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人権に関するデータベース

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研修講義資料

京都会場 講義6 平成25年10月31日(木)

「女性と人権 ~DV・デートDVの影響と二次被害~」

著者
田端 八重子
寄稿日(掲載日)
2014/02/03

 私は岩手県盛岡市から参りました。3.11の後、各都道府県や市町村の多くの皆さまが、岩手県に応援に駆け付けてくださいました。今日ご参加の中の皆さまの中にもそうした方がいらっしゃるのではないかなと思っております。改めてお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
 私に与えられています課題は「女性と人権」、本日は「DVとデートDVの影響と二次被害について」というテーマでお話しさせていただきます。

◆DV防止法とストーカー規制法の改正

 6月26日、通常国会の最後の日でしたが、駆け込みでDV防止法の3次の改正が行われました。ストーカー等規制法の第1次の改正もあり、本年度は女性への暴力に関する法律ではダブルの改正が行われたことになります。
 DV防止法につきましては、条文では「配偶者」と限定されているのですが、実は「交際相手」に女性が殺害されたり、脅迫めいたつきまといをされたりと状況が変化してきました。DV防止法では、「交際相手」への支援や保護が充分ではありません。そこで3次改正では「生活の本拠を共にする交際相手からの暴力」も対象になることになりました。施行は来年の1月からです。
 では、「生活の本拠」とは何かということですが、「婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいないものを除く」となっており、ちょっと難しく、面倒くさいのですが、付き合っている人で、ほとんど同居と同じような共同生活を送っている人たちに対しても、この改正DV防止法が適用されることになったということです。
 デートDVというのは、同居とまで言えない場合の交際相手からの暴力についてのことです。先日、東京で高校生が刺されて殺害されるという事件がありました。このケースの場合は同居していませんので、対象にはならないことになります。この後お話しするストーカー等規制法の方で何とか防げたのではないかなと思っています。私たちのNPO法人では他の団体といっしょに意見書を出させていただきましたが、なかなか難しいところがあります。DV防止法は、3回の改正が行われてきましたが、まだその適用範囲に入らない殺人事件や傷害・暴行事件が増えている状況です。ほとんどの場合女性が被害者になっています。
 ストーカー等規制法の改正ですが、電子メールの送信が「つきまとい行為」に含まれることになりました。例えば1,000通とか、具体的に何通までというところまでは明記されていません。これまで電話やファクスは「つきまとい」の類型にありましたが、今回はメールが明記されました。ただし、被害を受けている側が(男性も被害を受ける場合があると思いますが)「やめてください」という拒否の意思表示をきちんと示していなければいけません。「やめて」ということを相手に伝えておかないといけないということになっています。
 少し前に長崎県でのストーカー事件がありました。この事件では長崎県だけではなく千葉県や三重県といった広域が事件の舞台となっています。今回の改正では、以前は禁止命令等をすることができるのが、申出をした者の住所及び居住地を管轄する公安委員会であったのが、規定に違反した者の住所及び居住地や当該行為が行われた場所を管轄する公安委員会に拡大されました。また、警告又は仮の命令をすることができる警察本部長等についても同様に拡大されています。
 以前は、被害者の住所又は居住地を管轄する県警、仮に岩手県であれば岩手県でなければできなかったのですが、これが加害者の居住地等や、事件があった場所でもできるようになったということです。例えば被害者が東京にも住居があったり東京に勤めていたり、もう少し拡大をして、大阪や京都に住まいや実家があってそこで被害を受けたとした場合、3つのところで同じ案件として命令等を出せるということになりました。これはとても大きなことでした。特に長崎県の事件を考えればこのことの意味は分かるのではないかと思います。
 女性に対する暴力について、法律や制度も随分と整備されてきましたが、DV防止法にせよストーカー等規制法にせよ、被害当事者の生命の安全を守るためにも早急の改正が求められるところです。センターでは、被害当事者が訪れる現場です。法制度の改正の度にきちんと条文を読み解きながら、自分たちのところでどのようにそれを活用していくのか、いかに被害者を出さないか、そのためには何をすればいいのかということを、しっかりと考えていかなければいけないと思っています。

