を警戒する。色々なことが安全と思えないわけです。周囲を警戒してしまうということです。もしも地震が起きたらうちのマンション大丈夫かな?もしも地震が起きたらどうしようと思って、とてもマンションの高い所には住めないから、慌ててどこかへ引っ越さなければと実際引っ越すとか、普段だったらまあ大丈夫かなと思ったことが安全だと思えなくて、神経質なほどに警戒してしまうということです。
 それから、災害の出来事はなるべく考えないで話さないようにして、思い出させる人物や場所を避けるとことです。また、その悲しみの感情というのが出やすくなりまして、胸が詰まるような気がしたり、急に涙がとまらないことが出てきます。
 これは別に女性だけではなくて、男性の職員も、それこそ屈強な消防士さんとか自衛官、海上保安官も鍛えに鍛えていますから屈強なのですが、お聞きすると、人前では涙は出さないですが、夜1人になると、あのときのことを考えると自然に涙が込み上げてくる。というようなことを打ち明けてくることもあります。
 それから、周囲の人の意見等に関心を寄せられない。物事に集中できなかったり、イライラして怒りっぽくなったり、何かわからないけれども、ちょっとしたことでイライラしやすくなるといったような変化が出やすくなります。
 それから、気分変化です。これも別に落ち込むだけではなくて、最初に言いましたように、直後は高揚して精神的な興奮状態になってくる。しばらくそういったような精神的な興奮状態に陥って、その後どんと落ち込んで何もしたくなくなる。といったような気分が起こることがあります。
 こういったようなこと、惨事ストレスの反応が出て、それが、その反応自体で治まるということではなく、それが二次的、三次的に色々困った問題が出てきます。職場としてはこれが困るのです。個人のストレス反応というレベルではなく、つまり、仕事人してコントロール能力が低下をします。それから、もちろん全体的なメンタルヘルスの機能が低下します。
 それによって、仕事上の意欲が低下したり自信を失ったり、場合によっては組織に不信感を抱く。つまり、組織がなかなか自分のこのような状況を理解してくれなかったり、必要なサポートをしてくれない、などと組織不信になるということがあります。
 組織の指示があって活動をしてきたのに、その後、色々とメンタル的なことを抱えてしまったときに、何ら周りからのそういうサポートがなかったというと組織不信につながることがあります。こういう手の悪影響が出てきます。
 ストレスの制御の目的ということは、したがいまして、対策としては何を目的とするのかということですが、まず1つは危機的状況下での行動能力の向上。これは、具体的に言えば、より実践的実地に見合った訓練です。先ほど言いましたように、できるだけ不意打ち体験を避ける、普段から準備をしておくということです。
 それから、病気の治療ということではなくて、ヘルスプロモーションです。精神健康を増進してもらうような対策、あるいはアドバイスといったものを進めることが重要です。
 また、それを通じて、決して士気の低下につながらないように、就労生活上での意欲、充実感の向上をしてもらうということです。これは、具体的にはどのようなことかといいますと、色々なストレスを伴うような業務だったとしても、何らかの業務としての意義があるわけです。
 ですので、災害救援なり、そうしたような、そこにストレスがある状況についても、そこに行って葛藤するということには、もちろん本来の趣旨、目的があったわけですから、そこの意義、それから、それを果たしたということのご本人の充実感達成だといったような、そういうものにも目を向けて、それを引き出したりするというようなことです。これも重要です。
 惨事ストレス対策の基本的な考え方ですが、まず、今申し上げましたように、これは治療ではありません。まずは健康増進です。本来、個人に備わっている健康機能の活用による回復にまず重点を置きます。そうなったらすぐ病院に行きなさいということではなくて、まずご本人の健康機能の活用です。回復力というものをうまく引き出してあげるということです。
 それから、惨事ストレスのプラスとマイナスの両面を知るということです。先ほどの業務の意義ということを言いましたけども、過酷な体験であっても、それは何らかの意義のある活動であったわけでありまして、それをくぐり抜けたことでの職業人としての自信につながるということです。
