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人権に関するデータベース

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研修講義資料

京都会場 講義3 平成26年11月11日(火)

「インターネットと青少年の人権」

著者
渡辺真由子
寄稿日(掲載日)
2015/03/25

 皆様おはようございます。渡辺真由子と申します。本日は「インターネットと青少年の人権」をテーマに、これまで子どもたちのネット利用を取材してきた経験に基づいてお話しさせていただきます。今回は子どものネット利用の三大トラブルということで、ネットいじめとリベンジポルノと児童ポルノについてお話しをしていきます。それぞれのテーマに関して、現状がどうなっているのか、そして背景には何があるのか、さらに我々はどのような対策を取ればいいのか、そういったことを考えていきたいと思います。

 ネットいじめで、今多いのはやはりLINEですね。LINEというのは、スマートフォンにおけるソーシャルネットワーキングサービス(SNS)ですけれども、グループ単位でメッセージのやり取りができます。例えばテニスサークルのグループをつくったら、LINEの中でいろいろなやり取りを行っていくわけです。一人が「今日の飲み会は何時?」と聞いたら別の人が「18時からだよ」とすぐ答えをくれるという感じでぽんぽんとやり取りが進んでいくわけです。さらに、LINEの中では自分たちが撮影した動画や画像を掲載してみんなで共有することができます。これはとても便利なサービスです。本当にメールよりも気軽にメッセージのやり取りができます。しかし、このLINEをいじめに使うケースが最近非常に目立ってきているのです。
 例えばLINEの仲間から、一人だけ集中して嫌がらせをされるようなことがあります。一人の子どもに対して集中的に、「ナメてんじゃねーぞ、コラ」「返事しろ」……というふうに、数分間に、何通ものメッセージが送り付けられてくる。これは、やられる方にとっては相当きついと思います。
LINEというのは、基本的に仲良しグループがコミュニティーをつくってそこでやり取りをするわけですけれども、みんながやり取りをしているのに、自分がそこにメッセージを送っても誰も返事をしてくれないというようなこともあります。これはLINEにおける無視です。さらに、自分もみんなと一緒に仲良しグループのLINEのコミュニティーに入っているはずなのに、その仲良しグループは、自分の知らないところで、また別のコミュニティーを立ち上げていたということもあります。別のコミュニティーの中で自分に対する悪口を言っている。自分は何もそれを知らない。知らないのだけれど、何だか友だちの様子が変だというような不気味さを感じるわけです。これは「LINE外し」と呼ばれるいじめ方です。そんなふうにLINEを使ってのいろいろないじめ方というのが最近は増えてきています。
 それ以外にも、ネット上では顔写真や個人情報というものを簡単に利用できるので、そうしたものを無断で利用して相手をいじめるというやり方もよく起きています。代表的なものは「なりすましいじめ」と呼ばれるものです。この「なりすましいじめ」が行われるのは、基本的にSNSの中です。TwitterやFacebookなどの不特定多数の人とやり取りができて自分のプロフィールもそこで公開できるというサービスです。いじめたい相手の顔写真や本名を勝手に使って、さらに相手の学校名、メールアドレス、電話番号、そういったものも勝手に利用して、その相手になりきったプロフィールをつくってしまう。そして、うそ八百を並べ立てます。「あたし、実は隣のクラスの○○君のことが好きなの」、「エッチしたいので相手を募集してまーす」。そういうことを相手になりすまして書き込むわけです。やられる側にとっては非常に迷惑ですね。隣のクラスの○○君には誤解されてしまいますし、自分のメールにも、知らない人からの卑わいなメッセージが届くというようなことにもなってくるわけです。
 この「なりすましいじめ」というのは、決していたずらで片付けられるものではありません。これまでに実際にこんな例がありました。ある男子高校生がSNSの中で同級生に勝手になりすまされてしまったのです。同級生が「俺、この間コンビニで万引きしたんだ」というようなことを書き込んだため、それを見た就職の内定先の企業が「何だ、こいつ万引きしてるのか」ということで内定を取り消したということも起きています。このように自分の知らないところで第2の自分が、非常に不道徳なことや反社会的なことを発信し、それによって自分の人生まで変えられてしまうということもあるわけです。
 さらにチェーンメールを使ったいじめ、これも携帯電話が登場したときから発生しています。「不幸の手紙」がメールやLINEでやりとりされている。「このメールを今日中に10人に回さなければあなたのもとに不幸が訪れます」というような内容です。
 ただこの内容もどんどんハイテクになってきていて、私が取材をしたある女子中学生はこんなチェーンメールをもらいました。「先日女の子が殺されました。今、その殺人犯を探しています。もしあなたがこのメールを今日中に10人に回さなければ、あなたを殺人犯とみなし、あなたの家に警察の家宅捜索が入ります」。その女の子は怖くなってしまって、そのメッセージに対してずっとおびえていたわけですけれども、実はそのメッセージには続きがありました。別のサイトを見るためのURLが張り付けられていて「このアドレスをクリックすればその殺人犯に殺された女の子の顔写真を見ることができます」ということまで書いてあったのです。だいたいそういうときに使われる顔写真というのは、そのときいじめられている子どもの顔写真です。このように、いじめられている子というのは、チェーンメールの中でも面白おかしく扱われてしまうわけです。それを一日に何十人という人にばらまかれてしまうのです。