◆DVとは何か

 DVの定義については、DV防止法の第一条に「配偶者からの身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」と書かれています。「犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害である」とも書かれており、根底には男女の不平等な関係があり、個人的な問題にとどまらず社会問題であるという認識が背景にあります。暴力は放置しておきますと繰り返されてエスカレートしていきます。生命への危険度が増していきます。家庭の中でDVが起きていましたが、これまで夫婦や家庭内の問題へは民事不介入とされ、長い間放置されてきました。女性や子どもへの暴力は人権侵害として扱われてこなかったのです。夫婦げんかにすぎないと扱われてきました。そして、DVは個人的なこととして「自己責任」とされていましたが、「社会の問題」として扱われるようになったということです。DV防止法という法律によってDVは、社会問題であるということを、日本が意味付けたことになります。「個人の夫婦の中の問題ではない」ということが証明されたということです。
 DVの本質と特徴は、経済力や社会的な地位、体力等の力を利用して、様々な暴力を使いながら相手を意のままにする、思うとおりに操るということです。加害者は被害者を支配とコントロールの構図の中に貶めていきます。加害者は、夫婦間の問題を解決したいなどとは思っていません。相手を自分の意のままに操ったり、脅したり、従属させたりするために暴力を選んでいるのであって、決して問題を解決したいと思っているわけではないということが分かってきました。ですから繰り返し起こるのです。支配とコントロールで思うように相手を操っていく。加害者は、女性であり子どもである相手を自分の従属物として扱っていくということです。
 暴力は支配と従属の関係、強弱、上下の関係の中にあります。依然として家父長制、家制度の名残があり、男性優位社会を構成しています。固定的な性別役割分業意識と慣行や通念が地域社会の中に幾重にもありますが、それらを前提とした対等ではない関係の中から、この暴力が生まれてきています。
 暴力が起きた後、大概の場合その後すぐ加害者は謝ります。申し訳なかったと。病院へも連れて行きます。例えば階段の上から突き落としたりすると、骨折をしたり脱臼をしたりします。一番折れやすいのは鎖骨です。壁に押し当てられて鎖骨が折れたりすることはしばしばあります。暴力によってけがをして、それが病院に行かなければならないほどのものであれば病院へ連れて行き診察室に一緒に入ります。そして「こいつ、ばかなんです。階段を踏み外したんです」などと言ったりするのです。被害当事者が本当のけがの理由をきちんとお医者さまに説明できないような状況を作り出し、先に加害者の方から話してしまいます。暴力の後、加害者は考えられないような行動に出ることがあります。例えば素敵な大きな花束をプレゼントしたり被害当事者が欲しがっていた宝石類を買ってくるのです。「アメとムチ」によるコントロールをします。そして、その時期が過ぎていくとまた次のきっかけを探し、暴力を振るうのです。
 東京に住んでいる私の友人の話ですが、時々落ち込んでいるような様子が見受けられ、何かあるとは思っていたのですが、実は彼女が壮絶なDVを受けていたということを話してくれました。子どもたちが自宅の向かいにある児童公園で夕方まで遊んでいて、夕食ぎりぎりまで遊んで戻ってくると、玄関の靴が脱いだままになっていたり、乱れたままになっている。そこへ夫が帰宅、それの靴の脱ぎ方が悪い、しつけが悪いと言ってその日ずっと寝るまでのグジグジと文句を言う、そして暴力が始まります。次の日は、自分たちが靴をきちんと片づけておかなかったので、お父さまがお母さまに暴力を振るったので、今日はちゃんと靴を片付けましょう、と片付けました。2~3日は何も起こりませんでした。少したって今度は、子どもたちがテレビを見ていた時に「何だ、このくだらないテレビは……」と怒り出す。そして灰皿がテーブルの上にたまたま出ていなかったことから、また不機嫌になり暴力が始まるというケースです。このように、DV夫は、常にきっかけを探しているのです。何が悪いというものではないのです。靴が乱れていれば自分で片づけるなり「靴をちゃんとしなさい」と言えばいいだけのことですし、灰皿がないのなら自分で台所から持ってくればいいわけです。きっかけを探して、その日寝るまで暴力を振るう。お茶の入れ方からみそ汁の味、熱い、ぬるいということがきっかけになる。子どもたちは、そういう両親の状況や父親の不機嫌な顔色で暴力を察知します。そうすると、子どもたちはすぐ2階に上がってしまう。でも、子どもたちは1階でどういうことが起こっているか十分に知っています。「お母さまどうしてるだろう。