 これは、消防士でもそうですし、海上保安官でも自衛官でもそうですけども、何らかの使命を帯びて活動をして、それをくぐり抜けることで、その職業人として一皮むけるといいますか、鍛えられるわけです。そういうプラスの面があります。打ちのめされてしまうというマイナスの面もありますけども、プラスの面もあるわけです。
 それから、ストレスや回復のあり方は個別的でありまして、同じ現場で活動をしていても体験内容はさまざまで、立場、個性、家庭環境も異なりますので、杓子定規な対処はそぐいません。
 ほとんど同じグループで、同じ被害を受けたようでも、微妙に体験内容というのは違っておりますし、その事案に対する受けとめ方、それから、罪責感がどんなふうに出てくるかといったようなことは個別の状況で違います。もともとのその人の性格もあります。家庭環境からも生い立ちからも違います。ということで、一連の形式的な対応はあるのですが、かといって杓子定規ではいけない、ということです。
 それから、ストレス対象を維持しない。惨事ストレスを浴びたでしょ、浴びたでしょ。ということを言い、余りそれを無理強いすると、それがかえってストレスになるのです。もう大丈夫ですから放っておいてください。と、ちょっとそっと見守るといったようなことも必要でありまして、何が何でも、「ストレスがあるんじゃないか?あるんじゃないか?」というと、わずらわしくなります。どう考えても余り関心がないのですが。という人も中にはいますので、まずはそっと見守っていくことです。
 見守りながら、この人はちょっとストレスを抱えていそうだな。というときにサポートをするようなぐらいのスタンスが必要であります。
 それから、これも重要なことなのですが、心理的距離の温度差があります。同じ職場の中でも、やはり出来事の距離が違います。出来事の心理的距離が近い人というのは、当事者と近い関係、当事者というのは、具体的に何か命を落としたとか、大ケガをしたとか、あるいは深刻な被害を受けたというような方です。そういったような当事者と近しい関係の人。
 それから、身につまされたという思いが強い人。何らかのことでそのことに自責の念を抱いている人。それから、職制上などで捜査上でも自分がずっと、事後対応をしなければいけない職務の人などのです。ということは、永遠のずっとそのこととかかわっていなければいけないといったような、こういう方は心理的な距離が近いわけです。
 また一方、同じ処遇の中でもほとんど離れた部署で当事者との接点の薄い人。身につまされることのない人、事後の処理にかかわることのない人。というのは距離が遠い人なのです。
 そこで対策を考えるときに、みんな心理的距離が同じではないのです。近い人もいるし遠い人もいる。遠い人にとっては、どんどん過去のことになっています。それは何カ月も前のことでしょ。と言うけども、そういえばあんなことがあったね。というぐらいで、全く過去のことと考えます。どんどん時間は経っていますが、近距離の人には、過去のことだとはなかなかなりません。今でも生々しい思いを抱えていたり、あるいは今でもまだその事案にかかわっています。
 ここで、同じ職場の集団の中で温度差が出てくるわけです。片一方の人は、「何だ。まだあんなことを毎晩毎晩やっているの」というふうに、まだモヤモヤした人がいる一方、何かもうすっかり忘れたような、つまりすっかり日常に戻っている人がいるわけです。 このようなことが同僚同士で生じたり、それから、上司と部下の間で生じたりということで、微妙な軋轢が出てきます。ということで、職場で対策を考える立場の方は、こういうふうに温度差というのが出てくるわけです。
 心理的距離の近い人の感じ方と遠い人の感じ方というのは違ってくるということです。別に遠距離の人が、人が冷たいということではないです。人間はそういうものなのです。だんだんと忘れていって、時間を動かして日常の生活に戻っていかなきゃいけないですから、それは普通なのです。
 それがノーマルなのですけども、そこの受けとめかたにずれが出てきて、それが思わぬ職場での人間関係がぎくしゃくすることになることがありますから、こういうことが起こり得るということです。両方の立場をちゃんと理解してあげるということが必要だと思います。
