第4回世界女性会議 北京宣言
1 我々,第4回世界女性会議に参加した政府は,
2 国際連合創設50周年に当たる1995年9月,ここ北京に集い,
3 全人類のためにあらゆる場所のすべての女性の平等,開発及び平和の目標を推進することを決意し,
4 あらゆる場所のすべての女性の声を受けとめ,かつ女性たち及びその役割と環境の多様性に留意し,道を切り開いた女性を讃え,世界の若者の期待に啓発され,
5 女性の地位は過去十年間にいくつかの重要な点で進歩したが,その進歩は不均衡で,女性と男性の間の不平等は依然として存在し,主要な障害が残っており,すべての人々の安寧に深刻な結果をもたらしていることを認識し,
6 また,この状況は,国内及び国際双方の領域に起因し,世界の人々の大多数,特に女性と子どもの生活に影響を与えている貧困の増大によって悪化していることを認識し,
7 無条件で,これらの制約及び障害に取り組み,世界中の女性の地位の向上とエンパワーメント(力をつけること)を更に進めることに献身し,また,これには,現在及び次の世紀へ向かって我々が前進するため,決意,希望,協力及び連帯の精神による緊急の行動を必要とすることに合意する。
我々は,以下のことについての我々の誓約(コミットメント)を再確認する。
8 国際連合憲章に謳われている女性及び男性の平等な権利及び本来的な人間の尊厳並びにその他の目的及び原則,世界人権宣言その他の国際人権文書,殊に「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」及び「児童の権利に関する条約」並びに「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」及び「開発の権利に関する宣言」。
9 あらゆる人権及び基本的自由の不可侵,不可欠かつ不可分な部分として,女性及び女児の人権の完全な実施を保障すること。
10 平等,開発及び平和の達成を目的とするこれまでの国際連合の会議及びサミット ― 1985年のナイロビにおける女性に関するもの,1990年のニュー・ヨークにおける児童に関するもの,1993年のウィーンにおける人権に関するもの,1994年のカイロにおける人口と開発に関するもの,及び1995年のコペンハーゲンにおける社会開発に関するもの ― でなされた合意と進展に基礎を置くこと。
11 「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」の完全かつ効果的な実施を達成すること。
12 思想,良心,宗教及び信念の自由に対する権利を含む女性のエンパワーメント及び地位向上,したがって,女性及び男性の個人的又は他の人々との共同体における,道徳的,倫理的,精神的及び知的なニーズに寄与し,それによって,彼らに,その完全な潜在能力を社会において発揮し,自らの願望に従って人生を定める可能性を保障すること。
我々は,以下のことを確信する。
13 女性のエンパワーメント及び意思決定の過程への参加と権力へのアクセス(参入)を含む,社会のあらゆる分野への平等を基礎にした完全な参加は,平等,開発及び平和の達成に対する基本である。
14 女性の権利は人権である。
15 男性と女性による平等な権利,機会及び資源へのアクセス,家族的責任の公平な分担及び彼らの間の調和のとれたパートナーシップ(提携)が,彼ら及びその家族の安寧並びに民主主義の強化にとってきわめて重要である。
16 持続する経済発展,社会開発,環境保護及び社会正義に基づく貧困の根絶は,経済社会開発への女性の関与及び平等な機会並びに人間中心の持続可能な開発の行為者及び受益者双方としての女性及び男性の完全かつ平等な参加を必要とする。
17 すべての女性の健康のあらゆる側面,殊に自らの出産数を管理する権利を明確に認め再確認することは,女性のエンパワーメントの基本である。
18 地方,国,地域及び世界の平和は達成可能であり,あらゆるレベルにおける指導性,紛争解決及び永続的な平和の促進のための主要な勢力である女性の地位向上と,固く結びついている。
19 あらゆるレベルにおいて,女性のエンパワーメント及び地位向上を促進するであろう効果的,効率的,かつ相互に補強しあうジェンダー(社会的,文化的性差)に敏感な開発政策及びプログラムを含む政策及び計画を,女性の完全な参加を得て,立案,実施,監視することが必須である。
20 市民社会のあらゆる行為者,殊に女性のグループ及びネットワークその他の非政府機関(NGO)並びに地域に基礎を置く団体が,それらの自治を十分に尊重した上で,政府との協力に参加し寄与することは,行動綱領の効果的な実施及びフォローアップにとって重要である。
21 行動綱領の実施には,政府及び国際社会のコミットメント(関与)が必要である。世界会議で行われたものを含め,行動のための国内的及び国際的なコミットメント(誓約)を行うことにより,政府及び国際社会は女性のエンパワーメント及び地位向上のための優先的な行動を取る必要性を認める。
我々は,以下のことを決意する。
22 「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」の目標を今世紀末までに達成するための努力及び行動を強化する。
23 女性及び女児がすべての人権及び基本的自由を完全に享受することを保障し,これらの権利及び自由の侵害に対し効果的な行動を取る。
24 女性及び女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃するために必要なあらゆる措置をとり,男女平等と女性の地位向上及びエンパワーメントに対するあらゆる障害を除去する。
25 男性に対し,平等に向けてのあらゆる行動に完全に参加するよう奨励する。
26 雇用を含め女性の経済的自立を促進し,経済構造の変革による貧困の構造的な原因に取り組み,開発の重要な行為者として,農村地域における者を含めあらゆる女性の生産資源,機会及び公共サービスへの平等なアクセスを保障する。
27 女児及び女性のために基礎教育,生涯教育,識字及び訓練,並びに基礎的保健医療(プライマリー・ヘルスケア)の提供を通じて,持続する経済成長を含め,人間中心の持続可能な開発を促進する。
28 女性の地位向上のための平和を確保する積極的な手段を講じ,平和運動において女性が果たしてきた主要な役割を認識しつつ,厳正かつ効果的な国際的管理の下に,全面的かつ完全な軍備縮小に向けて積極的に働き,あらゆる側面から核軍縮及び核兵器の拡散防止に寄与する普遍的かつ多国間で効果的に実証し得る包括的核実験禁止条約の締結に関する交渉を遅滞無く支援する。
29 女性及び少女に対するあらゆる形態の暴力を阻止し,撤廃する。
30 女性及び男性の教育及び保健への平等なアクセス及び平等な取扱いを保障し,教育を始め女性のリプロダクティブ・ヘルスを促進する。
31 女性及び少女のあらゆる人権を促進し,保護する。
32 人種,年齢,言語,民族,文化,宗教,障害のような要因の故に,あるいは先住民であるために,エンパワーメント及び地位向上に対する多様な障害に直面しているすべての女性及び少女のあらゆる人権及び基本的自由の平等な享受を保障するための努力を強化する。
33 殊に女性及び少女を保護するため,人道法を含む国際法の尊重を保障する。
34 あらゆる年齢の少女及び女性の潜在能力を最大限に開発し,すべての人々のためより良い世界を構築するため彼らが完全かつ平等に参加することを保障し,開発の過程における彼らの役割を促進する。
我々は,以下のことを決意する。
35 女性及び少女の地位向上及びエンパワーメントを促進する手段として,なかでも国際協力を通じて,土地,信用保証,科学技術,職業訓練,情報,通信及び市場を含む経済的資源への平等なアクセスの恩恵を享受する能力を高めることを含め,女性の経済的資源への平等なアクセスを確保する。
36 政府,国際機関及びあらゆるレベルの団体の強力なコミットメント(関与)を必要とするであろう行動綱領の成功を確保する。我々は,経済開発,社会開発及び環境保護は,相互に依存し,持続可能な開発の相互に強め合う構成要素であり,それは,あらゆる人々のためにより良い生活の質を達成するための我々の努力の枠組みであることを深く確信する。環境資源を持続的に活用するために,貧しい人々,殊に貧困の中に暮らす女性の能力を高めることを認める公平な社会開発は,持続可能な開発に対する必要な基盤である。我々は,また,持続可能な開発に関連する基盤の広い,持続する経済成長は,社会開発と社会正義を維持するために必要であることを認識する。行動綱領の成功には,また,国内及び国際レベルでの資源並びに女性の地位向上のための多国間,二国間及び民間の財源を含む入手可能なあらゆる資金提供の仕組みからの開発途上国に対する新規かつ追加的資源の十分な動員,国内,小地域,地域及び国際機関の能力を強化するための財政的資源,平等な権利,平等な責任及び平等な機会への,また,あらゆる国内,地域及び国際機関及び政策決定過程における女性及び男性の平等な参加へのコミットメント(関与),世界の女性に対する責任のために,あらゆるレベルにおける仕組みの創設又は強化を必要とするであろう。
37 また,移行期経済の諸国における行動綱領の成功を確保し,そのために引き続き国際協力及び援助を必要とするであろう。
38 我々は,ここに,以下の行動綱領を採択し,政府としてこれを実施することに責任を負うとともに,我々のあらゆる政策及び計画にジェンダーの視点が反映されるよう保障する。我々は,国際連合システム,地域及び国際金融機関,その他関連の地域及び国際機関並びにあらゆる女性及び男性のみならず非政府機関に対し,また,市民社会のあらゆる部門に対し,それらの自主性を十分尊重した上で,政府と協力して行動綱領の実施に対し,十分に責任を負い,この行動綱領の実施に寄与することを強く要請する。
行動綱領
第Ⅰ章 使命の声明
1. この「行動綱領」は,女性のエンパワーメント(力をつけること)に関するアジェンダ(予定表)である。これは,「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」(注1)の実施と経済的,社会的,文化的及び政治的意思決定の完全かつ平等な分担を通じて,公的及び私的生活のすべての分野への女性の積極的な参加に対するあらゆる障害の除去を促進することを目的とする。これはまた,家庭,職場及び広くは国家社会及び国際社会における女性と男性の権力及び責任の分担の原則を打ち立てることである。女性と男性の平等は,人権の問題であり,社会正義への条件であり,また,平等,開発及び平和への必要かつ基本的な前提条件である。女性と男性の平等に基づく変容したパートナーシップが,人間中心の持続可能な発展の条件である。21世紀の挑戦に対処するべく,女性と男性が自らのため,その子どもたちのため及び社会のために共に働くことができるようにするためには,継続的かつ長期的なコミットメント(関与)が必須である。
2. 行動綱領は,「世界人権会議」で採択された「ウィーン宣言及び行動計画」(注2)に述べられている,女性及び女児の人権は普遍的人権の不可侵,不可欠かつ不可分な部分である,という基本原則を再確認する。行動へのアジェンダとして,行動綱領は,あらゆる女性の,そのすべてのライフサイクル(生涯)を通じての,あらゆる人権と基本的自由の完全な享受を促進し,保護することを追求する。
3. 行動綱領は,世界中の男女(ジェンダー)の平等という共通の目標に向けて男性と共に連携して働くことによってのみ取り組むことができる共通の関心事を女性は分かち持っていることを強調する。行動綱領は女性の状況及び条件の多様性を全面的に尊重し評価するとともに,そのエンパワーメントを阻む特別の障害に直面している女性たちもいることを認識する。
4. 行動綱領は,あらゆる年齢及びあらゆる職業の,あらゆる人々の平等の原則を含む,人権と基本的自由に基づく,平和で公正で人間的な世界の創造のために,すべての人々による早急の,かつ一致した行動を必要としており,また,この目的に向けて,社会開発及び社会正義の維持のために,持続可能な開発の枠組みの中での,基盤の広いかつ持続的な経済成長が必要であることを認識する。
5. 行動綱領の成功には,政府,国際機関及びあらゆるレベルの機関の強力なコミットメントが必要となろう。また,国内及び国際レベルにおける資源並びに女性の地位向上のための多国間,二国間及び民間の財源を含む利用可能なあらゆる資金提供機構からの開発途上国に対する新規かつ追加的資源の十分な動員,国内,小地域,地域及び国際機関の能力を強化するための財政的資源,さらに,平等な権利,平等な責任及び平等な機会への,また,あらゆる国内,地域及び国際機関並びに政策決定過程への女性及び男性の平等な参加へのコミットメント及び世界の女性に対する責任のための,あらゆるレベルにおける仕組みの創設若しくは強化を必要とするであろう。
第Ⅱ章 世界的枠組み
6. 「第4回世界女性会議」は,世界が新世紀を迎えようとする時期に開催される。
7. この行動綱領は,経済社会理事会及び総会によって採択された関連決議とともに,「女子に対するあらゆる差別の撤廃に関する条約」(注3)を支持し,「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」を基盤としている。行動綱領の策定は,今後5年間に実行されるべき一群の基本的な優先行動の樹立を目指している。
8. 行動綱領は,持続可能な開発と国際協力を促進し,その目的に向けて国連の役割を強化するための特別なアプローチとコミットメントを述べた「世界子どもサミット」「国連環境開発会議」「世界人権会議」「国際人口・開発会議」及び「社会開発サミット」において到達した合意の重要性を支持する。同様に,「小島しょ開発途上国の持続可能な開発に関する地球会議」「国際栄養会議」「プライマリー・ヘルスケアに関する国際会議」及び「万人のための教育に関する世界会議」は,それぞれ特定の展望の中で,女性及び少女の役割に対し重要な関心を払いつつ,開発及び人権のさまざまな面に取り組んできた。さらに,「世界の先住民のための国際年」(注4)「国際家族年」(注5)「国際寛容年」(注6)「農村女性のためのジュネーブ宣言」(注7)及び「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」(注8)もまた,女性のエンパワーメントと平等の問題を強調している。
9. 「国際連合憲章」の目的と原則及び国際法に全面的に合致する行動綱領の目標は,すべての女性のエンパワーメントである。女性のエンパワーメントのためには,すべての女性のあらゆる人権及び基本的自由の完全な実現が不可欠である。国,地域の特殊性及び種々の歴史的,文化的及び宗教的背景の重要性は考慮されなければならないが,すべての人権及び基本的自由の促進及び保護は,その政治的,経済的及び文化的制度の如何を問わず,国家の義務である(注9)。あらゆる人権及び基本的自由に従って,国内法並びに戦略,政策,プログラム及び優先開発事項の策定を通じるなどを含む,この行動綱領の実施は,各々の国家の至上の責任であり,個人及びその属する地域社会の様々な宗教的・倫理的価値観,文化的背景及び哲学的信念の重要性並びにそれらの全面的な尊重は,平等,開発及び平和を達成するための,女性の人権の完全な享受に資するものでなければならない。
10. 1985年にナイロビにおいて開催された「『国連婦人の10年:平等,開発,平和』の見直しと評価のための世界会議」及び「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」の採択以来,世界は激しい政治的,経済的,社会的及び文化的変化を経験しており,それらは女性に正負双方の影響を及ぼしてきた。「世界人権会議」は,女性及び女児の人権が,普遍的な人権の不可侵にして不可欠かつ不可分の一部であることを認めた。国内,地域及び国際レベルにおける政治的,市民的,経済的,社会的及び文化的生活への女性の完全かつ平等な参加と性別に基づくあらゆる形態の差別の撤廃は,国際社会の優先目標である。「世界人権会議」は,「国際連合憲章」その他の人権関連文書及び国際法に従って,万人のためのあらゆる人権及び基本的自由の普遍的な尊重,遵守及び保護を促進する自らの義務を果たすべき,すべての国の厳粛なコミットメントを再確認した。これらの権利及び自由の普遍性には,疑問の余地がない。
11. 冷戦の終結は国際的な諸変化をもたらし,超大国間の競争を減少させた。世界的規模の武力紛争の脅威が減少し,国際関係が改善して国家間の平和への展望が増してきている。しかし世界的規模の紛争の脅威は減ったものの,侵略戦争,武力紛争,植民地化又はその他の形態の外国による支配及び占領,内戦及びテロリズムが依然として世界の多くの地域を苦しめている。特に武力紛争の際には,女性の人権に対する重大な侵害が発生し,とりわけ民族浄化政策の下では,殺人,拷問,組織的なレイプ,強制的な妊娠及び強制的な中絶まで起こる。
12. 侵略及び民族浄化政策の防止や武力紛争の解決とともに,世界,地域及び地方レベルにおける平和と安全の維持が,女性及び女児の人権の保護並びに彼らに対するあらゆる形態の暴力及びそれを戦争の武器として使う行為の撤廃にとってきわめて重要である。
13. 世界的な軍事支出及び武器貿易又は売買を含む過度な軍事支出,並びに武器の生産及び取得への投資が,社会開発のために利用できる資源を減少させてきた。債務負担その他の経済的困難の結果,多くの開発途上国が構造調整政策に着手した。しかも,計画及び実施の方法がまずく,その結果,社会開発に有害な影響をもたらした構造調整計画もある。ほとんどの開発途上国,とりわけ重い債務を抱えた国々では,貧困の中で暮らす人々の数がこの十年の間に際立って増加してきた。
14. このような情況においては,開発の社会的次元が強調されるべきである。拍車のかかった経済成長は社会開発のために必要ではあるが,それだけで国民生活の質を向上させるものではない。社会的な不平等や疎外を深刻化しかねない状況も,場合によっては起こり得る。したがって,成長,女性と男性の平等,社会正義,環境の保全及び保護,持続可能性,連帯,参加,平和及び人権尊重など開発のあらゆる側面に及ぶ包括的なアプローチに基づいた,社会のすべての構成員が経済成長から利益を受けることを保障する新しい代替策の模索が不可欠である。
15. 民主化への世界的な動きが多くの国の政治過程を開かれたものにしてきたが,中枢的な意思決定,とりわけ政治に女性が男性の完全かつ平等なパートナーとしてあまねく参加するという点は未だに達成されていない。南アフリカの制度化した人種差別政策 ― アパルトヘイト ― は撤廃され,平和的かつ民主的な権力の移行が起こった。中部及び東ヨーロッパでは,議会制民主主義への移行は迅速で,各国固有の事情によって様々に異なる経験をもたらした。多くは平和な移行だったが,いくつかの国々では,重大な人権侵害をもたらす武力紛争によって,この過程が妨げられてきた。
16. いくつかの地域の政治的な不安定とともに,広範な経済不況が,多くの国々の開発の目標を後退させる原因になってきた。これは,言語に絶する貧困の拡大をもたらした。極端な貧困の中で暮らす10億人余りのうち,女性が圧倒的多数を占めている。あらゆる部門における急速な変化と調整の過程もまた,女性への特別な影響を伴う失業及び不完全就業の増加に導く結果になった。多くの場合,構造調整計画は,弱く不利な立場のグループや女性に対するマイナス影響を最小に抑えるように計画されてきてもいなければ,経済及び社会活動からの彼らの疎外を防止することによって彼らに対する積極的な効果を保障するように計画されてきてもいない。多角的貿易交渉のウルグアイ・ラウンドの最終議定書(注10)は,貿易自由化と開かれた活動的な市場へのアクセスの重要性とともに国家経済間の相互依存が増大しつつある点を強調した。いくつかの地域では,多額の軍事支出も見られた。いくつかの国の政府開発援助(ODA)は増加したものの,全体としては,最近,これは減少してきている。
17. 絶対的貧困と貧困の女性化,失業,次第に脆さを増す環境,継続的な女性への暴力及び広く権力や政治の制度から人類の半分を締め出している現状は,開発,平和及び安全の追求と人間中心の持続可能な開発を確保する方法の追求を継続する必要性を強調する。そのような追求の成功には,人類の半分である女性の参加と指導力が不可欠である。したがって,協調の精神に基づく政府間及び国民間の新時代の国際協力,公平な社会的・経済的国際環境及び完全かつ平等なパートナーシップへの女性及び男性の関係の徹底的な変容がない限り,世界は21世紀の課題に対処できないだろう。
18. 最近の国際的経済開発は,多くの場合において女性と子どもに不均衡に大きな影響を及ぼしてきたが,彼らの大多数は開発途上国に住んでいる。対外債務の大きな重荷を背負ってきたそれらの国家にとって,構造調整計画及び施策は,長期的には有益であっても,社会的支出を削減することになり,それによって女性,特にアフリカ及び後発開発途上国の女性たちに悪影響を与えてきた。これは,基本的な社会的サービスの責任が政府から女性に肩代わりされた場合,更に悪化する。
19. 移行期経済諸国で進行しているリストラクチャリング(構造改革)とともに,多くの先進国及び開発途上国における経済不況が,女性の雇用に不均衡にマイナスの影響を及ぼしてきた。往々にして女性には,長期的な雇用保障がない職業や危険な労働条件を伴う職業に就くか,保護されない,家庭を基盤にした生産に従事するか,又は失業する以外に選択の余地がない。多くの女性は,家計収入を増やそうとして報酬も評価も低い仕事で労働市場に参入する。また,その他は同じ目的で移住を決心する。彼らのその他の責任はいささかも軽減しないため,女性の労働の総負担を増加させている。
20. 構造調整を含むマクロ及びミクロ経済政策及び計画は,必ずしも女性及び女児,特に貧困の中で暮らす女性や女児に及ぼす影響を考慮するように策定されてきたわけではない。貧困は絶対的にも相対的にも増加しており,貧困の中で暮らす女性の数はほとんどの地域で増加している。貧困の中で暮らす都市の女性は多い。しかし,農村及び僻地で暮らす女性の窮状は,これらの地域における開発の停滞を思えば特別に配慮されて然るべきである。開発途上国では,たとえ国内指標が向上を示してきた国であっても,農村女性の大半は依然として経済的な低開発と社会的疎外の状況の中で暮らしている。
21. 女性は家庭,地域社会及び職場における有償・無償双方の労働を通じて,経済及び貧困との闘いの主要な寄与者である。収入のある雇用によって経済的自立を達成する女性の数も次第に増加してきた。
22. 世界の全世帯の4分の1が女性を世帯主としているほか,男性がいても女性の収入に依存している世帯も数多い。女性が維持する世帯は,きわめて多くの場合,賃金差別,労働市場における職業分離パターン及びジェンダーに基づくその他の障壁のために最貧層に属している。家族離散,国内における都市と農村地域の間の人口移動,国際的な移住,戦争及び避難のための国内移動が,女性が世帯主である世帯の増加を助長する要因である。
23. 女性は,平和と安全の達成及び維持が経済的及び社会的進歩の前提条件であることを認識し,平和を目指す人類の運動においてさまざまな資格で中心的行為者としての地位を次第に確立しつつある。意思決定,紛争の予防・解決及びその他のあらゆる平和の発議への女性の完全な参加が,永続する平和の実現に不可欠である。
24. 宗教,精神性及び信念は,何百万人もの女性及び男性の人生,暮らし方及び将来の志望に中心的な役割を果たす。思想,良心及び信教の自由に対する権利は不可侵であり,普遍的に享受されなければならない。この権利には,個人的にであれ他の人々とともにであれ,公然とであれ密かにであれ,自ら選んだ宗教又は信念を有すること,又は採用すること,並びに礼拝,遵奉,実践及び教導において自らの宗教または信念を明らかにする自由が含まれる。平等,開発及び平和を実現するためには,これらの権利と自由を全面的に尊重する必要がある。宗教,思想,良心及び信念は,女性及び男性の道徳的,倫理的及び精神的ニーズを満たすこと,並びに彼らの潜在能力を社会において完全に実現することに寄与するであろうし,また,寄与できる。しかし過激主義は,いかなる形のものも女性にマイナスの影響を与えるおそれがあり,暴力と差別を導きかねないことが認められている。
25. 第4回世界女性会議は,国連総会が「国際婦人年」と宣言した1975年に正式に始まった過程を促進しなければならない。国際婦人年は,女性問題を課題として取り上げた点で転換点であった。「国連婦人の10年」(1976年~1985年)は,女性の地位と権利を検討してあらゆるレベルの意思決定に女性を参加させようとする全世界的な取組みであった。1979年には国連総会で「女子に関するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」が採択され,これは1981年に発効して,女性と男性の平等が意味するところのものに対する国際的基準を設定した。1985年には「『国連婦人の10年:平等,開発,平和』の見直しと評価に関する世界会議」で,2000年までに実施すべき「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」が採択された。以来,女性と男性の平等の達成には重要な進展があった。多くの政府が女性と男性の平等を促進するための法律を制定し,社会のすべての領域においてジェンダーの視点を確実に主流に置くための国内本部機構(ナショナル・マシーナリー)を設置してきた。国際機関は,女性の地位と役割により一層大きな注意を払うようになってきた。
26. 非政府部門,特に女性組織及びフェミニスト(男女同権論者)団体の増大しつつある力が,変革への推進力になってきた。非政府機関は,女性の地位の向上を確保するための法律や機構を推進する上で重要な提唱者の役割を果たしてきた。それらはまた,開発への新たなアプローチを促進する触媒ともなっている。多くの政府は,非政府機関が果たす重要な役割や,進展を目指して彼らと共に働くことの重要性を次第に認識するようになってきている。だが,非政府機関が自由に機能する力を政府が依然として制限している国もいくつかある。非政府機関を通じて,女性は地域社会,国内,地域及び世界の公開討論会(フォーラム)及び国際的討論に参加し,強い影響を与えてきた。
27. 1975年以来,女性及び男性のそれぞれの地位に関する知識が深まり,これが女性及び男性の平等を促進することを目指した行動の推進に寄与している。いくつかの国々,特に女性のための教育に大きな前進があったり,有給労働力への女性の参加に著しい増加が見られたところでは,女性と男性の関係に重要な変化が起こっている。生産と生殖という労働の性別役割の境界線は,以前は男性が支配的な分野だった仕事に女性が参入するようになり,男性が育児を含むより大きな家事責任を引き受け始めるにつれて徐々に交差してきている。しかし,女性の役割の変化は,男性のそれより大きく,はるかに急速に起こってきた。多くの国では,女性と男性の実績及び活動の差は不変の生物学的相違というより社会的に築き上げられた性別役割の結果であることが未だに認識されていない。
28. しかも,ナイロビ会議から10年を経てなお,女性と男性の平等はまだ達成されていない。世界的に,あらゆる立法府の選出議員のうち,平均して10パーセントを女性が占めるにすぎず,ほとんどの国内及び国際的な管理機構では公共・民間ともに女性代表の参加が今もって不十分のままである。国連も例外ではない。創設以来50年を経ても,国連は事務局及び専門機関内部の意思決定レベルへの女性の参加を不十分なままにおくことによって,彼らの指導力の恩恵を自ら拒み続けている。
29. 女性は,家族の中において重大な役割を果たす。家族は社会の基本単位であり,そのように強化されるべきである。家族は,幅広い保護及び支援を受ける権利がある。異なる文化的,政治的及び社会的体制の中で,様々な形の家族が存在する。家族一人々々の権利,能力及び責任が尊重されなければならない。女性は家族の安寧及び社会の発展に多大な貢献を行うが,これはその重要性においてまだ完全に認識され又は考慮されていない。母性(マタニティ),母であること(マザーフッド),並びに家族における,また育児における親の役割の社会的意義が認められるべきである。育児は,親,女性及び男性,並びに社会全体の責任分担を必要とする。母性,母であること,親であること,及び出産における女性の役割が差別の根拠になることも,女性の完全な社会参加を制限することも共にあってはならない。また,多くの国で女性がしばしば果たしている家族の世話における重要な役割にも,評価が与えられるべきである。
30. 世界人口の増加率は下降線をたどっているものの,現在の増加数は年間8,600万人に近く,世界人口は絶対数において史上最高を記録している。この他,人口統計学上の二つの大きな傾向が,家族内での扶養家族の割合に深刻な影響を及ぼしてきた。多くの開発途上国では人口の45~50パーセントが15歳未満であり,一方,工業国では高齢者の数も比率も増しつつある。国連の予測によれば,2025年までに60歳以上の人口の72パーセントが開発途上国に住んでいることになり,その半数以上が女性であろうという。子ども,病人及び高齢者の世話の責任は,平等の欠如及び女性と男性の間における有償及び無償の労働のアンバランスな分布のせいで女性に不均衡にのしかかっている。
31. 多くの女性は,自らのジェンダー(性)に加え,さまざまに異なる要因によって,特別な障害に直面している。しばしば,これらの多様な要因はそのような女性を孤立させたり疎外したりする。彼らは,なかんずく人権を拒否され,教育及び職業訓練,雇用,住宅及び経済的自立へのアクセスを欠き,又は拒否され,また,意思決定過程から締め出されている。このような女性たちは,自らの地域社会に対して主流の一員として寄与する機会を拒まれることが多い。
32. この10年はまた,先住民女性の特有の関心と問題に対する認識が次第に高まってきていることを目撃する時期でもあった。彼らのアイデンティティ(帰属意識),文化的伝統及び社会組織の形態が,彼らの住む地域社会を高め,強化している。しばしば先住民女性は,女性として,また先住民社会の一員として二重の障害に直面する。
33. 過去20年間,世界は通信分野の急激な発展を目のあたりにしてきた。コンピュータ技術並びに衛星放送及びケーブル・テレビジョンの進歩によって,情報への世界的な規模のアクセスが増加・拡大し続け,通信及びマスメディアへの女性の参加及び女性に関する情報の普及の新たな機会を創出している。しかし,偏狭な商業及び消費主義的な目的で,固定観念化した屈辱的女性像を広めるために,世界的規模の通信網が利用されてきた。芸術を含む,通信及びマスメディアの技術分野及び意思決定分野の双方に女性が平等に参加するようになるまで,誤った女性像が伝え続けられ,実際の女性の生活に対する認識は欠如し続けるだろう。メディアは,固定観念を脱した,多様で調和のとれたやり方で女性及び男性を描くことにより,また,人間の尊厳と価値を尊重することによって女性の地位向上と女性と男性の平等を促進する,大きな潜在能力を持っている。
34. すべての人間の生活に影響を及ぼす持続的な環境悪化は,しばしば女性の側に,より直接的な影響を与える。女性の健康と生計は,公害,有毒廃棄物,大規模な森林伐採,砂漠化,干ばつ,土壌の枯渇,沿岸及び海洋資源の枯渇によって脅かされ,女性及び少女の間で環境に関連した健康問題の発生が増加し,死亡例さえ報告されている。最も影響を被っているのは,その生計と日常生活の手段が持続可能な生態系に直接依存している農村女性と先住民女性である。
35. 貧困と環境悪化は,互いに密接に関連し合っている。貧困は環境へのある種の圧迫をもたらすが,持続する地球環境の悪化の主な原因は,特に工業国における持続不可能な消費及び生産のパターンであり,これは重大な問題で,貧困と不均衡を深刻化している。
36. 世界的傾向が,家族の生存戦略及び構造に大きな変化をもたらしてきた。すべての地域で,農村地域から都市への移住が相当に増加した。世界の都市人口は,2000年までに全人口の47パーセントに達する見込みである。推定1億2,500万人が移住者,難民及び避難民であり,その半数が開発途上国に住んでいる。これらの人々の大量移動が,家族構造及び家族の安寧に深刻な結果をもたらし,多くの場合,女性に対する性的搾取を含め,女性及び男性の間に不平等な結果を引き起こしている。
