人権に関するデータベース
研修講義資料
「男女共同参画は日本の希望」
- 著者
- 山田 昌弘
- 寄稿日(掲載日)
- 2016/03/10
女性の活躍というものが女性のためだけではなく、男性や企業や日本の社会のためにどのようにプラスになるかというお話しをしていきたいと思います。
【女性の活躍・後進国日本】
日本という国は経済、政治分野での女性の活躍、進出が大変遅れています。今日、ビルマの総選挙でアウンサン・スーチーさん率いる政党が勝利したというニュースもありますし、女性の大統領が韓国だけではなく、台湾でも誕生するかもしれないという状況になっています。しかし、日本は、首相はおろか大臣さえ少ない。たぶん民主的に議員を選ぶ国の中では女性議員の比率は最低だと思います。
経済界を見ても、例えばアメリカでは、女性の管理職比率はだいたい30~40%が当たり前ですが、日本を見てみると経済界で活躍する女性は本当に少ない。管理職比率10%、その中のかなりの部分が病院の看護師長なのです。民間企業だと女性管理職比率(課長職以上)は6%ぐらいしかありません。経営層にいたっては1%と世界最低レベルです。かつ日本は専業主婦率が高く、働く女性が増えたといっても非正規雇用で働く女性が増えただけで、いわゆるパート比率というものがとても高い上に、最近、若い女性の専業主婦指向が増えてきているというデータもあります。
【女性の活躍が進まないとー】
2012(平成24)年の世界経済フォーラムでは、135か国中101位。2015(平成27)年の最新のデータだと145か国中101位。2014(平成26)年の104位から少しあがったものの、依然として先進国中で最低水準でした。
【女性の活躍推進への誤解】
では、女性が活躍しないのは日本の伝統か といったらそんなことはないです。女性は家にいておとなしくしているのが日本の伝統だと言う人がいるかもしれませんが、全くそんなことはありません。
【女性の活躍は日本の伝統】
橋本治の『双調平家物語』を読んでみたところ、673年に壬申の乱で勝利した天武天皇が詔で、朝廷に仕えるものは適材適所となるように配されること。女子の出仕は未婚、既婚問わず、有夫であろうと寡婦であろうと、離別であろうが、その歳の上下を問わず、つまり年齢がいくつであろうが、女性は朝廷に出仕してよいといっています。
まあ、男性と同じように出仕するということではなかったろうと思いますけども、女性も国家公務員として雇われていたということです。その後も推古天皇や持統天皇が、実権を握って女性が政治を切り盛りするということが飛鳥・奈良時代にありましたし、平安時代は紫式部や枕草子が出てきて女流文学が盛んになりました。
歴史を紐解いてみると、クレオパトラが出た古代エジプトというのは男女ともに政治的に活躍しましたけれども、古代エジプトを除けば、これほど女性が政治の世界で活躍していた国はたぶん日本ぐらいしかないと思います。しかし、現代社会になると、とても遅れてしまっているということになるわけです。
【女性の活躍が遅れている→さまざまな社会問題が起きる】
そして今、日本社会で女性の活躍が遅れていることによって、様々な社会問題が起きていると考えられます。
まさに、日本の少子化というのは、女性が活躍できないことと大きく結びついているのです。さらに女性が活躍できないことによって日本経済や企業業績が低迷し、女性の生きにくさが広がり、男性へのプレッシャーがますます強まっています。
よく女性差別と言われますけども、データを見てみると男性のほうが辛いというデータも結構多い。たとえば生活満足度を見てみると確実に男性よりも女性の方が、満足度が高いのです。女性の方が平均寿命は長いし、自殺者率は男性の方が高い。つまり女性を活躍させないことによって、男性にプレッシャーがどんどんかかってしまって、その結果、男性に関わる問題もいろいろ起きているのだと推測されます。
【男女共同参画がより必要になった理由 大きな時代変化の中のジェンダー】