 ここで一つ注意をしていただきたいのは、チェーンメールというのは、受け取ったからといってそれを一日に10人に回さなくても、別に何の問題も発生しません。もちろん家宅捜索が入るなどということはあるわけがありません。
もう一つ子どもが気にするのは、自分のところでチェーンメールを止めてしまったら、自分が止めたことを誰かに知られてしまうのではないか、自分のメールアドレスが流出してしまうのではないかということです。それを気にして、ついつい他の友達に転送してしまうのですが、誰かに知られるということはありません。それでもどうしても心配だというお子さんもいるかと思います。そういう子どもに対しては、今ネット上では「撃退チェーンメールhttp://www.dekyo.or.jp/soudan/chain/」というサイトがありますから、このサイトをぜひ教えてあげていただきたいと思います。
 さらに別のいじめ方として動画を掲載するというものがあります。スマートフォンは簡単に動画が撮影できるので、それを使っていじめの現場を撮影し、動画をネット上の動画共有サイトに載せてしまうといういじめ方です。動画共有サイトに載せるときには、多くの場合、いじめられている人がどこの誰かということも分かるように載せるので、被害者にとっては非常に心理的な負担になります。このいじめ動画をネット上に掲載してしまうという手口は、これまでにも結構あって事件にもなっています。
 例えば、ある県で実際に投稿された動画があります。中学3年生の生徒たちが修学旅行に行って、その最中に1人の男子生徒に対して枕を投げ付けたり、布団で押さえ込んで窒息させようとしたり、そういういじめをしていました。その様子を面白がって加害者の1人が撮影してネット上に掲載したのです。すると、このネット動画は一般のネットユーザーの間で非常に問題になり、これを掲載したのは一体どこの誰なんだ、ということで加害者が責められる事態になりました。ネット上の内容というのは簡単にコピーできるので、ネットユーザーたちがコピーして、いろいろなサイトに貼り付けました。そうすることによって簡単に消せないようにしたのです。そして、その動画がどのサイトに行けば見られるのかを紹介する掲示板を立てました。
 スライドをご覧ください。ここに「突撃記録、8時45分から」と書かれていますが、「突撃記録」とは何でしょうか。これは「突撃電話」の意味です。この修学旅行を引率した学校に電話をしてやろうということになったのです。実は、この動画に載っていた少年たちはジャージを着ていますが、このジャージに学校名が縫いつけてあったので、動画を見れば学校名はすぐに分かります。さらに裏を取るために学校のホームページをチェックすると、何日から何日までは修学旅行ですと書いてあります。やはりこの学校だ、間違いないということになって、「おたくの学校で生徒たちがこんなけしからんことをやっているぞ」と、午前8時45分に電話をしたのです。さらにその様子をネット上で中継しました。そして、その中継が見られるサイトのアドレスも紹介されたのです。その下には、加害者の名前や顔写真などがズラーッと紹介されていました。
 ここで疑問ですが、なぜ加害者たちのことが分かったのでしょうか。ネットに何かを投稿するときにはアカウントが必要になってきますが、このいじめ動画を投稿した生徒が、そのアカウントを自分の別のプロフィールサイトや様々なSNSで使い回していたからです。このアカウントに基づいてSNSを調べるとすぐに誰なのか特定ができます。さらにその加害少年は、自分のSNSで仲間の紹介もしています。家族と撮った写真や、親の職業まで推測できるような情報も書いていました。今回の加害少年に対してもネットユーザーたちは、「こいつの父親の会社に電話して会社を辞めさせてやれ」というようなことも書き込んでいました。
 こうなってくると当然学校も動き出さざるを得ないということで、教育委員会がこのネットユーザーに対して削除依頼を出しました。「おたくのサイトで我々の学校の少年たちの個人情報が出ていますから削除してください」と。すると、その個人情報を載せていたネットユーザーは、「○○教育委員会の誰それからこういう依頼が来ました」ということを、またネット上に載せてしまったのです。この担当者はプライバシーに関することまで全部明かされてネットに上げられました。こうなってくると対処しようにも及び腰にならざるを得ないことにもなります。
 最近は、いじめに対するネット上での制裁はかなり厳しいものがあります。このような掲示板を立ち上げて加害者の少年をバッシングしようとする人たちの多くが、いじめに対して大変な正義感を持っているため、加害者の少年たちを徹底的につぶしてやろうという気持ちになってしまうのです。
 他のいじめ方として「性的ないじめ」というものもあります。いじめたい相手の性を悪用するといういじめ方です。例えば学校でいじめたい相手がトイレに入っているときに盗撮をしたり、あるいは体育の授業の前の更衣室で相手が洋服を着替えている様子やプールの授業の前に水着に着替えている様子をこっそり撮ることもあれば、嫌がる相手を抑えつけて無理やり服を脱がせて撮るということもあります。そして、いじめた様子を録画してネットに載せたり、あるいは恐喝をします。「おまえの裸の画像をネットにばらまかれたくなかったら金を持ってこい」というようなことを言われています。また、女の子に対しては「援助交際してこい」ということもあります。援助交際というのは買春です。被害者の女の子は好きでもない男の人と性行為をして、そこでもらったお金を加害者たちに渡さなければいけない。この性的いじめは、通常のいじめ以上に表には出にくいものですから、もしかすると皆様の回りにも、「裸の画像を撮られてしまったけれど、ネットに載せられたらどうしよう」と、不安で夜も眠れないというお子さんがいるかもしれません。