お父さまの怒鳴り声だけが聞こえてくる。今日はそのままで静かになればいい」などと思っているのです。ある日、私は彼女の家に物を届けに行くことになりました。「ちょっと上がっていって」と言われたのでお邪魔をしました。家の中はとてもきれいに整然としていました。でも、なぜこんなところに、どうしたらこんな穴があくのだろうか、と思うようなところに大きな穴があいているのです。その場では理由を聞けませんでしたが、あとで夫が物を投げたり、自分の手で叩いたりして作った穴だと聞きました。夫は自分の怒りに任せて壁を叩いたり、ドアを乱暴に閉めたり、階段から物を投げたりというようなことをしていました。途中からは、彼女への身体的暴力は壮絶なものになりました。徐々にエスカレートしていったのです。ですが、さっき言ったように、DVの後は必ず彼は謝ります。「申し訳なかった。君は大切な人なんだ」と歯の浮くようなことを彼女に言うのです。「本当はこの人はいい人なんじゃないか」と思わせる。それから「優しい人なんだ。暴力を振るっているときの彼は別の人なんだ。そして、私がいなければこの人は駄目になる」という回路へ巧みにずーっと引きずりこんでいくのです。
 DVの種類につきましてはご存じだと思いますが、身体的暴力、心理的暴力、経済的暴力、性的暴力があります。メールによる暴力というのもあります。例えばこんな事例があります。あるとても有能な女性が結婚と同時に会社を辞めて専業主婦になりました。子どもが2人生まれ、とても明るい方だったので、すてきな家庭を作っていらっしゃるだろうと私は思っていました。たまたま彼女が近所に来たので近くのカフェで話をすることになりました。座ったと同時に携帯に電話がありました。彼女の夫からでした。また少し経ったら今度はメールが入りました。少しするとまたメールが入るんです。彼女はもう居ても立ってもいられなくなりました。ほんの少しの間に電話がかかりメールが2本入る。私との話が途切れ、落ち着いて話ができる状況ではありませんでした。彼女は私に申し訳ないと思ったのでしょう、「すみません」と言って帰っていきました。これは精神的な暴力です。あとで聞いたところ1回目の電話は、私と会う場所に無事に「着いたか」という内容でした。といっても、市内ですからそんなに遠い距離でもないのです。そして「今、何してる?」ということでした。「今、田端さんと誰々と一緒にお茶を飲んでるよ」と彼女は電話で答えました。それから間もなく入ってきたメールは「子どもがテレビを見たいと言っているが見せてよいか」という内容でした。そのあとの2回目のメールは「近所から回覧板が来たがこれはどうすればいいのか」というものです。これらの電話やメールは、実は言葉通りの連絡や質問ではなく、実は彼女をコントロールするために言ってきているのです。「もう帰ってこい」という意思を示しているのです。「これって暴力ですか」と言う方もいますが、暴力です。彼女は私たちとゆっくり話ができないのです。出かけるときは「行ってきていいよ」と言い、子どもを預かってくれたことで彼女はとてもうれしかったといいます。でも、夫は必ずどこかで監視しているのです。こういう例はとてもたくさんあります。身体的暴力だけが暴力ということではありません。身体的、心理的、経済的、性的暴力、そしてメールによる暴力は複合的に行われ、それによって相手をコントロールしていくのです。
 内閣府の調査では、20歳以上の32.9%の女性が、何らかの「身体的暴行」、「心理的攻撃」、「性的強要」のいずれかの1つを受けたと回答をしています。男性も18.3%います。しかし女性の被害が多いです。男性の被害もありますが、特に女性の被害はとても多いと思っています。
これは警察庁からの資料で、配偶者間(内縁を含む)における犯罪被害、殺人、傷害、暴行の被害者の検挙数のデータですが、配偶者の殺人のケースは1年間に153件ありますがこのうち93件は女性が被害者です。男性は60件です。女性は3.9日、約4日間に1人の割合で殺害されていることになります。男性は6日に1人の割合で殺されています。傷害ですと、1日に5.64人の女性が被害を受けていますし、暴行では1日に5.47人の女性たちが被害を受けていることになります。
 次に性暴力に関する調査についてです。内閣府が実施した「男女間における暴力に関する調査」によると、性虐待を受けた時期として、小学生以下が13.4%、中学生が5.2%です。合計すると中学生まで、つまり15歳までで18.6%の人が被害を受けています。19歳まで、いわゆる未成年者の方たちを入れますと、38.7%になり、さらに20代を入れますと、73.8%になり、性暴力の被害者の中では小学生以下から20歳代までの人たちが73.8%ということになります。別の調査で、加害者についての統計があるのですが、一番多いのが実父、それから継父という順になっています。