 距離の遠近感が温度差を生み出すということです。初期の段階では一斉に動揺が走るのですが、大体距離の遠い人からどんどん出来事は過去のものになっていきます。しかし、近距離の者には長くしこりが残っているわけです。
 それから、二次受傷ということをご説明いたします。これも覚えておいていただきたい概念でありまして、どういうことかといいますと、被害者と精神的にかかわりを持つ者に生じるトラウマと、それによる心理的、心身反応です。被害者の過度の感情に身につまされるという状態によって出てくるもので、つまり一種のトラウマなのですが、自分自身が何かそういうトラウマを持っていたということではないです。
 ただ、そういうトラウマを持つ人がすごく身近に、あるいは職場、仕事などでその人に係わるといったような場合に、このトラウマがうつるのです。トラウマというものはうつるものでして、援助者の人もフラッシュバックがあったり、何か夢に出てきたりとか、妙に怒りっぽくなってきて、やっぱり身につまされて他のことが手につかなくなって、ずっとそのことばっかり考えてしまうということがあるのです。
 警察では、例えば女性の捜査官が深刻な性被害者とかかわります。ずっとかかわっていきます。そうすると、この二次受傷に堪えなければいけないです。やっぱり身につまされます。本当に生々しい被害ですと、それで自分自身も二次的なトラウマの影響を受けるということです。
 それから、災害で活動をするような災害救援者、プロの救援者の消防士とか自衛官でも同じことであります。特にお子さんの遺体なんかを扱う、自分自身も同じ年ごろの子どもがいると、やはり、そういうお子さんの遺体を扱うと、とてもとても堪えると言われています。身につまされます。とても人ごととは思えないわけです。
 というようなことで、職業的なそういう救援者、職業的にそういう場面にかかわる人たちもトラウマとしてこの二次受傷というものは理解していただくことが大事でございまして、それに対するセルフケアということを心がけていただくようにしています。
 ただ、この二次受傷だけでしたら、まだ何とか対応の方法があるのですが、それにプラス家庭や職場でのストレスが重なると、これで燃え尽きになってしまう。抑うつですとか意欲低下があります。それによって自信喪失、つまり、自分はこの仕事をこれでやっていけるのだろうかと、こんなに打ちのめされてやっていけるのだろうかというような自信喪失です。
 それから職場不信です。職場がちゃんとサポートしてくれなかったり、職場から全然理解をされないといったように思い、それによって意識が落ちます。最終的には離職につながるのです。その仕事はやめて転職しようと思うなどですね。 一方でありがちな集団の心理として、これは職場でもおける集団心理ですが、被害者という集団で生じる現象として、表立ってはだれも口にしない。この問題を受けてかかわった職員が色々な影響を受けているということですが、表立ってだれもそれを口にしない、集団としての回避があります。
 「口コミやメールでうわさが飛び交う。自分は周囲からどう思われているかと不安になる。日ごろの不満と合わさって、感情的やり取りが増える。心理的距離の遠近のために思いが一つにまとまりにくい。」といったようなことです。
 危機のときというのは、普段からぎくしゃくしている関係はますますぎくしゃくします。普段は何となくうまくいっていないけど、危機のときは力を合わせて1つになるということはまずできません。普段うまくいっていないところは、危機のときはますますだめになります。だからこそ普段からの関係が大事だというのは、それが最も重要な危機対策と言われるのですが、ますます軋轢が増えるのです。
 これは、実際職場で深刻な事案が出た場合、それは銀行強盗に職場自体が襲撃されるというようなこともありますし、職場の中で乱射事件が起きたとか、あるいは職員同士で殺人事件が起きるとか、あるいは自殺が生じたとか、色々な職場自体が巻き込まれたというようなことがありますけど、そういうときに個人だけではなくて、集団にもこういう心理が働くのです。
 もうそのことには触れない。という感じです。だけれども、触れないと表面的には出てこないのですが、中ではマグマのようにどんどん色々なことが雪だるま式に色々な矛盾が増えていくということがあって、それが色々な形で職場全体の業務のほうに差し障ることがあります。