 このように、携帯電話やスマートフォンを持っている子どもの場合は、何らかのトラブルに巻き込まれる可能性が大いにあります。これは決して他人事ではありません。そこで、ではこのような被害にあってしまったらどのようにすればいいのかということを押さえておきたいと思います。
 ここで大事なのはまず証拠を保存することです。ネットいじめの不幸中の幸いとでもいうべき点は、証拠が残りやすいということです。通常のいじめのように悪口を言われたり、嫌がらせをされたときにはなかなか証拠が残りにくいものですが、ネットであれば画像や文章が記録として残るわけです。そこで、それを印刷する、画像を撮影しておく、コピーしておくといった方法で、まず証拠の保全をしましょう。その上でさまざまな対策を取っていきます。親や先生に相談するのはもちろんですが、誹謗・中傷が書かれているサイトの管理者に対して直接削除を依頼する、あるいはその書き込みを行った人を明らかにしてもらうことになります。
 発信者を明らかにしてもらう方法としては、発信者情報開示請求という手続きがあります。これは若干複雑な手続きですが、ネット上で「発信者情報開示請求」と検索をすると手続方法が載っています。それ以外にも、電話相談やネット相談については窓口が受け付けをしています。またこのようにいろいろと対応してもどうにもならない、らちが開かない場合には、警察に相談することになります。悪質なネットいじめの場合ですと、名誉毀損罪や侮辱罪に問うことも可能です。しかしなかなか手間がかかることです。

 次に、ネットならではの、トラブルが発生しやすい特徴についてお話しします。
 大きく5点の特徴が挙げられます。1点目は匿名性です。Facebookのように好きで個人情報を出している場合は別ですが、基本的には本名を隠して書き込みができます。つまり、自分に対する悪口の書き込みを誰がしているのか分からない。これは非常に不気味です。「もしかすると教室ではいつも隣でにこにこ笑っている○○ちゃんが、放課後はこんなひどい書き込みをしているのかもしれない」。そんなふうに考えると本当に子どものうちから人間不信に陥ってしまいます。
 さらに加害者側にとってみても、匿名というのはネットいじめに対するハードルが下がって心理的にやりやすくなります。「こんなことを書いても、自分がやったとはどうせバレないだろう」と思ってしまう。けれどもネットへの書き込みは、先ほども紹介したようにしかるべき手続きを取れば、どこの誰がそれを書き込んだかが分かるようになっています。だからこそ、殺害予告や爆破予告などをすると逮捕されてしまうのです。ですから、子どもたちには、調べようと思えば調べられるのだということを教えておくべきだと思います。
 2点目は、四六時中、いじめに遭っているような状態になっているということです。これまでのいじめは、例えば学校でいじめられたとしても、家に逃げ帰ってくればそこは安全な場所でした。けれどもネットいじめはそうはいきません。学校にいようが家にいようが、朝だろうが夜だろうが、平日だろうが週末だろうが、関係ありません。携帯電話やスマートフォンで時間や曜日に関わらず、しょっちゅう嫌がらせのメッセージが送られてくるわけです。学校から帰って、家族でご飯を食べて、その後気持ちよくテレビなどを見ているときに、スマートフォンが鳴って「死ね」というメッセージが届く。こんなことの繰り返しでは本当に気の休まる暇がありません。24時間針のむしろの上に座らされているような状況です。
 さらに10秒ルールというものがあります。これはLINEが普及するようになってから言われるようになったルールです。LINEのメッセージが届いたら10秒以内に返信しなければならない、という仲間内の暗黙のルールがあるのです。LINEというのは、自分がメッセージを受け取って読んだら、そこに「既読」という文字が付くようになっています。「既に読んだ」という文字です。相手側にも、既読の通知がいきますから、メッセージを読んだということ分かってしまいます。すぐに返信をしないと、「あの子、こっちのメッセージ読んだくせに、何ですぐ返信しないわけ、感じわるーい」ということになって、翌日からいじめのターゲットになってしまうのです。ですから今の子どもたちは、一日中スマートフォンを手放さない。食事中でもお風呂に入っているときでも、ズーッとスマートフォンを握り締めて、友達からLINEのメッセージが来たらすぐに返信できるように、臨戦態勢にあるわけです。これは子どもたちにとってはある意味大変なプレッシャーです。
 3点目は「非対面性」という特徴です。これはまさにネットならではの特徴です。ネット上に何かを書き込むとき、何かを発信するとき、目の前に相手がいません。ですから自分が発信する内容が相手にどのような影響を与えるのか、あるいは相手がどのような反応をするかということが、いま一つピンと来ないのです。相手がこのメッセージを読んで笑うのか、怒るのか、はたまた泣き出すのか、その辺がよく分からない。ですから、書き込む内容がどんどんエスカレートしてしまいがちです。自分で自分にブレーキをかけにくくなってしまうということです。