◆DVの影響

 DVが被害者に及ぼす影響についてお話しします。まず直接的な身体への外傷があります。それから混乱と動揺です。妻は「こんなはずじゃなかった」と思っています。それから「あんなにいい人だったのがDVのときだけ恐ろしくて怖い」と言います。「頼るところがない。夫しかいない」と思い込まされているのです。先ほどの事例のように、被害当事者をコントロールするのです。身体的な暴力を加えないとしても、「もうこの人と一緒にいるしかない。この人と生活をしていく以外は考えられない」というようなかたちで締め付けていきます。そして先ほど挙げた例のように、「僕が子どもを見ていてあげるから楽しんでおいで」と送り出しておきながら、すぐ「帰ってこい」というように、真逆の二極の指示を出してきます。それによって妻に混乱と動揺を引き起こさせ、この混乱に乗じて「お前が悪い」というメッセージを与えます。
先ほどお話しした妻の場合のように、せっかく私のところに遊びに来てくれたのに、そのような状況にすることは、その妻に孤立感を与えることなのです。私のところに来て昔の楽しかった時代のお話をしたいなと思っても、私に迷惑をかけることになるのではないかと思ってしまう。絶えず電話やメールが入ることで会話を楽しむことができない。せっかく時間を取ってもらった私に対して申し訳ない。もう行かないほうがいいのではないかと思ってしまう。友人や知人との関係を悪化させ「孤立」を狙ってているのです。孤立感を与えることによって「夫のところにいるしかない」と思わせていくわけです。
もう自分には何もできないという無力感、不安や自責の念、罪悪感を妻は持つようになっていきます。加害者は、友人、実家、元の同僚のところに行くことを極端に嫌がります。「何しに行く?」ということから始まります。「ちょっとお父さんの体調が悪いから行ってみたい」「お母さんが足が痛いって言ってる」と言っても、「電話で済むだろ」って、連絡を絶ち切らせてしまいます。
 震災で携帯電話が流されてしまった人の話です。避難所で暮らしている時、夫が携帯電話を買ってきてくれたと、とても喜んでいました。ところが夫が常に彼女の行先を知っていることがわかり、いろいろ調べてみると、実は夫から与えられた携帯電話にGPS機能がついていたことが分かったということもありました。妻の行動を逐一把握していたのです。
 避難所や仮設住宅の中でも起こっていることですが、お隣の怒鳴り声が聞こえたりすることで、DVの記憶がフラッシュバックすることがあります。「あのときのあの声」とか、「いつか感じたあのときの風の感じ」とか、生暖かい空気、風、匂い、色々なものがきっかけとなり、記憶がふっと戻ってきます。DVの被害当事者の方たちというのは、何十年もこれを引きずるということがあります。特に鬱症状になられる方がとても多いです。
 DVの影響で、不眠や動悸(どうき)、震えが起きる人も多いです。夫の帰宅時間になると動悸や呼吸困難が起こってくるという50代の妻がいました。夕方になるととにかく動悸がして汗が出てくるので病院で調べてもらってもどこも悪くないと言われる。よくよく考えてみたら、動悸がしてくる時間と言うのは夫の帰宅時間だったのです。「今日は何で叱られるか」「機嫌よく帰ってきてくれるだろうか」「玄関を開けたとき何か言われないか」という思いから身体的症状が出ていたのです。