37. 世界保健機関(WHO)の推定によれば,後天性免疫不全症候群(エイズ)の患者数は1995年初めまでに累計で450万人になったという。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が初めて診断されて以来,推定1,950万人の男性,女性及び子どもがこのウイルスに感染しており,10年後までには新たに2,000万人の感染が見込まれている。新しい発生例では,女性は男性の2倍も感染のおそれが高い。エイズ流行の初期段階では,女性の感染は多くなかった。しかし今では,約800万人の女性が感染している。若い女性や青年が特に感染しやすい。2000年までに1,300万人以上の女性が感染し,400万人の女性がエイズ関連の疾患によって死亡すると推定されている。それに加えて,毎年2億5,000万人の性感染症(STD)の新たな患者が発生することが見込まれている。HIV/AIDS(エイズ)を含む性感染症の感染率は,特に開発途上国の女性及び少女の間で,おそろしい勢いで増加しつつある。
38. 1975年以来,女性の地位とその暮らしの状況に関する重要な知識及び情報が生み出されてきた。ほとんどの国で,女性の完全かつ平等な参加を阻む差別的態度,不公正な社会・経済構造及び資源の欠如により,女性の日常生活及び長期的な志望が全ライフサイクルを通じて制限されている。多くの国において,胎児期の性による選別の習慣や,男の子に比べて女の子の方が幼いうちの死亡率が高く,少女の就学率が低い事実から,息子志向が女児から食物,教育及び保健対策,ひいては生命自体へのアクセスを奪っていることがうかがわれる。女性への差別は人生の最も初期の段階から始まるのであり,だからこそ,その時期から持続して取り組まれなければならない。
39. 今日の女児は,明日の女性である。平等,開発,平和という目標の完全な達成にとって,女児の能力,発想及びエネルギーはきわめて重要である。女児が自らの潜在能力を十分に開発するためには,その生存,保護及び開発のための精神的,知的及び物質的ニーズがかなえられ,その平等な権利が保護されるような,制約のない環境で育てられる必要がある。女性が生活及び開発のあらゆる局面で男性の平等なパートナーであろうとするならば,今こそ女児の人間としての尊厳及び価値を認識し,普遍的な批准が強く求められている「児童の権利に関する条約」(注11)に保障された権利を含む,その人権及び基本的自由の完全な享受を保障すべきときである。しかし,少女への差別及び暴力が人生の最も初期の段階から始まり,生涯を通じて変わらず続く事実を示す世界的な証拠がある。往々にして,少女は少年より,栄養,心身の保健医療及び教育へのアクセスが少なく,子ども時代及び青春期の権利,機会及び恩恵を享受することも少ない。彼らは,しばしば,様々な形の性的及び経済的搾取,小児愛,強制売春及びことによると臓器及び体の組織の売却,暴力,並びに女児の間引き,胎児期の性による選別,近親姦,女性器の切除及び幼児婚を含む若年結婚のような悪習にさらされる。
40. 世界人口の半分が25歳未満であり,世界の若者の大半 ― 85パーセント以上 ― が開発途上国に住んでいる。政策決定者は,これらの人口統計学上の要因の意味を認識しなければならない。若い女性があらゆるレベルの社会的,文化的,政治的及び経済的な指導的立場に積極的かつ効果的に参加するのに必要な生活技術を確実に身につけるようにするために,特別の措置が講じられなければならない。国際社会が未来への新たなコミットメント ― より公正な社会を目指して共に働くよう新世代の女性及び男性を鼓舞することへのコミットメント ― を示すことが,きわめて重要であろう。このような新世代のリーダーたちは,すべての子どもが不公正,抑圧及び不平等から解放され,その持ち前の潜在能力を開発する自由を持つような世界を受け入れ,促進しなければならない。それゆえに,女性及び男性の平等の原則は社会化の過程に欠かしてはならないものである。
第Ⅲ章 重大問題領域
41. 女性の地位向上及び女性と男性の平等の達成は,人権の問題であり,社会正義のための条件であって,女性の問題として切り離して見るべきではない。それは,持続可能で公正な,開発された社会を築くための唯一の道である。女性のエンパワーメント及び女性と男性の間の平等は,すべての国民の政治的,社会的,経済的,文化的及び環境的な安全を達成するための前提条件である。
42. 「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」に挙げられた目標の大半は,未だ達成されていない。各国政府並びに非政府機関及びあらゆる地域の女性と男性の努力にもかかわらず,女性のエンパワーメントを阻む障害は依然として残存している。きわめて大きな政治的,経済的及び環境的危機が,世界の多くの地域に存続している。それらの中には,侵略戦争,武力紛争,植民地化もしくはその他の形の外国支配又は占領,内戦及びテロリズムがある。これらの状況は,組織的又は事実上の差別,すべての女性のあらゆる人権と基本的自由及び開発の権利を含む彼らの市民的,文化的,経済的,政治的及び社会的権利の侵害及びその保護への怠慢,並びに女性と少女に対する根深く有害な態度とともに,1985年に開催された,「『国連婦人の10年:平等,開発,平和』の見直しと評価に関する世界会議」以来,遭遇してきた障害のごく一部にすぎない。
43. ナイロビ会議以降の進捗の見直しによって,特別な問題 ― 優先的に行動を起こすべき事項として際立つ,特別に緊急を要する領域 ― が明確になる。すべての行為者は,必然的に相互関連し相互依存している優先度の高い重大問題領域に係る戦略目標に,行動と資源を集中すべきである。これらの行為者にとって,すべての問題領域に対して責任を負う仕組みを開発し,実施することが必要である。
44. この目的のために,各国政府,非政府機関及び民間部門を含む国際社会及び市民社会は,以下の重大問題領域において戦略的行動を取るよう要請される。
・女性への持続し増大する貧困の重荷
・教育及び訓練における不平等及び不十分並びにそれらへの不平等なアクセス
・保健及び関連サービスにおける不平等及び不十分並びにそれらへの不平等なアクセス
・女性に対する暴力
・武力又はその他の紛争が女性,特に外国の占領下に暮らす女性に及ぼす影響
・経済構造及び政策,あらゆる形態の生産活動及び資源へのアクセスにおける不平等
・あらゆるレベルの権力と意思決定の分担における男女間の不平等
・あらゆるレベルにおける女性の地位向上を促進するための不十分な仕組み
・女性の人権の尊重の欠如及びそれらの不十分な促進と保護
・あらゆる通信システム,特にメディアにおける女性の固定観念化及び女性のアクセス及び参加の不平等
・天然資源の管理及び環境の保護における男女の不平等
・女児の権利に対する持続的な差別及び侵害。
第Ⅳ章 戦略目標及び行動
45. 各重大問題領域において,問題が分析され,その達成のためにさまざまな行為者が取るべき具体的な行動とともに,戦略目標が提案されている。戦略目標は重大問題領域から引き出され,それらの目標を達成するために取るべき特定の行動は,平等,開発及び平和 ― 「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」の目標 ― の間の境界線をまたぐものであり,それらの目標の相互依存性を反映するものである。目標と行動は互いに結びついており,優先度が高く,かつ相互に強め合っている。行動綱領は,例外なく,同じような障害に直面することの多い,すべての女性の状況を改善するためのものであるが,同時に,最も不利な立場のグループに特別な注意が払われるべきである。
46. 行動綱領は,女性が人種,年齢,言語,民族,文化,宗教又は障害といった要因のために,先住民女性であるがために,又はその他の事情のために,完全な平等及び地位向上を阻む障害に直面していることを認識する。多くの女性が,特にひとり親などのような家庭状況,また,農村地域,孤立した地域もしくは貧困地域における生活状態を含む自らの社会経済的地位に関連した特別の障害に遭遇している。難民女性,国内避難民女性を含むその他の避難民女性,並びに移民女性及び移住労働者を含む移住女性に対しては,更なる障害が加わる。多くの女性はまた,環境災害,重病及び感染性疾患,並びに女性に対するさまざまな形の暴力によって特別に影響を被っている。
A 女性と貧困
47. 今日,世界の10億人以上の人々が容認できない貧困状態で暮らしているが,それらのほとんどが開発途上国に集中し,大多数は女性である。貧困には,構造的な原因を含め,様々な原因がある。貧困は,国内,国際双方の領域に起因する複合的,多面的な問題である。世界の経済の地球規模化と国家間の相互依存性の深まりが,持続的な経済成長及び開発のための課題及び機会をもたらすとともに,世界経済の未来に対するリスクと不安を引き起こしている。不安定な世界経済の動向に,経済再編や,また,いくつかの国においては,持続する収拾不可能なまでの対外債務問題と構造調整計画が追い打ちをかけてきた。それに加えて,あらゆる種類の紛争,定住地からの人々の避難及び環境悪化が,自国の国民の基本的ニーズに応える各国政府の能力を次第に悪化させてきた。世界経済の変容が,あらゆる国における社会開発の媒介変数を大きく変化させつつある。ひとつの重大な傾向は女性の貧困の増加であるが,その程度は地域によって異なる。男女間の経済的な権力分担の不均衡もまた,女性の貧困を助長する重大な要因である。移住とそれによる家族構造の変化が,女性,特に何人もの扶養家族を抱える女性たちに更なる重荷を負わせてきた。このような傾向に対処するためには,マクロ経済政策の再考と再策定が必要である。これらの政策は殆ど専ら公的部門にのみ焦点を合わせており,また,それらは女性のイニシアティブ(率先)を阻む傾向にあり,女性と男性で異なる影響への配慮を怠っている。したがって,ジェンダー分析を広範な政策と計画に適用することが,貧困削減戦略にとって肝要である。貧困を撲滅し,持続可能な発展を達成するために,女性と男性はマクロ経済政策,社会政策及び貧困撲滅戦略の策定に完全かつ平等に参加しなければならない。貧困の撲滅は反貧困計画を通じるのみでは達成できず,資源,機会及び公共サービスへのアクセスをすべての女性に保障するために,経済構造への民主的な参加と構造の変革を必要とするだろう。貧困は,持続可能な生計を保障するに足る収入及び生産資源の欠如,飢餓及び栄養不良,健康障害,教育及びその他の基本的サービスへのアクセスの制限又は欠如,増加する罹病率及び病死率,ホームレス化及び不十分な住宅供給,安全を欠く環境,並びに社会的な差別及び疎外など,さまざまな表われ方をする。それはまた,意思決定並びに市民,社会及び文化生活への参加の欠如によっても特徴づけられる。貧困は,あらゆる国で起こる。多くの途上国では大量の貧困,先進国では富の真っ只中の孤立の貧困地区として発生する。貧困は,生計手段の喪失をもたらす経済不況によって,又は災害若しくは紛争によって起こり得る。また,低賃金労働者の貧困及び家族による扶養制度や社会的な制度及び安全網からこぼれ落ちた人々の徹底的な貧窮もある。
48. この10年,貧困の中で暮らす女性の数は特に開発途上国において,男性の数に比べ不均衡に増加してきた。最近は貧困の女性化もまた,移行期経済の国々において,政治的,経済的及び社会的変容の短期的な結果として重大な問題になってきた。経済的要因に加え,社会的に作り上げられた男女の役割の硬直性や権力,教育,訓練及び生産資源への女性の限られたアクセス,並びに家庭の不安定に導く可能性のあるその他の新たに出現する要因も原因となっている。また,すべての経済分析・立案においてジェンダーの視点を十分に主流化できないことや,貧困の構造的原因に対処できないことも,助長要因になっている。
49. 女性は,家庭,地域社会及び職場における有償・無償双方の仕事を通じて,経済及び貧困との闘いに寄与している。女性のエンパワーメントは,貧困撲滅におけるきわめて重要な要因である。
50. 貧困は全体として世帯に影響を及ぼす一方,労働と家庭の安寧のための責任が性別分業になっているため,女性は不均衡に重い負担を抱え,物資不足が募る状況下で世帯の消費と生産のやりくりを試みる。貧困は,農村の世帯に生きる女性にとって特に深刻である。
51. 女性の貧困は,経済的機会及び自立の欠如,信用,土地所有及び相続を含む経済資源へのアクセスの欠如,教育及び支援サービスへのアクセスの欠如,並びに意思決定過程への参加がきわめて少ないことと直接関連している。貧困はまた,性的搾取を受けやすい状況に女性を追い込む可能性もある。
52. 余りにも多くの国において,社会福祉制度が貧困の中で暮らす女性の特別の状況を十分に考慮せず,しかも,そのような制度の提供するサービスを縮小する傾向が見られる。社会保障制度が継続的な有償雇用の原則に基づいている場合,特に高齢者では,貧困に陥る危険性は男性より女性に高い。ある場合には,女性は,有償と無償の仕事の分配のアンバランスのせいで仕事を中断したために,この要件を満たしていない。しかも,高齢の女性は,労働市場への再参入に対する,より大きな障害に直面するのである。
53. 女性と男性の一般教育及び職業訓練のレベルが同様で,差別に対する保護制度のある多くの先進国において,いくつかの部門では,この10年間の経済的変容が,女性の失業又はその雇用の不安定な性質を著しく増大させてきた。その結果,貧困者の中の女性比率が増加した。少女の就学状況が高水準の国では,何ら資格を身につけないまま,最も早期に教育制度から離れた少女たちが,労働市場において最も弱い立場の者の中に入る。
54. 移行期経済の国及び基本的な政治的,経済的及び社会的変容を遂げている最中の国では,しばしばこれらの変容が,女性の所得を減少若しくは奪う結果になった。
55. 特に途上国では,女性の所得を増やし,栄養,教育,保健及び家庭内の地位を向上させるために,資本,資源,信用保証,土地,技術,情報,技術援助及び訓練へのアクセスを通じて女性の生産能力を高めるべきである。女性が開発の恩恵と自らの労働の成果の分け前を完全に受け取ることができるよう貧困の悪循環を断ち切るためには,女性の潜在的な生産能力の発揮が重要である。
56. 持続可能な開発と持続しかつ持続可能な経済成長は,女性の経済的,社会的,政治的,法的及び文化的地位の向上を通じて初めて達成できるのである。環境資源の持続可能な活用のために貧しい人々,特に女性に力をつけることの必要性を認める公平な社会開発が,持続可能な開発にとって必要な基礎である。
57. 男女平等と女性の地位向上の促進を支援または強化するための政策及び施策の成功は,社会のすべての局面に関する全般的政策へのジェンダーの視点の取入れと共に,あらゆるレベルにおける十分な制度的及び財政的支援を伴う,積極的施策の実施にかかっている。
戦略目標A.1. 貧困の中の女性のニーズ及び努力に対処するマクロ経済政策及び開発戦略を見直し,採用し,維持すること
取るべき行動
58. 政府により:
(a) 行動綱領の目標達成に向けて,女性の完全かつ平等な参加の下に,マクロ経済・社会政策を見直し,修正すること。
(b) マクロ経済の安定性,構造調整計画,対外債務問題,徴税,投資,雇用,市場及びすべての関連経済部門に関するものを含む政策及び計画を,それらが貧困,不平等並びにとりわけ女性に及ぼす影響についてジェンダーの視点から分析し,家庭の安寧と状況に及ぼす影響を評価し,適当な場合,生産資産,富,機会,所得及びサービスのより公平な配分を促進するように,それらの政策及び計画を調整すること。
(c) 人間中心の持続可能な開発という総合的な枠組みの中で,女性の完全かつ平等な参加の下に計画及び監視され,基盤の広い持続的な経済成長を促し,貧困の構造的原因に対処し,貧困撲滅とジェンダーに基づく不平等の減少に向けて調整された,健全で安定したマクロ経済政策及び部門別政策を追求し実施すること。
(d) 公共支出の配分を再編成して,女性の経済的機会及び女性の生産資源への平等なアクセスを促進し,女性,特に貧困の中で暮らす人々の基本的な社会的ニーズ及び教育・保健ニーズに対処する支出への割当に向けること。
(e) 適当な場合,家庭及び国内の食糧安定及び食糧の自給自足を適切に確保するために,必要な財政的,技術的及び人的資源を配分することによって,必要な場合及び必要なところでは,農業及び漁業部門を開発すること。
(f) 家庭内における公平な食糧配分を促進するための政策及び計画を開発すること。
(g) 貧困の中で暮らす女性が経済的逆境に耐えて危機の際に生計,資産及び所得を保持することができるようにするため,社会政策の不可欠な一環として,十分な安全網を提供し,国及び地域社会を基盤にしたそれぞれの支援制度の強化を行うこと。
(h) 公式・非公式両部門における女性労働者の雇用及び所得にプラスの影響を与える経済政策を創出し,女性の失業,特に長期的な失業に対処する特別な施策を採用すること。
(i) 必要な場合,女性を世帯主とする家庭を支援する特別な経済・社会・農業及び関連政策を策定し実施すること。
(j) 適切な価格付け及び流通の仕組みの利用を通じるなどして,貧困の中で暮らす女性の食糧へのアクセスを改善する,雇用計画を含む貧困撲滅計画を開発し実施すること。
(k) 女性移住労働者を含むすべての女性移住者の人権の完全な実現と暴力及び搾取からの保護を保障し,女性移住労働者を含む合法的女性移住者のエンパワーメントのための施策を導入し,合法的女性移住者の技能,外国での教育及び資格証明書のより広い認定を通じて彼らの生産的雇用を促進し,労働力への彼らの完全な統合を推進すること。
(l) 貧困の中で暮らす女性及び社会的に疎外された女性を生産的雇用及び経済の主流に統合又は再統合するための施策を導入し,国内避難民女性が経済的機会への完全なアクセスを得,移民女性及び難民女性の資格及び技能が認められるよう保障すること。
(m) 女性,とりわけ貧困の中で暮らす女性及び女性世帯主のニーズを満たすことに特別の重点を置き,なかでも,アクセスに対するあらゆる障害の除去によって,女性が土地へのアクセス及び手頃な価格の住宅を入手できるようにすること。
(n) (特に農村地域の自給農業者及び生産者を含む)女性農業・漁業生産者の金融,技術,普及及び市場に関するサービスへのアクセスを増大する政策及び計画を策定・実施し,特に農村地域において女性の所得を増加するとともに家庭の食糧安定を促進するために,土地,適切なインフラストラクチャー(社会基盤)及び技術へのアクセスと管理を提供し,適当な場合,市場に基盤を置いた生産者所有の協同組合の開発を奨励すること。
(o) 社会保障制度がない場合にはすべからくそれを創設し,既存の制度については,一人一人の女性と男性をその人生のすべての段階において平等な立場に置く目的で見直しを行うこと。
(p) 特に貧困の中で暮らす女性に及ぶよう企画された法識字を含む,無料または低料金の法律サービスへのアクセスを保障すること。
(q) 先住民女性に影響を及ぼす貧困を根絶するために,彼らが開発の過程において選択の機会と可能性を持てるよう,彼ら自身の完全な参加の下にその文化的多様性を尊重しつつ,彼らのための政策及び計画を促進・強化する特別な措置を講じること。
59. 世界銀行,国際通貨基金及び地域開発機関を含む多国間金融・開発機関により,並びに二国間協力を通じて:
(a) 「社会開発サミット」でなされたコミットメント(誓約)に従い,貧困撲滅への寄与と貧困の中で暮らす女性を対象に,十分かつ予測可能な,また,その利用可能性を最大限に高め,あらゆる提供源及び機構を利用する方法で動員される,新規及び追加的財政資源の動員に努めること。
(b) ジェンダーの視点をより組織的に強化し,構造調整及び経済復興計画を含む貸付計画の企画及び実施に組み込むために,分析能力を強化すること。
(c) 女性の地位向上を含む開発を目指す計画及びプロジェクトへの融資を助けるために,なかんずく1994年12月にパリ・クラブで合意された,債務の免除又はその他の救済措置などの債務削減を含めた債務免除協定の即時実施を通じて,対外債務問題に対する有効で開発志向の,かつ永続性のある解決策を見出し,また,行動綱領の優先事項に沿った社会開発計画及びプロジェクトに適用される債務転換の手法を開発すること。
(d) 国際金融機関に対し,高比率の多国間債務を抱える低所得国の債務負担を軽減する目的で,これらの国を支援する革新的なアプローチを詳細に検討するよう要請すること。
(e) 構造調整計画が,弱く不利な立場のグループ及び地域社会へのマイナスの影響を最小限に抑えるとともに,経済・社会活動から疎外されるのを防ぎ,経済資源及び経済・社会活動への彼らのアクセス及びコントロールを確保するための施策を案出することによって,プラスの影響を確保する方向で企画されるよう保障し,不平等と経済的不均衡を縮小するための行動を取ること。
(f) 構造調整計画のマイナスの影響を減じるとともにプラスの影響を増大して女性が移行コストの不均衡に重い負担を負わないよう保障する政策を開発するために,ジェンダーに敏感な社会的影響の評価その他の関連手段によって,構造調整計画が社会開発に及ぼす影響を見直し,また,増大され,社会開発を対象とする貸付によって,調整貸付を補うこと。
(g) 女性が持続可能な生計を築き,かつ維持することが可能な,制約のない環境を作ること。
60. 国内及び国際的非政府機関並びに女性団体により:
(a) 社会開発は主として政府の責任であることを認識しつつ,農村女性及び先住民女性,女性の世帯主,若い女性,高齢女性,難民女性,移住女性,及び障害を持つ女性のような最も貧しく不利な立場の女性を対象にした貧困撲滅計画の有効性を高めるために,学術機関,非政府機関,草の根及び女性団体を含む,開発の過程に関与するすべての当事者を結集すること。
(b) 行動綱領に示される貧困撲滅勧告の実施を確実にし,国及び民間部門の責任と透明性の確保を目指して,ロビイング(議員への働きかけ)を行うとともに,適当な場合,監視の仕組みを設置し,また,その他の関連活動を行うこと。
(c) 多様なニーズを持つ女性を活動に巻き込み,青年団体が開発計画において次第に有効なパートナーになりつつあることを認識すること。
(d) 貧困の中で暮らす少女及びあらゆる年齢の女性に保健,教育及び社会サービスへの完全なアクセスを有するように,政府及び民間部門と協力して,そのようなサービスを改善するための包括的な国内戦略の開発に参画し,ジェンダーの視点を持つサービスへのアクセスを確保し,政府機関の手が及ばない農村地域及び僻地までそれらのサービスの適用範囲を拡大するために,資金提供を求めること。
(e) 政府,使用者,その他の社会的パートナー及び関係当事者と協力して,新たな需要に対応する広範な技能を女性が習得できるよう保障するための教育,訓練及び再訓練計画の開発に寄与すること。
(f) 土地及びその他の財産の相続及び所有の権利,信用,天然資源及び適切な技術を含む経済資源への完全かつ平等なアクセスに対する女性の権利を守るために結集すること。
戦略目標A.2. 経済資源への女性の平等な権利及びアクセスを保障するため,法律及び行政手続を改正すること
取るべき行動
61. 政府により:
(a) 特に貧困の中で暮らす女性のために企画された,法識字を含む無料又は低料金の法律サービスへのアクセスを保障すること。
(b) 土地及びその他の財産の相続及び所有の権利,信用保証,天然資源及び適切な技術を含む経済資源への完全かつ平等なアクセスを女性に与えるよう,立法及び行政の改革に着手すること。
(c) 先住民の権利を促進し保護する取組みの一環として、国際労働機関(ILO)の条約第169号の批准を考慮すること。
戦略目標A.3. 貯蓄及び信用貸付の仕組み及び制度へのアクセスを女性に提供すること
取るべき行動
62. 政府により:
(a) 金融仲介機関のために資金を集めて信用貸付の利用し易さを増すことを目的とした,立法的支援,女性のための訓練及びこのような機関のための制度的強化を含む正規の銀行と金融仲介機関との連携の強化を通じて,女性起業家を含む,農村地域,僻地及び都市区域の不利な立場の女性の金融サービスへのアクセスを増大すること。
(b) 金融機関と非政府機関との連携を奨励し,信用貸付を女性向けサービスと訓練に組み込んで農村女性に信用貸付の便宜を提供するものを含む革新的な貸付方法を支援すること。
63. 商業銀行,専門金融機関及び民間部門が自らの政策を検討する際に:
(a) 貧困の中で暮らす女性に及ぶ点で効果があり,取引費用を軽減し,危険負担を再定義する点で革新的な,信用貸付及び預金の方法を用いること。
(b) 若い女性を含む,伝統的な担保源へのアクセスを欠く女性に対し,特別な貸付窓口を開設すること。
(c) たとえば,預金最低額規定その他の銀行口座開設要件を軽減することなどにより,銀行業務を簡略化すること。
(d) 可能な場合,信用貸付及び金融サービスを提供する機関の意思決定への女性顧客の参加及びそれらの機関の共同所有を保障すること。
64. 多国間及び二国間開発協力機関により:
公式・非公式両部門における低所得の小規模及び零細規模の女性起業家及び生産者に応じる金融機関を,資本及び/又は資源の提供によって支援すること。
65. 政府及び適当な場合,多国間金融機関により:
多数の低所得の女性及び男性に及ぶ点で実績基準を満たす機関を,資本投下,再融資及び自足を促す形での制度的な開発支援を通じて支援すること。
66.国際機関により:
不利な立場の女性及び貧困の中で暮らす女性の所得創出のための持続可能で生産的な起業活動の促進を意図した計画及びプロジェクトへの資金供与を増加すること。
戦略目標A.4. 貧困の女性化に対処するため,ジェンダーに基づく方法論を開発し,調査研究を行うこと
取るべき行動
67. 政府,政府間機関,学術・研究機関及び民間部門により:
(a) 構造調整の立案・計画を含む経済政策決定のあらゆる面にジェンダーの視点を組み込むための,概念的及び実践的方法を開発すること。
(b) 構造調整計画を含むすべての政策及び計画についてジェンダーの影響分析を行う際に,これらの方法を適用し,調査研究結果を普及すること。
68. 国内及び国際統計機関により:
(a) 貧困及び経済活動のあらゆる側面に関する性別及び年齢別データを集め,ジェンダーの視点からの経済実績評価を促進するための質的及び量的統計指標を開発すること。
(b) 女性の労働と,無償労働部門及び家事部門における寄与を含む,国民経済に対する彼らのあらゆる寄与を余すところなく認識し,明らかにするため,適切な統計的手段を考案し,女性の無償労働と女性の貧困発生率及び貧困への陥りやすさとの関係を調べること。
第Ⅳ章 戦略目標及び行動
B 女性の教育と訓練
69. 教育は人権であり,平等,開発及び平和という目標の達成にとって不可欠な手段である。非差別的な教育は少女と少年の双方に利益をもたらし,したがって,ひいては女性及び男性のより平等な関係に寄与する。もし,もっと多くの女性が変革の行為者になろうとするなら,教育に係る資格へのアクセス及びその取得の平等が必要である。女性の識字は家庭における健康,栄養及び教育を改善するための,また,社会における意思決定に参加する力を女性につけるための重要な鍵である。少女及び女性のためのフォーマル教育,ノン・フォーマル教育及び訓練への投資は,他に例を見ないほど高い社会的及び経済的見返りをもたらし,持続可能な開発及び持続的かつ持続可能な経済成長を達成するための最良の手段の一つであることが分かった。
70. 地域レベルでは,教育施設へのアクセスが未だに不十分なアフリカ,特にサハラ以南のアフリカ及び中央アジアのいくつかの地域を除いて,少女及び少年の初等教育への平等なアクセスが達成された。中等教育においても進展が遂げられてきており,この分野で少女と少年の平等なアクセスが達成された国がいくつかある。少女及び女性の高等教育への進学も,かなり増加した。多くの国では,私立学校もまた,すべてのレベルで教育へのアクセスの増進に重要な補完的役割を果たしてきた。しかし,「万人のための教育に関する世界会議」(1990年,タイのジョムティエンで開催)が「万人のための教育に関する世界宣言」及び「基本的学習ニーズに応えるための行動の枠組み」(注12)を採択してから5年余を経た今なお,少なくとも6,000万人の少女を含む約1億人の子どもたちが初等の学校教育へのアクセスを持たず,また,世界の9億6,000万人に上る成人の非識字人口の3分の2以上を女性が占めている。ほとんどの途上国,特にサハラ以南のアフリカ及びいくつかのアラブ諸国で広く見られる高い非識字率は,依然として女性の地位向上及び開発を阻む厳しい障害になっている。
71. 慣習的態度,若年での結婚及び妊娠,不十分で,ジェンダーに基づく偏向がある教育及び教材,セクシュアル・ハラスメント(性的嫌がらせ),並びに十分かつ物理的にも他の面でも利用可能な学校施設の欠如のために,教育への少女のアクセスにおける差別が多くの地域で持続している。少女は,重い家事労働をきわめて幼い年齢で引き受ける。少女及び若い女性は教育及び家事責任の両方をこなすことを期待されるため,往々にして学業成績が振るわず,また,早い段階で教育制度から落ちこぼれる結果になる。このことが,女性の人生のあらゆる局面において永続する重大な結果をもたらすのである。
72. その思想,良心,宗教及び信念の自由を尊重して,女性も男性も,少女も少年も,平等に扱われ,その潜在能力のすべての発現を奨励され,そして教育資源が固定観念にとらわれない女性像及び男性像を推し進めるような教育・社会環境を作ることが,女性差別と女性と男性の不平等の原因を根絶する上で効果的であろう。
73. 女性は,若いときに習得したものにとどまらず,その後も継続して知識及び技術を習得することから恩恵を得られるべきである。このような生涯学習の概念には,フォーマル教育及び訓練において得る知識及び技術とともに,ボランティア活動,無償労働及び伝統的な知識などのインフォーマルな方法で行われる学習が含まれる。
74. 教育課程及び教材は依然として,大幅にジェンダーに基づいて偏向しており,少女及び女性の特有なニーズに配慮することは殆どない。このことが,女性に対し社会における完全かつ平等なパートナーシップへの機会を拒む伝統的な女性及び男性の役割を強化している。あらゆるレベルの教育者によるジェンダーの認識の欠如が,差別傾向を助長し,少女の自尊心をむしばむことによって,男女間の既存の不公平をさらに強固にする。リプロダクティブ・ヘルス教育の不在が,女性と男性に深い影響を及ぼしている。
75. 科学の教育課程は,特にジェンダーに基づく偏向が著しい。科学の教科書は女性や少女の日常経験に関わりを持たず,女性科学者を認めることを怠っている。少女は,自らの日常生活を向上させるとともに雇用機会を増大するために用いることができるはずの知識を与えてくれる数学,科学における基礎教育及び技術訓練を奪われている場合が多い。科学技術における高度な研究は,女性に自国の技術及び産業の開発において積極的な役割を果たす準備をさせ,したがって,職業・技術訓練への異なったアプローチを必要とする。技術は世界を急速に変えつつあり,開発途上国にも影響を及ぼしてきた。女性は技術から恩恵を受けるだけでなく,計画から適用,監視及び評価の段階に至るまで,その過程に参加することも不可欠である。
76. 高等レベルを含むあらゆる教育段階及びあらゆる学問分野において少女及び女性のアクセスと学業の継続が,専門的職業活動における彼らの持続的な前進の一要因である。それにもかかわらず,少女は依然として限られた数の学問分野に集中している事実が指摘される。
77. マスメディアは,強力な教育手段である。マスメディアは教育の手立てとして,教育者並びに女性の地位向上や開発を目指す政府・非政府機関にとって,一つの手段になり得る。コンピュータ化された教育・情報システムが,知識の習得及び普及において次第に重要な要素になりつつある。特にテレビは若い人々に最大の影響を及ぼし,その点で,女性及び少女の価値観,態度及び認識をよくも悪くも形成する力を持っている。したがって,教育者が批判力に富んだ判断と分析の技術を教え込むことが不可欠である。
78. 教育,特に少女及び女性の教育に配分される資源は多くの国において不十分であり,調整政策及び計画の状況下を含め,いくつかの例ではさらに縮小されてきている。このような不十分な資源配分は,人間開発,とりわけ女性の開発に長期的な悪影響を及ぼす。