 4点目は、「記録性と保存性」という特徴です。ネット上のいじめというのは非常に記録に残りやすい、だからこそ証拠としては扱いやすいのですが、被害者にとっては苦痛です。記録に残るということは自分で何回もそれを読み直すことができるということですから、読み直すたびに傷ついてしまいます。いったんネット上に書かれた内容は、削除されない限りは半永久的にネット上に残ってしまいます。例えば、小学校のときにAさんがネット上でいじめられたとします。それから何年も経って、大人になってできた新しい友達が、軽い気持ちでAさんの本名をネット上で検索した。すると小学校のときに書かれたAさんに対する悪口が検索結果としてあがってくるということです。「何だ、Aさん、昔いじめられてたんじゃん」と簡単に知られてしまうのです。そうなると、いじめられていたという体験からは一生逃れることができません。いじめられっ子のレッテルが貼られたままになってしまうわけです。
 5点目は「拡散性」です。これもまさにネットならではの特徴です。ネット上に掲載された文字、画像、動画というものは簡単にコピーをして別のサイトにペースト、すなわち貼り付けをすることが可能です。すると、自分の気が付かないうちに無数のサイトに自分の悪口がばらまかれてしまうということにもなります。ですから、ネットいじめというのは、いかに初期の段階で手を打てるのかということが重要になってくるわけです。

 このような特徴があるネットいじめの場合、従来のいじめよりも被害者に与えるダメージは大きくなってきます。なぜダメージが大きくなるかというと、理由は大きく2つ挙げられます。1つは自分の個人情報がネット上で勝手に暴露されてしまうということです。自分の知らないところで勝手に自分の顔写真・名前・住所・電話番号・メールアドレス、そういったものがばらまかれてしまう。
 例えばよくあるのは出会い系サイトに載せられてしまうというものです。彼氏とけんかをしたり、仲良しグループとけんかをしたときに、制裁として自分の顔写真や個人情報が出会い系サイトに載せられてしまうことがあります。すると、翌日から自分のもとに、いやらしいメールや電話がどんどん来ます。自分の個人情報を自分でコントロールできないというのは非常に怖いことなのです。
 2つ目の理由として、「いじめられっ子」であるということがみんなに知られてしまうという点です。従来のいじめであれば、例えば学校の教室の中でいじめを受けていたとしても、自分がいじめられているという事実を知っているのは、せいぜいその教室の人たちだけだったわけです。しかし、ネット上でいじめられると、不特定多数の人にいじめられているという事実を知られてしまいます。すると、従来であれば例えば小学校のときにいじめを受けても、中学校に上がってクラスが変われば人間関係も変わり、新しい自分として出直すことができたわけですが、それができなくなってしまいます。ネット上でいじめを受けると、いじめられっ子というポジションから抜け出せなくなってしまうこともあります。
子どもたちの世界というのは、人間関係がピラミッド型のヒエラルキーですから、いじめられている子は一番下。そこから上がっていくのが非常に難しくなってくるわけです。いじめられっ子はいつまでもいじめられっ子のまま。そうなってくると、ネットいじめが深刻化していろいろなトラブルに発展することがあります。例えばLINEでひどい書き込みをされたということで、書き込んだ相手を呼び出して殴ったり蹴ったりするような事件も起きていますし、またネットに書かれたことにショックを受けて不登校になってしまったり、自殺に発展するというケースも起きています。

 では、このようなネットいじめの現状や背景に対して、私たち大人に何ができるのでしょうか。働きかける対象として、学校・家庭・地域、この3つに分けて考えてみます。
 まず学校では何が重要になってくるか。これはネット・リテラシー教育です。ネット・リテラシーというのは、ネット上の情報を自分の頭で的確に判断して、うまく活用していく能力のことをいいます。つまりネット上の情報のどれがいいものでどれが悪いのか、正しいのか間違っているのか、信用できるのかできないのか、そのようなことをきちんと判断した上で賢く活用していくことです。リテラシーというのは読み解きという意味ですが、ネット上の情報をうのみにしないで読み解いていこうという意味でもあります。日本でも、文科省の方で「情報モラル教育」という名前でこの教育を行っていこうと言っています。
 では、このネット・リテラシー教育でどのようなことを教えればいいのでしょうか。細かく言えばきりがありませんが、例えばまず匿名性ということに注意することも1つですし、あるいは個人情報を出さないということもあります。そういう注意点に加えて何より大事なのは、文字によるコミュニケーションの危険性を教えるということです。子どもたちは、言葉による悪口を言ってはいけないということは学校の道徳の時間などで習っています。けれども文字による悪口を書いてはいけないということは教えられていません。文字による書き込みが、相手にどれだけ苦痛を与えるかということまでは、きちんと理解していない子どもが多い。これまで身体的暴力や言葉の暴力はいけないと言われてきましたが、これからは文字も暴力になるということを教えなければならない時代なのだと思います。
 さらに文字によるコミュニケーションの難しさを伝える必要があります。目の前に相手がいないわけですから、文字によるコミュニケーションでは、自分がどんな言葉を使うか、どんな表現を利用するか、あるいはどんな絵文字を混ぜるか、そういうことがすべて問われてきます。文字によるコミュニケーションは非常に高度なコミュニケーションなのだということを伝えていく必要があります。その上で自分が発信した内容を相手が見たときにどう感じるかという想像力、人の痛みが分かる想像力というものも、はぐくんでいく必要があるわけです。