実は、戦前までは日本の女性はたくさん働いていました。戦前から戦後1950(昭和25)年ぐらいまでは農家が9割を占めていまし、都会では自営業の商店や小さい工場が多かったので女性がたくさん働いていたのです。
戦前までは自営業社会ですから、一家全員で働かないと生活が成り立たちませんでした。ですから、日本はわりと男女共同参画の実現した社会だったのです。もちろん政治的には女性の参加はありませんでしたが、少なくとも普通の人が普通に生活をしているところでは、男女が共に働く社会であった。しかし、戦後、社会が近代化されて工業社会になると、夫は仕事、妻は家で家事という形ができ上がります。「男は仕事、女は家事」は、日本の伝統だという人が多いのですけども、伝統ではなく、戦後、「男は仕事、女は家事」という考え方が普及したと考えた方が良いでしょう。
【工業社会の中でのジェンダー】
戦後から1990(平成2)年頃までは高度成長期だったため、男性の収入が、そこそこ、安定して上昇し続けました。そのような社会では、ほとんどの人々が結婚し、男性一人の収入で豊かな生活を築くことができました。
豊かな生活とは、住宅や家電製品を購入したり、子どもの教育に使ったりという経済的に豊かな生活です。
しかし、それは工業社会という特殊な時代だったから可能だったのです。つまり、男性は中卒でも高卒でも、学校を卒業さえすれば必ず正社員としての職があった。農家でも自営業でも保護されていました。男性一人の収入で家が買えて家電新製品が揃えられて子どもも学校にやることができた。つまり女性が経済的に活躍しなくても家族はなんとかなったのです。
このような条件の下で、「男は仕事、女は家事」という固定的性別役割分業が広まり、そういう社会ができあがっていったのです。
【経済・社会の構造転換】
しかし、1995(平成7)年頃から経済が大きく転換します。私は「ニューエコノミー」新しい経済という言葉を好んで使っています。これは、豊かな社会、IT産業化、サービス化、文化産業化、グローバル化により、経済・社会の基本的な部分が大きく変動し、産業の形態が大きく変わって、ポスト工業社会へと経済・社会の構造が転換していくことです。
工業社会までは物がない時代ですから、とにかくどんな物でもたくさん同じ物を作ればそのまま売れました。つまり家庭から男性を引き離して朝から晩まで働かせて、物をたくさん作って売りさばく、余った物は海外に輸出する。こうしていけばどの企業も成り立ったのです。1990(平成2)年頃までは成り立ったのですが、だんだんそれでは儲からなくなってきました。グローバル化、サービス化が日本の経済のあり方を大きく変えたためです。
【新しい経済 先進国共通の悩み】
アメリカやイギリスでは1980年代、ヨーロッパでは1990年代ぐらいから新しい経済に大きく変わっていきましたが、日本はあまりにも上手く工業社会に適応していたため、なかなか次の時代への転換ができませんでした。しかし、それでもグローバル化の影響は避けられず、工場は海外に移転し、さらにサービス業は大都市部に移転することになっていきました。
今はオートメーション化が進んで、いわゆる熟練工員があまり要らなくなってきました。人間は、出てきた製品をテスター検品するだけという時代です。太陽電池パネル工場でも基本は全部機械が作って人間がやることといえばキズがないかどうかを確かめるだけ。そのような仕事に正社員を雇う必要はないですから、非正規雇用の人がどんどん増えていくのです。
これは別に日本だけではありません。先進国は経済成長力がどんどん低下しています。今は中国やベトナムなどが右肩上がりで成長していますけども、そろそろ中国も成長に陰りがみえ始めましたし、欧米先進国はすべからく少子高齢化に悩んでいます。さらに欧米でも日本でも雇用の流動化が進んで、なかなか家族を作れなくなっています。
つまり、工業社会では当たり前だった、全ての男性の雇用や収入が安定しているという時代ではなくなって、正規社員と非正規雇用との割合だと非正規雇用の割合がどんどん増えています。とうとう日本でも非正規雇用率が40%になりました。