79. 教育機会への不平等なアクセス及び教育機会の不足に対処するに当たり,政府及びその他の行為者は,決定が下される前に,女性及び男性それぞれへのそれらの影響の分析が行われるよう,あらゆる政策及び計画の中心にジェンダーの視点を据える,積極的で目に見える政策を促進すべきである。
戦略目標B.1. 教育への平等なアクセスを確保すること
取るべき行動
80. 政府により:
(a) あらゆるレベルの教育から,性別,人種,言語,宗教,出身国,年齢又は障害を根拠にした差別又はその他のいかなる形の差別をも撤廃する措置を講じることによって,教育への平等なアクセスという目標の達成を促進し,適当な場合,苦情に対処する手続きの設置を考慮すること。
(b) 2000年までに基礎教育へのアクセスの普遍化及び少なくとも80パーセントの小学校の学齢児童による初等教育の修了を確保し,2005年までに初等及び中等教育における性別格差を解消し,また,2015年以前にすべての国において普遍的な初等教育を提供すること。
(c) 女性に専門的職業開発,訓練,奨学金及び研究者へのフェローシップへの平等なアクセスを保障することや,適当な場合,積極的措置(ポジティブ・アクション)を採用することによって,高等教育のあらゆる分野へのアクセスにおける男女の不公平を撤廃すること。
(d) 平等な教育・訓練機会,並びに教育行政及び教育の政策・方針決定への女性の完全かつ平等な参加を保障するために,ジェンダーに配慮した教育制度を作り上げること。
(e) 父母、青年団体を含む非政府機関、地域社会及び民間部門と協力し、若い女性に学問的・技術的訓練、キャリア計画、指導力及び社会的手腕及び労働経験を与えて、社会に完全に参加する準備をさせること。
(f) 適切な予算資源を配分することや,キャンペーン,柔軟な時間割,奨励金,奨学金及び家庭にかかる少女の教育コストを最小限に抑えるため,また,女児のために教育を選ぶ親の能力を高めるためのその他の手段を通じて,父母及び地域社会の支援を得ることにより,宗教,人種又は文化を理由にしたあらゆる差別的な法律の廃止を通じるとともに,女性及び少女の良心及び信教の自由に対する権利が教育機関において尊重されるよう保障することによって,少女の就学率及び学業継続率を高めること。
(g) 在学中に自分の子どもや弟妹を育てる責任のある者に対し,学校教育に戻るか又は継続してそれを修了するよう励ますため,適当な場合,料金が手頃で物理的に利用可能な保育施設及び親になった者への教育を含め,未成年の妊婦や若い母親の学校教育を阻むあらゆる障害を撤廃する教育環境を促進すること。
(h) あらゆる年齢の女性が成長し,平等な条件の下で社会的,経済的及び政治的開発の過程に完全に参加するために必要な知識,能力,才能,技術及び倫理的価値観を獲得することができるように保障するために,教育の質を改善し,アクセスの点で女性及び男性の平等な機会を増進すること。
(i) 少女が自らの将来の職業機会を広げるために学問的及び技術的教育課程を追求するよう奨励するための,非差別的でジェンダーに配慮した,専門的なスクール・カウンセリング(学校相談)と職業教育プログラムを利用できるようにすること。
(j) 「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約」(注13)をまだ批准していない場合は,批准を奨励すること。
戦略目標B.2. 女性の中の非識字を根絶すること
取るべき行動
81. 政府,国内,地域及び国際機関,二国間及び多国間援助機関,並びに非政府機関により:
(a) 農村女性,移住女性,難民女性,国内避難民女性及び障害を持つ女性に重点を置いて,女性の非識字率を1990年レベルの少なくとも半分に減らすこと。
(b) 2000年までに,少女の初等教育への普遍的なアクセスを提供するとともに,初等教育の修了における男女の平等を確保するよう努めること。
(c) 「万人のための教育に関する世界宣言」(ジョムティエン)が勧告しているように,基本的及び機能的識字における男女格差を解消すること。
(d) 先進国と途上国の不均衡を縮めること。
(e) すべての人々の完全な識字を促進するために,成人及び家族の学習参加を奨励すること。
(f) 現在の目標と基準を考慮し,識字と並んで,生活技術,科学的及び技術的知識を促進して,識字の定義の拡大に努めること。
戦略目標B.3. 職業訓練,科学技術及び継続教育への女性のアクセスを改善すること
取るべき行動
82. 使用者,労働者及び労働組合の協力を得た政府,国際機関,女性団体及び青年団体を含む非政府機関,並びに教育機関により:
(a) 雇用機会の増大を図る目的で,女性,特に若い女性及び労働市場に再参入する女性に向けた,変わりゆく社会経済情況のニーズに応じる技能を提供するための教育,訓練及び再訓練政策を開発し,実施すること。
(b) 教育制度において,少女及び女性のためのノン・フォーマル教育の機会を認知すること。
(c) 職業訓練,科学技術における訓練計画及び継続教育計画の利用可能性及び利益に関する情報を女性及び少女に提供すること。
(d) 失業女性のために,自営業及び起業手腕の開発を含む雇用機会を高め,拡大するであろう新たな知識及び技能を身につけさせる教育・訓練計画を企画すること。
(e) 職業訓練及び技術訓練を多様化し,科学,数学,工学,環境科学技術,情報技術及び先端技術並びに管理訓練のような分野の教育及び職業訓練における少女及び女性のアクセスと継続を増大すること。
(f) 食糧及び農業調査,普及及び教育計画における女性の中心的役割を促進すること。
(g) 教育課程及び教材の改訂を奨励し,支援的な訓練環境を促進し,また,科学及び数学の教員に科学技術と女性の生活との関連に対する感性を養わせることを目的にした,彼らのための複数の学問領域にわたる課程の開発を含め,女性と男性による非伝統的な職業から本格的な職業選択を行う訓練を促進するための積極的な施策を講じること。
(h) 技術分野及び科学分野,特に未参入または参入不足の分野への女性のよりよいアクセス及び参加を保障するために,教育課程及び教材を開発するとともに積極的な施策を策定し,実施すること。
(i) 女性にあらゆる見習制度のプログラムへの参加を奨励するための政策及び計画を開発すること。
(j) 所得創出機会,特に草の根レベルの女性団体を通じた,経済的意思決定への女性の参加及び生産,販売,経営及び科学技術への女性の寄与を増大するため,農業,漁業,工業,商業及び美術工芸に携わる女性のための技術,管理,農業普及,及び販売の訓練を増やすこと。
(k) 殆ど,又は全く教育を受けていない成人女性,障害を持つ女性,合法的移住女性,難民女性及び避難民女性の労働機会を改善するために,あらゆる適切なレベルにおいて質の高い教育及び訓練へのアクセスを彼らに保障すること。
戦略目標B.4. 非差別的な教育及び訓練を開発すること
取るべき行動
84. 政府、教育当局その他教育・学術訓練により:
(a) 勧告を作成するとともに,出版社,教員,公共団体及び父母団体などすべての当事者と協力して,教員養成を含むあらゆる教育段階に向けて,ジェンダーに関する固定観念のない教育課程,教科書及び教材を開発すること。
(b) 上記パラグラフ29で定義した家庭における,また,社会における女性と男性の地位,役割及び寄与に関する意識を高める,教員及び教育者のための研修計画及び教材を開発し,これに関連して,少女と少年の間の平等,協力,互いへの尊敬及び責任分担を就学前の段階以降継続して促進するとともに,殊に少年が自らの家庭内のニーズの処理,家庭への責任と扶養家族を世話する責任と分担に必要な技能を習得させるための教育基準を開発すること。
(c) ジェンダーに配慮した授業への効果的な戦略を提供するため,教育の過程における自らの役割に関する意識を高める,教員及び教育者のための研修計画及び研修教材を開発すること。
(d) あらゆる段階に女性教員を配置することの重要性に鑑み,また,少女を学校に引き寄せ踏み止めさせるために,女性教員・教授に男性教員・教授と同等な可能性と平等な地位を保障するための行動を取ること。
(e) 平和的な紛争解決の訓練を導入し促進すること。
(f) 教育における政策・方針決定へのアクセスを得る女性,特にあらゆる教育段階において,また科学・技術分野のように伝統的に男性支配の学問分野において,女性教員の割合を増加させるために積極的な施策を取ること。
(g) あらゆる教育段階,特に大学院レベルにおけるジェンダーの研究及び調査を支援し開発して,大学のものを含む教育課程,教科書及び教材の開発,並びに教員養成にそれらを適用すること。
(h) 学生として,また,市民社会における成人としての双方で,指導的役割を引き受けるよう奨励するために,すべての女性のための指導者訓練及び機会を開発すること。
(i) 多国語使用に十分配慮して,特にマスメディアと連携し,一般大衆,特に親たちに,子どものための非差別的教育及び少女と少年による家族的責任の平等な分担の重要性を認識させる,適切な教育及び情報プログラムを開発すること。
(j) 特に,高等教育機関に対して,とりわけ大学院及び研究科の法学,社会学及び政治学の教育課程に国連の諸条約に示されている女性の人権に関する研究を加えるよう奨励することにより,あらゆる教育段階にジェンダーの側面を組み込む人権教育計画を開発すること。
(k) 適当な場合,女性の健康問題に関する学校教育プログラム内の,リプロダクティブ・ヘルス教育を阻む法律上・規制上の,及び社会的な障害を除去すること。
(l) 親たちの指導及び支援と教育職員及び教育機関の協力の下に,自らの責任に対する少女及び少年の意識を高め,彼らがそうした責任を取るのを助けるため,そのような教育及びサービスが個人の開発や自尊心に対して持つ重要性とともに,望まない妊娠,性感染症,特にHIV/AIDSの蔓延,及び性的暴力・虐待といった現象を避ける緊急の必要性を考慮して,少女と少年のための教育計画の作成及び総合的なサービスの創設を奨励すること。
(m) 教育機関及びコミュニティ施設内に,利用しやすいスポーツ・レクリエーション施設を提供して少女及びあらゆる年齢の女性のためのジェンダーに配慮したプログラムを確立・強化し,コーチ,訓練及び管理を含む,また国内,地域及び国際レベルの参加者としての,スポーツ及び身体活動のすべての分野における女性の地位向上を支援すること。
(n) 先住民女性及び少女の教育を受ける権利を認め,支援し,適切な教育計画,教育課程及び教材を可能な限り先住民の言語で開発することや,これらの過程への先住民女性の参加を規定することによって,先住民女性のニーズ,願望及び文化に敏感に応じる教育への多文化的アプローチを促進すること。
(o) 先住民女性の芸術的,精神的及び文化的活動を認め,尊重すること。
(p) 男女の平等,並びに文化的,宗教的及びその他の多様性が教育機関において尊重されるよう保障すること。
(q) 例えばラジオ番組,カセット,移動設備のような手頃な料金の適切な技術及びマスメディアの利用により,農村女性及び農業女性のための,教育,訓練及び関連の情報プログラムを促進すること。
(r) 特に農村女性の潜在能力を開花させるために,保健,零細企業,農業及び法的権利に関するノン・フォーマル教育を彼らに提供すること。
(s) 妊娠中の少女及び若い母親のフォーマル教育へのアクセスを阻むあらゆる障害を除去し,必要な場合,保育その他の支援サービスの提供を支援すること。
戦略目標B.5. 教育改革の実施に十分な資源を配分し,監視すること
取るべき行動
84. 政府により:
(a) 基礎教育への増額を確保するため,適当な場合,教育部門内部の再配分によって教育部門に必要とされる予算資源を供給すること。
(b) 関係省庁における教育改革及び施策の実施を監視するための機構を適切なレベルに設置し,適当な場合,監視努力によって提起された問題に対処するための技術的な支援計画を策定すること。
85. 政府,並びに適当な場合,民間及び公共機関,財団,研究機関及び非政府機関により:
(a) サービスが行き届いていない人々に特に重点を置きつつ,少女及び女性並びに少年及び男性が平等の原則に基づいてその教育を修了できるようにするため,必要な場合には,民間及び公共機関,財団,研究機関並びに非政府機関から追加の資金提供を動員すること。
(b) すべての少女及び女性の機会を促進するために,数学,科学及びコンピュータ技術におけるプログラムのような特別プログラムに対する資金提供を行うこと。
86. 世界銀行,地域開発銀行,二国間援助機関及び財団を含む多国間開発機関により:
(a) 開発援助計画における優先事項として,少女及び女性の教育・訓練ニーズのための資金供与を増加するよう考慮すること。
(b) 構造調整及び経済復興計画の中で,貸付プログラム及び安定化プログラムを含め,女性の教育への資金供与が維持又は増加されるよう保障するため,受入れ国政府と協力することを考慮すること。
87. 世界レベルにおける国際機関及び政府間機関,特に国連教育科学文化機関(UNESCO)により:
(a) 国内,地域及び国際機関が作成した教育指標を用いて進捗状況の評価に寄与し,政府に対し施策の実施に当たって,教育・訓練機会及びすべての分野,特に初等及び識字プログラムにおける達成水準に関して,女性と男性の間及び少年と少女の間の格差の解消を求めること。
(b) 教育,訓練及び研究,並びにあらゆる分野,特に基礎教育及び非識字の根絶の達成水準における女性と男性の間の格差解消の進捗状況を監視する能力を強化するために,要請があれば,途上国に技術的支援を提供すること。
(c) 女性及び少女の教育の権利を促進する国際キャンペーンを行うこと。
(d) 女性及び少女のための基礎教育に対し,その資源のうちかなりの割合を配分すること。
戦略目標B.6. 少女及び女性のための生涯教育及び訓練を促進すること
取るべき行動
88. 政府,教育機関及び地域社会により:
(a) 女性及び少女が地域社会及び国に生活し,そこに寄与し,そこから利益を得るために必要な知識及び技術を継続的に習得できるようにする広範な教育・訓練計画の利用可能性を確保すること。
(b) 母親が自らの学校教育を継続することができるよう,育児への支援及びその他のサービスを提供すること。
(c) 人生のあらゆる段階における女性の活動の変遷を容易にする,生涯学習のための柔軟な教育・訓練及び再訓練計画を作成すること。
第Ⅳ章 戦略目標及び行動
C 女性と健康*
ローマ・カトリック法王庁は,この節に関して全般的に留保することを表明した。この留保は1995年9月14日の第4回世界女性会議の主要委員会第4回会合でのローマ・カトリック法王庁の代表者が行った声明に述べられたところにより解釈されるものとする。
(訳注) リプロダクティブ・ヘルス,リプロダクティブ・ライツの訳語については,様々な議論があるところ,外務省監訳「国際人口・開発会議『行動計画』」((財)世界の動き社,1996年)にあわせ,カタカナ表記することとした。
89. 女性は,可能な限り最高水準の心身の健康を享受する権利を有する。この権利の享受は,女性の人生,安寧及び公私双方の生活のすべての分野へ参加する女性の能力にとって,きわめて重大である。健康とは,身体的,精神的及び社会的に安寧な状態であり,単に病気や病弱でないことではない。女性の健康は感情的,社会的及び身体的安寧を含み,生物学のみならず,女性の生活の社会的,政治的及び経済的状況によって決定される。しかし,大多数の女性は健康と安寧に恵まれていない。女性の可能な限り最高水準の健康の達成を阻む主な障害は,男女間の不平等とともに,異なった地理上の地域,社会階級,先住民グループ及び民族グループの女性間における不平等である。国内及び国際会議において,女性は,全ライフサイクルを通じて最善の健康を達成するためには,家族的責任の分担を含む平等,開発及び平和が必要条件であることを強調してきた。
90. 女性にとって,小児期の病気,栄養不良,貧血,下痢性の病気,伝染病,マラリアその他の熱帯病,並びにとりわけ結核の予防及び治療のためのプライマリー・ヘルスサービス(基礎的保健サービス)を含む基本的保健資源へのアクセス及び利用が一様でなく,不平等である。女性の健康の保護,推進及び維持の機会もまた,一様でなく不平等である。多くの途上国では,産科救急サービスの欠如も特別な問題になっている。保健政策及び計画は往々にしてジェンダーに関する固定観念をいつまでも残し,女性間の社会経済的な不均衡及びその他の相違を考慮できず,また,自らの健康に関する女性の自律の欠如を十分に斟酌しないこともあり得る。女性の健康は,保健制度におけるジェンダーに基づく偏見と女性に対する不十分かつ不適切な医療サービスの提供によっても影響を被っている。
91. 多くの国,特に開発途上国,わけても後発開発途上国では,公衆衛生支出の減少及び,ある場合には,構造調整が公衆衛生制度の質の低下の一因となっている。それに加え,料金が手頃な保健医療への普遍的アクセスに対する適切な保障のないまま保健制度を民営化しているために,保健医療がさらに利用しにくくなっている。この状況は少女及び女性の健康に直接,影響を及ぼすだけでなく,不均衡に重い責任を女性に負わせ,家庭及び地域社会内におけるものを含む,女性のいくつもの役割は往々にして認知されず,それゆえに,彼らは必要な社会的,心理的及び経済的支援を受けていない。
92. 最高水準の健康を享受する女性の権利は,全ライフサイクルを通じて男性と平等に保障されなければならない。女性は男性と同じ健康状態の多くに影響されるが,その経験の仕方は男性と異なっている。女性の間に広がる貧困と経済的依存,暴力被害,女性及び少女に対する否定的な態度,人種差別その他の形態の差別,多くの女性の自らの性と生殖に関する生活に対する限られた権限,並びに意思決定における影響力の欠如は,女性の健康に悪影響を及ぼしている社会の現実である。特に農村地域及び都市の貧困地域における,食糧不足,家庭内での少女及び女性への食糧配分の不公平,安全な飲み水,衛生設備及び燃料補給への不十分なアクセス,並びに不十分な住宅事情がすべて,女性とその家族に過重な負担を負わせ,彼らの健康に悪影響を与えている。良好な健康は生産的で充足した生活を送るために不可欠であり,自らの健康のあらゆる局面,特に自らの出産数をコントロールするすべての女性の権利は,彼らのエンパワーメントの基礎である。
93. しばしば息子志向から起こる,栄養及び保健サービスにおける少女への差別は,彼らの現在及び将来の健康及び安寧を危険にさらす。少女を若年の結婚,妊娠及び出産に追い込み,女性性器の切除など有害な習慣にさらす状況は,健康上の重大な危険を引き起こす。思春期の少女は成熟する際に欠かせない保健及び栄養サービスへのアクセスを必要としているにもかかわらず,それを持たない場合があまりにも多い。思春期の若者のためのカウンセリング及び性に関する健康(セクシュアル・ヘルス)とリプロダクティブ・ヘルス情報及びサービスへのアクセスは,依然として不十分もしくは完全に欠如しており,プライバシー,秘密保持,敬意及びインフォームド・コンセント(医師等の説明の下の同意)に対する若い女性の権利は,多くの場合,顧慮されない。思春期の少女は,性的虐待,暴力及び売春行為に対し,また,保護されない早熟なうちの性的関係の結果に対して,生物学的にも社会心理学的にも少年より傷つきやすい。若年で性経験を持つ傾向は,情報及びサービスの欠如と相まって,望まず,かつ早すぎる妊娠,HIV感染その他の性感染症並びに危険な妊娠中絶を増加する。若年出産は,世界のすべての地域において相変わらず女性の教育的,経済的及び社会的地位の向上を阻む障害になっている。全体として,若い女性にとって,若年結婚及び早くに母親になることは,教育及び雇用機会をひどく短縮しかねず,自分自身と子どもの生活の質に長期的な悪影響を及ぼすおそれがある。若い男性は,女性の自己決定を尊重し,セクシュアリティーと生殖に関する事柄において女性と責任を分担するように教育されていないことが多い。
94. リプロダクティブ・ヘルスとは,人間の生殖システム,その機能と(活動)過程のすべての側面において,単に疾病,障害がないというばかりでなく,身体的,精神的,社会的に完全に良好な状態にあることを指す。したがって,リプロダクティブ・ヘルスは,人々が安全で満ち足りた性生活を営むことができ,生殖能力をもち,子どもを産むか産まないか,いつ産むか,何人産むかを決める自由をもつことを意味する。この最後の条件で示唆されるのは,男女とも自ら選択した安全かつ効果的で,経済的にも無理がなく,受け入れやすい家族計画の方法,ならびに法に反しない他の出生調節の方法についての情報を得,その方法を利用する権利,および,女性が安全に妊娠・出産でき,またカップルが健康な子どもを持てる最善の機会を与えるよう適切なヘルスケア・サービスを利用できる権利が含まれる。上記のリプロダクティブ・ヘルスの定義に則り,リプロダクティブ・ヘルスケアは,リプロダクティブ・ヘルスに関わる諸問題の予防,解決を通して,リプロダクティブ・ヘルスとその良好な状態に寄与する一連の方法,技術,サービスの総体と定義される。リプロダクティブ・ヘルスは,個人の生と個人的人間関係の高揚を目的とする性に関する健康も含み,単に生殖と性感染症に関連するカウンセリングとケアにとどまるものではない。
95. 上記の定義を念頭に置くと,リプロダクティブ・ライツは,国内法,人権に関する国際文書,ならびに国連で合意したその他関連文書ですでに認められた人権の一部をなす。これらの権利は,すべてのカップルと個人が自分たちの子どもの数,出産間隔,ならびに出産する時を責任をもって自由に決定でき,そのための情報と手段を得ることができるという基本的権利,ならびに最高水準の性に関する健康およびリプロダクティブ・ヘルスを得る権利を認めることにより成立している。その権利には,人権に関する文書にうたわれているように,差別,強制,暴力を受けることなく,生殖に関する決定を行える権利も含まれる。この権利を行使するにあたっては,現在の子どもと将来生まれてくる子どものニーズおよび地域社会に対する責任を考慮に入れなければならない。すべての人々がこれらの権利を責任を持って行使できるよう推進することが,家族計画を含むリプロダクティブ・ヘルスの分野において政府および,地域が支援する政策とプログラムの根底になければならない。このような取組みの一環として,相互に尊敬しあう対等な男女関係を促進し,特に思春期の若者が自分のセクシュアリティに積極的に,かつ責任を持って対処できるよう,教育とサービスのニーズを満たすことに最大の関心を払わなければならない。世界の多くの人々は,以下のような諸要因からリプロダクティブ・ヘルスを享受できないでいる。すなわち,人間のセクシュアリティに関する不十分な知識,リプロダクティブ・ヘルスについての不適切または質の低い情報とサービス,危険性の高い性行動の蔓延,差別的な社会慣習,女性と少女に対する否定的な態度,多くの女性と少女が自らの人生の中の性と生殖に関し限られた権限しか持たないことである。思春期の若者は特に弱い立場にある。これは大部分の国では情報と関連サービスが不足しているためである。高齢の男女は性に関する健康およびリプロダクティブ・ヘルスについて特有の問題を抱えているが,十分な対応がなされていない場合が多い。
96. 女性の人権には,強制,差別及び暴力のない性に関する健康及びリプロダクティブ・ヘルスを含む,自らのセクシュアリティに関する事柄を管理し,それらについて自由かつ責任ある決定を行う権利が含まれる。全人格への全面的な敬意を含む,性的関係及び性と生殖に関する事柄における女性と男性の平等な関係には,相互の尊重と同意,及び性行動とその結果に対する責任の共有が必要である。
97. さらに女性は,セクシュアリティと生殖に関する保健ニーズへの対応の不十分及びサービスの欠如のために,特別な健康上の危機にさらされている。妊娠及び出産に関連した合併症は,開発途上世界の多くの地域で,出産可能年齢の女性の死亡及び罹病の主要原因のひとつである。経済が移行期のいくつかの国々でも,同様の問題がある程度存在する。安全でない妊娠中絶は多数の女性の生命を脅かし,最も高い危険を被るのが主として最も貧しく最も若い層であることから,深刻な公衆衛生問題になっている。これらの死亡,健康問題及び傷害の大半は,男女とも自ら選択した安全かつ効果的で,経済的にも無理がなく,受け入れやすい家族計画の方法,ならびに法に反しない他の出生調節の方法についての情報を得,その方法を利用する権利,および,女性が安全に妊娠・出産でき,またカップルが健康な子どもを持てる最善の機会を与えるよう適切なヘルスケア・サービスを利用できる権利を認め,安全で効果的な家族計画手段及び産科救急医療を含む適切な保健サービスへと改善されたアクセスを通して予防できる。これらの問題及び手段には,カイロの「国際人口・開発会議」(ICPD)(注14)の報告に基づき,特に同会議の「行動計画」の中の関連パラグラフを参考にして,取り組むべきである。殆どの国では,女性のリプロダクティブ・ライツの無視が,教育及び経済的・政治的エンパワーメントの機会を含む,公私の生活における女性の機会を著しく制限している。自らの出産に対する女性の管理能力は,その他の権利の享受にとって重要な基礎をなす。性と生殖に関わる行動に関する事柄における女性と男性による責任の共有もまた,女性の健康の向上にとって不可欠である。
98. ときには性暴力の結果として感染することもあるHIV/AIDSその他の性感染症は,女性の健康,特に思春期の少女及び若い女性の健康に破壊的な影響を及ぼしつつある。往々にして,彼らは安全で責任ある性習慣を主張する権限を持たず,予防及び治療の情報及びサービスへのアクセスも殆ど持たない。新たにHIV/AIDSその他の性感染症に感染した成人全体の半分を占める女性たちは,性感染症の蔓延を抑制しようとする取組みの中で,社会的に弱い立場であること及び女性と男性の間の不平等な力関係が安全なセックスへの障害になっている点を強調してきた。HIV/AIDS感染の影響は,母親及び介護者としての彼らの役割に対する女性の健康や家族への経済的支援に対する寄与の域を越えてまで及ぶ。HIV/AIDS及びその他性感染症の社会,発育及び健康への影響は,ジェンダーの視点から眺める必要がある。
99. 身体的及び心理的虐待,女性及び少女の人身売買,並びにその他の形の虐待及び性的搾取を含む性的及びジェンダーに基づく暴力は,身体的・精神的トラウマ(傷),病気及び望まない妊娠をもたらす高い危険に少女及び女性をさらす。そのような状況は,女性に保健及びその他のサービスの利用を躊躇させることが多い。
100. 過重労働,ストレス,増加する家庭内暴力の発生,並びに薬物乱用とともに,疎外,無力及び貧困に関連した精神障害も女性にとって関心の高まっている健康問題である。世界中で女性,特に若い女性の喫煙が増え,彼ら自身及びその子どもたちの健康に深刻な影響を及ぼしている。多数の女性が公式又は非公式のいずれかの労働市場において退屈かつ不健康な条件の下で低賃金の仕事に従事し,しかもその数が上昇しつつあるとき,職業上の健康問題もまた重要性を増しつつある。乳がん,子宮頸がんその他の生殖器官系がん,並びに不妊症が女性に増えているが,早期に発見されれば,予防または治癒が可能かもしれない。
101. 平均寿命の伸長と高齢女性の増加に伴って,その健康問題に特別な配慮が必要になっている。女性の健康の長期的展望は,閉経期の諸変化に影響されるが,それらは栄養不良や運動不足のような生涯にわたる状態やその他の要素と相まって,心虚血性疾患や骨粗鬆症の危険を増す可能性がある。加齢に伴うその他の疾病及び女性特有の加齢と障害の相互関係にも,特別の注意が必要である。
102. 男性と同様に女性は,特に農村地域及び都市の貧困地域において,環境破壊及び環境悪化によって次第に環境による健康障害にさらされている。女性はさまざまな環境上の危険,汚染物質や物質に対し,男性と異なった敏感さを持っており,それらに晒されることにより,異なった影響を受ける。
103. 女性の健康管理の質には,地域の状況によってさまざまな点において欠陥があることが多く,それは地域の状況による。女性は多くの場合,敬意をもって扱われることも,プライバシーや秘密保持を保障されることもなく,選択肢や利用可能なサービスに関する情報も,必ずしも十分には与えられない。しかも,なかには,女性の人生の大事に際して過剰投薬が一般的で,その結果,不必要な外科的介入と不適切な投薬が行われている国もある。
104. 多くの場合,健康に関する統計データは,年齢,性,社会経済的な地位によっても,また,弱い立場の人々,疎外された人々その他の関連変数に特に重点を置いて,下位集団の利益を図り,彼らの問題を解決するために用いられる人口統計学上の確立された基準別にも,組織的に収集され,分類され,分析されることがない。多くの国では,女性の死亡率及び罹病率,特に女性に影響を及ぼす状況及び病気に関する,最近の信頼できるデータが入手できない。社会的・経済的要素があらゆる年齢の少女及び女性の健康に及ぼす影響,少女及び女性に対する保健サービスの提供とその利用パターン,女性のための疾病予防とヘルスプロモーションプログラムの価値に関しては,相対的にほとんど知られていない。女性の健康にとって重要な課題は十分に調査研究されておらず,女性の健康調査研究はしばしば資金供給が欠如している。多くの国における,例えば心臓疾患に関する医学的調査研究や疫学的研究は男性のみに基づいている場合が多く,男女別のものではない。避妊薬を含む薬の,用量,副作用及び効能に関する基礎的情報を確立するための,女性を対象に加えた臨床試験は著しく欠如しており,また,必ずしも調査研究及び試験の倫理基準に合致していない。女性に施される多くの投薬療法の規定その他の医療及び処置は,男性に関する調査研究に基づいており,男女差に対する調査も調整も加えられていない。
105. 女性と男性の間の健康状態における不平等,保健サービスへの不公平なアクセス,及び不十分な保健サービスに対処するに当たり,政府及びその他の行為者は,決定が下される前に,それらが女性と男性それぞれに及ぼす影響の分析がなされるよう,あらゆる政策及び計画の中心にジェンダーの視点を据える,積極的で目に見える政策を促進するべきである。
戦略目標C.1. ライフサイクルを通じ,適切で,手頃な料金の良質の保健,情報及び関連サービスへの女性のアクセスを増大すること
取るべき行動
106. 非政府機関,使用者団体及び労働者団体と協力し,国際機関の支援を受けて政府により:
(a) 少女及びあらゆる年齢の女性の保健ニーズを満たすために,「国際人口・開発会議」の報告書の中で明らかにされている,「国際人口・開発会議」の「行動計画」及び「社会開発サミット」(注15)の「社会開発に関するコペンハーゲン宣言及び行動計画」の中でなされた誓約,「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の締約国の義務その他関連の国際的合意を支援し実施すること。
(b) 達成可能な最高水準の身体的・精神的健康を享受する権利を再確認し,女性及び少女のこの権利の達成を守り促進するとともに,例えば国内法に盛り込み,女性の健康への関与を反映するとともに女性の居住場所の如何を問わず,変わりゆく女性の役割と責任に確実に対応できるものにするため,保健法規を含む既存の法律及び必要な場合には,政策を見直すこと。
(c) 女性の一生を通じたニーズに対処し,女性のいくつもの役割と責任,女性の時間の必要,農村女性や障害を持つ女性の特別なニーズ,並びにとりわけ,年齢,社会・経済的並びに文化的な相違から生じる女性のニーズの多様性を考慮に入れた,地方分権化した保健サービスを含む,ジェンダーに配慮した保健計画を,女性団体及び地域に基盤を置く組織と協力して企画・実施すること。保健医療の優先事項及びプログラムの認定及び立案に女性,特に地元及び先住民女性を参加させること。女性への保健サービスを阻むあらゆる障害を除去し,広範な保健サービスを提供すること。
(d) 全ライフサイクルを通じて男性と平等な社会保障制度へのアクセスを女性に与えること。
(e) 「国際人口・開発会議」の「行動計画」の中で合意されているように妊産婦及び産科救急医療に特別の注意を払う,家族計画の情報及びサービスを含む性に関する健康及びリプロダクティブ・ヘルスについてのケアも含めた,利用・入手がもっと容易で料金が手頃で質の高いプライマリー・ヘルスケア・サービスを提供すること。
(f) ジェンダーに配慮し,対人関係やコミュニケーションの技術についての利用者の視点及びプライバシーや秘密保持に対する利用者の権利を反映したものになるよう,健康情報,保健サービス及び保健従事者のための訓練を計画し直すこと。これらのサービス,情報及び訓練は,全体論的アプローチに基づくべきである。