◆子どもへの影響

 子どもは、お母さまが叱られると、「お母さまが叱られないために自分たちは何をすればいいのか」というようなことを考えるようになってきます。ある調査では、DV被害当事者の7割~8割の方たちに子どもがいます。この中で、虐待も当然起こってきます。母としての自信のなさのようなものが、育児不安に結び付き、弱い立場の子どもに向かってしまうという事態も私たちは考えなければなりません。
 児童虐待は、御承知のとおり身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトなどと分類されます。子どもが親の暴力をいつも見ていることでどのような影響があるでしょうか。常に怒鳴り声があり、それに耐えている母親という構図が浮かぶと思います。物を投げたり叩いたりということもあります。「お母さんへの暴力は自分のせいじゃないか」と子どもは思います。「自分がいい子でいれば、暴力がなくなるんだ」と思い込み、常に大人の顔色を見る、「いい子」になろうとするようになります。小学校1年生やそれ以下の子たちも、もうすでにその気持ちを持っています。いつまたお父さんが怒り出すか分からないという不安を子どもたちは感じています。お父さんの機嫌が悪いと楽しみにしていたお出かけがダメになるかもしれない、といったような不安もあります。子どもたちも混乱します。その日の朝になってお父さまの機嫌を見なければ楽しみにしていたピクニックに行けるかどうかは分からないというようにいつも混乱させられている子どももいます。
DVは、子どもの成長にとても大きな影響を与えます。まず女子への影響です。これはある大学の調査結果によるのですが、両親がモデルになるということが明確に表れています。DVが起こっている家庭の女子は自尊感情が低く、相手に従属したり依存したりする傾向がとても強くなります。恋人の暴力を受け入れやすい。そして性的逸脱がとても多いです。
男子への影響ですが、行動は父親がモデルになります。父親が母親を従属させているような支配関係を見て、当然、男の子もそのような支配関係を持とうとします。一方女子と同じように自尊感情は低いです。当然、父親の暴力を男の子も受けているということです。そして女性・母に対する軽視が始まります。小さいときから、家庭の中でも、学校の中でも、社会の中でも、人権ということにしっかりとした教育が行われてこないとこういう問題が起こってきます。
被災地にもあります。お年を召したお母さんのなけなしの年金を巻き上げていく。高齢者虐待の中では、息子からの暴力が多いのですが、母親・女性に対する軽視というのは、このこととつながっているような気がしています。
 あとでデートDVのお話をするときにもお話ししますが、私たちは中学生と高校生にデートDVのアンケートをいたしました。その結果30%ぐらいの女子が暴力を受けており、暴力の加害者となっている男子がいることがわかりました。大人の数字とほとんど変わりません。内閣府によるDV調査の結果とあまり変わらない結果だったのです。この子たちがそのまま付き合っている人と一緒に成長し結婚するとすれば、そのままの数字で配偶者暴力につながっていくのではないでしょうか。
 どこでこの連鎖を断ち切るのかということが、今、私たちに与えられている課題だと思っています。父親の母親への暴力を見ながら、人権が尊重されていない状況の中で育つことで、「自分たちはこの構図の中に生きていくしかない。これが当たり前なんだ。やってもいいんだ」というように子どもたちが考えていく、そうなれば恐ろしい社会が来るのではないかと思います。
 DVが起きている家庭で、子どもは孤立感を深めます。「お母さんは私を守ってくれない。誰も私の気持ちを分かってくれない。家で起きていることは誰にも言ってはいけない。」という気持ちになります。母親はもう精いっぱいです。自分も暴力を長年受けており、娘や息子たちを守ることができないぐらい心身がボロボロにされている状況です。子どもたちは「家で起こっていることを誰にもしゃべることができない」と思っています。