 家庭では、相談しやすい雰囲気づくりが一番大事です。子どもはネットいじめを受けてもなかなか親には言いません。「どうせうちの親ってネットのことなんか、さっぱり分かってないし」という諦めがあるのでしょう。これに関しては親側が積極的に知識を身に付けて、自分が分かっていることを子どもにアピールしていく必要があるわけです。
 もう一つは、自分がいじめられているという事実を親に言ったら、親がどんな反応をするだろうというのがとても心配なわけです。多くの大人はいじめに対して誤解をしている部分があるからです。例えば、「いじめというのはいじめられる側に原因がある。いじめられる側に、動作がのろい、不潔だ、外見がずれている、性格が悪いなど、いろいろな理由があるからいじめられるんだ」と思っている大人が結構います。
 どんな理由があってもいじめはいけないはずです。人それぞれ人間は違って当たり前なのですから、多様性を認め合うという考え方が本来広がるべきなのですが、実際にはそうはなっていません。何か人と違うからいじめられる、人と違うあなたがいけないのだ、というふうに考えられてしまいがちです。そうなってくると、もし親に自分がいじめられていると言った場合、あなたに問題があるから、あなたが悪いからと、逆に責められてしまうのではないかという心配があるわけです。
 また、「いじめられる子というのは弱い子」という考え方を持っている大人も結構います。しかし、弱いとは何を持っていうのでしょうか。私もいろいろないじめの被害者に取材をしてきて、中には自殺をした子もいっぱいいるわけですが、そういう子どもたちに共通するのは、とても優しい心を持っているということです。
 例えばいじめられて自殺をした子どもの中には柔道が得意な子、空手が達者な子、そういう子たちもいました。けれど、そういう子は自分がいじめられても相手をいじめ返すために自分の力を使おうとはしませんでした。なぜでしょうか? 自分がいじめ返すと今度は相手を傷つけてしまう、または相手がいじめ返してきていじめの連鎖になってしまう。そういうことが分かっていたからです。こんな子どもたちを弱いといえるでしょうか。私はこういう子どもたちこそ真の強さを持つ子どもではないかと思います。
 本当に弱いのは加害者側、いじめる側なのです。いじめをしたら、相手をどのように傷つけるのか、分かっていても自分の攻撃欲求を押さえられない、あるいは相手の傷みさえ想像できない、これは人間として未熟なのであって弱いというふうに考えられます。しかしながら、世間ではいじめられる側が弱いというような考えがまかり通っています。そうなると子どももなかなか大人には言えません。いじめられているということを親に知られたら「おまえ、何てみじめなやつなんだ、情けないな」というふうに言われるのではないかと思うと、なかなか言い出せないということがあります。ですから、ぜひ家庭では、いじめというものは「いじめる側が100%悪いのだ」ということを徹底して伝えておいてください。「いじめられたからといって何も恥ずかしがる必要はないし、堂々といじめられたということを言っていいのだ、それは何もあなたが弱いわけではなくていじめる相手の自尊心が低くて弱いからいじめるのだ」ということを日頃から家庭で子どもに伝えておく必要があります。親として「こういう考えを持っている」ということを伝えることによって、子どもが「自分も相談してもいいのかな」というふうに感じられる雰囲気をぜひつくっていただきたいと思います。
 3つ目は、加害者ケアです。いじめが起きると、「とにかく被害者を保護せよ」、あるいは「被害者を加害者から放せ」と、被害者に対するアクションばかりを考えがちですが、実は、いじめというものは加害者がやめなければ終わらないのです。ですから、いじめの対策というのは、根本的には加害者への働きかけにあるわけです。これまでにも加害者に関していくつか調査が行われてきました。そこで分かったのは、家庭での会話が少ない子どもや、親が自分の話をあまり聴いてくれないと感じている子どもほど、いじめた経験が多いということです。加害者というのは何も考えずに、何の理由もなくいじめをしているわけではなく、もしかしたら加害者こそ、どこかに被害者的な要素を持っているということも考えられます。
 例えば学校以外のところで自分がいじめを受けているとか、家庭の中で親との関係がうまくいっていない、虐待を受けている、あるいは勉強などの非常に過度なプレッシャーに押しつぶされそうになっている、そういった様々な要素によって心が満たされない状態になっているということがあります。そうなってくると自分の存在の確認のため、あるいは自分に力があるということを実感するために、誰かを攻撃してしまうということがあります。ですから、そのような子どもに対してぜひ地域が受け皿になってほしいと思います。
 よくいじめの加害者に対して出席停止の措置が言われますが、出席停止の措置だけでは不十分です。学校からはじかれた子どもたちはその後どこに行くのでしょうか。最近、大阪市が出席停止中に問題行動を起こす子どもに対して個別指導の教室を開くという案を出していますが、これはなかなかいいと思います。個別指導において大事なことは、単に「おまえ、いじめちゃ駄目だろう」ということをモラル的に教えるのではなく、その子がなぜいじめをしてしまうのか、なぜ誰かを攻撃したくなってしまうのか、その心の背景にあるものを探っていくことです。もしかすると、その子の家庭の問題が見えてくるかもしれないし、その子の被害者の側面が見えてくるかもしれない。そちらに対する働きかけをしていかないと、加害者はいつまでたっても加害行動をやめることはありません。そのような意味で、地域における加害者ケアというものが本来は一番求められるのではないでしょうか。