(g) 責任ある自発的なインフォームド・コンセントの確保を目指す,女性への保健サービスの提供に当たって,すべての保健サービス及びその従事者が人権に則り,倫理的かつ専門的でジェンダーに配慮した基準を遵守するよう保障すること。また,既存の国際的医療倫理規範のみならず,他の保健専門家を律している倫理原則に倣った倫理規範の開発,実施及び普及を奨励すること。
(h) 女性に対する有害かつ医学的に不要な,又は強制的な医療の介入,並びに不適切かつ過剰な投薬を撤廃するために,あらゆる適切な措置を講じ,また,適切な訓練を施された職員から,すべての女性に対し,見込まれる利益と副作用の可能性などについて,自らの選択に関して,十分知らされるよう保障すること。
(i) 女性及び少女のための良質な保健サービスへの普遍的なアクセスを保障するため,保健サービス,特にプライマリー・ヘルスケアを強化して方向修正をすること。健康障害及び妊産婦の罹病率を減らして,2000年までに妊産婦死亡率を1990年の水準の少なくとも50パーセント減少させ,2015年までに更に2分の1減らすという合意目標を世界的に達成すること。また,健康に関する制度の各レベルにおいて,必要なサービスが利用できるよう保障し,プライマリー・ヘルスケア制度を通じて,リプロダクティブ・ヘルスケアが,できるだけ早く,遅くとも2015年までに,適切な年齢のすべての個人に利用できるようにすること。
(j) 「国際人口・開発会議」の「行動計画」のパラグラフ8.25で合意されているように,危険な妊娠中絶の健康への影響を主要な公衆衛生上の問題として認め,対処すること。
(k) 「国際人口・開発会議」の「行動計画」のパラグラフ8.25は,以下のように述べている。「いかなる場合も,妊娠中絶を家族計画の手段として奨励すべきでない。全ての政府,関連政府間組織及びNGOは,女性の健康への取り組みを強化し,安全でない妊娠中絶(注16)が健康に及ぼす影響を公衆衛生上の主要な問題として取り上げ,家族計画サービスの拡大と改善を通じ,妊娠中絶への依存を軽減するよう強く求められる。望まない妊娠の防止は常に最優先課題とし,妊娠中絶の必要性をなくすためにあらゆる努力がなされなければならない。望まない妊娠をした女性には,信頼できる情報と思いやりのあるカウンセリングが何時でも利用できるようにすべきである。健康に関する制度の中で,妊娠中絶に関わる施策の決定またはその変更は,国の法的手順に従い,国または地方レベルでのみ行うことができる。妊娠中絶が法律に反しない場合,その妊娠中絶は安全でなければならない。女性が妊娠中絶による合併症に対しては,いかなる場合も女性が質の高いサービスを利用できるようにしなければならない。また,妊娠中絶後にはカウンセリング,教育及び家族計画サービスが即座に提供される必要があるが,それらの活動は妊娠中絶が繰り返されることを防ぐことにも役立つ。」違法な妊娠中絶を受けた女性に対する懲罰措置を含んでいる法律の再検討を考慮すること。
(l) 少女のニーズ,特に運動を含む健全な行動の促進に特別の注意を払うこと。乳児及び幼児の死亡率の減少という国際的合意目標 ― 具体的には,2000年までに乳児及び5歳未満児の死亡率を1990年の水準の3分の1減少させるか,1,000人の出生に対し50から70までの死亡率の,いずれかより低いものに減らし,2015年までに,乳児死亡率を1,000人の出生に対し35未満,5歳未満児の死亡率を45未満に減少すること ― を達成する。少女が不利な罹病率及び死亡率における性別格差を埋めるための明確な施策を講じること。
(m) 子どもから成人への健全な移行を促進するために,少女が成熟に伴って必要とする保健及び栄養に関する情報及びサービスへの継続的なアクセスを少女に保障すること。
(n) 女性が加齢に関連する変化を理解しそれに適応するのを助け,また,身体的あるいは精神的に介護が必要な人々に特に注意を払いつつ,高齢女性の保健ニーズに取り組み,対処するための情報,プログラム及びサービスを開発すること。
(o) いかなる形態であれ障害を持つ,少女及びあらゆる年齢の女性に支援サービスを受けることを保障すること。
(p) 妊娠中及び授乳中の女性に配慮しつつ,家庭,職場その他あらゆる場所における仕事に関係した環境的及び職業的な健康障害の軽減及び根絶のために必要な特別の政策を策定し,プログラムを企画し,法律を制定すること。
(q) 精神面の保健サービスをプライマリー・ヘルスケア体制又はその他の適切なレベルに組み込み,支援プログラムを開発し,いかなる形態であれ暴力,特に家庭内暴力,武力及び非武力的紛争から起きる性的虐待又はその他の虐待を経験してきた少女及びあらゆる年齢の女性を認識し,世話をする訓練をプライマリー・ヘルスケアの担当者に与えること。
(r) 母乳の利益に関する広報を促進し,WHO(世界保健機関)/ユニセフの「母乳代替品の企業活動に関する国際規範」を完全に実施する方法及び手段を検討し,法的,経済的,実戦的及び情緒面での支援の提供によって,母親が母乳で子どもを育てることを可能にすること。
(s) 非政府機関,特に女性団体,専門家団体及び少女及び女性の健康向上のために働くその他の機関を支援し,適当な場合,政府の政策決定及び計画立案,並びにあらゆるレベルの保健部門及び関連部門内部における実施に参加させる仕組みを確立すること。
(t) 女性の健康のために働いている非政府機関を支援し,保健に影響するすべての部門間の調整・協力を改善するためのネットワークの開発を助けること。
(u) 薬品の調達を合理化し,WHOの模範基本薬品リストを手引きに用いて高品質の薬品,避妊薬(具)その他の医療品及び機器の信頼できる継続的な供給を確保するとともに,国内の規制的な薬品認可手続を通じて,薬品及び医療具の安全性を確保すること。
(v) 女性薬物乱用者とその家族のための適切な治療及び社会復帰訓練サービスへのアクセスの提供を改善すること。
(w) 適当な場合,家庭及び国内の食糧安定を促進・保障し,栄養における性別格差に特別な注意を払いつつ,2000年までに5歳未満児の重度及び中等度の栄養失調を,世界的に1990年の水準の2分の1減らすこと,及び2000年までに少女及び女性の鉄欠乏性貧血を1990年レベルの3分の1減らすことを含む,「国際栄養会議の行動計画」(注17)でなされた公約の実施によって,すべての少女及び女性の栄養状態の改善を目指すプログラムを実施すること。
(x) 安全な飲料水と下水設備がだれにでも利用できるよう保障し,効果的な公共給配網をできるだけ早く設置すること。
(y) 先住民女性に対し,保健のインフラストラクチャー(施設)及びサービスへの完全かつ平等なアクセスを保障すること。
戦略目標C.2. 女性の健康を促進する予防的プログラムを強化すること
取るべき行動
107. 適当な場合,非政府機関,マスメディア,民間部門及び国連機関を含む関連国際機関の協力を得て,政府により:
(a) 女性が自尊心を育み,知識を獲得し,自らの健康に対して意思決定を行い,責任を取ることができるよう支援し,性及び出産に関する事柄における男女相互の尊重を達成し,また,女性の健康及び安寧の重要性について男性を教育する,フォーマル及びインフォーマル双方の教育計画を優先すること。その際には,女性器の切除,(女の乳児殺しや胎児期の性の選別を招く)息子志向,幼児婚を含む若年結婚,女性に対する暴力,性的搾取,時としてHIV/AIDSその他の性感染症への感染をもたらす性的虐待,麻薬乱用,食糧配分における少女及び女性への差別,並びに女性の生命,健康及び安寧に関連したその他の有害な態度及び慣行の撤廃を強調する男女双方のためのプログラムに特別な重点を置くとともに,これらの有害な慣行のいくつかは人権侵害や医学の倫理原則への背反になりかねないことを認識すること。
(b) 女性の不健康への陥りやすさを軽減し,その健康を増進させるために,女性の貧困の根絶を目的とする社会政策,人間開発政策,教育政策及び雇用政策を追求すること。
(c) 男性に対し,育児及び家事を平等に分担し,別居の場合であっても,家族に対する自らの応分の財政的支援を行うよう奨励すること。
(d) 法律を強化し,制度を改革するとともに,女性への差別を撤廃し,自らの性と生殖に関する行動に責任を取ることを女性と男性の双方に奨励する規範及び慣行を促進すること。完全な一体としての人間の体に対する敬意を保障すること。女性がリプロダクティブ・ライツを行使するために必要な条件を確保するための行動を取ること。強制的な法律及び慣行を撤廃すること。
(e) 情報へのアクセス,プライバシー,秘密保持,敬意及びインフォームド・コンセントに対する子どもの権利とともに,子どもが,「児童の権利に関する条約」に認められ,また「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」に沿った権利を行使する際に,発達する子どもの受容能力に合わせて適切な指導及び手引きを与える,親及び法律上の保護者の責任,権利及び義務を考慮しつつ,公衆衛生キャンペーン,メディア,信頼できるカウンセリング及び教育制度を通じて,女性と男性,特に若い人たちが自らの健康に関する知識,特にセクシュアリティーと生殖に関する情報を得られるように保障するための入手しやすい情報を準備し普及すること。子どもに関するすべての行動においては,子どもの最良の利益がまず第一に考えられるよう保障すること。
(f) 少女及びあらゆる年齢の女性が男性や少年と同じようにできるスポーツ,運動及びレクリエーションに参加する機会を作るため,教育制度,職場及び地域社会においてプログラムを案出し,支援すること。
(g) 上記のパラグラフ107(e)に述べたような子どもの権利及び親の責任,権利及び義務を考慮しつつ,思春期の若者の特有なニーズを認識し,性に関する健康およびリプロダクティブ・ヘルス問題についての,また,HIV/AIDSを含む性感染症についての教育及び情報のような特定かつ適切なプログラムを実施すること。
(h) 保健及び社会サービスから十分な支援とプログラムを提供することによって,家庭及び地域内でいくつもの役割を担う女性への不均衡かつ増大する重荷を減らす政策を開発すること。
(i) 保健制度のあらゆるレベルにおいて,女性が効率的に働くことができるように,報酬や昇進を含む女性の労働条件が非差別的であり,公正かつ職業的な基準にかなうよう保障するための規則を採用すること。
(j) 保健及び栄養に関する情報並びに訓練が,あらゆる成人識字プログラム及び初等レベルからの学校の教育課程の不可欠な一部をなすよう保障すること。
(k) 女性及び少女に薬物の乱用及び常用がもたらす健康上及び関連の危険性について知らせるメディア・キャンペーン及び情報・教育プログラムを開発並びに開始し,薬物乱用及び常用をやめさせ,社会復帰と回復を促進する戦略及びプログラムを追求すること。
(l) 圧倒的に女性がかかる骨粗鬆症の予防,診断及び治療のための総合的で一貫したプログラムを考案し,実施すること。
(m) 乳がん,子宮頸がん及びその他の生殖器官系がんの予防,早期発見及び治療に取り組む,メディア・キャンペーンを含むプログラム及びサービスを創設及び/又は強化すること。
(n) 特に貧しい地域及び地域社会において健康への脅威を増しつつある環境の危険を減らすこと。リオ・デ・ジャネイロの「国連環境開発会議」(注18)で採択された「環境と開発に関するリオ宣言」で合意されているような予防的アプローチを採用し,環境に関連する女性の健康の危機についての報告を「アジェンダ21」(注19)の実施の監視の中に入れること。
(o) 喫煙から生じる深刻だが予防可能な危険,及び重要な健康促進・疾病予防活動として喫煙を減らすための規制的及び教育的施策の必要性に関する認識を,女性,保健専門家,政策決定者及び一般大衆の間に作り出すこと。
(p) 医学校教育課程その他の保健医療訓練に,女性の健康に関する,ジェンダーに配慮した包括的な必修課程を含めること。
(q) 例えば性的虐待・搾取,人身売買及び暴力のような,いかなる虐待からも女性,若者及び子どもを守るために,法律の制定・施行を含む明確な防止策を採用するとともに,法的保護,医学的及びその他の支援を提供すること。
戦略目標C.3. 性感染症,HIV/AIDS及び性に関する健康とリプロダクティブ・ヘルス問題に対処する,ジェンダーに配慮した先導的事業に着手すること
取るべき行動
109. 政府,関係国連機関を含む国際機関,二国間機関,多国間援助機関及び非政府機関により:
(a) 女性,特にHIV/AIDS若しくはその他の性感染症に感染した,又はHIV/AIDSに冒された人々を,HIV/AIDSその他の性感染症に対する政策及び計画の開発,実施,監視及び評価に関するすべての意思決定に関与させるよう保障すること。
(b) 適当な場合,HIVその他の性感染症への女性の感染しやすさを助長する可能性のある法律及び慣行を,それらの社会文化的慣行を阻む法律の制定を含めて見直し,法律は改め,慣行に対しては闘うこと。また,女性,思春期の女性や少女をHIV/AIDSに関連した差別から守る法律,政策及び制度的慣行を実施すること。
(c) 公共部門を含む社会のあらゆる部門並びに国際機関に対し,感染者個人の権利を守る,思いやりがあり支援的で非差別的なAIDS/HIV関連政策及び慣行を開発するよう奨励すること。
(d) 感染した女性が,旅行中も含め,指弾や差別を受けないようにするため,女性に及ぼしている影響を特に考慮して,自国におけるHIV/AIDSの広がりの程度を認識すること。
(e) 女性及び少女の社会的な従属状態に終止符を打ち,彼女たちの社会的及び経済的エンパワーメントと平等を保障するための,ジェンダーに配慮した,多部門にわたる計画及び戦略を開発すること。男性を教育し,HIV/AIDSその他の性感染症を防ぐ自らの責任を引き受けることができるようにするプログラムの促進を助長すること。
(f) あらゆる年齢の女性をHIVその他の性感染症から守るために,地域社会戦略の開発を促進すること。感染した少女や女性及びその家族に医療と支援を提供し,HIV/AIDSの広がりに応じて,時宜にかなった,効果的かつ持続可能でジェンダーに配慮した対応を迫るために,すべての責任当局に圧力をかけるよう地域社会のあらゆる方面を動員すること。
(g) 主要な介護者となっている女性への資源及び便宜の提供,又はHIV/AIDSの感染者,発症者及び遺族,特に子どもと高齢者への経済的支援を含む,HIV/AIDSその他の性感染症に対する,ジェンダーに配慮した政策及び計画を創始し,改善する国の能力を支援し強化すること。
(h) 親,意思決定者,並びに宗教的権威や伝統的な権威者を含む地域社会のあらゆるレベルのオピニオン・リーダーに対し,HIV/AIDSその他の性感染症の予防,並びにあらゆる年齢の女性及び男性双方への影響に関するワークショップ及び専門教育及び訓練を提供すること。
(i) すべての女性及び保健従事者に対し,HIV/AIDSを含む性感染症,妊娠及び母乳哺育を含む乳児に関するあらゆる関連情報及び教育を提供すること。
(j) 女性及び公式・非公式な女性の組織が効果的な同輩教育(ピア・エデュケーション)プログラム及び普及プログラムを新設し拡大し,また,これらのプログラムの企画,実施及び監視に参加するのを支援すること。
(k) 互いに尊敬し合う公平な男女関係の促進,及び特に,思春期の若者が前向きかつ責任ある姿勢で自らの性に対処できるようにするため,彼らの教育及びサービスへのニーズを満たすことに全面的な配慮をすること。
(l) 上記のパラグラフ107で言及した親の役割を認識しつつ,とりわけ性的節制及びコンドームの使用による男性側の自発的で適切かつ有効なHIV/AIDSその他の性感染症予防法を含む,安全で責任ある性と生殖に関する行動についての完全かつ正確な情報の提供を目的とする,あらゆる年齢の男性及び思春期の少年のための特別なプログラムを立案すること。
(m) プライマリー・ヘルスケア制度を通じて,HIV/AIDSを含む性感染症に関する,適切かつ料金が手頃な予防サービスへの個人及びカップルの普遍的なアクセスの提供を保障するとともに,女性のためのカウンセリング及び任意かつ秘密を守る診断・治療サービスの提供を拡大すること。可能な場合には,性感染症の治療薬とともに高品質のコンドームが公共医療に供給・分配されるよう保障すること。
(n) 女性の方がHIV感染の危険が高いという事実は,麻薬の静脈注射及び麻薬に影響された,無防備で無責任な性行動を含む危険率が高い性行動に関連していることを認識したプログラムを支援し,適切な予防措置を講じること。
(o) HIV感染その他の性感染症を予防するために,女性がHIV/AIDSを含む性感染症から身を守る力をつける戦略,並びに女性に対する介護,支援及び治療の方法に関する,女性が管理し,手頃な料金の行動志向の研究を支援・促進するとともに,そのような研究のあらゆる局面への女性の関与を保障すること。
(p) 女性のHIV感染その他の性感染症に関する研究,例えば精子を殺さない殺菌剤など女性が管理する防御法,及び男女双方の危険を招く態度及び習慣に関する研究を含む,女性のニーズと状況に対処する研究を支援し,開始すること。
戦略目標C.4. 女性の健康に関する研究を促進し,情報を普及すること
取るべき行動
109. 政府,国連システム,保健専門家,研究機関,非政府機関,援助機関,薬品業界,及び適当な場合,マスメディアにより:
(a) 研究者を訓練するとともに,諸要素の中でも特に性,年齢その他の確立した人口統計学上の基準別及び社会経済的な変数別に収集・分析・分類されたデータを,適当な場合,政策決定,立案,監視及び評価において利用することのできる制度を導入すること。
(b) ジェンダーに配慮した女性中心の健康研究,治療及び技術を促進し,女性が情報を与えられた上で責任ある意思決定を行えるよう,情報を女性に入手可能なものにするため,伝統的知識及び先住民の知識と現代医学とを結びつけること。
(c) できる限り早い時期に平等を達成するために,研究者及び科学者を含む保健分野の指導的地位に女性の数を増加すること。
(d) 女性の健康問題に関する予防的,適切な生物医学的,行動学的,疫学的及び公共医療の研究に対し,また,ジェンダー及び年齢に基づく不平等の影響を含む女性の健康問題,特に慢性及び非伝染性の病気,中でも心臓血管の病気及び症状,癌,生殖器の感染及び損傷,HIV/AIDSその他の性感染症,家庭内暴力,職業上の保健,障害,環境関連の健康問題,熱帯病及び加齢の健康面などに関わる問題の,社会的,経済的及び政治的な原因と結果に関する研究に対し,あらゆる提供源からの財政的その他の支援を増大すること。
(e) 女性が自らの健康に関して,情報を与えられた上で意思決定ができるよう,女性に対し,生殖器官の発癌や感染の危険を増す要因に関する情報を提供すること。
(f) ジェンダーに基づく不平等が,病因学,疫学,サービスの提供及び利用,並びに最終的な治療結果を含む女性の健康に及ぼす影響に関する社会的,経済的,政治的及び文化的研究を支援し,資金を提供すること。
(g) サービス供給へのアクセスを強化し,その質を改善し,健康管理者としての女性への適切な支援を確保し,女性への保健サービスの提供のパターンとそのようなサービスの女性による利用のパターンを検討するために,保健サービス制度及びオペレーションズ・リサーチ(定量的運営研究)を支援すること。
(h) 男女双方のための自然の家族計画を含む,より安全かつ効果的で料金が手頃で満足できる出産調節方法,HIV/AIDSその他の性感染症から身を護る防御法,及びとりわけ,このような病気の簡単で安価な診断法を含む,女性と男性のリプロダクティブ・ヘルス及び性に関する健康のための安全で効果的で料金が手頃で満足できる方法及び技術に関する研究に対し,財政的及び制度的支援を提供すること。この研究は,すべての段階で利用者によって,かつジェンダーの視点,特に女性の視点から導かれる必要があり,また,生物医学研究に対する国際的に承認された法的,倫理的,医学的及び科学的基準を厳密に守って実施されるべきである。
(i) 危険な妊娠中絶(注16)は女性の健康と生命にとって大きな脅威であるため,中絶の合併症の治療及び中絶後のケアに関する研究とともに,その後の出産能力,リプロダクティブ・ヘルス及び精神面の健康並びに避妊の実践に対する影響を含む,誘発中絶の決定要因と結果を理解し,よりよく対処するための研究が促進されるべきである。
(j) 伝統的な健康管理の価値を保存し,保健サービスの提供に組み込むために,有益な伝統的健康管理,特に先住民女性が実践するそれを認めて奨励するとともに,この目的を達成するための研究を支援すること。
(k) 利用できるデータ及び研究結果を評価し,研究者,政策策定者,保健専門家,及び特に女性団体に普及するための仕組みを開発すること。
(l) ヒト・ゲノム(訳注:人間が持っているDNAの総体)及び関連の遺伝子研究を女性の健康の視点から監視し,情報,及び承認された倫理基準に従って行われた研究の結果を普及すること。
戦略目標C.5. 女性の健康のための資源を増加し,フォロー・アップを監視すること
取るべき行動
110. あらゆるレベルの政府により,また,適当な場合,非政府機関,特に女性団体及び青年団体の協力を得て,:
(a) 第2・第3段階に対しても十分な支援を行いつつ,プライマリー・ヘルスケア及び社会的サービスへの予算配分を増加し,少女及び女性のリプロダクティブ・ヘルス及び性に関する健康に特別な配慮を払い,農村地域及び都市貧困区域の保健プログラムを優先すること。
(b) 地域社会の参加及び地方融資の促進を通じて,保健サービスに対する資金提供への革新的なアプローチを開発すること。必要な場合には,地域の保健センター及び女性の特別な保健ニーズに対処する地域基盤の計画及びサービスのための予算配分を増加すること。
(c) ジェンダーに配慮し地域に基盤を置く,参加とセルフケア(自己管理)の組み込み,及び特別に企画された予防保健計画を促進する,地方保健サービスを開発すること。
(d) 適当な場合,女性の健康を改善するための,また性,年齢その他の人口統計学上の確立された基準別,及び社会経済的な変数によって分類された質的・量的なデータを用いたジェンダーへの影響評価に基づいて計画を立案,実施,監視及び評価するための目標とそのタイム・フレーム(達成期限)を開発すること。
(e) 適当な場合,女性の保健政策・計画の改革の実施を監視する省内及び省庁間の機構を適切に設置し,また,適当な場合,女性の健康問題が関連するすべての政府官庁及び計画の中で中心に置かれるよう監視する責任を持つ高級レベルのフォーカル・ポイント(中心拠点)を国家計画当局内に設置すること。
111. 適当な場合,政府,国連,国連専門機関,国際金融機関,二国間援助機関及び民間部門により:
(a) 女性の健康への投資に有利な政策を策定し,適当な場合,そのような投資への資金配分を増加すること。
(b) 性に関する健康及びリプロダクティブ・ヘルスを含む保健分野における青年の関心問題に対処するよう,青年の非政府機関を強化するために,適切な物質的,財政的及び後方業務的支援を彼らに提供すること。
(c) 女性の健康により高い優先順位を与え,進展を保障するために,本行動綱領及び関連の国際的合意の保健目標を調整し実施する機構を開発すること。
第Ⅳ章 戦略目標及び行動
D 女性に対する暴力
112. 女性に対する暴力は,平等,開発及び平和という目標の達成を阻む障害である。女性に対する暴力は,女性による自らの人権及び基本的自由の享受を侵害するとともに,これらを減じ,又は無にする。女性に対する暴力の問題における上記の権利と自由の保護・促進に対する長年の怠慢は,あらゆる国家の懸案事項であり,対処が必要である。その原因と結果に関する知識は,その発生率及び対策とともに,ナイロビ会議以来,著しく増大してきた。あらゆる社会において,女性及び少女は多かれ少なかれ,収入,階級及び文化の境界を越えて,肉体的,性的及び心理的虐待にさらされている。女性の社会的及び経済的に低い地位は,女性に対する暴力の原因にも結果にもなり得る。
113. 「女性に対する暴力」という言葉は,起きる場所の公私を問わず,女性に肉体的,性的又は心理的な傷害若しくは苦しみをもたらす,若しくはもたらすおそれのある,ジェンダーに基づくいかなる暴力行為をも意味し,そのような行為をすると脅すこと,強制又は自由の恣意的な剥奪をも含む。したがって,女性に対する暴力は以下のものを包含するが,これらだけに限られるものではない。
(a) 家庭内の女児に対する殴打や性的虐待,持参金に関した暴力,夫婦間のレイプ,女性器の切除やその他女性に有害な伝統的習慣,配偶者以外による暴力及び搾取絡みの暴力を含む,家庭内で起こる肉体的,性的及び心理的暴力。
(b) 職場,教育機関その他の場所におけるレイプ,性的虐待,セクシュアル・ハラスメント及び威嚇,並びに女性の人身売買及び強制売春を含む,地域社会全般で起こる肉体的,性的及び心理的暴力。
(c) 起きる場所の如何を問わず,国家が犯し又は許す肉体的,性的及び心理的暴力。
114. 女性に対するその他の暴力行為には,武力紛争下における女性の人権の侵害,特に殺人,組織的レイプ,性的奴隷化及び強制妊娠がある。
115. 女性に対する暴力行為には,また,強制的な不妊化及び強制的な妊娠中絶,避妊薬の強制的使用,女の乳児殺し及び胎児期の性選別もある。
116. 少数民族・人種のグループに属する女性,先住民女性,難民女性,女性移住労働者を含む移住女性,農村地域又は僻地で暮らす貧困女性,貧窮女性,施設に収容中又は拘留中の女性,女児,障害を持つ女性,高齢女性,避難民女性,本国帰還女性,貧困の中で暮らす女性,並びに人質をとることも含め,武力紛争,外国の占領,侵略戦争,内戦及びテロリズムの状況下にある女性など,いくつかのグループの女性も特に暴力を受けやすい。
117. 家庭内のものであれ地域社会で起きるものであれ,又は国家が犯す若しくは許すものであれ,暴力行為又は暴力を振るうというおどしは,女性の生活に恐怖と不安を植えつけ,平等の達成を阻み,また開発及び平和の障害になっている。嫌がらせを含む暴力の恐怖は,女性の機動性に対する永遠の束縛であり,資源及び基本的な活動への女性のアクセスを制限する。個人と社会が負わされる社会,保健及び経済面の高いコストは,女性に対する暴力と関連している。女性に対する暴力は,女性を男性と比べて従属的な地位に追い込んでいる重大な社会的仕組みの一つである。多くの場合,女性及び少女に対する暴力は家族間又は家庭内で起こるが,そこではしばしば暴力が黙認される。家族その他の同居人による女児及び女性に対する無視,身体的・性的虐待及びレイプ,並びに夫婦間及び非夫婦間の虐待の発生は,しばしば通報されず,それゆえに発見しにくい。そのような暴力が通報された場合ですら,被害者の保護又は加害者の処罰は怠られることが多い。
118. 女性に対する暴力は,歴史的に不平等な男女の力関係の表われであり,それは男性による女性への支配と差別に導き,女性の完全な地位向上を妨げてきた。全ライフサイクルを通じた女性への暴力は,基本的には,文化様式,特に,家庭,職場,地域及び社会において女性に与えられた男性より低い地位を永続させる,伝統的若しくは慣習的慣行,及び人種,性,言語又は宗教と関連する過激主義のあらゆる行為の有害な影響から生じる。女性に対する暴力は,女性に対し行われてきた特定の行為への非難を恥とすることに顕著に見られる社会的圧力,女性の法的な情報,支援又は保護へのアクセスの欠如,女性に対する暴力を効果的に禁ずる法律の欠如,既存の法律を改正することへの怠慢,既存の法律に対する認識の促進とその施行に向けた政府当局の努力不足,及び暴力の原因と結果に対処するための教育的その他の手段の欠如によって助長されている。メディアにおける女性への暴力描写,特にレイプまたは性的奴隷状態を描いたものが,ポルノグラフィなど,女性及び少女をセックスの対象物として扱うやり方とともに,後を絶たない暴力の横行を助長する要因で,地域社会全般,特に子どもと若者に悪影響を及ぼしている。
119. 女性に対する暴力のない家庭,地域社会及び国を促進するというやり甲斐のある課題への,多くの学問領域にわたる全体論的アプローチの開発は,必要であり,かつ達成できることである。女性と男性の間の平等,協力及び人間の尊厳に対する敬意は,社会化の過程のあらゆる段階に浸透しなければならない。教育制度は,自己矜持,女性と男性の間の互いへの尊敬及び協力を促進すべきである。
120. 暴力の発生に関する男女別の十分なデータと統計の欠如が,入念な計画の策定と変化の監視を困難にしている。家庭内暴力,職場を含む公私の場におけるセクシュアル・ハラスメント,並びに女性及び少女に対する暴力に関する資料及び調査研究の欠如または不足が,明確な介入戦略を企画しようとする取組みを妨げている。女性と男性はあらゆる形態の暴力に打ち勝つために動員することができ,また,暴力の原因と結果の双方に対処するための有効な公的措置が取られ得ることは,いくつもの国の経験が示すところである。ジェンダーに基づく暴力に対決して結集する男性団体が,変革のために必要な同盟者なのである。
121. 紛争下及び非紛争下の双方において,往々にして女性は権力を持つ立場にある者が犯す暴力を受けやすい。すべての公務員に人道法及び人権法の訓練を施し,女性に暴力行為を加えた者を処罰するならば,警察官,刑務官及び保安部隊を含む,女性が信頼を置き得てしかるべき公務員の手によってそのような暴力が起きることのないよう保障する一助になるだろう。
122. セックス産業に向けた女性及び少女の人身売買の効果的な抑止は,火急の国際的関心事である。1949年の「人身売買及び他人の売春による搾取の禁止に関する条約」(注20)その他の関連文書の実施状況を見直して,強化する必要がある。国際的な売春及び人身売買網における女性の利用は,国際的組織犯罪の重要な焦点になっている。女性及び少女の人権及び基本的自由に対する侵害の追加原因としてこれらの行為を調査した女性に対する暴力に関する「人権委員会特別報告者」には,その権限内で,強制売春,レイプ,性的虐待及びセックスツアーの問題とともに,セックス産業のための国際的人身売買の問題にも緊急事項として対処することが懇請される。この国際的取引の犠牲者である女性及び少女は,望まない妊娠,HIV/AIDSへの感染を含む性感染症とともに,更なる暴力の一層の危険にさらされている。
123. 女性に対する暴力に対処するに当たり,政府及びその他の行為者は,決定が下される前に,それらが女性及び男性それぞれに及ぼす影響の分析がなされるよう,あらゆる政策及び計画の中心にジェンダーの視点を据える,積極的で目に見える政策を促進すべきである。
戦略目標D.1. 女性に対する暴力を防止し根絶するために,総合的な対策を取ること
取るべき行動
124. 政府により:
(a) 女性に対する暴力を非難し,慣習,伝統又は宗教的配慮を理由に,「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」に述べられた暴力廃絶に関する自国の義務を回避しないこと。
(b) 女性に対する暴力に携わることをやめ,国家によって行われるものであれ私人の犯行であれ,女性に対する暴力行為を防止し,調査し,国内法に則って処罰するよう,しかるべき義務を履行すること。
(c) 家庭,職場,地域,又は社会であれ,またその形態を問わず暴力を受けた女性及び少女に対する不正を処罰し是正するために,国内法における刑事,民事,労働及び行政上の制裁を制定及び/又は強化すること。
(d) 暴力の予防及び加害者の訴追に重点を置きつつ,女性に対する暴力を廃絶する上でのその有効性を確保するため,法律を制定及び/又は実施し,定期的に見直し,分析すること。暴力を受けた女性の保護,被害者に対する補償,賠償及び治癒へのアクセスを含む公正かつ有効な救済方法,並びに加害者の社会復帰訓練を保障するための措置を講じること。
(e) 「世界人権宣言」(注21),「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(注13),「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約」(注13)並びに「拷問禁止条約」(注23)に盛り込まれているものを含む,女性に対する暴力に関する国際的人権規範及び文書を批准及び/又は実施するよう積極的に努めること。