しかし、これは日本に固有のことではありません。欧米ではパートタイムや雇用の不安定化は日本よりも進んでいます。アメリカでもヨーロッパでも工業が衰退してサービス業が中心になってくる中で、女性の活躍が求められる社会になったのです。
【女性を活躍させないと 経済・社会・家族がもたない】
これから、女性を活躍させないとなぜ経済、社会、家族がもたないかということについて順に説明します。
財政赤字が出る、労働力は不足する、少子高齢化に対応できなくなる、内需は縮小して(経済不振)マクロ経済社会に大きな影響を及ぼしますし、さらに、日本企業の成長が低下しているためにだんだん競争力が落ちているということも一つです。
私は家族社会学が専門ですので、家族の分野でお話しします。
このまま結婚しない人が増え、子どもが少なくなってくると、ますます少子高齢社会が加速化します。今でも介護、看護、医療等で労働力が不足していますけれど、将来の労働力不足は目に見えています。つまり、女性が経済的に活躍しないと、経済、財政がもたないのです。そして家庭生活が苦しくなる。
20年前に比べてサラリーマンの男性の小遣いは半減しています。妻が正社員として勤めている夫の小遣いはそれほど減っていないのですが、妻が非正規社員や専業主婦の場合、男性が一人で家計を支えなければならないため、男性であることのプレッシャーがますます大きくなってくるのです。
【少子高齢社会 対応に女性の活躍が必要】
OECDの男女の就業率ギャップ指数というものがあります。これは、男性が女性よりもどれくらいの割合で多く働いているかという指数です。この数字が大きいと女性よりも男性の方が多く働いていることになります。
2009(平成21)年のものですが、先進国で数字の大きい方から見るとイタリア、韓国、ギリシャ、日本、アイルランド、スペインという順に並んでいます。この前ギリシャは経済が破綻しましたし、イタリアは破綻寸前、韓国は10年前に破綻し、日本も財政赤字がGNPの何倍にもなっています。アイルランド、スペインも財政が苦しい。つまり、女性が働いていない国ほど財政が厳しいのです。ギリシャは専業主婦率も高い上に高齢者の就業率がとても低い。日本は女性の就業率は先進国に比べれば低いですけれども、その代わり世界一の高齢者雇用率を誇っていますので、その分まだましなのです。
働く人が少なければ、税金を納める人が少なくなるわけですから、財政赤字が広がるのも当然で、女性が働かない国は財政赤字がどんどん拡大するのに対して、女性がたくさん働いている国は財政の健全な国が多いわけです。
【女性の活躍が経済活性化の鍵】
企業も、女性が活躍している企業ほど利益が伸びているというデータがいろいろな所から出てきています。工業社会(貧しい中から豊かになっていく社会)というのは、テレビも自動車も無いのですから作れば売れました。
しかし、今の時代、人に物を買わせるのはなかなか大変です。特に最近の若い人は豊かな中で育っていますから、付加価値のある商品しか売れなくなっていまます。
そして、いろいろな対人サービス業が発展してきます。人は、物を買うことに喜びを見出すのではなく、自分のほしいサービスを手に入れて喜ぶ社会になって来たのです。つまり今まで通りのことを今まで通りの形で売るのではなかなか儲からない時代になって来たということです。
【企業にダイバーシティが必要なわけ】
京都にも、外国の人が大量に来ていますよね。外国人に対するサービスなども提供して行かないと観光産業も成り立たない。日本人だけを相手にしていたのでは生き残れません。
30年位前までは、温泉地観光といったら団体客を招いて夜は宴会をしておしまい、という感じでしたけれど、今は、女性客や、高齢者の客や、外国人客に対して、様々なサービスを取り揃えなくては成り立たない時代になってきました。