◆デートDVの実態

 先ほど触れたように、岩手県内の大学・高校・中学校を対象にデートDVの実態調査を実施しました。特徴的なこととしては、携帯電話やメールを使っての拘束、行動監視が挙げられます。メールでは3分以内の返信を強要します。どうやってそんなにメールを打てるのかよく分からないほどです。大学生などは講義を受けながらでも、交際相手をコントロールするためにメールを打っているのだろうと思います。3分以内に返信をしなかったら、「何で返信ができないんだ」ということで攻撃をしてきます。付き合っている男子から「俺のことを最優先にしろ」「王様と言え」「お前は俺の家来なんだ」と言われ、従属を約束させられている女子もいます。キスやセックスを無理に行おうとしたり、それから見たくないのにアダルトビデオやDVDや写真を見るように強要されたりしています。「携帯電話」は相手の行動を監視し、規制し、強いてはコントロールするための便利なアイテムとして使われています。
 そして、若年層にストーカー行為が多発しています。中学生にもあります。また、若年の妊娠と出産が増加傾向にあります。

◆相談と支援について

 もりおか女性センターでは、3人の女性相談員が相談を受けています。相談においては、まず聴かせていただくことから始まります。普通の「聞く」ではなくて、耳偏の「聴く」を使います。被害当事者が安心して話せる場所を確保することが重要です。そして被害当事者が本来持っておられる「力」を信じ、その力を取り戻されるお手伝いをしています。絡み合った問題の解決方法を一緒に考えて行きます。被害当事者がエンパワーメントし、自分の人生をどう作り上げていくかということを決めていただくことです。そのために問題を整理し、必要な情報を提供するということが、相談員にとって重要な仕事です。
 センターは、女性対象の相談しか行っていません。たまに男性がいらっしゃることもありますが、自分の娘さんについての相談ということならば受けていますが、男性本人の相談については、他の機関を紹介しています。
 相談には電話相談と面接相談があります。当センターでは電話・面接双方とも予約制としています。初回は60分、継続の場合は1回50分を目安にしています。電話相談の利点は、相談者にとっては話しやすいということです。相談員と対面をしないので個人を特定しないという気安さがあります。それと、岩手県の場合、沿岸から盛岡市まで来ますと、片道2,500円ぐらいのバス代が掛かり、そういうこともあるのではないかと思っています。
 とはいえ、センターとしてはできるだけ面接相談ができるようにしています。なぜかといいますと、相談者と相談員が、心を開きながら話をしていくことができるからです。ちょっとした体の動き、目線、表情、手の動き、曇った表情、あるいは逆に心の中を隠して明るく見せながら話される等々、様々な表情が相談員には感知できるからです。
 相談においては、相談につながったことに敬意を表します。「よく来てくださいました」と。そして「あなたは悪くないですね。DVを受ける筋合いのないこと」をしっかりと相談者に伝えます。「あなたは1人ではない」というメッセージも大事です。孤立感を持っている方たちにとっては、この言葉がとても生きるのです。それから話の内容を心で聴き、問題解決のためにエンパワーメントできる方法を共に考えていきます。幾重にも絡まった糸を整理していく作業を共にするのです。これにはとても時間がかかります。相談者は過去のことをお話しします。相談員は、その中からかかえ持っておられる内容をしっかりと受け止め、話される内容を信じます。
 支援の基本とは何でしょうか。まず敬意を持って接することです。それから被害当事者のペースに合わせること。ある相談機関では、女性相談は5回までとか6回までとか、回数を決めておられるところもあるように聞きます。そうなりますと、1回目でだいたい何を聞く、2回目、3回目で何を聞くということが決まってきてしまいます。そうすると、ペースは相談員が作ってしまうことになり決していいことではないと思っています。被害当事者のペースにしっかりと寄り添うことが大切です。
 被害当事者の力を信じることが大事です。過酷な状況、深刻な状況から必ず立ち戻られる、人間性を取り戻されると信じています。相談員は、被害当事者の意思決定を待つことです。焦ってはいけません。
 センターは、配偶者暴力相談支援センター(配暴センター)ですので、保護命令のお手伝いをさせていただいています。一時保護所にお願いをして、入れていただくということもあります。ところがせっかく入ったのに半日で帰ってしまわれることがあるのです。また、過酷な環境の夫の元に戻ってしまうのです。それでもその方を非難することがあってはなりません。戻るというのは、本人が選んでおられることです。本人が選んで戻っている以上、それを非難するべきではありません。