(f) 第11回女子差別撤廃委員会で採択された一般的勧告19(注23)を考慮に入れつつ,「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」を実施すること。
(g) 女性に対する暴力に関するあらゆる政策及び計画の中心にジェンダーの視点を据える積極的で目に見える政策を促進し,法執行官,警察職員,司法職員,医療従事者及びソーシャル・ワーカー,並びに少数民族,移住者及び難民の問題を扱う担当者など,これらの政策の実施に責任を持つ者の間の,女性に対する暴力の原因,結果及びメカニズムに関する知識と理解を増すための施策及びプログラムを積極的に奨励・支援・実施して,暴力の被害女性をジェンダーに無神経な法律又は司法若しくは執行慣行のために再び犠牲者にすることが起こらないよう保障する戦略を開発すること。
(h) 暴力を受けた女性に対し,司法機構へのアクセス,及び国内法で規定されている,被った被害に対する公正かつ有効な救済方法へのアクセスを提供するとともに,女性に対しそのような機構を通じて是正を求める際の彼らの権利を知らせること。
(i) 女性器の切除,女の胎児殺し,胎児期の性選別,及び持参金絡みの暴力といった女性に対する暴力的慣行及び行為の加害者を処罰する法律を制定し施行するとともに,非政府及びコミュニティ機関による,そのような慣行を撤廃する努力に強力な支援を与えること。
(j) あらゆる適切なレベルにおいて,女性に対する暴力を撤廃するための行動計画を策定し,実施すること。
(k) 男性及び女性の社会的及び文化的な行動パターンを修正し,男女いずれかの優劣の観念と固定観念化した男女の役割に基づいた偏見,慣習その他のあらゆる慣行を撤廃するために,特に教育分野においてあらゆる適切な施策を採用すること。
(l) 暴力行為を受けた場合に,女性及び少女が,処罰や報復のおそれのない安全で秘密の守られる環境で通報し,告訴することができるよう,制度的な仕組みを設置又は強化すること。
(m) 障害を持つ女性が,女性に対する暴力の分野における情報及びサービスへのアクセスを保障すること。
(n) 暴力の被害女性に対する公正な取り扱いが保障されるよう,女性に対する暴力につながる権力の濫用を斥け,ジェンダーに基づく暴力の行使と威嚇の性質に対する司法,法曹,医療,社会,教育,警察,及び入国監理の職員の感受性を養うための訓練プログラムを,適当な場合,創設,改良または開発し,並びに資金を提供すること。
(o) 任務の遂行過程で女性に対し暴力行為を行った,警察,保安部隊その他のいかなる国家公務員をも処罰する既存の法律を強化し,必要な場合には新たに制定すること。また,既存の法律を見直し,そのような暴力の加害者に対処する効果的な措置を講じること。
(p) あらゆる適切なレベルでの行動計画の実施に向けた資源も含め,女性に対する暴力根絶に関する活動のために,政府予算内で十分な資源を配分するとともに,地域社会の資源を動員すること。
(q) 国連の関連人権文書の規定に従って提出する報告書に,女性への暴力に関する情報と「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」を実施するために取った措置を含めること。
(r) 女性に対する暴力に関する人権委員会特別報告者が任務を遂行するに当たって協力及び支援し,要求されるすべての情報を提供すること。また,拷問に関する人権委員会特別報告者及び即決,非合法的及び恣意的処刑に関する人権委員会特別報告者など,女性に対する暴力に関して権限を持つ,その他の機構とも協力すること。
(s) 1997年に女性に対する暴力に関する特別報告者の任期が切れる際に,人権委員会がその更新をするよう勧告し,また,もし承認されれば,その権限を現状に即したものとし,かつ強化するよう勧告すること。
125. 地方政府を含む政府,地域団体,非政府機関,教育機関,公共部門及び民間部門,特に企業,並びに適当な場合,メディアにより:
(a) 暴力を受けた少女及び女性に対し,医療面,心理面その他のカウンセリング・サービスとともに十分な資金を与えられた避難所及び救援物資,さらに必要な場合には,無料または低料金の法的支援,並びに彼らが生計手段を見つけることができるようにするための適切な支援を提供すること。
(b) ジェンダーに基づく暴力の被害者になった,女性移住労働者を含む移住女性及び少女のために,言語的及び文化的に利用可能なサービスを設けること。
(c) 境遇につけ込んで利用することもある雇用主によって,受入れ国における自らの法的地位を左右されてしまう,女性移住労働者を含む移住女性の,暴力その他の形の虐待を受けやすい立場を認識すること。
(d) 女性への暴力の問題に関する意識を啓発し,その根絶に寄与する,世界中の女性組織及び非政府機関の率先活動を支援すること。
(e) 女性に対する暴力に関して,女性が自らの人権の享受に対する侵害として意識するよう啓発するために,地域社会に基礎を置く教育・訓練キャンペーンを組織し支援し,かつ資金を提供すること。また,ジェンダーに配慮する,適切な伝統的及び革新的な紛争解決法の利用に向けて,地域社会を動員すること。
(f) プライマリー・ヘルスケア・センター,家族計画センター,既存の学校保健サービス,母子保護サービス,移住家族のためのセンターなどのような中間的な施設が,虐待に関する情報及び教育の分野に果たす基本的役割を認識し,支援し,促進すること。
(g) 少女と少年並びに女性と男性に,家庭,地域社会及び社会における暴力の個人的,社会的な悪影響に対する感受性を養わせるための情報キャンペーン及び教育・訓練プログラムを編成し,資金を提供すること。暴力を伴わない意思疎通の仕方を彼らに教え,暴力の被害者及び潜在的な被害者のために,そのような暴力から自分自身と他を守られるようにする訓練を促進すること。
(h) 暴力の被害を受けた女性と家族が利用できる援助に関する情報を普及すること。
(i) 暴力の加害者に対するカウンセリング及び社会復帰訓練プログラムを提供し奨励し,資金を提供するとともに,そのような暴力の再発を防ぐために,そうしたカウンセリングと社会復帰訓練に関する取組みを進めるための研究を促進すること。
(j) 非固定的な女性及び男性像の促進と暴力を招くメディアの表現パターンの撤廃に対するメディアの責任について意識を啓発し,メディアの内容に責任のある人々に対して,職業的な指針及び行動規範を確立するよう奨励すること。また,女性に対する暴力の原因及び結果について人々に情報を与え,教育し,及びこの問題に関する一般大衆の議論の機運を盛り上げるメディアの重要な役割についての意識を啓発すること。
126. 適当な場合,政府,使用者,労働組合,地域団体及び青年団体,並びに非政府機関により:
(a) あらゆる教育機関,職場その他の場所においてセクシュアル・ハラスメントその他の暴力を撤廃するためのプログラム及び手続きを開発すること。
(b) 犯罪を構成し,女性の人権に対する侵害である,女性に対する暴力行為に関する意識を養い,高めるためのプログラム及び手続きを開発すること。
(c) 虐待的な関係に巻き込まれてきた,又は現に巻き込まれている少女,思春期の女性及び若い女性,特に虐待が起こる家庭又は施設で暮らす者たちのためのカウンセリング,治癒及び支援のプログラムを開発すること。
(d) 特に,若い女性,難民女性,避難民女性及び国内避難民女性,障害を持つ女性及び女性移住労働者など弱い立場にある女性に対する暴力を根絶するために,既存のいずれの法律をも施行し,適当な場合,送出し国,受入れ国の双方において,女性移住労働者のために,更に新たな法律を開発する措置も含め,特別な措置を講じること。
127. 国連事務総長により:
女性に対する暴力に関する人権委員会特別報告者に対し,必要なあらゆる支援,特に,委任されたあらゆる機能を遂行するために,なかでも個別に,又は他の特別報告者及び作業部会と共同で着手した任務の遂行とフォロー・アップに当たって,必要な人員及び資源,並びに女子差別撤廃委員会及びすべての条約機関との定期的な協議のための十分な支援を提供すること
128. 政府,国際機関及び非政府機関により:
国連高等弁務官事務所(UNHCR)の「難民女性の保護に関する指針」及び「難民に対する性暴力の予防及び対応に関する指針」の普及と実施を奨励すること。
戦略目標D.2. 女性に対する暴力の原因及び結果並びに予防法の効果を研究すること
取るべき行動
129. 適当な場合,政府,地域機関,国連その他の国際機関,研究機関,女性団体及び青年団体,並びに非政府機関により:
(a) 特に,さまざまな形態の女性に対する暴力の蔓延に関連する家庭内暴力について調査研究を促進し,データを収集し,及び統計をまとめ,女性に対する暴力の原因,性質,重大性及び結果,更にその予防と是正を目指して実施された措置の効果に関する調査研究を奨励すること。
(b) 調査及び研究結果を広範に普及すること。
(c) レイプなどの暴力が女性及び女児に及ぼす影響に関する調査研究を支援及び開始し,それによって得られた情報及び統計を一般の人々が利用できるようにすること。
(d) ジェンダーに基づいた暴力と不平等を助長する商業広告が永続させているものを含め,固定観念化した性別役割の影響,及びそのような固定観念がライフサイクルを通じていかに伝えられていくかを検討し,暴力のない社会を推進するために,これらのマイナス・イメージを撤廃するための措置を講じるようメディアに奨励すること。
戦略目標D.3. 女性の人身売買を根絶し,売春及び人身売買による暴力の被害女性を支援すること
取るべき行動
130. 適当な場合,送出し国,経由国及び送先国の政府,地域機関及び国際機関により:
(a) 人身売買及び奴隷化に関する国際諸条約の批准及び施行を検討すること。
(b) 女性の人身売買を根絶するために,女性及び少女の権利に対する保護の改善,及び刑事・民事双方の措置を通じた加害者の処罰を目的として既存の法律を強化することも含め,売春その他の形態の性の商品化,強制結婚及び強制労働を目的とした女性及び少女の人身売買を助長する,外的要因を含む根本原因に対処する適切な施策を講じること。
(c) 国内,地域及び国際人身売買網を解体するために,すべての関連法施行当局及び機関による協力と協調行動を促進すること。
(d) 職業訓練,法的支援及び秘密が保持された保健対策を通じるなど,人身売買の犠牲者を癒し,社会復帰させるために設計された包括的なプログラムを提供するために資源を配分し,また,人身売買の犠牲者に対して社会的,医学的及び心理的ケアを提供するために非政府機関と協力する施策を講じること。
(e) 若い女性及び子どもの保護に特別の重点を置いて,教育・訓練プログラム及び政策を開発し,セックスツアー及び人身売買の防止を目的とする法律の制定を考慮すること。
第Ⅳ章 戦略目標及び行動
E 女性と武力紛争
131. 国連憲章に言明された,領土保全又は政治的独立に対する武力による威嚇又は武力の不行使の原則,及び領土主権尊重の原則に従って,世界平和を維持し,人権,民主主義及び紛争の平和的解決を促進し保護する環境が,女性の地位向上のための重要な要因である。平和は,女性と男性の平等及び開発と解き離しがたく関連し合っている。武力その他の紛争及びテロリズム並びに人質を取る行為は,世界の多くの地域で未だに持続している。侵略,外国の占領,民族紛争及びその他の形態の紛争は,ほぼすべての地域で女性と男性に影響を及ぼしている進行中の現実である。目に余る組織的な人権の侵害と,人権の完全な享受を阻む重大な障害となる状況が,世界のさまざまな地域で起こり続けている。そのような侵害及び障害には,拷問及び残虐で非人道的で品位を傷つける扱い又は処罰,即決で恣意的な処刑,失踪,恣意的拘禁のほか,あらゆる形態の人種優越主義及び人種差別,外国の占領及び支配,外国人排斥,貧困,飢餓その他の経済的,社会的及び文化的権利の供与拒否,宗教的不寛容,テロリズム,女性への差別,並びに法律による統治の欠如が含まれる。文民に対する攻撃を禁じた国際人道法はそれ自体,時として組織的に無視され,人権は,文民,特に女性,子ども,高齢者及び障害者に影響を及ぼす武力紛争の状況と関連してしばしば侵害される。武力紛争下における女性の人権の侵害は,国際人権法及び人道法の基本原則の侵害である。特に集団虐殺,戦争の戦略としての民族浄化及び結果としの,戦争状況下における女性への組織的なものを含むレイプの形で,難民及び避難民の大量退去を生む重大な人権侵害は,強く非難され,また直ちにやめさせなければならない忌まわしい慣行である一方,そのような犯罪の加害者は処罰されなければならない。このような武力紛争状況のいくつかは,一国に対する他国による征服又は植民地化と,国家及び軍隊による抑圧を通じた,植民地状態の永続化に起因する。
132. 1949年の「戦時における文民の保護に関するジュネーブ条約」及び1977年のその追加議定書(注24)は,女性は特にその名誉へのいかなる攻撃,とりわけ,屈辱的で品位を傷つける扱い,レイプ,強制売春又はいかなる形の下劣な攻撃からも保護されるものとすることを規定している。世界人権会議で採択された「ウィーン宣言及び行動計画」はさらに,「武力紛争下における女性の人権の侵害は,国際人権法及び人道法の基本原則に対する侵害である」(注25)と述べている。特に殺人,組織的なものを含むレイプ,性的奴隷化及び強制的妊娠を含めた,この種のあらゆる侵害には,格別に効果的な対応が必要である。人権の完全な享受に対する深刻な障害をなす集団的,組織的侵害及び状況は,引続き世界の各地に発生している。それらの侵害及び障害は,拷問,冷酷で非人間的な,また,下劣な取扱い,又は略式及び恣意的拘禁やあらゆる形の人種的偏見,差別,外国人嫌い,経済的,社会的及び文化的権利の否定や宗教的不寛容を含んでいる。
133. 武力紛争及び軍事占領下における人権侵害は,国際人権文書並びに1949年のジュネーブ条約及びその追加議定書に具体化されている国際人権法及び人道法の基本原則の違反である。戦争に引き裂かれ,占領された地域における目に余る人権侵害と民族浄化政策が,引続き行われている。これらの慣行は,なかでも,大量の難民及び国際的保護を必要とするその他の避難民,並びに国内避難民を生み出してきたが,その大半は女性,思春期の少女及び子どもである。殆どが女性と子どもである文民犠牲者は,しばしば戦闘員の死傷者の数を凌ぐ。加えて,女性は負傷兵の看護者になることが多く,また,紛争の結果として,思いもよらず一家の唯一の管理者,ひとり親及び高齢の親族の介護者の立場にさせられる。
134. 不安定と暴力が継続する世界では,平和と安全への協同のアプローチの実施が早急に必要である。権力構造への女性の平等なアクセスと完全な参加,並びに紛争の予防及び解決に向けたあらゆる取組みへの女性の完全な関与が,平和と安全の維持及び促進にとって不可欠である。女性は,紛争解決,平和維持,及び防衛・外交機構において重要な役割を果たし始めているものの,意思決定の地位には未だ参加が不足している。もし女性が平和の確保及び維持に平等な役割を果たそうとするならば,政治的,経済的に力をつけて,あらゆるレベルの意思決定に十分に参加しなければならない。
135. 地域社会全体が武力紛争及びテロリズムの結果に苦しむが,女性及び少女は社会における地位と自らの性ゆえに格別に影響を被っている。しばしば,紛争当事者は処罰されることなく女性をレイプし,ときには戦争やテロリズムの一戦術として組織的なレイプを用いる。強制移住,家及び財産の喪失,近親者の死亡又は不本意の失踪,貧困,家族の別居及び離散という目に合い,また,特に民族浄化政策やその他の新たに台頭しつつある暴力形態の結果としての,武力紛争下における殺人,テロリズム,拷問,不本意の失踪,性的奴隷化,レイプ,性的虐待及び強制的妊娠の犠牲になるあらゆる年齢の女性たちが,そのような状況における女性に対する暴力及び女性の人権侵害の影響を被っているのである。この事態に,武力紛争並びに外国の占領及び支配が生涯にわたって残す社会的,経済的及び心理的なトラウマが加わる。
136. 何百万人にも上る世界の難民その他の国内避難民を含む避難民の約80パーセントは女性と子どもである。彼らは,財産,物資及びサービスの剥奪,故郷へ戻る権利の剥奪とともに,暴力と不安定にも脅かされている。恐怖と脅迫の組織的な作戦における迫害の一方法として用いられ,特定の民族,文化又は宗教グループのメンバーに故郷からの逃亡を強いる,根なし草の女性及び少女に対する性暴力に特別な注意が払われるべきである。女性はまた,性暴力又はその他のジェンダーに基づく虐待を通じた迫害を含む,1951年の「難民の地位に関する条約」及び1967年の議定書に挙げられた理由による迫害への十分に根拠のある恐怖の結果として逃亡を強いられることもあり,逃亡中も庇護国や再定住国で,又は本国へ帰還する途中及び帰還後も,引き続き暴力と搾取を受けやすい。庇護国によっては,女性がそのような迫害を根拠として難民の認定を申請しても,なかなか認められない場合も多い。
137. 難民,避難民及び移住女性はほとんどの場合,強さ,耐久力及び機略を発揮し,再定住国,又は帰還後は本国に積極的に寄与することができる。彼らは,自らに影響する決定に適切に関与する必要がある。
138. 多くの女性非政府機関が,世界的な軍事費の削減,並びに兵器の国際的な取引,売買及び拡散の削減を求めてきた。紛争や過剰な軍事支出によって最も悪影響を受けるのは,基本的サービスへの投資の欠如の故に恵まれない貧困層に属す人々である。貧困の中で暮らす女性,とりわけ農村女性もまた,特に殺傷力の強い兵器又は無差別な被害を与える兵器の使用によって苦しんでいる。今,世界の64か国において,1億個以上の対人地雷が散在している。過度な軍事支出,武器取引,並びに武器生産及び獲得のための投資が開発に及ぼす悪影響に対処しなければならない。同時に,国家安全保障及び平和の維持が,経済成長及び開発,並びに女性のエンパワーメントにとって重要な要因である。
139. 武力紛争と地域社会の崩壊の時期の,女性の役割はきわめて重大である。武力その他の紛争の真っ只中にあって,彼らはしばしば社会秩序の維持のために働く。女性は,家庭においても社会においても,平和教育者として,重要であるにもかかわらず,多くの場合認知されない寄与を行う。
140. 恒久的な平和の達成には,すべての国家及び国民に対する公正と寛容を守る平和の文化を育てる教育が不可欠であり,しかも,早い年齢で始めるべきである。その中には,紛争解決,仲介,偏見の緩和及び多様性の尊重の要素を盛り込むべきである。
141. 武力又はその他の紛争に対処するに当たり,決定が下される前に,それらが女性及び男性のそれぞれに及ぼす影響の分析がなされるよう,あらゆる政策及び計画の中心にジェンダーの視点を据える,積極的で目に見える政策を促進すべきである。
戦略目標E.1. 紛争解決の意思決定のレベルへの女性の参加を増大し,武力又はその他の紛争下に暮らす女性並びに外国の占領下で暮らす女性を保護すること
取るべき行動
142. 政府,国際及び地域政府間機関により:
(a) 国連憲章第101条に従って公平な地理的分布に十分配慮しつつ,国連事務局も含め,あらゆるレベル,特に意思決定レベルにおけるあらゆる会議の場及び平和活動への女性の平等な参加と平等な参加機会を促進するための行動を取ること。
(b) 武力又はその他の紛争及び外国の占領の解決にジェンダーの視点を組み込むとともに,旧ユーゴスラビア並びにルワンダのための国連国際戦争犯罪法廷及び国際司法裁判所のようなあらゆる関係国際機関,及び平和的紛争解決に関わるその他の機関における裁判官及びその他の地位へ候補者を指名若しくは抜擢する際に,男女比率の均衡を目指すこと。
(c) 武力紛争下におけるレイプ及び強制妊娠,テロリズムを含む武力紛争下における猥褻な暴行その他の形の女性に対する暴力を伴う事件の取扱いに当たり,適切な訓練を検察官,裁判官その他の職員に提供することによって,これらの機関がジェンダーの問題に適切に対処し,その仕事にジェンダーの視点を組み込むことができるように保障すること。
戦略目標E.2. 過剰な軍事費を削減し,兵器の入手の可能性を抑制すること
取るべき行動
143. 政府により:
(a) 適当な場合,国家安全保障に配慮することを条件に,軍事的資源及び関連産業の開発及び平和目的への転換を増大し,促進すること。
(b) 社会・経済開発,特に女性の地位向上のために追加資金の配分ができるよう,国家安全保障の要求を考慮に入れつつ,なかでも世界の軍事費,兵器取引,兵器生産及び獲得への投資を含む,過度な軍事費の妥当な削減を通じて,公共及び民間の新財源を生み出す新たな方法の模索に着手すること。
(c) 武力紛争下で女性に対する暴力行為,国際人道法違反及び女性の人権侵害を犯す警察,保安隊,軍隊その他の隊員を取り調べ,処罰するための行動を取ること。
(d) 正当な国家防衛の必要性を認める一方で,武力紛争と,過度な軍事費,武器,わけても殺傷力の特に強い武器又は無差別な被害を与える武器の取引,並びに武器生産及び獲得への過度な投資のマイナス影響が社会にもたらす危険を認識し,対処すること。同様に,不法な武器取引,暴力,犯罪,不法な薬物の製造,使用及び取引,並びに女性及び子どもの人身売買と闘う必要性を認識すべきである。
(e) 対人地雷の無差別使用によって,女性と子どもが特に被害を被っている点を認識して:
(i) 1981年の「過剰殺傷あるいは無差別的効果を及ぼすと見なされるような通常兵器の使用の禁止又は制限に関する条約」(注26),特に「地雷,偽装爆弾その他の装置の使用の禁止及び制限に関する議定書(議定書Ⅱ)」の2000年までの普遍的な批准のために,まだ行っていない場合は,批准に向けて積極的な努力を開始すること。
(ii) 地雷の無差別使用によって文民に対して引き起こされた死傷と極度の苦しみの減少を促進するために,同条約の強化を熱心に検討し始めること。
(iii) 特に地雷の除去手段に関し,とりわけ情報交換,技術移転,及び科学的研究の促進を助長することによって,地雷除去に対する支援の推進に着手すること。
(iv) 国連の環境の中で,地雷除去を不必要な差別なく支援する共同対応プログラムを調整する取組みの支援に着手すること。
(v) 多くの国が対人地雷の輸出,移転又は売却の一時停止を既に宣言していることに満足をもって留意しつつ,まだ行っていない場合は可能な限り早い時期に,非政府組織への輸出を含めた対人地雷の輸出の一時停止を採用すること。
(vi) 実行可能で人道的な代替手段が開発されるに伴い,国家はこの目標に向かって最も効果的に動くことができる点を認識し,対人地雷の究極的な廃絶を目指して,対人地雷によってもたらされる問題の解決を求める,更なる国際的取組みの奨励に乗り出すこと。
(f) 平和運動に女性が果たしてきた主導的な役割を認識して:
(i) 厳格かつ有効な国際的管理の下における全般的で完全な軍縮に向かって,積極的に努力すること。
(ii) そのあらゆる面において核軍縮及び核兵器拡散防止に寄与する,普遍的であり,かつ多国間で効果的に確認できる包括的核実験禁止条約の遅滞なき締結に関する交渉を支援すること。
(iii) 包括的核実験禁止条約の発効まで,核実験に関して最大限の抑制をすること。
戦略目標E.3. 非暴力の紛争解決の形態を奨励し,紛争状況における人権侵害の発生を減少させること
取るべき行動
144. 政府により:
(a) 1949年の「戦時における文民の保護に関するジュネーブ条約」,同条約への「国際的武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(第Ⅰ議定書)」及び「非国際的武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(第Ⅱ議定書)」(注24)を含む,武力紛争における女性及び子どもの保護に関する条項を含んでいる国際文書の批准又は加入を検討すること。
(b) 武力紛争においては,国際人道法の規範を十分に尊重し,特にレイプ,強制売春その他の形の猥褻な暴行から女性及び子どもを保護するために必要なあらゆる措置を講じること。
(c) 事務総長が「事務局における女性の地位向上のための戦略的行動計画,1995年―2000年」(A/49/587,第Ⅳ節)の中で行った特別勧告に留意しつつ,女性の役割を強化し,平和維持,予防外交及び関連活動に係る事柄に関する政策を策定し,又は政策に影響を及ぼす可能性のある国内及び国際機関のあらゆる意思決定レベル,並びに和平仲介及び交渉のすべての段階への女性の平等な代表参加を保障すること。
145. 政府,並びに国際及び地域機関により:
(a) なかでも「世界人権会議」で採択された「ウィーン宣言及び行動計画」(注2)に言明されているように,すべての民族,特に植民地又はその他の形の外国の支配若しくは占領下にある民族の自決権,及びこの権利の効果的な実現の重要性を再確認すること。
(b) 国連憲章,特に第2条第3項及び第4項に則って,外交,交渉及び平和的な紛争解決を奨励すること。
(c) 女性に対するレイプ及びその他の形態の非人道的で屈辱的な扱いの組織的実施を,戦争及び民族浄化の計画的手段であると認め,非難するように促し,そのような虐待の犠牲者に対し,身体的及び精神的な社会復帰のための十分な支援が提供されるよう保障するために措置をとること。
(d) 武力紛争遂行中のレイプは戦争犯罪であり,また,特定の状況の下では人間性に背く犯罪を構成し,「大量虐殺の犯罪の防止及び処置に関する条約」(注27)に定義された集団虐殺行為を構成することを再確認すること。そのような行為から女性及び子どもを保護するために必要なあらゆる措置を取るとともに,責任のある者すべてを調査し,処罰し,並びに加害者を処断するための仕組みを強化すること。
(e) 武力その他の紛争状況下における女性に対するあらゆる暴力行為を防止するために,国際人道法及び国際人権文書に記述された基準を支持及び強化すること。戦争中に犯された,レイプ,特に組織的レイプ,強制売春その他の形の猥褻な暴行及び性的奴隷化を含む,女性に対するあらゆる暴力行為の完全な調査に着手すること。女性に対する戦争犯罪に責任のあるすべての犯罪者を訴追するとともに,被害女性に対して完全な補償を提供すること。
(f) 国際社会に対し,あらゆる形態及び表現のテロリズムを非難し,対抗して行動するよう求めること。
(g) すべての関係職員のための国際人道法及び人権意識に関する訓練プログラムの開発に当たって,ジェンダーに配慮した問題を考慮に入れ,また,特に女性に対する暴力を防ぐために,国連の平和維持及び人道援助に携わっている者にそのような訓練を奨めること。
(h) 影響を被る国の国民,特に女性及び子どもの経済的・社会的開発の完全な達成を阻み,彼らの安寧を妨げ,健康と安寧にとって十分な生活水準に対するすべての者の権利,並びに食糧,医療及び必要な社会サービスへの権利を含む,彼らの人権の完全な享受に対する障害を生み出す,国際法及び国連憲章に違反した,一方的な措置の採用をやめさせ,またそのような措置を差し控えること。この会議は,食糧や薬品を政治的圧力の手段に使ってはならないことを再確認する。
(i) 経済制裁が女性及び子どもに与えるマイナスの影響を軽減するため,国際法に従った措置を取ること。
戦略目標E.4. 平和の文化の促進に対する女性の寄与を助長すること
取るべき行動
146. 政府,国際及び地域政府間機関,並びに非政府機関により:
(a) 平和的な紛争解決,並びに特に若い女性のための教育,訓練,地域社会活動及び青年交流プログラムを通じた平和,和解並びに寛容を促進すること。
(b) 武力紛争が女性及び子どもに及ぼす影響,並びに国内,地域及び国際平和運動への女性の参加の性質及び寄与度を調べるため,女性の参加を伴う平和研究の更なる開発を奨励すること。研究を行い,広く一般に知らせ,女性及び男性の利用に供するため,暴力の抑止と紛争解決のための革新的な仕組みを確認すること。
(c) 紛争の結果に対処する政策及び計画を開発するため,武力紛争が女性,特に若い女性及び少女に及ぼす身体的,心理的,経済的及び社会的影響に関する研究を開発して普及すること。
(d) 非暴力的な手段による紛争解決と寛容の促進に焦点を合わせた,平和の文化を育てるための少女及び少年の教育プログラムの設定を検討すること。
戦略目標E.5. 難民女性その他国際的な保護を必要とする避難民女性及び国内避難民女性に保護,支援及び訓練を提供すること
取るべき行動
147. 政府,政府間機関及び非政府機関,並びに適当な場合,国連難民高等弁務官事務所及び世界食糧計画を含む,難民女性その他国際的な保護を必要とする避難民女性及び国内避難民女性への保護,支援及び訓練の提供に関与するその他の機関により:
(a) 難民キャンプ及び資源の管理を含む,難民女性その他国際的な保護を必要とする避難民女性及び国内避難民女性を支援するすべての短・長期のプロジェクト及びプログラムの立案,企画,実施,監視及び評価に,女性が十分に関与するよう保障するための措置を講じること。難民及び避難民女性・少女が,提供されるサービスに直接のアクセスを持つよう保障すること。
(b) 国内避難民女性及び子どもに対し,十分な保護と支援を提供するとともに,退去の事態を防ぐ観点からその根本原因の解決策を見つけ,適当な場合には帰還又は再定住を促進すること。
(c) 避難中及び元の地域社会へ帰還後も,難民女性その他国際的な保護を必要とする避難民女性及び国内避難民女性の安全と身体的保全を守るために,社会復帰訓練プログラムを含む措置を取ること。難民女性及び避難民女性を暴力から守るための効果的な措置を講じること。何によらずそのような侵害行為に対しては公平かつ徹底的な調査を行い,責任のある者を法に照らして処断すること。
(d) ノン・ルフールマン原則(難民の追放・送還禁止原則)を全面的に尊重し,厳守する一方,難民女性及び避難民女性の,安全で尊厳を持った自発的な元の場所への帰還の権利,及び帰還後の保護を受ける権利を保障するために必要なあらゆる措置を講じること。
(e) 生地への自発的で安全な帰還の権利を含む,国内避難民女性の問題に対する永続的な解決策を見つけるために,国連憲章に従って,適当な場合,国際協力を得つつ国内レベルで措置を講じること。
(f) 緊急救済並びに難民女性その他国際的な保護を必要とする避難民女性及び国内避難民女性の特有のニーズ,資源及び潜在能力を考慮に入れた,その他の比較的長期の支援に対し,国際社会及びその国際機関が財政その他の資源を提供するよう保障すること。保護及び支援の提供に当たっては,適切かつ十分な食糧,水及び避難所,教育,並びに,リプロダクティブ・ヘルス,母子保健及び熱帯病対策を含む社会・保健サービスへの平等なアクセスを確保するため,女性及び少女に対する差別を撤廃するためのあらゆる措置を取ること。
(g) 難民及び避難民の子どもたちの学校教育の中断を最小限にするために,―緊急の状況においても―適切な言語による,教材の入手を容易にすること。
(h) 難民認定手続き及び庇護の付与における女性及び男性の平等なアクセス及び待遇を確保するために,なかんづく国の移住規定を関連の国際文書に準拠させることを通じた,ノン・ルフールマン原則の全面的尊重と厳守を含む国際規範を適用すること。また,性暴力を通じた迫害又はその他のジェンダー関連の迫害を含む,1951年の「難民条約」(注28)及び1967年の「難民議定書」(注29)に挙げられた理由による迫害に対する十分に根拠のある恐怖に基づいて難民の地位を主張する女性たちを,難民と認定することを検討するとともに,女性に対する性的暴行のような微妙若しくは苦痛な経験に関する聞き取りに当たっては,女性係官を含む特別に訓練された係官へのアクセスを提供すること。
(i) 明らかに女性を対象にした迫害への対応に関する基準及び指針を開発するための国の先導的計画についての情報を共有し,それらの公平かつ一貫した適用を確保するための監視をすることによって,そうした基準及び指針の開発に向けた国の取組みを支援し,促進すること。
(j) 難民女性その他国際的な保護を必要とする避難民女性及び国内避難民女性の自立能力を促進し,女性,特に若い女性のための,難民及び帰還者の共同体内における指導者訓練及び意思決定のための訓練プログラムを提供すること。
(k) 難民女性及び避難民女性の人権が保護され,彼らがこれらの権利に気づかされるよう保障すること。家族再会の重大さが認識されるよう保障すること。