つまり、企業にも付加価値のついた商品の開発や、対人サービスに秀でた人材が必要になってきているということです。その際にコミュニケーション能力だとか相手が望むものを察する能力というものが重要になってきます。これまでのように、男性だけでやっていくということでは難しくなり、多様な人材が企業に必要になっています。
特に、どのようにしたら気持ちよく物を買ってくれるのか、使ってもらえるのかといったことを考えるのはどうも女性の方が得意らしいです。
【少子化対策としての男女共同参画】
女性がたくさん働いている国は少子化対策にそれなりに成功しています。先程言ったように日本、韓国、イタリア、スペイン、ギリシャは、超低出生率国で、女性の労働力率もみな低い。労働力率が低いということは専業主婦率が高いということです。
一方、アメリカ、イギリス、フランスなどは、女性は働くし子どもの数も復活しています。
男性一人の収入では豊かな生活は不可能になってきているので、日本、韓国、イタリア、スペイン、ギリシャなどは、結婚していない人は親と同居する人が多いです。私が20年ぐらい前に「パラサイトシングル」という言葉を考えましたが、まさしく親と同居している「パラサイトシングル」が多い社会です。つまり収入が低くても親と同居していれば生活ができるので、特に女性は収入の高い男性に出会うまで親と同居するようになる。これが問題なわけです。
【性別役割分業家族の限界】
つまり、「男は仕事、女は家事」という家で子どもを育てながら経済的に豊かな生活を送るためには、男性の収入が相当なければいけません。しかし、現実には男性が非正規社員化しているため、妻子を養うだけの収入が得られません。一方では正社員でも収入がなかなか伸びないという男性が結構います。
ですから、女性は結婚しないで親元で高所得の男性を待ち続けることになる。たとえ結婚しても夫だけのお給料では子どもを何人も大学へ行かせることはできないから、子どもの数を少なくする。こうなると、女性にとっては、下手に結婚するよりも親と同居していた方がずっといい生活ができるわけです。
【壮年未婚者の推移】
今増えているのは中高年の未婚者です。いわゆる35歳~44歳までの人で親と同居している独身者です。70歳の母親と40歳の息子が同居しているという母子家庭が大量に増えています。「中年パラサイトシングル」の子ども達は経済状況が良くないので親の年金に頼って生活している状況です。この先、親が亡くなってから生活ができなくなるという人たちがたくさんでてくると思います。
現在、日本全国で35歳から44歳までの人で、親との同居未婚者は305万人います。35歳から44歳の年代の17%が親と同居している独身者です。
以上のことからも、「男は仕事、女は家艇」という形はもう限界にきているということがお分かりいただけたかと思います。それができる人と、できない人に2分化している。男性だけの収入では経済的に豊かな生活を維持できない家が多いため、子どもを育てる経済基盤が全体として下がっています。
正社員の結婚率は高いのですが、非正規雇用の男性の結婚率はとても低い。男性は収入が高くならないので、結婚を諦め、代わりに2次元アニメだとかゲームといったものにはまっていく。一方女性は収入が高い男性といつか出会えるのではないかと思いながら待つのですけども現れない。
また、出来ちゃった結婚等で結婚してしまった人達は収入が低い中で子どもを育てるため、なかなか希望が持てなくて、子どもの貧困率も増えていく。昔の児童虐待と今の児童虐待は大きな違いがあります。昔の児童虐待は、専業主婦が子どもと母子密着状態になってしまって、ついつい虐待してしまったというケースが多かったのですが、今の児童虐待は、両親とも非正規社員で、収入がほとんど無い中での虐待です。昨年のデータで年間8万9千件発生しているのです。
【結婚相手に望む年収と現実の未婚男性の年収の比較】
これは、結婚相手に望む年収を聞いたものです、男性は女性に対してそんなに年収が高くなくてもこだわらないという人が6割ですけれども、女性で相手の年収にはこだわらないという人はわずか20%。200万円未満も0.4%。200万円以上あればいいという人は11.7%。