 それでは、ここからは、また別のトラブルのお話しに移っていきたいと思います。子どものネット三大トラブル、その2「リベンジポルノ」です。
 リベンジというのは日本語で復讐という意味です。誰かに復讐をするためにポルノを使うということです。では誰に復讐するのかというと、交際相手に対してです。交際期間中に撮影をした相手の裸の画像や性行為の画像、そういったものを利用して相手から別れ話を切り出されたときに、「おまえ、俺と別れるんだったらおまえの裸の画像をネットにばらまくぞ」といった脅しをかけてくるというのがリベンジポルノです。
 これに関しては、去年の秋に発生した東京都三鷹市の女子高校生のストーカー殺人事件というものがありましたが、その女子高校生が加害者から非常にプライベートな写真を撮られてそれをネタに脅されていたということが分かっています。リベンジポルノの被害者の大半は10代の女の子であると言われています。女の子の側が別れ話を持ち出します。「私もう別れたい」というと、相手が「俺は別れたくない、いつでもおまえの裸の画像をばらまけるんだぞ」というようなことを言って脅しをかけてくるということです。加害者側は軽い気持ちでやっているのかもしれませんが、犯罪に当たる可能性があります。例えばネット上に相手の名誉を毀損するような画像を載せるというのは名誉毀損罪に当たるわけです。さらに相手の性器などがよく分かる形でネットに掲載すると、わいせつ物頒布等の罪に当たります。さらに被害者が18歳未満ですと児童ポルノに相当する可能性が出て来るので、児童ポルノ禁止法違反ということにもなってくるわけです。
 では、なぜこのようなリベンジポルノが起きてしまうのでしょうか。これは男性にも女性にもそれぞれ問題があります。まず男性に関しては所有物意識があります。つまり付き合う女というのは俺のものだ。だから俺の言うことを聞いてあたりまえという考えです。俺の言うことを聞かないのなら制裁として裸の画像をばらまいてもいいのだ、俺にはその権利があるというふうに考える。いわゆる昔ながらの男らしさを引きずっている人が、今の若い男の子の中にも結構いるのです。昔は、例えば自分の妻に対して「しつける」という言葉を使う男の人などがいたわけです。「女房をしつけにゃいかん」、「女房一人言うこと聞かせられんで何が男か」といった言い方をする地方などもありました。それくらい、男というのは女性を支配するもの、コントロールするもの、そういうことができてこそ「一人前の男たい」といった男らしさの価値観というものがあったわけです。それがいまだに若い男の子の間にも広まっている。
 一方、女性に対しては、裸の画像を撮られたくなかったら嫌だと言えばいいのではないかと思うかもしれませんが、なかなかノーと言えない女の子が多いです。どうしてノーと言えないのでしょうか。一つには、やはり女の子の側も「女っていうのは男に従うものだよね、それが愛だよね」といった女らしさの呪縛にとらわれているということがあります。女の子というのはこうあるべきだ、恋愛関係においては女の子というのは男の子の言うことを聞くものだ、あまり出しゃばったり自己主張をしてはいけないというような考え方、これは女の子向けの少女コミックや、恋愛もののストーリーなどに結構あります。女の子というのは男の子に頼って付いていくというような時代錯誤的な乗りが今でも少女向けのメディアに出ている。そのような「女らしさ」という固定観念があることに加え、「ノー」と言うことによって、嫌われるのではないかという恐怖心にとらわれてしまうことがあります。皆さんは、「そんな男だったら嫌われてもいいじゃない、別れちゃえばいいじゃない」と思うかもしれませんが、女の子によっては、どうしてもこの人と別れたくない、嫌われたくないと思う子がいるわけです。そういう女の子というのは彼氏に依存してしまっている。彼氏がすべてになってしまっていて、彼氏が離れていってしまうことが恐怖ですらあるわけです。そういう女の子は、家庭で何らかの問題を抱えていることが多いです。例えば父親との関係がうまくいっていないという場合は、父親代わりの存在として彼氏を求めてしまうことがあります。自分のことを一番理解してくれて、何でも聞いてくれて頼れるような存在として彼氏を捉えると、その彼氏が離れていってしまうことがとても怖いのです。「私は見捨てられてしまうのではないか」というような考えになってくるわけです。そういう意味で自己肯定感が低いという特徴もあります。自分は愛されていないとか、自分は大した存在じゃない、だから彼氏のいうことを聞いていないといけない、というような考えを持っていることもあります。
 では、リベンジポルノに対してどのような対策が取れるでしょうか。これも学校・家庭・地域の3つに分けて考えてみたいと思います。まず学校に関してですが、これは「デートDV」教育というものが必要になってくると考えられます。デートDVは、恋愛カップルにおける支配、被支配の関係を指します。夫婦間の支配、被支配の関係はいわゆるDV(ドメスティックバイオレンス)と言いますが、そこにデートという言葉が付くと結婚前の恋愛中のカップルにおける、力関係が不均衡な状態のことをいいます。このデートDVの中には精神的暴力、身体的暴力、性的暴力という大きく3つ暴力が存在しますけれども、その一環としてリベンジポルノをとらえる必要があります。つまり相手の裸の画像を無理やり撮ったり、相手が嫌がっているのにネットに載せるということは暴力なのだということを教えるべきです。このデートDVに対しては、誤った男らしさや女らしさといった考え方を是正していくことがとても重要になります。「男はこうあるべき、女はこうあるべき」というような固定観念を若い子でも持っていることが大きな一つの要因です。そういう意味では「性別によってどちらが偉いだとか、どちらが上だということはない、お互いがお互いを尊重していくものだ」という、ごくごく基本的なことをまず教えていく必要があります。