(l) 難民と認定された女性に対し,適当な場合,語学訓練,小規模企業開発訓練及び計画,並びに女性に対するあらゆる形態の暴力に関するカウンセリングを含めた職業/専門職業訓練プログラムへのアクセスを提供すること。また,それらには,拷問とトラウマの犠牲者のための社会復帰訓練プログラムを含むべきである。各国政府その他の援助機関は,大量難民人口の増大する要求が受入れ国に与える影響,並びに援助機関の基盤を広げてより一層の負担の分担を達成する必要性を特に考慮に入れ,難民女性その他国際的な保護を必要とする避難民女性及び国内避難民女性のための支援計画に十分に寄与すべきである。
(m) 再定住した国に対して難民女性が行った寄与について一般の人々の意識を高め,彼らの人権並びにニーズ及び能力についての理解を深め,異文化間,異人種間の和合を促進する教育プログラムを通じて相互理解と受容を奨励すること。
(n) テロリズム,暴力,麻薬取引,又は暴力の事態に関連するその他の理由の結果,生地を追われた女性に基本的及び支援のサービスを提供すること。
(o) 女性の人権に対する認識を高め,適当な場合,武力紛争地域及び難民のいる地域で任務を遂行している軍隊及び警察の隊員に人権教育及び訓練を実施すること。
148. 政府により:
(a) 難民女性と緊密に協力しながら,難民プログラムのあらゆる部門において,国連難民高等弁務官(UNHCR)の「難民女性の保護に関する指針」及び「トラウマ及び暴力の犠牲者の鑑定と世話に関する指針」を普及し,実施し,又は同様の指導を与えること。
(b) 家族の一員として移住した女性及び子どもを,保証人による虐待または人権拒否から守り,また,もしも家族関係が崩壊した場合,国内法の範囲内で滞在延長を検討すること。
戦略目標E.6. 植民地及び自治権を持たない地域の女性に支援を提供すること
取るべき行動
149. 政府,政府間機関及び非政府機関により:
(a) 指導者養成及び意思決定訓練のための特別プログラムを提供することによって,なかでも「ウィーン宣言及び行動計画」に言明されているように,すべての人民の自決権の実施を支援し促進すること。
(b) 植民地及び自治権を持たない地域の女性の状況についてよりよい理解を生み出すために,適当な場合,マスメディア,あらゆるレベルにおける教育及び特別プログラムを通じて,一般の人々の意識を啓発すること。
第Ⅳ章 戦略目標及び行動
F 女性と経済
150. 女性及び男性の自らの社会の経済構造へのアクセス及びその構造に対して権力を行使する機会には,かなりの格差がある。世界の大半の地域で,財政,金融,商業その他の経済政策並びに税制及び賃金決定規則の策定を含む経済的な意思決定に,女性は参加していないも同然もしくは不十分な参加状況である。個々の女性及び男性が,なかでも自分の時間をどのように有償と無償の仕事に割り振りするかという点について決定を行うのは往々にしてこのような政策の枠組み内においてであるから,これらの経済構造及び政策の実際の進展状況が,個人及び家庭レベル並びに社会全体の中での,女性及び男性の経済資源へのアクセス,経済力,ひいては,彼らの間の平等の程度に直接の影響を与えている。
151. 多くの地域で,公式及び非公式の労働市場における有償労働への女性の参入が,過去10年の間にかなり増加し,変化した。女性は依然として農業及び漁業に従事する一方,零細及び中小企業に関わる女性も次第に増え,ある場合には,拡大しつつある非公式部門で,さらに支配的な存在になってきている。とりわけジェンダーに基づく不平等から生じる困難な経済状況と交渉力の欠如のために,多くの女性が,低賃金と悪い労働条件を受け入れてこざるを得ず,したがって,往々にしてより望まれる労働者になった。一方では,自らの権利に目覚めてそれを要求するようになるにつれ,自らの選択で労働力に参入してきた。首尾よく職場に進出して昇進を果たし,賃金と労働条件の改善に成功した女性たちもいる。しかし女性は,経済状況及び経済再編の過程によって特に影響を被ってきたが,それらは,雇用の性質を変え,場合によっては専門職及び熟練女性さえ職を失うという結果をもたらした。更に,多くの女性が他に機会がないために非公式部門に入ってきた。構造調整計画,融資及び補助金の条件を決定し,政府と協同してそれらの目標を設定する多国間機関の政策策定過程には,女性の参加やジェンダーへの関心は依然として大いに欠如しており,それらが組み入れられるべきである。
152. 教育及び訓練,雇用及び報酬,昇進及び配転の慣行における差別に加え,融通の効かない労働条件,生産資源へのアクセスの欠如,及び家族的責任の不十分な分担が,保育のようなサービスの欠如又は不足と相まって,女性の雇用,経済的,専門職業的その他の機会と女性の移動性を依然として制限し,それらへの女性の関与をきわめてストレスの多いものにしている。その上,意識上の障害が経済政策の開発への女性の参加を抑制し,一部の地域で経済運営のための教育及び訓練への女性及び少女のアクセスを制限している。
153. 労働力に占める女性の割合は増え続け,ほぼすべての地域で,家庭の外で働く女性が多くなっているが,家庭や地域社会における無償労働に対する責任の軽減は,それと並行してこなかった。あらゆるタイプの世帯にとって,女性の所得が次第に必要になりつつある。いくつかの地域では,女性の起業等自立した活動が,特に非公式部門で増加してきた。多くの国において,女性は,臨時雇用,不定期雇用,多様なパートタイム雇用,契約労働及び家庭を基盤とする労働等,標準的でない労働に従事する労働者の大多数を占めている。
154. 家事労働者を含む女性移住労働者は,送金を通じて送出し国の経済に寄与すると同時に,労働力への参加を通じて受入れ国の経済にも寄与している。しかし多くの受入れ国の場合,移住女性は,非移住労働者及び男性移住労働者の双方と比較して,より高い水準の失業の率を経験している。
155. ジェンダー分析に十分な注意が払われてこなかったことが,金融市場及び機関,労働市場,学問としての経済学,経済的及び社会的基盤,徴税及び社会保障制度という経済構造において,また家庭及び世帯内において,女性の寄与及び関心事項があまりにもしばしばないがしろにされたままである事態をもたらした。その結果,多くの政策及び計画が女性及び男性の間の不平等を助長し続けている可能性がある。ジェンダーの視点を取り入れる上で進展があった場合には,計画及び政策の有効性も高まってきている。
156. 多くの女性が経済機構の中で地位向上をなし遂げてきたとはいえ,大多数の女性,特に女性であるということ以外の障壁にも直面している人々にとって,持続する障害のために,彼らの経済的自立を達成し,自分自身と扶養家族のための持続可能な生計を確保する能力を妨げられてきた。女性はさまざまな経済分野で活躍しており,賃金労働や自営農業・漁業から非公式部門に至るまでのそれらの分野を,しばしば同時にこなす。しかし,土地,天然資源,資本,信用,技術その他の生産手段へのアクセス又は所有に対する法的及び慣行的な障害,並びに賃金格差が,女性の経済的発展を阻む働きをしている。女性は,有償労働ばかりでなく多大な無償労働をも通じて,開発に寄与している。女性は,一方で,農業,食糧生産又は家族経営の企業における市場向け及び自家消費用の物資及びサービスの生産に参加する。国連が各国に採用を勧告した国民経済計算体系(SNA)及びその結果,労働統計の国際基準に含まれてはいるものの,この無償労働 ― 特に農業に関連する ― はしばしば過小評価され,不十分な記録しかなされていない。女性は他方で,相変わらず,子どもや高齢者の世話,家族の食事の準備,環境の保護,並びに弱い立場や障害を持つ個人及びグループを支援するボランティア活動のような家庭内及び地域社会の無償労働の大部分を担っている。この労働は数量的に測定されないことが多く,国民経済計算の中で評価されない。開発への女性の寄与はきわめて過小評価され,したがって,その社会的認知は乏しい。この無償労働のタイプ,程度及び配分を完全に目に見える形で表すならば,責任分担の改善に寄与することにもなろう。
157. 経済の世界規模化の結果,女性にとって新たな雇用機会がいくつか創出されたものの,女性及び男性間の不平等を悪化させてきた傾向もある。同時に,経済統合を含む世界規模化は新たな環境に適応し,貿易のパターンが変化するに従って新たな雇用源を見つけるよう,女性の雇用状況に対する圧力を生み出す可能性がある。世界規模化が女性の経済的立場に及ぼす影響については,さらに分析を行う必要がある。
158. これらの傾向は,公式部門及び非公式部門の双方において,低賃金,労働基準の保護がほとんど又は全くないこと,特に女性の職業上の健康及び安全の点で劣悪な労働条件,低い技能水準,並びに雇用保障及び社会保障の欠如を特徴としてきた。女性の失業は,多くの国及び部門で,深刻かつ増大傾向の問題になっている。非公式部門及び農村地域の若い労働者及び女性移住労働者は,依然として労働法や移民法による保護が最も薄い人々である。女性,特に幼い子どもを抱えた世帯主である人々は,融通性のない労働条件並びに男性や社会による家族的責任の不十分な分担などのために雇用機会が限られている。
159. 根本的な政治的,経済的及び社会的変容が進行中の国においては,もっとうまく活用されれば,女性の技能はそれぞれの国の経済生活に対して大きな寄与をもたらし得るはずである。彼らの寄与を今後とも発展させ,支援するとともに,その潜在能力をさらに発揮させるべきである。
160. 民間部門における雇用の不足と公共サービス及び公共サービス関連の職場の削減は,女性に不均衡に大きな影響を及ぼしてきた。いくつかの国では,特に公共サービスが利用できない場合,女性が,子どもや病人又は高齢者の世話のような無給労働をますます多く引き受けて逸した世帯所得を埋め合わせている。多くの場合,雇用創出戦略は,女性が支配的な職業や部門に十分な注意を払って来なかったし,伝統的に男性の職業や部門への女性のアクセスを十分促進することもしなかった。
161. 有給労働に従事する女性に関しては,多くが,潜在能力の発揮を阻む障害を経験している。比較的低レベルの管理職に女性が次第に見られるようになっているものの,意識上の差別がそれ以上の昇進を阻む場合が多い。セクシュアル・ハラスメントを受けることは労働者の尊厳にとって侮辱であるばかりか,女性がその能力に見合った寄与をなすことを妨げるものでもある。更に,適切で料金が手頃な保育制度の欠如や融通性のない労働時間を含む,家族に都合のよい労働環境の欠如が,女性の全潜在能力の開化を阻んでいる。
162. 多国籍企業及び国内企業を含む民間部門においては,経営及び政策レベルへの女性の参加は大幅に不足し,差別的な雇用・昇進政策及び慣行を示している。不利な労働環境と並んで,得られる雇用機会の数が限られていることが,多くの女性に別の道を求めさせる結果になった。自営業並びに零細及び中小企業の所有者や経営者になる女性が次第に増えてきた。多くの国における非公式部門及び自ら作る独立企業の拡大は,大部分が女性によるものであり,生産及び取引における女性の協力的,自助的,伝統的な慣行及び率先した行動は,きわめて重要な経済資源に相当する。資本,信用その他の資源,技術並びに訓練へのアクセスと管理権を獲得すれば,女性は持続的な開発のための生産,販売及び所得を増加することができるのである。
163. 相変わらずの不平等と顕著な進展が同時に存在するという事実を踏まえて,ジェンダーの視点を取り入れ,より広範な機会に注意を向けさせるとともに,現行の労働及び雇用パターンに含まれる,ジェンダーに関する何らかのマイナス面に対処するために,雇用政策の再考が必要である。経済への寄与における女性及び男性の平等を完全に実現するためには,女性及び男性双方の労働,経験,知識及び価値観が社会において発揮する影響力に対する平等な認識と評価を目指した積極的な取組みが求められる。
164. 女性の経済的な潜在能力及び自立への対処に当たり,政府その他の行為者は,決定が下される前に,それが女性及び男性それぞれに及ぼす影響の分析がなされるよう,あらゆる政策及び計画の中心にジェンダーの視点を据える,積極的で目に見える政策を促進すべきである。
戦略目標F.1. 雇用,適切な労働条件及び経済資源の管理へのアクセスを含む,女性の経済的な権利及び自立を促進すること
取るべき行動
165. 政府により:
(a) 同一労働同一賃金又は同一価値労働同一賃金に対する女性及び男性の権利を保障するための法律を制定し施行すること。
(b) 特に高齢女性労働者,採用及び昇進,雇用上の給付及び社会保障の支給範囲,並びに労働条件に配慮した,労働市場における性差別を阻止する法律を制定し施行すること。
(c) 妊娠又は母乳哺育を理由にした雇用拒否若しくは解雇,又は避妊手段使用の証明の要求のような使用者による差別的慣行を撤廃し,女性の生殖の役割及び機能に配慮して適切な措置を講じること。また,妊娠中,出産休業中の女性又は出産後に労働市場に再参入する女性が差別されないよう保障するための効果的な措置を講じること。
(d) 女性が,大蔵省及び通商省,国家経済委員会,経済調査研究所その他の中枢省庁等の機関を通じて,また適切な国際機関への参加を通じて,政策の策定及び構造の決定における完全かつ平等な参加へのアクセスを獲得できるようにする仕組みを考案し,積極的措置(ポジティブ・アクション)を取ること。
(e) 土地その他の形態の財産の所有及び管理,信用,相続,天然資源及び適切な新技術へのアクセスを含む経済資源に対する男性と平等な権利を女性に与えるために,法律改正及び行政改革に着手すること。
(f) 女性に対する既存のいかなる偏向をも撤廃するために,国民所得,相続税及び社会保障制度の見直しを行うこと。
(g) とりわけ無償労働,殊に扶養家族の世話における労働及び自営農業又は家業のための無償労働のタイプ,程度及び配分を調べ,よりよく理解するための取組みを通じて,労働と雇用に関する,より包括的な知識の開発に努めること。また,その労働の価値を数量的に評価し,中核的な国民経済計算とは別に作成されるであろうがそれに矛盾しない計算に反映できるようにする方法の開発に関するものを含む,この分野の研究及び経験に関する情報の共有及び普及を奨励すること。
(h) 金融機関の運営を規制している法律を見直し,女性及び男性に平等にサービスを提供するように改正すること。
(i) 適切なレベルにおいて,より開かれた透明な予算決定過程を促進すること。
(j) 国家政策を改正し,女性のための伝統的な貯蓄,信用及び貸付の仕組みを支援する政策を実施すること。
(k) 国際及び地域貿易協定に関連した国家政策が,女性の新規及び伝統的な経済活動に悪影響を及ぼさないよう保障することに努めること。
(l) 多国籍企業を含むすべての企業が国内の法律及び規則,社会保障規定,環境関連のものを含む,適用可能な国際協定,文書及び条約,並びにその他の関係法規に従うよう保障すること。
(m) 家族的責任の分担を促進するために,労働パターンの再編成を助長するよう雇用政策を調整すること。
(n) 経済省庁及び金融機関によって開発中の政策及び計画の策定に女性起業家及び女性労働者が貢献できるようにするための仕組み及びその他のフォーラム(公開討論会)を設置すること。
(o) 機会均等法規を制定及び施行し,積極的措置(ポジティブ・アクション)をとり,さまざまな手段を通じて,公共・民間部門による遵守を確保すること。
(p) マクロ及びミクロ経済政策及び社会政策の開発に際し,男女(ジェンダー)それぞれへの影響を監視し,有害な影響が生起した場合には政策を再構築するために,ジェンダー影響分析を用いること。
(q) 技術,管理及び起業の分野において男性と平等なパートナーとしての力を女性に与えるために,ジェンダーに配慮した政策及び施策を促進すること。
(r) 安全な労働慣行,団結権及び裁判へのアクセスを含む,すべての女性労働者の保護を確保するため法律を改正するか,労働法の制定を支持する国家政策を策定すること。
戦略目標F.2. 資源,雇用,市場及び取引への女性の平等なアクセスを促進すること
取るべき行動
166. 政府により:
(a) 女性の自営及び小企業の開発を促進し,支援し,適当な場合,非伝統的かつ相互的な信用の仕組み及び金融機関との革新的な連携を含む,女性の起業の促進に尽力する機関の増加を通じて,男性と平等な適切な条件に基づく信用及び資本への女性のアクセスを強化すること。
(b) 女性及び男性の機会均等政策の開発を促す,雇用主としての国家の奨励的役割を強化すること。
(c) 国内及び地方レベルにおいて,生産資源,土地,信用,資本,財産権,開発プログラム及び協同組合組織への農村女性の平等なアクセス及び管理を促進することによって,彼らの所得創出能力を高めること。
(d) 特に農村地域において,零細企業,新たな小規模事業,協同組合企業,拡大市場その他の雇用機会を促進・強化し,適当な場合,非公式部門から公式部門への移行を促進すること。
(e) 食糧安定における女性のきわめて重要な役割を認識し,強化し,有給及び無給の女性生産者,都市部の企業とともに,特に,農業,漁業及び養殖漁業などの食糧生産に携わる女性に対し,適切な技術,輸送,普及サービス,販売及び信用便宜への平等なアクセスを地方及び地域社会レベルで提供するプログラム及び政策を創設し,及び修正すること。
(f) 女性の協同組合が必要なサービスへのアクセスを最大限に活用できるようにする,適切な仕組みを設置するとともに,そのような部門間機関を奨励すること。
(g) 技術的な支援の提供又は経済プログラムの管理を行う女性の普及員その他の政府職員の比率を増すこと。
(h) 農村地域及び都市地域の女性が所有する零細・中小企業を差別しないように,企業法,商法及び契約法並びに政府の規制を含む政策を見直し,必要な場合は策定し直し,かつ実施すること。
(i) 被雇用,自営業及び起業女性のニーズ及び関心事項を部門別及び省庁間の政策,計画及び予算に取り入れる政策を分析し,助言を与え,調整,実施すること。
(j) 伝統的な雇用分野に限定しない,効果的な職業訓練,再訓練,カウンセリング及び職業紹介サービスへの平等なアクセスを女性に保障すること。
(k) 社会プログラム及び開発プログラムにおいて女性が直面する,民間及び個人の率先行動をくじく,政策及び規制上の障害を除去すること。
(l) 強制労働及び児童労働の禁止,結社の自由,団結権及び団体交渉権,男女の同一価値労働同一賃金,並びに雇用における非差別を含む,労働者の基本的権利の尊重を守り,促進するとともに,真に持続的な経済成長及び持続可能な開発の達成のために,ILO諸条約の締結国は同条約を完全に実施し,非締結国は同条約に具体化された諸原則を考慮すること。
167. 政府,中央銀行及び国家開発銀行,並びに適当な場合,民間金融機関により:
(a) 経済省庁及び金融機関によって開発中の政策及び計画の策定及び見直しに,あらゆる部門の女性起業家及びその組織が寄与できるようにするために,諮問委員会その他の討論の場(フォーラム)への,起業家を含む女性の参加を増やすこと。
(b) 農村・都市両地域の女性起業家及び生産者のニーズに応える,報奨提供,仲介機関の開発を通じて金融部門を動員し,貸出及び資金補充を増加させ,また,その指導,立案及び意思決定に女性を加えること。
(c) 資本及び資産へのアクセスを持たない,若い女性,低所得の女性,少数民族・人種に属する女性及び先住民女性に特別の注意を払いつつ,零細及び中小企業に関わる農村地域及び都市部の女性に及ぶようなサービスを体系化すること。また,女性の零細及び中小企業の信用その他の金融ニーズによりよく応えようとする金融機関の直接・間接の取組みを支援する,金融管理及び規制の改革を認識し,奨励することによって,金融市場への女性のアクセスを拡大すること。
(d) 上下水道,電化及び省エネルギー,輸送及び道路建設等の経済的基盤設備に対する公共投資計画に,女性の優先事項が加えられるよう保障すること。仕事及び契約へのアクセスを保障するために,プロジェクトの立案及び実施段階における女性受益者の関与の増大を促進すること。
168. 政府及び非政府機関により:
(a) 市場,交易及び資源に関する情報を普及する際には,女性のニーズに特別の注意を払い,これらの分野における適切な訓練を提供すること。
(b) 政府間の提携に基づいて作り上げる,地域社会の経済開発戦略を助長し,市民社会の成員に対し,雇用を創出し,個人,家族及び地域社会の社会的環境に対処するよう奨励すること。
169. 国際,地域,小地域レベルにおける多国間資金供与機関,地域開発銀行,並びに二国間及び民間資金供与機関により:
(a) より高い比率の資源が農村地域及び僻地の女性に及ぶよう,政策,計画及びプロジェクトを見直し,必要な場合は策定し直し,実施すること。
(b) 女性の経済活動を対象にし,女性の営利企業における自足,能力向上,及び利益性を促進する仲介機関に資金を提供するための柔軟な資金供給の手順を開発すること。
(c) 女性が完全かつ平等に参加し,自らの組織内に加え二国間機関,政府及び非政府機関からの専門知識及び財源を利用しつつ,零細及び中小企業部門の有効性を調整し強化する協力機会を増大するために,この部門への各機関の支援を統合・強化する戦略を開発すること。
170. 国際,多国間及び二国間開発協力機関により:
公式,非公式両部門における所得の低い小規模及び零細規模の女性起業家及び生産者に役立つ金融機関を,資本及び/又は資源の提供を通じて支援すること。
171. 政府及び/又は多国間金融機関により:
農村女性に信用の便宜を提供するグラミン銀行型を複製する妨げになる,公式な国内及び国際金融機関の規定及び手続きを見直すこと。
172. 国際機関により:
女性,特に,不利な立場の女性の間に持続可能で生産的な起業活動を促進するために計画されたプログラム及びプロジェクトに対して,十分な支援を提供すること。
戦略目標F.3. 殊に低所得の女性に対し業務サービス,訓練並びに市場,情報及び技術へのアクセスを提供すること
取るべき行動
173. 非政府機関及び民間部門との協力の下に,政府により:
(a) 女性及び男性の起業家の平等な市場アクセスを確保するために,公共基盤設備を提供すること。
(b) 事業経営,生産開発,資金調達,生産及び品質管理,販売,並びに事業の法務面において,特に新技術の訓練及び再訓練並びに手頃な料金のサービスを女性に提供するプログラムを開発すること。
(c) 特に農村地域及び僻地の低所得の貧困女性に,市場及び技術へのアクセスの機会について知らせる普及プログラムを提供するとともに,これらの機会の利用への支援を提供すること。
(d) 女性の企業のための投資基金を含む非差別的な支援サービスを創設し,商工業振興プログラムにおいて女性,特に低所得の女性を対象にすること。
(e) 伝統的・非伝統的両分野の経済活動で成功した女性起業家と,成功に必要な技能に関する情報を普及するとともに,ネットワーク作り及び情報交換を促進すること。
(f) 失業女性,ひとり親,家族的責任その他の理由により長期の一時的引退後に労働市場へ再参入する女性,及び新たな生産形態又は経費節減のあおりで職場を追われた女性を含め,職場内で継続中の訓練への女性の平等なアクセスを保障する措置を講じるとともに,非伝統的分野の訓練を女性に提供する職業・訓練センターの数を増やすため,企業への報奨を増大させること。
(g) 働く男女のニーズを考慮した,質がよく,融通性に富み,料金の手頃な保育サービス等,手頃な料金の支援サービスを提供すること。
174. 地方,国内,地域及び国際企業組織,並びに女性問題に関わる非政府機関により:
非公式部門におけるものを含む女性の事業及び企業の促進と支援,並びに生産資源への女性の平等なアクセスを,あらゆるレベルで唱えること。
戦略目標F.4. 女性の経済能力及び商業ネットワークを強化すること
取るべき行動
175. 政府により:
(a) 農村地域及び都市の女性起業家にサービスを提供するために,企業組織,非政府機関,協同組合,回転貸付資金,信用組合,草の根組織,女性の自助グループその他の団体を支援する政策を採用すること。
(b) あらゆる経済再編及び構造調整政策にジェンダーの視点を取り入れ,構造調整計画を含む経済再編の影響を被っている女性,及び非公式部門で働く女性のためのプログラムを計画すること。
(c) 従来にない形の支援を通じ,また結社の自由及び団結権を認識することによって,女性の自助グループ,労働者団体及び協同組合に対して制約のない環境を作る政策を採用すること。
(d) 若い女性,障害を持つ女性,高齢女性及び人種的・民族的少数グループに属する女性等,特定グループの女性の自立を高めるプログラムを支援すること。
(e) 女性学の促進を通じ,また,経済・科学・技術分野を含むあらゆる分野における諸研究及びジェンダー研究の成果の利用を通じて,男女平等を促進すること。
(f) 先住民女性の状況及び開発の改善のために,その伝統的知識を考慮に入れつつ,彼らの経済活動を支援すること。
(g) 家内で有給労働を行っている人々のために,労働法及び社会保障規定の保護を拡大又は維持する政策を採用すること。
(h) 女性の科学者及び科学技術者による研究の寄与を認め,奨励すること。
(i) 政策及び規制が,女性の経営する零細及び中小企業を差別しないよう保障すること。
176. 適当な場合,金融仲介機関,国内訓練研修所,信用組合,非政府機関,女性団体,職業団体及び民間部門により:
(a) 女性,特に若い女性が国内,地域及び国際レベルにおいて経済政策策定に参加できるように,それらのレベルにおいて,さまざまな事業関連及び財政管理並びに専門技能の訓練を提供すること。
(b) 経済組織の輸出部門におけるものを含む女性の企業に,販売及び貿易の情報,製品設計及び技術革新,技術移転,並びに品質管理を含む業務サービスを提供すること。
(c) 地域社会に基盤を置く独創力(イニシアティヴ)を支援するために,国内,地域及び国際レベルで,女性起業家間の技術及び商業提携を促進し,合弁事業を創設すること。
(d) 特に農村地域及び僻地において,販売及び財政面の支援を提供することにより,社会から疎外された女性を含む,女性の生産・販売協同組合への参加を強化すること。
(e) 農村地域及び都市地域において,女性の零細企業,新たな小規模事業,協同組合企業,拡大市場その他の雇用機会を促進・強化し,適当な場合には非公式部門から公式部門への移行を促進すること。
(f) 女性の企業に融資するために,資本を投下し,資産運用投資を開発すること。
(g) 市場経済への参加に関連した,女性のための技術支援,助言サービス,訓練及び再訓練の提供に十分な注意を向けること。
(h) 伝統的な貯蓄の仕組みを含む,信用ネットワーク及び革新的事業を支援すること。
(i) 経験を積んだ女性による未経験な女性への指導(メンタリング)の機会を含む,女性起業家のネットワーク機構を提供すること。
(j) 地域社会の諸組織及び公共機関に対し,成功を収めた小規模の協同組合のモデルを参考にして,女性起業家に対する融資のための共同出資制を設けるよう奨励すること。
177. 多国籍及び国内企業を含む民間部門により:
(a) 差別なく契約を与える方針を採用し,その仕組みを確立すること。
(b) すべて男性と平等な基準で,指導,意思決定及び管理に向けて女性を採用し,訓練プログラムを提供すること。
(c) 国内の労働法,環境法,消費者法,衛生・安全法など,特に女性に影響を与える法律を遵守すること。
戦略目標F.5. 職業差別及びあらゆる形態の雇用差別を撤廃すること
取るべき行動
178. 政府,使用者,被雇用者,労働組合及び女性団体により:
(a) 平等な賃金及び労働者の権利に関するILO100号条約などの国際労働基準が,女性及び男性労働者に平等に適用されるよう保障する法律及び規則を実施並びに施行し,また,そのような自主的行動規範を奨励すること。
(b) 雇用へのアクセス,訓練,昇進,衛生及び安全を含む労働条件,雇用の終了,並びにセクシュアル・ハラスメント及び人種ハラスメントに対する法的保護を含む労働者の社会保障に関して,結婚や家族の状況の照会を含め,性を根拠にした直接・間接の差別を禁ずる法律を制定・施行し,守られない場合に備えた補償手段及び裁判へのアクセスを含む実施策を導入すること。
(c) 特に高齢女性労働者を考慮して,採用及び昇進,雇用上の給付及び社会保障の適用範囲において,並びに差別的な労働条件とセクシュアル・ハラスメントに関して,労働市場における性差別を禁じる法律を制定・施行し,また,そのような職場政策を開発すること。そのような法律の定期的な見直しと監視のための仕組みが開発されるべきである。
(d) 妊娠及び母乳哺育の責任を理由にした女性の雇用拒否や解雇を含む,女性の生殖の役割と機能を根拠にした,使用者による差別慣行を撤廃すること。
(e) 労働市場に参入及び/又は再参入する女性,特に貧しい都市部の女性,農村女性及び若い女性,並びに自営業の女性,及び構造調整計画によりマイナスの影響を被った女性のための雇用プログラム及びサービスを開発し,促進すること。
(f) あらゆる部門において,採用,雇用維持及び昇進並びに職業訓練に関し,労働力における女性,特に障害を持つ女性その他の不利な立場のグループに属する女性に対する体系的な差別に対処するための,公共・民間部門における積極的な雇用,公平及び積極措置プログラムを実施し,監視すること。
(g) 特に,高度な技能を要する職種及び上級管理職への女性の平等な参加の促進,並びに業務を通じたキャリア開発や労働市場における上向きの流動性を促すカウンセリング及び職業紹介などのその他の措置によって,また,女性及び男性による職業選択の多様化を促すことによって,職業上の分離を撤廃すること。女性に,特に科学技術分野における非伝統的な仕事を選ぶよう奨励するとともに,男性に対し社会部門の雇用を求めるよう奨励すること。
(h) 団体交渉は権利であると同時に,女性に対する賃金の不平等を撤廃し,労働条件を改善するための重要な仕組みであると認識すること。
(i) 女性の労働組合役員の選出を促進し,女性を代表して選ばれた組合役員が,その機能の遂行に関して雇用の保護及び身体的安全を与えられるよう保障すること。
(j) 障害を持つ女性の雇用の獲得及び維持を可能にする特別なプログラムを開発し,「障害を持つ人々のための機会の平等化に関する国連基準規定」(注30)に従って,すべての適切なレベルにおける教育及び訓練へのアクセスを確保すること。障害による不当な失職に対して法的保護を保障されるべき,障害を持つ女性のニーズにかなうように,可能な限り労働条件を調整すること。
(k) 女性及び男性の賃金格差を解消するための取組みを強め,国際労働法及び基準の遵守を含む法律の強化によって,同一価値労働同一賃金の原則を実施する対策を講じ,ジェンダーに関して中立の基準を持つ職務評価の仕組みを奨励すること。
(l) 賃金差別に関する事柄を裁定する機構を設置及び/又は強化すること。
(m) 承認された国際基準に違反するあらゆる形態の児童労働を撤廃するための明確な目標年限を設定し,現行の関連法規の完全な施行を保障するとともに,適当な場合,「児童の権利に関する条約」及びILOの基準の実施に必要な法律を制定し,適切な保健,教育その他の社会サービスの提供を通じて,働く子ども,特に浮浪児(ストリート・チルドレン)の保護を確保すること。
(n) 児童労働を撤廃するための戦略が実施されている場合は,それらが一部の少女に課されている,自分や他人の家庭における無給労働への過度な要求にも対処するものであるよう保障すること。
(o) 教職,看護及び保育等,女性が大勢を占める職業における女性の低い地位と所得を向上させるために,その賃金構造を見直し,分析し,適当な場合,作り直すこと。
(p) 外国での教育及び資格証書をより広く認知し,並びに言語訓練を盛り込んだ労働市場訓練への組織立ったアプローチを採ることによって,合法的移住女性(1951年の「難民の地位に関する条約」に従って難民と認定された女性を含む。)の生産的雇用を促進すること。
戦略目標F.6. 女性及び男性のための職業及び家族的責任の両立を促進すること
取るべき行動
179. 政府により:
(a) パートタイム労働者,臨時労働者,季節労働者及び在宅就労者に対して,適切に労働法の保護及び社会保障給付を保障する政策を採用すること。職業及び家族的責任を調和させる労働条件に基づいたキャリア開発を促進すること。
(b) 女性及び男性が平等に,フルタイムの仕事でもパートタイムの仕事でも自由に選択できるよう保障し,定型的でない形の労働者のために,雇用へのアクセス,労働条件及び社会保障に関して適切な保護を考慮すること。