女性の場合、結婚相手に望む年収は、400万円以上という人が一番多くて34.5%、600万円以上22.4%、800万円以上7.1%、1,000万円以上2.2%、1,200万円以上1.7%。
その下のグラフは、現実の未婚男性の年収です。20歳から39歳までの独身者に限ると、なんと年収200万円未満が38.6%、200万円以上36%、400万円未満が36.3%、400万円以上稼ぐ未婚男性の数は4人に1人しかいません。しかし、400万円以上でないとダメだと言っている女性は3分の2以上いるのですね。これだと結婚がなかなか成立しません。
【男女とも未婚の非正規雇用者が増大】
次は正社員率です。1992(平成4)年は、25歳から30歳までの未婚男性の正社員率は、8割を超えていました。それが2010(平成22)年の段階で未婚男性の正規社員率は6割を切ってしまいました。
では、女性が養えばいいのかといったら、女性だって非正規社員はもっともっと増えています。非正規社員の女性と非正規社員の男性が生活したらそれは大変ですよね。
これからは、家族が全くいない一人暮らしの高齢者がどんどん増えていきます。今、孤立死は年間3万人ぐらいになっていますが、今の若い人達が、20年後、30年後になって亡くなる時に遺体の引き取り手がいない人が、2030(平成32)年段階で30万人ぐらいになっている。今の十倍にはなっているはずです。
【正規共働き家族は消費も活発】
正社員の共働き同士というのはすごく豊かです。しかし、妻がパートや専業主婦だと年収は落ちます。夫が正社員でないともっと落ちるというデータがでています。やはり、正規社員同士で共働きをしている人はたくさん消費をします。
アメリカや香港やシンガポールは、日本よりもずっとずっと経済的に豊かな生活をしています。
中国だって北京や上海の普通の家庭にいけば、夫婦二人で共働きをして稼いでいるから消費が旺盛で経済がどんどん回っていくわけです。被服、交通、食糧、娯楽、その他、正社員同士で共働きしている家族が多く出費する。税金や社会保険料だってたくさん払っています。
それに比べ、日本では夫婦共働きは少数派。2009(平成21)年の段階で夫婦とも正社員であるような共働き家庭は14.3%しかありませんでした。妻がパートは30.5%、専業主婦が41.4%という割合です。
年齢別に見ると、若い夫婦であるほど共働きが多いと思うかもしれませんが現実は逆です。若い夫婦は専業主婦が多い。若くして結婚生活するほど専業主婦家庭が多くなっています。
妻のパート化も影響しています。つまり、女性が正社員であれば育児休業も取れますが女性がパートだった場合、子どもを産んだら、即クビですから自動的に専業主婦になってしまうのです。もちろん進んで専業主婦になりたいという人もいますが、専業主婦にならざるを得なかったという人が実は多いのです。
【サラリーマンの小遣い額 激減】
小遣い調査でいいますと、1991(平成3)年、何と今から24年前はサラリーマンの平均小遣いは、76,000円でした。それが、バブルの崩壊した2013(平成25)年が38,457円。これを学生に示したところ、お父さんの平均小遣いは、私の小遣いよりも少ないと言っていました。
妻が正規雇用の人の男性の小遣いは結構多いですが、妻が正社員ではない男性の小遣いは少ないですから、女性が正社員としてバリバリ働くことは小遣い増大という点でも男性にとってはプラスなのです。
【選べない働き方の是正が必要】
しかし、専業主婦の妻がいる男性を標準とした労働慣行が、なかなか是正されていません。まだまだ、正社員は新卒一括採用で年功序列、つまり一旦止めてしまうとキャリアが中断されてしまって、正社員にはなかなか戻れません。もちろん男性もそうですけれども、特に女性は結婚・出産でキャリアが中断してしまうことが多いのでなかなか正社員には戻れないのです。
男性の中にも、「報われないのだったら、仕事を止めた方がいい」といって、自ら中断してしまう人も多くなってきました。