 これは、直接はほとんどの方は関係ありませんが、一例として挙げます。海上保安庁のときにお話しをしたことですが、多数遺体処理などメンタルヘルスの問題です。しかし、今般のような大災害がありますと、行政職員の方が多数遺体の処理をする可能性は十分あると思います。
 メンタルヘルス対策としては、事前教育、業務中の注意点、アフターケアという三本立てで対策を立てます。この業務だけではなく、惨事ストレス対策というのは、事前教育と、業務中の注意点、それからアフターケア、この三段階で考えます。
 例えば、事前教育で言えば、業務の目的、想定される事態をできるだけ明確かつ具体的に説明する。先ほど言いましたように、不意打ち体験を避けるということです。それから、この業務の意義、何で、そんなにストレスというのを予測することが今重要なのか。その使命感。そういうものを十分具体的に説明する。心構えをつくっておくことです。
 それから、惨事ストレスに伴う心身反応。そうはいっても、やっぱり自分の子どもと同じ年格好の子の遺体を見れば、ぐっと胸に詰まってきますし、色々なことで込み上げてくるものがあると。場合によってはそのときのフラッシュバックが出てきたり、何となくイライラしやすくなったり、色々な気持ちが出てきますよ。ということを説明します。
 ただし、それは「異常な事態に対する正常反応」である。どんなことが起きても、それは頭がおかしくなったとか、精神的におかしくなったということではなくて、こういうことが生身の人間であれば、そういうことが起こり得るはずだということをまず、理解してもらうということです。
 それから、絶対1人で閉じこもらないで、そういう体験や感情を同僚と話し合うことの重要性を強調する。1人で抱え込まないようにしてもらうということです。
 できればそういう未経験者の人には事前体験訓練の機会を設けることです。似たような事象に、普段からの実地訓練、実践訓練をする。なかなか、災害のときは余裕がないのでしょうけども、ちょっと最初にトレーニング機会を与えるということです。
 それから、もしも、そうはいっても、これも気持ちが一杯一杯になったら、もうだめだというとき、どこに、誰に相談をすればいいのか、ということを明確にしてあげて、もうちょっとこれはキツイな。というときには誰に相談したらいいかということです。この人に相談したらちゃんとアドバイスしてくれるといったような、相談の場の確保をしてあげることです。といったようなことが事前教育の特徴になります。
 業務中の注意点ですが、遺体の場合は、遺体との心理的距離をとっておくことです。職務として定式化された対応をする。もちろんこれは、きちんと遺体に敬意を払って、しかし、きちんとこのマニュアルに沿って対応をする。遺体と同一化をすることを避けるということなのです。
 この人はどういう人生で、どういうことで、どうだったのだろうか、どんな思いだったのだろうかというふうに、どんどん同一化していきますと、身につまされることが強くなりますので、もちろんきちんと敬意を払って丁寧に対応をするのですけども、それはあくまでも業務としてやるということと、個人的な関係でやっていくということを線引きをするということが大事であります。
 それから、長時間の接触を避ける、これは管理者が気をつけてあげなければいけません。同じ業務をずっと長時間させる、接触させるということは避け、交代をしたり、また別の作業をさせる。しばらくご遺体につき添っていたなら、その後はしばらくデスクワークをするとか、同じ人がずっとご遺体につき添っているということがないように、ローテーションを組むということです。
 それから、業務経験の浅い人と経験が多い人とを組み合わせてやるということです。先輩からのアドバイスを受けられるように、こういったようなペアを組むことを考えます。
 また、体験や感情の表出を妨げないというようなことです。気持ちが込み上げてきたら、ちゃんとそれを出しても、ちゃんと別の人が受け止めてあげる。ずっと歯を食いしばって頑張るのではなくて、そういったような感情が出れば、それは表出することを妨げないことです。
 また、先ほども申しましたけれども、業務中も、業務や作業中の結束を強調します。チームスピリットです。