(c) 法律,報奨及び/又は奨励を通じて,女性と男性の双方が職を保護されて親休業をとり,また,親給付を得る機会を保障すること。適切な法律,報奨及び/又は奨励を用いる施策等により,女性及び男性による家族的責任の平等な分担を促進するとともに,働く母親の母乳哺育の便宜を促進すること。
(d) 殊に子どもや高齢者の世話に関わる家庭内の仕事の家族的責任の分担という考え方を促進するために,ジェンダーに基づく仕事の分業を強いる姿勢を変えるための,わけても,教育における政策を開発すること。
(e) 家事労働とともに職業労働を促進し,自立を奨励し,所得を創出し,生産過程内部でジェンダーに基づいて規定された役割を変え,女性が低所得の職種から抜け出すことを可能にする技術の開発及びそれらへのアクセスを増進すること
(f) 男女の平等,並びに人々の,教育及び訓練,有給雇用,家族的責任,ボランティア活動その他の社会的に有益な形態の仕事,休息及びレジャーへの時間の割り振り方とそこからの利益の受け方における柔軟性を促進する方法を決定するために,社会保障法規及び租税制度を含む,国の優先事項及び政策に沿って一連の政策及び計画を検討すること。
180. 適当な場合,政府,民間部門及び非政府機関,労働組合並びに国連により:
(a) 女性及び男性が雇用先から一時休業をとることができ,譲渡可能な雇用上の給付及び退職手当を受けるとともに,仕事やキャリアにおける開発及び昇進の展望を犠牲にすることなく勤務時間を変更するための手配ができるよう,関係の政府機関,使用者団体及び労働者団体を巻き込んだ適切な施策を採用すること。
(b) 家庭内における女性と男性の,男女平等及び固定観念にとらわれない役割に関する意識を高めるために,革新的なメディア・キャンペーンと学校及び地域社会教育プログラムを通じた教育プログラムを計画し,提供すること。事業所内における現場保育及び柔軟な勤務取決めのような支援サービス及び便宜を提供すること。
(c) すべての職場における性的その他の形の嫌がらせを防止する法律を制定,施行すること。
第Ⅳ章 戦略目標及び行動
G 権力及び意思決定における女性
181. 世界人権宣言は,すべて人は自国の政治に参与する権利を有する,と述べている。女性のエンパワーメント及び自立並びに社会的,経済的及び政治的地位の向上は,透明で責任ある政治・行政及びあらゆる生活領域における持続可能な開発にとって不可欠である。最も個人的なレベルから高度に公的なものに至るまで社会の多くのレベルで,女性の願望にかなう生活の達成を阻む力関係が働いている。女性及び男性の意思決定への平等な参加という目標の達成は,社会の構成をより正確に反映した均衡を与えるであろうし,民主主義を強化し,その本来の機能を促進するために必要なことである。政治的意思決定における平等は,それがなければ,政府の政策決定に真に平等の次元を統合できる見込みはきわめて薄いものになる梃子の働きをしている。この意味において,政治生活への女性の平等な参加は,女性の地位向上の過程全般において中枢的な役割を果たす。意思決定への女性の平等な参加は,単に正義又は民主主義の要請というにとどまらず,女性の関心事項が考慮されるための必要条件とも見なされ得る。あらゆるレベルの意思決定への女性の積極的な参加及び女性の視点の組入れがなければ,平等,開発及び平和という目標は達成できない。
182. ほとんどの国における民主化への広範な動きにもかかわらず,女性は政府の大半のレベル,特に内閣その他の行政機関への参加が大幅に不足しており,また,立法機関における政治的権力の獲得にも,「意思決定レベルの地位における女性比率を1995年までに30パーセントにする。」という経済社会理事会が是認した目標の達成にも,ほとんど進展がなかった。世界的に見て,女性は立法機関で10パーセント,閣僚級の地位になるとさらに低い比率を占めているに過ぎない。それどころか,根本的な政治的,経済的及び社会的変革の過程にある国々を含むいくつかの国では,立法機関に代表される女性の数に相当な減少を見ている。女性は,ほぼすべての国で全選挙民の少なくとも半数を占め,ほぼすべての国連加盟国で選挙権と公職に就く権利を獲得したにもかかわらず,公職の候補者になる女性は依然としてひどく不足している。多くの政党及び政治構造の伝統的な運営型式は,相変わらず女性の公的な生活への参加を阻む障害になり続けている。差別的な態度や慣行,家族及び育児の責任,そして公職を求めかつ保持するための高い代価ゆえに,女性は公職の追求を諦める可能性がある。政治に携わり,また,政府及び立法機関の意思決定の地位にある女性は,政治的な優先事項を定義し直し,女性のジェンダーに固有の問題,価値観及び経験を反映し,かつそれに対処する新しい項目を政治的課題にし,並びに主流の政治問題に関して新たな視点を提供することに寄与している。
183. 女性は,地域社会及び非公式な組織,並びに公職においてかなりの指導力を実証してきた。しかし,社会化と,メディアを通じた固定観念を含む,女性及び男性に対するマイナスの固定観念が,政治的な意思決定が男性の領分にとどまる傾向を強化している。同様に,芸術,文化,スポーツ,メディア,教育,宗教及び法律の分野で,意思決定の地位における女性の参加不足が,多くの主要な制度に女性が重大な影響を与えることを阻んでいる。
184. 政党,使用者団体及び労働組合の意思決定機関のような権力への伝統的な道へのアクセスを制限されたために,女性は特に非政府機関の分野において,それに代わる構造を通じて権力へのアクセスを獲得してきた。非政府機関及び草の根団体を通じて,女性は自分たちの利益と関心を明確に述べることができ,女性問題を国内,地域及び国際的な課題にしてきた。
185. 公的分野における不平等は,往々にして,前述のパラグラフ29で述べられたように,家庭の中の差別的な態度と慣行及び女性及び男性の間の不平等な力関係から始まる可能性がある。不平等な力関係に基づいた家庭内の労働と責任の不平等な分担もまた,時間を見つけてより広い公の討論の場における意思決定への参加に必要な技能を開発する女性の潜在能力を制限している。これらの責任が女性及び男性の間でもっと平等に分担されるなら,女性及びその娘たちの生活の質がよくなるだけでなく,その利益が認識され対処されるように,彼らが公共の政策,実行及び支出を策定・計画する機会を増進することになる。支配的な男性気質を反映する地元の地域社会レベルの非公式なネットワーク及び意思決定パターンが,政治的,経済的及び社会的生活に平等に参加する女性の能力を制限している。
186. 地方,国,地域及び国際レベルにおける経済的及び政治的意思決定者の間の女性比率の低さは,積極的措置を通じた対処が必要な,構造的及び態度上の障害を反映している。政府,多国籍及び国内企業,マスメディア,銀行,学術・科学機関,並びに国連システムにおけるものを含む地域及び国際機関は,トップレベルの管理職,政策決定者,外交官及び交渉担当者としての女性の才能を十分に活用していない。
187. あらゆるレベルにおける権力及び意思決定の公平な配分は,政府その他の行為者が,統計的なジェンダー分析を行い,政策の開発とプログラムの実施の中心にジェンダーの視点を据えるか否かにかかっている。意思決定における平等は,女性のエンパワーメントにとって不可欠である。いくつかの国では,積極的措置(アファーマティブ・アクション)が,地方政府及び中央政府における33.3パーセント以上という女性比率をもたらした。
188. 国内,地域及び国際統計機関は,経済及び社会分野における女性及び男性の平等な扱いに関する問題の提起の仕方について,未だに不十分な知識しか持っていない。特に,重要な意思決定分野における既存のデータベース及び方法の利用が不十分である。
189. あらゆるレベルの権力及び意思決定の分担における女性及び男性の間の不平等に対処するに当たり,政府その他の行為者は,決定がなされる前に,それが女性及び男性それぞれに与える影響の分析が行われるように,すべての政策及び計画の中心にジェンダーの視点を据える,積極的で目に見える政策を促進すべきである。
戦略目標G.1. 権力構造及び意思決定への女性の平等なアクセス及び完全な参加を保障するための措置を講じること
取るべき行動
190. 政府により:
(a) 政府機関及び委員会,公的行政機関並びに司法部門において,例えば,あらゆる政府及び公的な管理的地位への女性及び男性の平等な参加の達成を目指す観点から,女性の数を実質的に増加するために,必要であれば積極的措置(ポジティブ・アクション)を通じて,特定の目標を設定して施策を実施することを含む,女性及び男性の均衡達成の目標を設定する公約を行うこと。
(b) 選挙制度におけるものを含め,政党に対し,選挙によるもの及び選挙によらずに任用される公的な地位に女性を男性と同じ比率かつ同じレベルとするよう奨励する施策を,適当な場合,講じること。
(c) 政党及び労働組合の構成員となることを含め,政治活動に従事する,また,結社の自由に対する女性及び男性の平等な権利を保護し,促進すること。
(d) 選挙制度が女性議員の選出に及ぼす,男性の場合とは異なる影響を見直し,適当な場合,制度の調整又は改善を検討すること。
(e) 公共及び民間部門のあらゆるレベルにおけるさまざまな意思決定の地位についている女性及び男性に関する数量的・質的データの定期的な収集,分析及び普及を通じて女性の代表としての参加の進展の状況を監視及び評価するとともに,政府のさまざまなレベルに適用されている女性及び男性の数に関するデータを毎年,普及すること。官職の全領域に女性及び男性が平等なアクセスを有するよう保障し,この分野の進展の状況を監視する仕組みを政府機構内部に設置すること。
(f) 意思決定への女性の参加及び意思決定に与える影響並びに意思決定環境に関する調査を行う非政府機関及び研究機関を支援すること。
(g) あらゆるレベルの意思決定における,先住民女性のより大きな関与を奨励すること。
(h) 政府が資金供与している機関が,その組織内に女性の数を増し,かつその地位を高めるために,非差別的な政策及び慣行を採用するよう奨励し,適当な場合,保障すること。
(i) 仕事と親としての責任を女性及び男性で分担することが,女性の公的生活への参加を促進することを認識し,これを達成するために,家庭生活と職業生活を両立させる措置を含め適切な施策をとること。
(j) 国連機関,専門機関及び国連システムのその他の自治機関,特に上級ポストへの選出又は任命のために推薦される国内候補者の名簿において,男女の均衡を目指すこと。
191. 政党により:
(a) 女性の参加を直接・間接に差別するすべての障害を除去するために,政党の構造及び手続きに関する調査を考慮すること。
(b) すべての内部政策決定機構,並びに任命及び選挙のための候補者の指名過程への女性の完全な参加を可能にする新機軸の開発を考慮すること。
(c) 自党の政治的課題にジェンダー問題を盛り込むことを検討し,女性が政党の指導部へ男性と平等に参加できるよう保障するための施策を講じること。
192. 政府,国家機関,民間部門,政党,労働組合,使用者団体,研究及び学術機関,小地域及び地域機関,非政府及び国際機関により:
(a) 戦略的な意思決定の地位において,女性の指導者,幹部役員及び管理職者のクリティカル・マス(決定的多数)を樹立するための積極的措置(ポジティブ・アクション)を取ること。
(b) 適当な場合,上級レベルの意思決定への女性のアクセスを監視するための仕組みを,創設又は強化すること。
(c) 諮問及び意思決定機関への採用及び任命,並びに上級ポストへの昇進のための基準が妥当で,女性を差別しないものであることを保障するために,その見直しをすること。
(d) 各組織のあらゆる領域のあらゆるレベルにおける意思決定機関及び交渉への平等な参加を含め,各組織における女性及び男性の間の地位上の平等を達成するために,非政府機関,労働組合及び民間部門の取組みを奨励すること。
(e) 社会における,また前述のパラグラフ29に定義したように家庭における男女の新しい役割に関して,一般の議論を促進するためのコミュニケーション戦略を開発すること。
(f) すべての女性,特に若い女性が,職場内訓練を含む,管理,起業,技術及び指導者訓練への平等なアクセスを持つよう保障するために,募集・採用及びキャリア開発のプログラムを再編成すること。
(g) キャリア設計,追跡調査,助言,実地指導,訓練及び再訓練を含む,あらゆる年齢の女性のためのキャリア向上を目指すプログラムを開発すること。
(h) 国連の会議及びその準備過程への女性非政府機関の参加を奨励し,支援すること。
(i) 国連その他の国際フォーラムへ送る代表団の構成における男女の均衡を目指し,また,支援すること。
193. 国連により:
(a) 国連憲章第101条第3項に従い,地理的にできるだけ広い範囲から職員を採用することの重要性に十分配慮しつつ,2000年までに,特に専門職レベル以上における全体的な女性と男性の間の平等を達成するため,既存の雇用政策及び措置を実施するとともに新規の政策及び措置を採用すること。
(b) 国連機関,専門機関及び国連システムのその他の機関における上級ポストへ任命する候補者に女性を指名するための仕組みを開発すること。
(c) 意思決定の地位にある女性及び男性に関する数量的・質的なデータを継続して収集・普及し,女性及び男性のそれぞれが意思決定に与える別々の影響を分析するとともに,2000年までに管理職及び意思決定の地位の50パーセントを女性が占めるようにする,という事務総長の目標の進展状況を監視すること。
194. 女性団体,非政府機関,労働組合,社会的提携者,生産者,産業及び職業団体により:
(a) 情報,教育及び啓発活動を通じて,女性の連帯を築き,強化すること。
(b) 女性が政治的,経済的,社会的な決定,過程及び制度に影響を与えることができるよう,あらゆるレベルで提唱し,選出議員がジェンダー問題への公約に関する責任を果たすよう働きかけること。
(c) データ保護の法規を遵守しつつ,上級の意思決定及び諮問的地位へ女性を任命する際の利用に向けて,政府,地域及び国際機関,民間企業,政党その他の関連機関に普及するための,女性とその資格に関するデータベースを設置すること。
戦略目標G.2. 意思決定及び指導的立場への女性の参加能力を高めること
取るべき行動
195. 政府,国家機関,民間部門,政党,労働組合,使用者団体,小地域及び地域機関,非政府及び国際機関,並びに教育機関により:
(a) 女性及び少女,特に特別なニーズを有するもの,すなわち,障害を持つ女性,少数人種及び民族に属する女性が自己矜持を強めるよう支援し,意思決定の地位に就くよう励ますため,指導者訓練及び自己矜持の訓練を提供すること。
(b) 意思決定の地位への透明な基準を持つとともに,選考機関を男女の均衡のとれた構成にすること。
(c) 不慣れな女性のための助言(メンタリング)システムを創設し,また特に,指導力及び意思決定,演説及び自己主張並びに政治運動を含む訓練を提供すること。
(d) 非差別的な労働関係と労働及び経営のスタイルにおける多様性の尊重を促進するために,ジェンダーへの感受性を高める訓練を男性及び女性に提供すること。
(e) 女性に対し,選挙過程,政治活動その他の指導的分野に参加するよう奨励するための仕組み及び訓練を開発すること。
第Ⅳ章 戦略目標及び行動
H 女性の地位向上のための制度的な仕組み
196. 女性の地位向上のための国内本部機構(ナショナル・マシーナリー)は,とりわけ,女性の地位向上を促進する政策を企画し,実施を促進し,執行し,監視し,評価し,擁護し,それらの政策のための支援を動員することを目的として,ほぼすべての加盟国に設置されてきた。それらは形態もさまざまなら効果も一様でなく,衰微した例もいくつかある。多くの場合,国の政府機構の中での中心から外されて,これらの機構は不明確な権限と,十分なスタッフ,訓練,データ及び資源の不足,並びに国の政治的指導層からの十分な支援の欠如のためにしばしば活動を妨げられている。
197. 地域及び国際レベルでは,主流をなす政治的,経済的,社会的及び文化的開発,並びに開発と人権に関する先導的プログラムの不可欠な一部として女性の地位向上を促進するための機構及び機関が,最高レベルの関与の欠如から生じる同様の問題に遭遇している。
198. 相次ぐ国際会議が,政策及び計画の立案に当たってジェンダーの要素を考慮に入れる必要性を強調してきた。しかし,多くの場合,これは行われていない。
199. 婦人の地位委員会及び女子差別撤廃委員会などの国際機構とともに,女性の地位向上に関する地域機関が強化されてきた。しかし,利用可能な資源が限られているため,その権限の完全な行使が阻まれている。
200. 政策及びプログラムにおけるジェンダーに基づく分析を行う方法,及び政策が女性及び男性それぞれに与える異なった影響を取り扱う方法が多くの機関で開発され,適用できるようになっているが,利用されていない場合が多く,利用される場合も一貫していない。
201. 女性の地位向上のための国内本部機構は,政府内部の中心的な政策調整単位である。その主要な任務は,政府全体にわたって男女平等の視点をあらゆる政策分野の主流に置くことへの支援である。そのような国内本部機構が効果的に機能するために必要な条件には,以下のものが含まれる。
(a) 政府内の可能な限り最高のレベルに位置付け,閣僚の責任下に置くこと。
(b) 草の根から本格的なものに至るまでの非政府機関及び地域社会の機関を巻き込むことを目的として,適当な場合,多極分散された立案,実施及び監視を促進する制度的な仕組み又は過程
(c) 予算及び専門的能力の観点から十分な資源
(d) 政府のあらゆる政策の開発に影響を与える機会
202. 女性の地位向上を促進するための機構の問題に対処するに当たり,政府その他の行為者は,決定がなされる前に,それが女性及び男性それぞれに与える影響の分析が行われるように,すべての政策及び計画の中心にジェンダーの視点を据える,積極的で目に見える政策を促進すべきである。
戦略目標H.1. 国内本部機構その他の政府機関を創設又は強化すること
取るべき行動
203.政府により:
(a) 女性の地位向上に対する責任は,政府の可能な限り最高のレベルに与えるよう保障すること。多くの場合,閣僚のレベルになるかもしれない。
(b) 強力な政治的公約に基づいて,女性の地位向上のために,政府の可能な限り最高レベルに国内本部機構がまだない場合には,これを創設し,適当な場合,既存のものを強化すること。この機構は,明確に規定された権限と権威を有すべきである。政策に影響を与え,法律を策定し見直すための十分な資源,能力及び力量が,決定的な要素であろう。なかでも,この機構は政策分析を行い,啓発,連絡,調整及び実施の監視を引き受けるべきである。
(c) ジェンダーの視点から計画し,データを分析する訓練をスタッフに与えること。
(d) この機構が政府全体の政策問題に関する情報を初期段階に収集し,それを政府内部の政策開発及び見直しの過程に,絶えず利用することを可能にするための手続きを確立すること。
(e) 行動綱領の実施を考慮してジェンダーの問題を主流にするために,適当な場合,立法機関に対して,取組みの進捗状況に関し定期的に報告を行うこと。
(f) 女性及び男性の平等を目指して働くために組織化した,公共・民間及びボランティア部門における広範かつ多様な範囲にわたる機関行為者の積極的な関与を奨励し,促進すること。
戦略目標H.2. 法律,公共政策,計画及びプロジェクトにジェンダーの視点を組み込むこと
取るべき行動
204. 政府により:
(a) 政策決定がなされる前に,それらが女性及び男性それぞれに及ぼす影響の分析が行われることを保障するよう努めること。
(b) 女性が開発の直接の受益者であり,また,彼らの開発への有償・無償双方の寄与のすべてが経済政策及び計画において考慮されるよう保障するために,雇用及び所得政策の影響を評価して,国家政策,計画及びプロジェクト,並びにそれらの実施状況を定期的に見直すこと。
(c) 女性の権利の行使に対する障害を撤廃し,あらゆる形態の女性に対する差別を撤廃するために,女性及び男性の平等に関する国家戦略及び目標を促進すること。
(d) あらゆる法律及び政策においてジェンダーの視点を促進するために,適当な場合,立法機関のメンバーと協力すること。
(e) ジェンダーの視点から行動綱領に照らし,政策及び施策を見直す権限を,すべての省庁に付与すること。その権限の実施責任は,可能な限り最高のレベルに置くこと。この権限を遂行し,進展を監視し,かつ,関連の機構とのネットワークづくりのための省庁間の調整機構を設置及び/又は強化すること。
205. 国内本部機構により:
(a) ジェンダーの視点をあらゆる政策決定過程の主流に置くことを保障するために,女性及び男性の平等に関する政府施策の策定及び実施を促進し,適切な戦略及び方法を開発し,中央政府内部の調整と協力を促進すること。
(b) 関係政府部局,女性学センター,研究・学術・教育機関,民間部門,メディア,非政府機関,特に女性団体,及び市民社会のその他の行為者すべてとの協力関係を促進し確立すること。
(c) とりわけ,家族,雇用条件,社会保障,所得税,教育の機会均等,女性の地位向上を促進するための積極的施策,並びに平等に適した態度及び文化の認識に関する法改正に焦点を合わせた活動に着手するとともに,法律に関する政策及び計画の改正においてジェンダーの視点を推進すること。
(d) すべての人々の生活の質の改善をもたらすであろう開発の過程の積極的な行為者及び受益者双方として,女性の一層の参加を促進すること。
(e) 女性の地位向上に取り組む国内,地域及び国際機関との直接的な連携を確立すること。
(f) 政府機関がその政策及び計画にジェンダーの視点を組み込めるように,訓練及び助言支援を提供すること。
戦略目標H.3. 立案及び評価のための男女別のデータ及び情報を作成・普及すること
取るべき行動
206. 調査及びドキュメンテーション(文書管理)機関と各自の責任分野で協力しつつ,国内,地域及び国際統計サービス並びに関係の政府及び国連機関により:
(a) 個人に関するすべての統計が,性及び年齢別に収集され,集計され,分析され,提供されて,社会における女性と男性に関する課題,争点及び問題点を反映するよう保障すること。
(b) 政策及び計画の立案・実施の際の利用に供するため,年齢別,性別及び扶養家族数を含む社会経済その他の関連指標別のデータを定期的に収集し,集計し,分析し及び提供すること。
(c) ジェンダー分析を強化するための適切な指標及び調査方法の開発とテスト,並びに行動綱領の目標の実施に対する監視と評価に,女性学センター及び調査機関を巻き込むこと。
(d) ジェンダーに関する統計プログラムを強化し,調整,監視及び統計業務のあらゆる分野との連携を確保し,さまざまなテーマ分野からの統計をまとめた情報(アウトプット)を準備するための担当スタッフを指名又は任命すること。
(e) 非公式部門への参加を含めた,経済に対する女性及び男性の全貢献のデータの収集を改善すること。
(f) 以下により,あらゆる形態の労働及び雇用について,より包括的な知識を開発すること。
(i) 農業,特に自給農業及びその他の型の非市場生産活動におけるように,すでに国連の国民経済計算体系に含まれている無償労働に関するデータ収集の改善
(ii) 現在,労働市場における女性の失業及び不完全雇用を過少に見積もっている測定の改善
(iii) 女性の経済的寄与を認め,女性及び男性の間の有償労働と無償労働の不平等な分布を目に見えるものにするために,扶養家族の世話及び食事の用意のように,国民経済計算に含まれない無償労働の価値を数量的に評価し,中核的な国民経済計算とは別個であるがそれと調和したものとして作られる可能性のあるサテライト(補助的)勘定又はその他の公的経済計算に反映できる方法を,適切な討論の場において開発すること。
(g) 有償及び無償労働における女性及び男性の格差に敏感な,時間使用統計のための活動の国際分類を開発し,性別のデータを収集すること。国内レベルでは,各国の制約を条件にしつつ:
(i) 有償の又は他の無償の活動と同時に行われるそれらの活動を記録することを含め,無償労働の価値を数量的に測定するための定期的な時間使用調査を行うこと。
(ii) 国民経済計算に含まれない無償労働を数量的に測定し,中核的な国民経済計算とは別個ではあるがそれと調和したサテライト(補助的)勘定又はその他の公的経済計算にその価値を正確に反映する方法の改善に努めること。
(h) 資源へのアクセスを含め,女性及び男性の間の貧困の測定に関するデータ収集の基本概念及び方法を改善すること。
(i) 人口動態統計体系を強化し,刊行物及び調査にジェンダー分析を盛り込むこと。罹病率のデータを改善するために,調査設計,データ収集及び分析においてジェンダーによる相違を優先すること。未成年の母親及び高齢者介護を特に優先した,性と生殖に関する包括的な保健サービス,妊産婦対策及び家族計画へのアクセスを含め,保健サービスへのアクセスに関するデータ収集を改善すること。<
(j) 家庭内暴力,性的いやがらせ(セクシュアル・ハラスメント),レイプ,近親姦及び性的虐待とともに,女性及び少女の人身売買のような,女性に対するあらゆる形態の暴力の被害者及び加害者,並びに国家の係官による暴力に関する,男女別及び年齢を特定して改善されたデータを開発すること。
(k) 資源へのアクセスを含めた,障害を持つ女性及び男性の参加に関するデータ収集の基本概念及び方法を改善すること。
207. 政府により:
(a) 女性及び男性に関する項目別のデータを広範な非専門的な利用者に適した形で提供し説明する,ジェンダーに関する統計出版物の定期的な作成を確保すること。
(b) 各国の統計作成者及び利用者が公的統計制度の妥当性及びジェンダー問題の適用度を定期的に見直し,必要な場合は,必要な改善に関する計画を準備するよう保障すること。
(c) 公共・民間両部門における上級の意思決定のポストにある女性及び男性の数を含め,社会における権力及び影響力の分担に関して,調査機関,労働組合,使用者,民間部門及び非政府機関による数量的・質的な調査を開発し,また,開発を奨励すること。
(d) 政策の策定並びにプログラム及びプロジェクトの実施に当たって,ジェンダーにより配慮したデータを利用すること。
208. 国連により:
(a) あらゆる関係国連機関による利用に向けた,女性に対する暴力を含む,女性の人権に関連する可能性のあるデータを収集,照合,分析するよりよい方法を見出すための手法の開発を促進すること。
(b) 経済,社会,文化及び政治開発における女性に関連するデータを改善するため,統計手法の一層の開発を促進すること。
(c) 「世界の女性」の新版を5年毎の定期的な間隔で作成し,広く配布すること。
(d) 要請に応じて,ジェンダー政策及びジェンダー・プログラムの開発について,各国を支援すること。
(e) 国連事務局の統計部及び婦人の向上のための国際訓練研修所(INSTRAW)の,国内及び国際レベルでの進展状況に関する関連の報告,データ及び出版物が,婦人の地位委員会に対して定期的かつ連携のとれた方法で送られるよう保障すること。
209. 多国間開発機関及び二国間援助機関により:
開発途上国及び移行期経済の国の,有償・無償労働の双方を含む女性及び男性による労働を完全に測定し,適当な場合,無償労働に対してサテライト又はその他の公的勘定を用いることができるように資源及び技術援助を提供することによって,これらの国の国家能力の開発を奨励,支援すること。
第Ⅳ章 戦略目標及び行動
I 女性の人権
210. 人権及び基本的自由はすべての人間の生得の権利であり,その保護及び促進は政府の第一の責任である。
211. 世界人権会議は,国連憲章,その他の人権関連文書及び国際法に則って万人のあらゆる人権及び基本的自由の普遍的な尊重,遵守及び保護を促進するための各々の義務を遂行するというすべての国の厳粛な公約を再確認した。これらの権利及び自由の普遍的な性格には,疑問の余地がない。
212. すべての人権及び基本的自由の促進及び保護は,国連の目的及び原則,特に国際協力の目的と合致した,国連の優先目標と見なされなければならない。これらの目的及び原則の枠組みにおいて,すべての人権の促進及び保護は国際社会の正当な関心事項である。国際社会は,世界的に同じ立場で,同じ重点を置いて,公正かつ平等な方法で人権を取り扱わなければならない。この行動綱領は,人権問題を考える上での普遍性,客観性及び非選別性を確保することの重要性を再確認する。
213. この行動綱領は,開発の権利を含む,市民的,文化的,経済的,政治的及び社会的なあらゆる人権が,世界人権会議で採択された「ウィーン宣言及び行動計画」に示されているように普遍的にして不可分かつ相互に依存し合い,関連し合っていることを再確認する。世界人権会議は,女性及び女児の人権が普遍的人権の不可侵・不可欠・不可分な一部であることを再確認している。女性及び少女によるあらゆる人権と基本的自由の完全かつ平等な享受は,各国政府及び国連の優先事項であり,女性の地位向上にとって不可欠である。
214. 男女の平等な権利は,国連憲章の前文で明確に述べられている。主要な国際人権文書はいずれもみな,国家が差別の根拠にしてはならないものの一つとして性を含めている。
215. 政府はすべての女性の人権を侵害してはならないばかりでなく,これらの権利を促進し,擁護するよう積極的に努力しなければならない。女性の人権の重要性が認識されていることは,国連加盟国の4分の3が「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の締約国であるという事実に反映されている。
216. 世界人権会議は,全ライフサイクルを通じた女性の人権が,普遍的人権の不可侵・不可欠・不可分な一部分であることを明快に再確認した。国際人口・開発会議は,女性のリプロダクティブ・ライツ及び開発に関する権利を再確認した。「児童の権利宣言」(注31)及び「児童の権利に関する条約」(注11)はいずれも児童の権利を保障し,性別に基づく差別を否定する原則を支持している。
217. 権利が存在することとその効果的な享受の間のギャップは,それらの権利を促進し,保護しようとする政府のコミットメントの欠如,並びにそれらの権利に関して女性及び男性に等しく知らせることをしない政府の怠慢から来ている。国内及び国際レベルにおいて頼るべき適切な機構がないこと,及び両レベルにおける資源の不足が,問題をさらに悪化する。ほとんどの国では,「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」によって保障された権利を国内法に反映するための措置が取られてきた。自らの権利を行使する女性の能力を強めるための仕組みを設けた国も多い。
218. 女性の人権を護るためには,できる限り留保に頼ることを避け,留保が同条約の目標及び目的に反しない,又はその他国際条約法に矛盾しないようにすることが必要である。国際人権文書によって定められた女性の人権が,国内法において,さらに家族法,民法,刑法,労働法及び商法,並びに行政規則及び規定の国内での実施において,完全に認められ,有効に保護され,適用され,実施され,及び施行されなければ,それらの権利は名目だけの存在になるだろう。
219. 「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」その他の国際人権文書をまだ批准していない国,又は同条約の目標若しくは目的と相反する留保を付している国,又は国際規範及び基準を実施するために国内法が修正されていない国では,女性の法律上の平等はまだ確保されていない。一部の国内法規と国際法及び国際人権文書との食い違いによって,女性の平等な権利の完全な享受はなし崩しにされている。複雑すぎる行政手続き,裁判の過程の内部での認識不足とあらゆる女性の人権の侵害に対する不十分な監視,それらに結び付いた司法制度への女性の参画不足,既存の権利に関する情報の不足,並びに根強い態度と慣行が,女性の事実上の不平等を永続させている。事実上の不平等は,なかでも女性による人権及び基本的自由の完全な享受を保障するための家族法,民法,刑法,労働法及び商法,又は行政規則及び規定の施行の欠如によってもまた,永続させられている。
220. すべての人間は,文化的,経済的,政治的及び社会的開発に参加し,寄与し,それを享受する権利を有するべきである。多くの場合,女性及び少女は経済的及び社会的資源の配分において差別を受けている。これは,彼らの経済的,社会的及び文化的権利を直接,侵害するものである。