 家庭ではなかなかポルノに関しては話題にしにくいかと思いますが、それでもぜひ、次の2つの点を話していただきたいと思います。1つはリベンジポルノの危険性について、子どもと話し合ってほしいということです。子どもたちは、安易に彼氏とのラブラブ写真をネットに載せます。その中にはかなり性的に際どい画像もあるわけです。また、彼氏から裸の画像を見せてと言われれば、自分で撮影して送ってしまう。今こういう子どもたちがたくさんいます。けれど、中学や高校における恋愛が一生続くことは、かなりまれなものです。これから大人になっていろいろな出会いもあるわけですから、もしかしたら、あなたの裸の画像をネタに脅されるかもしれない、ネットにばらまかれるかもしれないということを伝えておいた方がいいと思います。また、もしかしたら自分の子どもが加害者になる可能性もあるわけです。そういった意味では、恋人の裸の画像や下着の画像をネットに載せるということは犯罪になる可能性があるということも牽制の意味であらかじめ子どもに伝えておいた方がいいかと思います。
 もう1点、「画像は見ない」という約束を子どもと交わしておくことをお勧めします。子どもたちはリベンジポルノの被害に遭ってもなかなか親には言いません。自分の裸の画像を撮られたわけですから、そういうことは親に言いにくい、しかも「どんな画像を撮られたんだ、見せなさい」と言われると思うと、ますます親には言えません。ですから、あらかじめ「あなたがリベンジポルノの被害に遭っても画像は見ないよ。だけどちゃんと被害の実態は教えてね」ということを言っておく。「画像は見ない」ということだけでも押さえておくと、子どもはぐっと相談をしやすい気分になってきます。
 次は地域に関してです。地域においてできることもいくつか考えられます。自民党がリベンジポルノに関しては、この秋(2014(平成26)年)の臨時国会で対策法案を提出すると予定していますけれども、そのような国の動き以外に、地域でもリベンジポルノにつながるような風潮を抑制していくことが必要です。今はネット上でアダルト画像やアダルト映像がたくさん見ることができるので、裸の画像を撮影し相手に見せるということに対して抵抗心がかなり下がってきています。つまり、性に対する畏怖の念がとても低くなってきているということがいえると思います。そのような意味では、誰でも簡単に性的なものを見ることができるという環境は、子どもにも何らかの影響を与えているのではないかと考えられます。例えばコンビニにおける成人雑誌の取り扱い、一応ゾーニングされていますが、表紙は見られます。また、電車の中吊りにおけるかなり卑わいなグラビアやキャッチコピー、あるいはネット広告や風俗の看板等。ある程度規制しているところもありますが、そういうものを地域の条例でもう少し何とかできないかと思います。例えば大阪の阪急電鉄は、性的な内容を含む中吊りは電車には載せないと表明しています。このように自分の地域でも自主規制できないかと考えるといいかと思います。
また、地域で男女共同参画を進めていくことも大切です。例えばPTAや自治会等、特にPTAの場合、参加者はほとんどお母さんなのですが、会長だけお父さんといった組織も多いので、自治会やPTAにおける役員の中での女性の割合を一定数決めておくということも必要かもしれません。最近では安倍政権が大企業に対し、女性管理職の割合の目標数値を設けようと言っていますが、これを地域でもできないかということです。それによって性別役割にとらわれない意識というものをはぐくんでいけるのではないかと思います。

 

 最後に児童ポルノについて少しご紹介をしていきたいと思います。今、ネットを使った児童ポルノの被害に巻き込まれる子どもが非常に増えています。
 SNSは、不特定多数の人とコミュニケーションが取れますのでTwitter、Facebook、あるいはLINEなどを使って誰かと知り合いになり、そこから被害に巻き込まれてしまうのです。児童ポルノというのは作成される過程で性犯罪が絡んできます。最近の警察庁のデータを見ても、小学生が児童ポルノに巻き込まれる場合は、だいたい強制わいせつや強姦被害に遭っています。無理やり裸にされたり性行為をされたりして、その様子を撮影されてしまうということです。
 子どもに対する性的な加害行為を行う人の8割以上が大人です。児童ポルノというと、「ネット上で出会いを求める子どもはけしからん」と世間では言われますが、実際に加害行為を行うのはほとんど成人であるということです。10代の女の子というのは年上の男性に惹かれる、大人にあこがれます。ですからこういう誘いが来ると、本当に軽い気持ちで乗ってしまうことがあるのです。しかし、加害者側は女の子に悪いことをしてやろうと考えて、睡眠薬や覚醒剤、あるいは手錠などを用意して会いに来る可能性もあるわけです。実際に、車に乗せられてホテルに連れていかれて児童ポルノの被害に遭う子どもが後を絶ちません。