 それから、強くストレス反応が出た場合は、一旦休ませる。スパルタで頑張れと言っているのではなくて、一旦少し休ませる。それ以上の刺激を避ける。休ませて、しばらく、それを30分か1時間でも休ませて、また回復したら業務に戻るといったようなことを、その現場で指揮をしている人が考えるということです。これが業務中の注意点です。
 また、アフターケアとしては、チームミーティングをして、色々なこと、事実を確認する。
 かつてはデブリーフィング・プログラムというのが言われておりまして、活動が終わった後に、現場で活動した同士でグループミーティングをして、それぞれ体験したこととか考えや気持ちを表出しながら語り合うといったようなプログラムが、世界的にもそれがストレス緩和に役立つと言われていたのですが、どうもこれが色々効果研究をすると、必ずしもそうではなくて、効果がなかったり、場合によっては、一部の人にはかえってそれによってストレスが増えてしまうということがありますので、最近ではこのデブリーフィングという方法は推奨されておりません。
 むしろ、冒頭にも申し上げましたようなサイコロジカル・ファーストエイドといったようなものがむしろ中心になってきているわけです。
 ただ、自然発生的なデブリーフィングといいますか、職員間で日常的にその後食事をしながら話し合ったり、場合によっては居酒屋で、みんなでお酒を飲みながら話し合ったりとか、そういったようなことは、やはりストレス緩和として役に立ちます。
 ただ、こういう行為に加われる人と加われない人がいて、本当に深刻な思いを抱いていても、なかなか仲間内の話し合いにも加わりにくいといったような人が出てくるかもしれませんが、全般的にはこういう自然発生的な仲間同士の話し合いというのは、少しストレス緩和には役に立つということも知られています。
 あとは、アフターケアではストレス症状のチェックです。色々な形でハイリスクの人を度分けして、個別の相談から、場合によってはカウンセリング等の専門的な治療を導入するということもあります。
 実際にストレスの回復を阻む要因、幾つか当然ありますが、そういったように対策をしても、なかなかうまくいかないといったような危険因子が幾つかございます。1つは精神疾患の問題です。もともとうつ病ですとか神経症ですとかアルコール依存の問題があるなどです。それから、他のストレス要因です。生活や家族、職場で他のストレス要因を抱えている。
 あるいは、過去にも何らかのトラウマ体験があって、それがまだ未解決のままずっとまだ尾を引いているということがあります。それから、その事案について、やはり自分でも割り切れないような強い罪責感です。自分のせいでこれはいろいろ被害が大きくなってしまったなというような強い罪責感がある場合。
 また、組織や職場への不信感を何らかの形で抱えておられるような方は惨事ストレスの回復をなかなか得難い、進みにくいといったような危険因子になるかと思います。
 惨事ストレスの長期的影響としては、業務能力の低下、それから、人間関係の変化、意識の低下、それから、それが高じた離職といったようなことが、職場としてはこういうことがだんだんと出てくるのが困ったことでありまして、事に惨事ストレスと日常のストレスが重なると燃え尽きバーンアウトの危険が高まる。
 職員、従業員のメンタルヘルス対策、個人の健康を守るということと、それに加えて、やはり職場としてこういったような事態がじわじわと進んでいくというものを防ぐといったようなことが重要な点であります。
 最後に、ケアマネジメントの考え方、これは既にご存じの方も多いとは思いますが、おさらいの意味でお話をさせていただきます。
 別に惨事ストレスに限らず、職場のメンタルヘルス対策の三本柱です。1つはセルフケア、それから職場ラインのケア、専門的なケア、惨事ストレスの場合もこれと同じような3つの柱を立てて考えていただければと思います。
 セルフケアというのは、ご本人、あるいは家族や身内によるケアです。職場ラインによるケアというのは上司、あるいは同僚、管理責任者ですがそれによる情緒的、あるいは実際的なサポートになります。
 それから、専門的なケアというのは、職場の内外の要するに専門職です。心理カウンセラーですとかソーシャルワーカーですとか、場合によってはお医者さんにかかる精神的な意味で、心理的な意味でカウンセリング、それから認知行動療法、薬物療法といったような特殊な治療が行われることもあります。この三本立てです。