 センターで扱ったケースではありませんが、自宅と民間シェルターを9回も行ったり来たりなさった方があると聞いています。相談員や支援をしている人たちは「また?」と思ったことでしょう。そんな時は、命に危険があった場合の避難の仕方や準備しておく持ち物など話しあっておき、いつでも駆け込んできてもOKであることを伝えます。それくらい皆さん被害当事者に寄り添っています。支援者の価値観を押し付けたりしません。相談者は力を無くしていますので、相談員が何かを言うと、もうそれが正しいと思ってしまう場合がありますので、言葉や態度に充分気をつけています。
そして適切な情報を提供することが重要です。先ほどお話ししたように、法律はどんどん改正されています。児童福祉法の改正や児童手当て等様々な制度も、変更されると同時に相談員や周辺にいる者は学んでおかなければなりません。古い情報を提供するわけにはいきません。また、相談員が全てを承知しているとは限らないこともあります。関係機関との連携は、平常時から積み上げておくことです。これが「社会資源」です。社会資源をどのように活用して、1人の女性、その子どもたちをエンパワーメントし、自立した生活、本来の人としての生活を取り戻してもらうか、そのことが大切です。これは使える、ここに行ったらこれがある、といった情報です。まず経済的な自立がとても大切ですから、働ける状況であればまず働くということから始めていく。そのことがとても大切だと思っています。
 今日の大切な話なのですが、二次被害を防ぐためにどうすればよいかについて少し話します。皆さまは公的なところにいらっしゃるわけですけれども、実は公的なところが二次被害を与えるということが多いのです。被害当事者に対して非難や批判をするのです。「どうしてそんな人と結婚したの?」、「好きで結婚したんでしょ?」、「1回、2回殴られたって、どうってことないでしょう」、「あんたが悪いんじゃないの?」、「上手に機嫌を取らないからよ」等々。なぜそれが分かるかというと、「そういうふうに言われました。もう行きたくない」と言って被害当事者が戻ってこられるからです。忠告や自分の価値観の押し付けはだめです。「仕事で疲れているのだから、少しは大目に見たら?」、「それって愛されているんだよ」、「子どものことを考えたら?」そういった言葉が被害当事者を傷付けます。被害当事者の話を信じていないことになります。「けがもしていないし、暴力も振るわれているって本当?」「彼の言い分も聞いてみないとね?」といった言葉が様々な窓口で投げかけられているのですが、これら全ては被害当事者への二次被害となります。家庭相談員さんや子ども関係機関の相談員さんはこんなことは言わないと思いますが、意外と他のセクションで、例えば生活保護の部署等でこういう言葉を聞いて傷つくということがあります。
 役所での対応はとても重要です。平常時から相談者に正しい情報を提供するために、法律や制度を読み解いておいてほしいと思います。相談者の困り事は何なのかということをしっかりと聴いてください。DVの被害当事者にとっては、順序立てて話をするということが難しいのです。言葉がきちんと出ません。話があっちに行ったりこっちに行ったりします。病院へ行きたいけどお金がないという話と子どものスポーツクラブで必要な物を買ってあげたいという話がごっちゃになって出てきたりします。どちらを言いたいのか分からないということがたくさんあります。きちんと整理された内容を自分の言葉にして話すことは難しいことなのです。
 分かっていてあげてほしいんですが、先ほど言ったように被害当事者は絡まった糸の中で自分が今置かれている場所、自分が何をしたいのかということが、ほとんど言えなくなっています。それを「何をどうしたいのですか、あんたが言ってくれないとこっちはどうにもできないんだよ」などと対応すればどうでしょうか。ゆっくりとしっかりとお話を聴いてあげてほしいと思います。この目の前にいる人をどうしてあげれば子どもともども生活ができるか、わかってあげてほしいです。
 どの社会資源を提供すればいいのか、どの機関にどうつなぐか。「そういうことなら、こっちの機関に行って相談してみて」という場合もあると思います。その後をちょっと追いかけてあげていただけませんか。「A子さんをあなたのところへ行くように言ったけど、行ったかな?」というように、です。個人情報保護の壁がありますからそれを踏まえなければなりませんが「どうだった?」とちょっと聞いてみてください。部署間での情報共有はとても重要です。それによって、この人がその日以降どういう生活をしていったかということが分かってくるのです。
 まず病院に行ったほうがいい、と助言したとします。しかしその後病院へ行ってどうだったかということは、相談者が病院の結果を報告してこない限り手に入らない情報です。再来した時は「この前病院に行かれましたか、どうでした?」と聞いてみてください。そうすると、「あー、前に話を聞いてくれた人だった」「私のことを気に留めてくれている人がいる」と言う、生存感や安心感が出てくるのです。そのように他機関へつなぐときでも、後のことがどうなるかということに少し心を寄せてあげていただきたいと思います。