さらに社会保障も正社員男性と専業主婦のカップルを標準とする社会保障制度がまだ生きています。つまり、日本の女性は、正社員男性と結婚しなかったら、社会保障も、健康保険も自分で払わないといけない仕組みになっているのです。
結婚するのであれば正社員でないと結婚したくない。収入が高い男性といつかは出会いたいという女性が増えてくるのは、当然ですよね。
【まだまだ残る女性差別慣行】
ある地方で、親70歳、本人30歳後半の女性にインタビューしたところ、不況で会社をリストラされたときに、「あんたは女で親と一緒に住んでいるのだからいいだろ」と言われたという人がいました。
女性のやる気をそぐ、努力しても報われない、というような状況がまだまだ企業には残っています。
また、昔に比べて若い正社員の労働時間はどんどん長くなっています。
パートや契約社員が増えたので総労働時間はそれほど変わっていないのですけども、先進国の中で女性の長時間労働者が最も多いのは日本です。「それが嫌だったら、非正規雇用になれば?」といわれても、非正規雇用ではやはりやり甲斐がないわけですね。
【雇用慣行の是正が必要】
それでは、どのようにすれば良いのでしょうか。
まず、雇用慣行の是正が必要です。また、社会保障制度の見直しも必要です。
日本の社会は、新卒一括採用、年功序列ですから、同じ会社に長く勤めた方が有利で、中途採用の人は大変不利になってしまう。
妊娠した女性の中で、育児休業を取れるのは正社員だけで、非正規社員の人は妊娠した途端に解雇ですよね。
このような雇用慣行を是正し、新卒以外の正規採用を増やすなどの対策をとる必要があります。正規社員と非正規社員の格差が残る限り、また、男性も女性も正社員になれない限り、不利になる人が多くなる。そして、だんだんと専業主婦指向が増えてきます。
よく、男性から「女性は選択肢があっていいなあ」といわれますが、選択肢があったからといって、職場に希望を求めて正社員を続けると、長時間労働だし、子どもも持ちにくいし、差別もある。非正規社員になると一生懸命やっても報われない。専業主婦になろうと思っても、そもそも専業主婦を養えるほどの男性は少ないからなかなか結婚できない。収入の不安定な男性と結婚したら生活は困難になるし、離婚も増加している。このまま親と同居していても親が亡くなった時にいろいろな困難が顕在化してくる。ですから、今、貧困女性がどんどん増えているのです。
では、能力のある女性はどうするのか。みんな海外に行くのですよね。
私は、去年一年間香港にいて、国際結婚している女性や、一人で日本から香港やシンガポールに働きに来ている女性をインタビュー調査しましたけれども、「ここでは伸び伸び働ける」、「5時、6時には仕事を終えてレジャーができる」という人がたくさんいました。
外国人によって成り立っている国ですから英語ができて、仕事さえできればどんどん昇進できるし、結婚している人はベビーシッターが月5万円で雇えますから、子どもを何人産んでも大丈夫。というわけで、妻が日本人、夫が外国人というカップルが増えています。ちなみに、夫が日本人、妻が外国人のカップルは減少しているらしいです。
今、優秀な女性はどんどん海外に行っています。女性は、日本ではなく外国で活躍する時代になってしまいました。
ですから、日本はこのままだとなかなか発展しません。女性の活躍を進めることが日本経済、社会を発展させる前提条件なのです。
クリントン元大統領の演説に次のことばがあります。
過去(yesterday)は過去、過去を追い求めると未来(tomorrow)を失う
ただ、未来が明るいとは限らないから、過去にしがみつきたくなる
「過去を追い求めると未来を失いますよ」ということです。私たちは、ちょっと景気がよくなると昔に戻れるのではないかと思うのですけれども、そうやっていると未来を失いますよと。
未来が明るいとは限らないから過去にしがみつきたくなるのも人情です。しかし、未来の日本を築くために女性の活躍を一層推進しなくてはいけないと思います。