 セルフケアはこれはご本人に気をつけていただくことです。これはストレス対策のためのセルフケア5カ条といって、いつもご本人にお伝えしていることですが、まず、ご本人の心がストレス体験がもたらす心理的反応をよく理解していただくこと、いろいろなフラッシュバックとか不安だとか涙もろくなる、色々な心理的反応がありまして、それはストレス体験がもたらす心理的としてまずご自分が理解していただくことです。
 次に、精神的孤立を避ける。家族や友人との絆や交流を普段以上に大事にするということです。また、信頼できる相手に自分の気持ちを聞いてもらうことで、心を軽くすることができます。誰でもいいからしゃべればいいということではなくて、この人だったらこのタイミングで話してもちゃんと受けとめてくれる、という信頼できる相手にでも聞いてもらうと心を軽くすることができます。
 それから、プラスの対処行動を積極的に工夫することです。趣味ですとかスポーツ、など気分転換といったようなものを積極的に生活の中に取り入れていく。ずっと、家に帰ると頭を抱え込んでいるのではなくて、こういったような対処行動を取り入れています。
 逆にマイナスの対処行動を避けるということです。とにかくお酒を飲んで忘れようとしてアルコールの量が増えていきます。あとは何もしないでじっと引き込むとか、一時の憂さ晴らしを、妥協してとか、そういうマイナスの対処行動を避けるということです。
 ということで、この5つのポイント、もちろん必要な休養をとった上で、この5つのポイントに気をつけていただきます。これは、実はこれをプリントしてご本人にお渡ししまして、冷蔵庫の前あたりに張っていてもらいます。毎日これを見て、今日は1日これを守れたか。とかいうことに気をつけていく。
 これをちゃんと5つ守っていくと、かなり気持ちの回復に役に立ちますよ。これをまず気をつけてください、ということをお話いたします。
 あとは、職場に求められることです。これは、共感的態度での実際的サポートです。これもきちんとご本人の気持ちを聞いていただくということです。批判や、その評価をする前に、まずその気持ちを十分共感的態度で聞いていく。それから実際的なサポート、例えば休養の確保ですとか、配置転換とか、ちょっとしたシフトの交代とか、そういったような実際的なサポート。場合によっては休職の手続ですとか、病院の受診の援助ですとか、そういったような実際的なサポートをしていく。
 そういうことによって、ご本人が、自分の職場はちゃんと自分を支えてくれているのだな、周りから支えてもらっているという感覚をご本人が少なくとも持ってもらえるようにします。これが職場不信というものを緩和するのです。
 それから、困難なときに相談をするラインの明確化、これは直属上司なのか、あるいはそうではなくて、ちゃんと相談窓口がありますよという、相談するラインを明確化していくなど、そういうことを通じて、少なくとも職場は職員を守るという姿勢をはっきり出していくことです。うちの職場は、そこで働いている職員を守ります。という、それがメッセージとして職員にも伝わるということです。
 それから、問題にふたをしないという、先ほどの職場における集団の心理メカニズムという話をしましたけども、えてして色々深刻なことが起きますと、職場はそのことには触れたくないと、その問題はふたをしたいと、あれこれ不協和音ということがある。とりあえず、なるべく早く普段の何ごともなかったような日常の業務に戻りたいというような心理も働きまして、職場での乖離反応です。
 ただし、それですべて解決するかというと、そうではないです。そのために何年間もずっと職員の間でそのままくすぶるということがございます。したがって、単に個人の問題に帰してはいけないです。あれはあの人だけの問題でしょ。あの人だけが特に弱かったのだとか、性格的に何かあったのだろうか、そういったようなことだけにしない、ということです。それは職場全体として受けとめて対策を考えるといったようなことが職場に求められることであります。
 これも広く人権にかかわることで、働く者の人権ということでかかわることかと思いましてお話をさせていただきました。
 それでは、これでお話を終わらせていただきます。どうもご清聴ありがとうございました。(拍手)