◆DVへの対応の要

 まとめに入らせていただきますが、センターは、配偶者暴力相談支援センターでもありますので、盛岡市からの委託事業として受託しています。相談員の人件費、弁護士相談、緊急一時宿泊費など予算化していただいています。 まず社会資源の活用についてです。センターでは、緊急の場合は県警の生活安全企画課さんに協力いただくことが一番多いです。センターの相談員が同行します。保護命令申請の手助けをしながらケースワーカ―さんにつなぐこともあります。福祉事務所や保健所につなぐこともあります。生活保護・母子自立支援センターへも同じです。相談員が同行しています。また、県内のある病院の心療内科に相談員を出張相談に出しています。相談員を病院に派遣して、病院の相談室で相談を受けるということをやっているのです。それから離婚裁判になる場合ですが、これも裁判所に相談員が同行したりしています。弁護士さんに月1回、センターに来ていただいて、2時間の法律相談をしていただいています。横に必ず相談員が同席して、相談者が弁護士さんにきちんとお話ができるかどうか、見守りながら、できないところは補いながらやっています。2時間で本当は3人くらいと思っていますが多いときは5件くらいのケースがあり、緊急のケースもあるので、ちょっと時間が少ないと思っていますが、そのような取組もやっています。その後相談が進めば、法テラスさんのほうにお願いをする場合や専門の違う他の弁護士さんにお願いをする場合もあります。
 民間のシェルターとステップハウスについてですが、岩手県内には民間のシェルターやステップハウスがありません。緊急一時保護として、盛岡市内のある場所で、お母さんと子ども3人、最大5泊まで宿泊できるようにしています。被害当事者は着の身着のまま出てきますので、特に子どもさんたちのオムツや着替はとても重要で、その間の生活に必要なものも受け付けています。配暴センターでは他県からの相談を受けることがありますし、相談者を他県へ送る場合もあります。その場合は全国にあります民間のシェルターネットさんにお願いをして引き受けていただいています。岩手から北海道へ送ったこともありますし、中部や関東にお願したこともあります。それぞれのネットを利用しながら、民間レベルでそういった連携を行っています。
 その他、自立支援プログラムを実施しています。女性のための「起業」事業をやっています。シングルマザーのパソコン講座等をやっているのですが、自立のため就職するためには、最低限パソコンができないと難しいです。ところがパソコン操作があまり得意ではないという方もいます。そういう方たちを対象にパソコン講座をやっています。相談室を訪れる相談者がパソコン講座を受講しています。このような自立支援もDVへの対応として必要なことです。
 センターでは、盛岡市とも連携して支援体制のワンストップ化を図ろうとしています。これはこれから市町村でどんどん広がっていくと思います。被害当事者を受けいれる時に各部署を転々とさせられることなく1つのところで全てのことができるような態勢が必要です。
 長く話してきましたが、DVは社会的な問題です。個人的な問題ではないということをご理解いただきたいと思います。DVは女性の人権を侵す重大な犯罪です。そしてDVが起きている家庭の7~8割に子どもがいますので、子どもの人権にも大きく関わってきます。
 そして性暴力は「魂の殺人」と言われています。性暴力を受けたうちの78.3%は未成年から20歳代です。性暴力というのは人格が破壊されます。これは何としても食い止めたいというふうに思っています。
 人権という立場で今日は女性への暴力についてお話をさせていただきました。
 御清聴ありがとうございました。