 この背景には、大きく分けて3つの原因があります。まずネット上では書き込む人の年齢・性別・職業はいくらでも偽れるということです。例えば、ある中学生の女の子のSNSに、「私も同じ中学2年生の14歳だよ、仲良くなろうよ」というメッセージが送られてきたとします。「まあ、同世代だし、女同士だし、いっか」ということで、いろいろと情報を提供して仲よくなったところで、相手から「本名は? 学校はどこ? おうちはどこ?」と個人情報を聞き出されます。女の子は安心して本音をしゃべっているうちに、「じゃ、今度外で会おうよ」となって、やって来たのは58歳のおじさんだった。こういうことも実際に起きているわけです。このようにネット上では相手がどういう人物なのか身元がはっきりしません。簡単に信用はできないわけですが、子どもはわりと信じてしまいます。
 さらに子どもを狙う大人の手口が巧みであるという点が挙げられます。大人が狙いやすい子どもはどんな子どもだと思いますか? 悩みを抱えている子どもです。友達とうまくいっていない、家に居場所がない、親に怒鳴られている、いろいろな悩みがあります。そういう悩みをネット上に書き込むと、それを見た加害者が「じゃあ、僕が相談に乗ろう」「君の気持ちよく分かるよ」と、優しい言葉をかけて近づいて来ます。子どもはだまされやすく、ころっと心を開いてしまいます。あっという間にその人に依存してしまう、寄り掛かってしまう。このように、子どもの相談に乗るというテクニックを使って近づく加害者も多いのです。
 もう1つのテクニックとして「モデルにしてあげるよ」という誘い方があります。最近読者モデルがいろいろな雑誌でちやほやされているので、自分もモデルになれるかなという気持ちがあるわけです。そういうあこがれに付け込んで「モデルにしてあげるから今度うちの事務所においでよ、撮影会においでよ」と誘ってきます。すると子どもは「え、私も芸能界に入れるかも」と思って行ってしまう。そこではファッション撮影の予定が水着撮影になり、さらに水着を脱がされてしまうという自分の思っているモデルとは全然違うものになっていたというようなことになるわけです。
 3点目の背景として「メディアの性情報の歪み」があります。加害者が接するメディアの中では、子どもというのは例え小学生であっても、大人から性行為をされたいものなのだ、性行為をされたら喜ぶものなのだ、そういったメッセージを発信しているメディアがたくさんあります。18歳以上でしたら誰でも読めるマンガやアニメでこういうテーマがたくさん設定されています。すると加害者側としても罪悪感や後ろめたさが薄れてくるということがあります。
 では、このような実態に対してどのような対策が取れるのか。学校・家庭・地域の対策をみてみましょう。学校ではぜひ性情報に対するリテラシー教育を行っていただきたいと思います。子どもが大人の誘いに気軽に乗ってしまいやすい背景には、子どもが見るメディアの中で、「早く初体験を済ませなさい」、「年上の男性ともどんどん付き合った方がいい、その方が友達に自慢できる、かっこいいんだ」といったメッセージが流れているということがあります。ですから子どもの方でも、実際にはあまり気が進まなくても誘いに乗ってしまうこともあります。
 さらに、メディアが発信する性情報の中には子どもを性的に扱う、例えばグラビアなどで中学生や高校生の水着写真などをたくさん載せている雑誌もあります。そういう雑誌の中で子どもはちやほやされていますが、実はそれは子どもの性を悪用しているわけです。
 しかし、それを見る子どもたちは、「私もやっぱりもうちょっと肌を露出した方が、ミニスカートを履いた方が、男の人にもてるのかな? 自分の価値が高まるのかな?」と感じてしまう。しかし、実はそれはメディアによって搾取、コントロールされているのだ、大人の都合のいいように子どもが利用されているのだということは伝えた方がいいと思います。
 次は家庭です。児童ポルノに関して家庭で真剣に話し合うのは抵抗があるかもしれませんが、例えばテレビや新聞の記事を話題にして、加害者がどのように被害者に近づくのか、被害者のネットの使い方などをポイントに、被害を回避するにはどんな方法があるか、加害者のテクニックなどを子どもと話し合うということが必要だと思います。
 地域では、条例や自主規制を日本全国で行えるのではないかと思います。例えば大阪府の青少年健全育成条例においては、事業者と保護者に対して「ジュニアアイドル紙」や「着エロDVD」などを製造・販売しないという努力義務が科せられています。「着エロ」というのは「着衣のエロ」ということです。子どもたちが際どい水着などを着て性的なポーズを取っている、それを「着エロ」といいます。こういうものをつくらない、販売しないという努力義務を大阪府では制定しています。
 あるいは携帯電話の販売会社ができることもあります。例えば大人が携帯電話を契約するときに、青少年の健全育成条例に関するパンフレットを渡すだとか、青少年が被害に遭うと心身にどのような悪影響を及ぼすかといった情報提供を、携帯電話契約の時点でするのも一つですし、一般企業においてもそのような研修が可能だと思います。児童ポルノの加害者は普通の会社員が多いので、一般企業においてもやはり啓発が必要ではないかと思います。
 本日は「ネットの三大トラブル」ということでお話しをさせていただきました。最後にこの問題の総括ですが、ネットのトラブルから子どもを守るには大人も変わらなければいけないということです。ネットいじめに関しても、まず大人のいじめに対する意識が変わらなければ子どもは心を開きません。さらにリベンジポルノや児童ポルノに関しても、結局は大人が子どもを被害者にしてしまっているということです。子どもというのは判断力が未熟なわけですが、本来はそれを諭すべき大人が、逆に子どもの判断力の未熟さを悪用しています。大人の方がずる賢いので、自分は安全地帯にいて子どもに手を伸ばしているということがままあるわけです。そういった意味で、まず大人が変わること、大人への啓発がこの問題では一番重要なのではないかということをお話させていただきました。