221. すべての女性及び女児の人権は,国連の人権活動の不可欠な一部をなすべきである。すべての女性及び少女の平等な地位及び人権を国連システム全体の活動の主流に組み入れ,関連機関及び機構全体を通じてこれらの問題に定期的かつ組織的に対処するために,真剣な取組みが必要である。これには,婦人の地位委員会,国連人権高等弁務官,その特別及びテーマ報告者,独立した専門家,作業グループ及び差別防止及び少数者の保護に関する小委員会を含む人権委員会,持続的開発委員会,社会開発委員会,犯罪防止刑事裁判委員会,女子差別撤廃委員会及びその他の人権条約機関,並びに専門機関を含む国連システムのすべての関係機関の間のより改善された協力及び調整がとりわけ必要とされる。また,権限と任務の無用な重複を避ける必要性を考慮し,国連の人権システムを強化し,合理化し,簡素化して,その有効性と能率を高めるための協力も必要である。
222. 万人の人権の完全な実現という目標を達成しようとするならば,ジェンダー分析により明らかに示された女性に対する差別の組織的でかつ体系的な性格をよりはっきり考慮に入れる方法で,国際人権文書を適用しなければならない。
223. 国際人口・開発会議の「行動計画」(注14),世界人権会議で採択された「ウィーン宣言及び行動計画」(注2)を念頭において,第4回世界女性会議は,リプロダクティブ・ライツは,子どもの数,出産の間隔及び時期を自由にかつ責任を持って決定し,そうするための情報並びに手段を得る,すべてのカップル及び個人の基本的権利,及び最高水準の性に関する健康とリプロダクティブ・ヘルスを獲得する権利の認知に基づいていることを再確認する。それはまた,人権文書に述べられているように,差別,強制及び暴力とは無縁に生殖に関する決定を行うすべてのカップル及び個人の権利をも含んでいる。
224. 女性に対する暴力は,女性による人権及び基本的自由の享受を侵害するとともに,それを損ない又は無にする。「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」及び特別報告者の仕事を考慮すれば,殴打その他の家庭内暴力,性的虐待,性的奴隷化及び搾取,女性及び子どもの国際的人身売買,強制売春及びセクシュアル・ハラスメントなどのジェンダーに基づく暴力,並びに文化的偏見,人種差別主義及び人種差別,外国人嫌い,ポルノグラフィ, 民族浄化, 武力紛争, 外国の占領,宗教的及び反宗教的過激主義, 並びにテロリズムから起こる女性に対する暴力は,人間の尊厳及び価値とは相容れないものであり,これと闘って根絶しなければならない。女性の権利を侵害するある種の伝統的,習慣的又は現代的な慣行の,いかなる有害な側面も禁じられ,撤廃されるべきである。公私の生活において,国家又は私的な個人によって犯され,若しくは容認されるものであれ,女性に対するあらゆる形態の暴力と闘い, これを根絶するために, 政府は緊急の措置を取るべきである。
225. 多くの女性が,自らの人種,言語,民族,文化,宗教,障害,又は社会経済的階級等の要因のために,あるいは先住民,女性移住労働者を含む移住者,避難民又は難民であるがゆえに,自らの人権の享受を阻む更なる障害に直面している。彼らはまた,自らの基本的人権に対する知識や認識の全般的な欠如に加え,情報へのアクセス,及び権利を侵害された場合に頼るべき仕組みへのアクセスを得ようとする際に遭遇する障害によっても,不利を被り,疎外される可能性がある。
226. 難民その他国際的保護を必要とする避難民女性及び国内避難民女性の退去を引き起こす要因は,男性に対するものとは異なっているかもしれない。これらの女性は,避難中も避難後も,引き続き人権の侵害を受けやすい。
227. 自らの権利を行使するために法制度を利用する女性が次第に増えている反面,多くの国では,このような権利があることを知りさえしないことが,女性の人権の完全な享受と平等の達成を阻む障害になっている。女性は,教育水準又は社会経済的な地位に関係なく,自らの権利を主張する力をつけ,意欲を出すことができる事実を,多くの国の経験が示してきた。自らの権利とその他の生活面との間の関連性に対する女性の理解を助ける上で,また,費用効果の高い先導的プログラムの開始によってこれらの権利の獲得を助けることができるのを実証する上で,法識字プログラムとメディア戦略は有効であった。権利の侵害を補償するための救済機構の知識を含む,女性の人権に対する理解の促進にとって,人権教育の提供は欠かすことができない。あらゆる個人,特に弱い立場の女性が,自らの権利に対する完全な知識と,権利の侵害に対抗する法的な手段へのアクセスを持つことが必要である。
228. 人権の擁護に携わる女性は、保護されなければならない。政府は、「世界人権宣言」「市民的及び政治的権利に関する国際規約」及び「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」に述べられているすべての権利が,人権の促進及び保護のために個人又は組織としての資格で平和的に働いている女性によって完全に享受されることを保障する義務を有する。非政府機関,女性団体及びフェミニスト団体は,草の根活動,ネットワーク作り及び啓発を通じて,女性の人権の促進に触媒的役割を果たしてきたが,これらの活動を遂行するために,政府からの激励及び支援,並びに政府からの情報へのアクセスを必要としている。
229. 人権の享受に対処するに当たり,政府その他の行為者は,決定がなされる前に,それらが女性及び男性のそれぞれに及ぼす影響の分析が行われるよう,すべての政策及び計画の中心にジェンダーの視点を据える,積極的で目に見える政策を促進すべきである。
戦略目標I.1. あらゆる人権文書,特に「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の完全な実施を通じて,女性の人権を促進し,保護すること
取るべき行動
230. 政府により:
(a) 国際的及び地域的人権条約の批准又は加入に向けて積極的に努力し,かつ,これらを実施すること。
(b) 2000年までにすべての国による批准が達成できるように,「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」を批准し又はこれに加入し,実施を確保すること。
(c) 「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」に対するいかなる留保についても,その範囲を限定し,可能な限り厳密かつ狭く規定し,同条約の趣旨及び目的と両立し,また,その他には国際条約法と両立するよう保障し,撤回を目的とする定期的な見直しを行うこと。「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の趣旨及び目的と両立し,また,その他には国際条約法と両立しない留保を撤回すること。
(d) 世界人権会議で勧告されたように,女性の人権を含む人権の促進及び保護を改善するための対策を確認する国内行動計画の作成を検討すること。
(e) 世界人権会議で勧告されたように,女性の人権を含むこれらの権利の保護及び促進のための独立した国内機関を創設又は強化すること。
(f) 女性の人権に対する女性自身及び他の人々の意識を高めるための,包括的な人権教育プログラムを開発すること。
(g) 「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の締約国である場合は,同条約に規定された義務との一致を確保するため,すべての国内法,政策,慣行及び手続きを見直し,同条約を実施すること。この点に関し,すべての国は,すべての国内法,政策,慣行及び手続きが国際人権法上の義務に適うものになるよう,その見直しを行うべきである。
(h) 女性の人権の分析及び見直しを確保するために,ILO条約を含む他のすべての人権条約及び文書の下での報告書に,ジェンダーの側面を加えること。
(i) 報告書の準備に当たっては,女子に対する差別の撤廃に関する委員会(女子差別撤廃委員会)が設定した指針に完全に従い,適当な場合,非政府機関を巻き込み,又はその寄与を考慮に入れ,同条約の実施に関して,予定どおりに同委員会に報告を行うこと。
(j) 1995年5月22日に締約国が採択した「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」第20条第1項に関する改正(注32)の広範な批准を通じて十分な会合時間を認めるとともに,能率的な作業方法を促進することによって,女子差別撤廃委員会がその権限を完全に遂行することができるようにすること。
(k) できるだけ早く発効し得る,申立て権の手続きに関する「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の選択議定書案を作り上げることを目的として婦人の地位委員会が開始した過程を,その実現に関する意見を含めた事務総長の報告を考慮しつつ,支援すること。
(l) 少女と少年に平等な権利を保障するため1995年末までに,すべての国による「児童の権利に関する条約」の批准又は加入及び同条約の完全な実施を達成するための緊急の措置をとること。2000年までにすべての国による同条約の実施を実現するために未加入の国は早急に締約国となるよう強く促される。
(m) 国連システムの枠組みにおいて,中でも女児の間引き,有害な児童労働,子どもの人身及び臓器売買,児童売春,児童ポルノグラフィその他の形の性的虐待を防止及び根絶するための有効な国際的措置の採用を目的とする,取組みへの支援を通じて,重大な児童問題に対処するとともに,「児童の権利に関する条約」の選択議定書の起草に対して寄与することを検討すること。
(n) 性的搾取,ポルノグラフィ,売春及びセックスツアーを目的とするものを含む組織的その他の形態の女性及び児童の人身売買と闘い,これを根絶するために,国際協力を通じるなどして,関連するすべての人権文書の実施を強化するとともに,被害者に対して法的及び社会的サービスを提供すること。女性及び児童の組織的搾取に責任のある者を訴追し処罰するための国際協力の条項も,これに加えるべきである。
(o) 先住民女性の人権の十分な尊重を確保する必要性を考慮して,「国際先住民の10年」の間に国連総会による先住民の権利宣言の採択を検討し,先住民団体の参加を規定した条項に従い,宣言案を作成する作業グループへの先住民女性の参加を奨励すること。
231. 権限及び職務の不必要な重複を回避する必要性を考慮し,多様な機関,機構及び手続きのよりよい調整を通じて,より高い能率と効率を促進しつつ,国連システムの関係諸機関,国連システム内のすべての人権機関,並びに国連人権高等弁務官及び国連難民高等弁務官により:
(a) あらゆる人権,すなわち,開発の権利を含む,市民的,文化的,経済的,政治的及び社会的な人権の普遍的な尊重と保護を促進するためのそれぞれの権限の行使に当たり,女性の人権に対して完全かつ平等で持続的な注意を払うこと。
(b) 女性の人権を完全に組み込み主流化するための世界人権会議の勧告の実施を確保すること。
(c) 助言サービス,技術援助,報告方法,ジェンダーに関する影響評価,調整,広報及び人権教育に関する活動を含め,国連システム全体を通じて,女性の人権を主流に置くための,包括的な政策プログラムを開発し,そのプログラムの実施に積極的な役割を果たすこと。
(d) 開発の過程への,行為者及び受益者としての女性の組み入れと完全な参加を保障し,「環境と持続可能な開発に関するリオ宣言」(注18)に述べられている持続可能で公平な開発に向けた,女性のための地球規模行動のために設定された目標を再び目標にすること。
(e) ジェンダーに基づいた人権侵害に関する情報をその活動に含め,調査結果をそのプログラム及び活動のすべてに組み入れること。
(f) 女性の人権が尊重されるように,すべての人権機関及び機構間で業務上の協力と調整がなされるよう保障すること。
(g) 女性の人権の促進においてそれぞれの権限の範囲内で活動する,婦人の地位委員会,人権委員会,社会開発委員会,持続的開発委員会,犯罪防止刑事裁判委員会,女子差別撤廃委員会を含む国連の人権条約監視機関,国連婦人開発基金(UNIFEM),婦人の向上のための国際訓練研修所(INSTRAW),国連開発計画(UNDP),国連児童基金(UNICEF)その他の国連システムの機関の間の協力と調整を強化するとともに,婦人の地位向上部と人権センターの間の協力を増進すること。
(h) 大規模な人権侵害,特に戦争状況下における集団殺害,民族浄化及び女性の組織的レイプと難民の移動その他の立ち退きとの間の密接な関連,並びに難民女性,避難民女性及び帰還女性が特別な人権侵害を受けやすい事実を考慮に入れて,国連人権高等弁務官及び国連難民高等弁務官との間,またその他の関連機関間の効果的な協力を,それぞれの権限内で確立すること。
(i) 人権助言サービス・プログラムの関連の中で,国内行動計画,並びに人権及び国内機関にジェンダーの視点を組み入れることを奨励すること。
(j) すべての国連職員,特に人権活動及び人道的救済活動に携わる職員に対し,彼らが女性の人権侵害を認識し,それに対処し,かつ自らの任務におけるジェンダーの側面を十分に考慮できるように,女性の人権の訓練を提供し,彼らの女性の人権に対する理解を促進すること。
(k) 「国連人権教育の10年」(1995年~2004年)のための行動計画の実施を見直すに当たり,第4回世界女性会議の結果を考慮に入れること。
戦略目標I.2. 法の下及び実際の平等及び非差別を保障すること
取るべき行動
232. 政府により:
(a) 人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的又はその他の信条,出身国又は出身社会,財産,出生又はその他の地位に関する,いかなる種類の差別もなしに,女性及び男性によるすべての人権及び基本的自由の完全かつ平等な享受の促進及び保護を優先すること。
(b) あらゆる年齢のすべての女性及び少女のために性に基づく差別を禁じ,あらゆる年齢の女性に平等な権利とその完全な享受を保障するために,憲法上の保障を提供し,及び/又は適切な法律を制定すること。
(c) 男女平等の原則を自国の法律に具現化し,法その他適切な手段を通じて,この原則の事実上の実現を保障すること。
(d) すべての関連国際人権文書の原則及び手続きの実施を国内法規によって保障するために,家族法,民法,刑法,労働法及び商法の分野における慣習法及び法慣行を含む国内法を見直し,性に基づいて差別する法律が残っていれば,何によらず廃止するとともに,司法の運用におけるジェンダーによる偏向を排除すること。
(e) 人権委員会又はオンブズパーソンのような,プログラムを実施する人権に関する国内の機関において女性の人権を保護するプログラムの開発を強化及び奨励し,それらの機関が個人,特に女性を支援するために,適切な地位,資源,及び政府へのアクセスを与え,それらの機関が女性の人権侵害を伴う問題に十分な注意を払うように保障すること。
(f) 前述のパラグラフ94から96までに述べられた諸権利を含む女性の人権が全面的に尊重され,保護されるよう保障するために行動を取ること。
有害な伝統的又は習慣的慣行,文化的偏見及び過激主義から生じる,人権侵害にほかならない女性に対する暴力と闘い,これを根絶するための緊急の行動を取ること。
(g) 女性器の切除は,それが存在するところはどこでも,すべからく禁止し,そのような慣行を撤廃するための,非政府機関及び地域社会団体及び宗教団体の取組みに対して強力な支援を与えること。
(h) とりわけ警察及び軍隊の職員,矯正職員,保健及び医療関係者,移住及び難民問題を扱う者を含むソーシャル・ワーカー,並びに教育制度のあらゆるレベルにおける教員を含む公務員に対し,ジェンダーに配慮した人権教育及び訓練を提供するとともに,司法関係者及び国会議員に対しても,彼らが自らの公的責任をよりよく遂行できるようにするため,そのような教育及び訓練を利用できるようにすること。
(i) 労働組合並びにその他の職業団体及び社会団体の会員になるための,女性の平等な権利を促進すること。
(j) 誰であれ公務員によって犯された女性の人権の侵害を取り調べるための効果的な機構を設置し,国内法に従って,必要な法的制裁措置を取ること。
(k) 刑法及び手続きが,加害者と被害者の関係に関わりなく,女性に向けられ,又は不均衡に女性に影響する犯罪から,効果的に女性を守り,かつその犯罪を効果的に訴追することを女性に保障し,また,犯罪の調査及び訴追に当たって,女性の被告,被害者及び/又は証人が再び犠牲にされ,又は差別されることがないよう,女性に対するいかなる差別をも撤廃すべく,必要に応じ,刑法及び手続きを見直し,改正すること。
(l) 女性が裁判官,弁護人又はその他の裁判所職員,並びになかでも警察官,刑務官及び留置所職員になるために,男性と平等の権利を有するよう保障すること。
(m) 権利の侵害に対して救済を求める不利な立場の女性を支援するために,既存の代替の行政機構及び法的支援プログラムを強化するか,又はすぐに利用できる無料若しくは低料金の,代替の行政機構及び法的支援プログラムを創設すること。
(n) あらゆる人権,すなわち,開発の権利を含む,市民的,文化的,経済的,政治的及び社会的な権利の保護及び促進の分野のすべての女性団体及び非政府機関並びにそれらの構成員に,世界人権宣言その他すべての人権文書に則ってあらゆる人権及び自由の全面的な享受を保障すること。
(o) 障害を持つ女性及び少女が,女性に対する暴力の分野における情報とサービスへのアクセス,及び社会のあらゆる側面への積極的な参加と経済的寄与を含む,非差別とあらゆる人権及び基本的自由の平等の享受を確保することに特別な注意を払いつつ,「障害者の機会均等化に関する標準規則」(注30)に含まれた勧告の実施を強化し,助長すること。
(p) ジェンダーに配慮した人権プログラムの開発を奨励すること。
戦略目標I.3. 法識字を達成すること
取るべき行動
233. 政府,並びに適当な場合,非政府機関,国連及びその他の国際機関により:
(a) 「世界人権宣言」「市民的及び政治的権利に関する国際規約」「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約」「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約」(注33),「児童の権利に関する条約」「拷問その他の残酷,非人道的若しくは屈辱的な処遇及び犯罪を禁止する条約」「発展の権利に関する宣言」(注34),「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」,並びに関連の国連会議及びサミットの結果及び女子差別撤廃委員会への国別報告を含む,すべての女性の平等な地位と人権に関する法律及び情報を,可能な場合はいつでも,地方及び先住民の言語に翻訳し,また,障害者及び識字水準の低い人々に適した形に替えて,公表し,普及すること。
(b) そのような情報を理解しやすい形式にし,また,障害者や識字水準の低い人々に適した形式に替えて公表し,普及すること。
(c) 人の権利を行使するための司法制度の利用法に関する利用しやすい指針を含む,国内法規,及びそれが女性に及ぼす影響に関する情報を普及すること。
(d) 人権が効果的に保護されるよう保障するために,広報活動及び人権教育活動,並びに特に,軍隊,警察その他の法施行職員,司法,法曹及び保健専門家のようなグループのための成人教育及び訓練プログラムに,国際及び地域文書並びに基準に関する情報を含めること。
(e) 女性の人権が侵害された場合に補償を求めるための国内,地域及び国際的な機構の存在に関する情報を,広く入手できるものにし,十分に宣伝すること。
(f) 女性に自らの人権を認識させる人権教育のプログラムを実施するために,地元及び地域女性団体,関係非政府機関,教育者及びメディアを督励し,調整し,それらと協力すること。
(g) あらゆる教育段階における学校の教科課程で女性の人権及び法的権利に関する教育を促進し,家庭内の権利及び国内法及び国際法の下における関連人権文書の内の権利を含む,公的及び私的生活における女性及び男性の平等に関して,国内で最も広範に使われている言語によるなどして,公共キャンペーンを行うこと。
(h) 国連平和維持活動に任命された者を含む国家安全保障隊及び軍隊の隊員のために,すべての国において人権及び国際人道法教育を日常的かつ継続的に促進し,任務中も非番の時もつねに女性の人権を尊重すべきであり,女性と子どもの保護に関する規則,及び武力紛争下における人権の保護に特別な注意を払うべきであるという事実を彼らに思い起こさせて,その事実に対する彼らの感受性を高めること。
(i) 難民及び避難民女性,移住女性並びに女性移住労働者に,自らの権利及び自分たちに利用できる救済機構を認識させるための適切な措置を講じること。
第Ⅳ章 戦略目標及び行動
J 女性とメディア
234. この10年間,情報技術の進歩が,国境を越えて公共政策及びとりわけ子どもと青年の個人的な態度と行動に影響を与える地球規模の通信ネットワークを推進してきた。メディアが女性の地位向上に更にはるかに大きな寄与を行う可能性は,いたるところに存在している。
235. 通信部門の職業に携わる女性の数は増加しているが,意思決定レベルの地位を獲得した者,又はメディアの政策に影響力を持つ理事会や管理機関で働く者はほとんどいない。ジェンダーに対する感受性がメディアに欠如していることは,公共及び民営の,地方,全国及び国際メディア機関に見られる,ジェンダーに基づく固定観念の排除ができなかったことを示している。
236. 電子,活字,視聴覚などのメディア通信において継続的に写し出されてきた消極的で屈辱的な女性像は,改められなければならない。ほとんどの国の活字及び電子メディアは,変わりゆく世界における女性の多様な生活と社会への寄与についてバランスよく描写していない。しかも,暴力的で屈辱的又はポルノグラフィじみたメディア作品もまた,女性及びその社会参加にマイナスの影響を及ぼしている。女性の伝統的な役割を強化する番組編成も,同様に制限的になりかねない。世界的な消費主義の傾向によって,広告及び広告放送の宣伝文句がしばしば女性を主として消費者として描き,あらゆる年齢の少女及び女性を不適切に標的とする風潮が生まれてきた。
237. 女性は,その技能,知識,及び情報技術へのアクセスを高めることによって,権能を与えられるべきである。これは,国際的にマイナスの女性描写と闘い,次第に重要性を増しつつある業界の権力の濫用の事実に挑む女性の能力を強化することになるだろう。メディアの自己規制の仕組みが創設及び強化され,ジェンダーに基づく偏向を持つ番組編成を排除するための取組みが開発される必要がある。大半の女性は,特に途上国において,拡大する電子的な情報ハイウェーを効果的に利用できず,そのために,既存のものに代る情報源を提供するネットワークを築き上げることができない。したがって女性は,新技術の進展と影響に完全に参加するために,その開発に関する意思決定に関与する必要がある。
238. メディアの活用の問題に対処するに当たり,政府その他の行為者は,すべての政策及び計画の中心にジェンダーの視点を据える,積極的で目に見える政策を促進すべきである。
戦略目標J.1. メディア及び新たな通信技術における,またそれらを通じた表現及び意思決定への女性の参加とアクセスを高めること
取るべき行動
239. 政府により:
(a) メディアのあらゆる分野及びレベルへの女性の平等なアクセスを促進し,保障するために,女性の教育,訓練及び雇用を支援すること。
(b) 配慮と行動が必要な分野を明らかにするために,女性及びメディアのあらゆる側面に対する調査を支援するとともに,ジェンダーの視点を組み入れる目的の下に既存のメディア政策を見直すこと。
(c) 管理,番組編成,教育,訓練及び研究を含むメディアへの女性の完全かつ平等な参加を促進すること。
(d) 民営,国営又は公共メディアと関わりを持つものを含む,すべての諮問,管理,監督又は監視機関への女性及び男性の任命に当たり,男女の均衡を目指すこと。
(e) 女性のニーズ及び関心事項が適切に取り組まれるように,女性のための女性による番組の数を増やすよう,表現の自由に矛盾しない範囲で,これらの機関に対し奨励すること。
(f) 電子ネットワークその他の新たな通信技術を含む女性のメディア・ネットワークを,国際的なレベルを含め情報の普及及び意見交換の手段として奨励し,認識するとともに,その目的のためにあらゆるメディア・ワーク及び通信システムにおいて活動している女性団体を支援すること。
(g) 先住民のさまざまな文化形態及びこの点について社会・教育問題の開発に関する情報の普及のために,国営メディアの番組を創造的に利用するための手段及び報奨措置を,国内法の枠組み内で奨励及び提供すること。
(h) 国内法の枠組み内でメディアの自由及びその後の保護を保障するとともに,開発及び社会問題へのメディアの積極的な関与を,表現の自由に矛盾しない範囲で奨励すること。
240. 国内及び国際メディア・システムにより:
メディア及び国際的通信システムによるバランスのとれた多様な女性描写を促進し,製作及び意思決定への女性及び男性の一層の参加を促進する,自主規制を含む規制の仕組みを,表現の自由と矛盾しない範囲で開発すること。
241. 適当な場合,政府により,又は女性の地位向上のための国内本部機構(ナショナル・マシーナリー)により:
(a) 女性が,公共,民営を問わず,マスメディアのために情報を生み出せるようにするため,試験的取組みへの資金調達や新しい通信技術,サイバネティックス・スペース(電脳空間)及び衛星の利用を含む教育・訓練プログラムの開発を奨励すること。
(b) 民主的な過程への女性の参加を強化する手段として,新技術を含む通信システムの利用を奨励すること。
(c) 女性のメディア専門家の人名録の編纂を促進すること。
(d) メディアによるバランスのとれた,固定観念にとらわれない女性描写を促進するために,職業上の指針及び行動規範又はその他適切な自主規制の仕組みの開発への女性の参加を奨励すること。
242. 非政府機関及びメディア専門家団体により:
(a) 女性のニーズ及び関心が適切に反映されるようにメディアを監視し,メディアと協議することができるメディア監視団体の設置を奨励すること。
(b) 国際レベルを含め,通信及びメディアのために情報技術をより一層利用するよう,女性に訓練を与えること。
(c) メディアにおける女性特有のニーズを認識するために,非政府機関,女性団体及びメディア専門家団体の間にネットワークを作って,それらの団体のための情報プログラムを開発するとともに,わけても,女性の人権と女性及び男性の平等を促進するために,これらの団体間の南南及び南北対話を支援して,特に国際レベルにおいて通信への女性の一層の参加を促進すること。
(d) メディア業界,教育機関及びメディア訓練機関に対し,先住民族その他の少数民族の文化を反映する,物語り(ストーリー・テリング),演劇,詩及び歌のような,伝統的な彼らのメディア形式を適切な言語で開発し,開発及び社会問題に関する情報の普及にこれらの伝達形式を利用するよう奨励すること。
戦略目標J.2. メディアにおけるバランスがとれ,固定観念にとらわれない女性の描写を促進すること
取るべき行動
243. 表現の自由に矛盾しない範囲で,政府及び国際機関により:
(a) 女性及び少女,並びに彼らの多様な役割に対するバランスのとれた描写の促進を目的とした,情報,教育及び通信戦略の調査研究と実施を促進すること。
(b) メディア及び広告機関に対し,行動綱領に関する意識を啓発するための特別プログラムを開発するよう奨励すること。
(c) メディアにおける固定観念にとらわれない,バランスのとれた多様な女性像の創造と活用を奨励するために,メディアの所有主及び経営者を含むメディア専門家のための,ジェンダーに対する感受性を養う訓練を奨励すること。
(d) メディアに対し,女性を,創造的な人間,中枢的な行為者,開発の過程への寄与者及びその受益者である存在としてでなく,劣った存在として表現すること,また性的対象及び商品として搾取することをやめるよう奨めること。
(e) メディアで見せつけられる女性差別主義的な紋切り型は男女差別であり,本質において品位をおとしめるものであって不快である,という考え方を促進すること。
(f) メディアにおけるポルノグラフィ及び女性や子どもへの暴力の描写に対し,適切な立法を含め,効果的な施策を講じ,又はそのような施策を開始すること。
244. マスメディア及び広告機関により:
(a) 固定観念にとらわれない女性像の描写を促進するために,表現の自由に矛盾しない範囲で,職業上の指針及び行動規範その他の形の自主規制を開発すること。
(b) 広告を含むメディアにおける女性関連の暴力的,屈辱的又はポルノグラフィ的な題材に対処する職業上の指針及び行動規範を,表現の自由に矛盾しない範囲で設けること。
(c) 地域社会,消費者及び市民社会にとって関心のあるすべての問題に関して,ジェンダーの視点を開発すること。
(d) メディアのあらゆるレベルにおける意思決定への女性の参加を増進すること。
245. メディア,非政府機関及び民間部門により,適当な場合,女性の地位向上のための国内本部機構と協力して:
(a) 女性及び男性の平等と固定観念にとらわれない女性及び男性の家庭内の役割を強調し,配偶者及び子どもへの虐待,並びに家庭内暴力を含む,女性に対するあらゆる形態の暴力の根絶を目的とした情報を普及するメディア・キャンペーンを通じて,家族的責任の平等な分担を促進すること。
(b) 特に若い女性のための役割モデルを提供するために,わけても,母親,専門職,管理職及び起業家としての仕事と家族的責任の両立を含め,しかしそれに限定しないで,指導的地位につくまでに多くの異なった生活経験を経ている女性指導者に関するメディア素材を製作し,及び/又は普及すること。
(c) 女性の人権に関する情報を普及し,女性の人権への認識を高めるために,公共及び民間の教育プログラムを利用した大規模なキャンペーンを促進すること。
(d) 女性とその関心事項に関する情報を女性に普及するために,既存のものに代るメディアの開発及びあらゆる通信手段の利用を支援し,適当な場合,資金を提供すること。
(e) メディア・プログラムに関するジェンダー分析を適用するために,アプローチを開発し,専門家を訓練すること。
第Ⅳ章 戦略目標及び行動
K 女性と環境
246. 人間は持続可能な開発問題の中心にある。彼らは,自然と調和して健康で生産的な生活を送る権利がある。国連環境開発会議及び国連人口・開発会議で認識され,「アジェンダ21」の全体に反映されているように,女性は,持続可能で環境的に健全な消費及び生産パターンと天然資源の管理へのアプローチにおいて果たすべき非常に重要な役割を担っている。資源の枯渇,自然体系の悪化及び汚染物質の危険への認識が過去10年間に著しく高まってきた。これらの悪化の状況は,壊れやすい生態系を破壊し,地域社会,特に女性を生産活動から追い出し,次第に安全で健全な環境への脅威となりつつある。貧困と環境悪化は,互いに密接に関連し合っている。貧困は環境へのある種の圧迫をもたらす一方,持続する地球環境の悪化の主な原因は,特に工業国における持続不可能な消費及び生産のパターンであり,これは重大な関心事項で,貧困と不均衡を深刻化している。地球温暖化の結果である海面の上昇は,島しょ国及び海岸地域に住む人々に重大かつ直接的な脅威をもたらしている。フロン,ハロン及び臭化メチル(プラスチックや泡を作る)を用いた製品のような,オゾン層破壊物質の使用が,大気に大きく影響して有害な紫外線を過剰に地表へ到達させつつある。これは皮膚がん,眼の障害及び免疫低下の発生率の増加等,人々の健康に深刻な影響を及ぼしている。それは,農作物や海洋生命への害を含め,環境にも深刻な影響を与えている。
247. すべての国及びすべての人々は,生活水準の不均衡を減らし,世界の大多数の人々のニーズによりよく対応するために,持続可能な開発に不可欠な要件である貧困の撲滅という重大な仕事において協力しなければならない。ハリケーン,台風,その他の自然災害,及びそれに加えて,資源破壊,暴力,強制立ち退きその他,戦争,武力その他の紛争,核兵器の使用及び実験,並びに外国の占領に関わる結果もまた,環境の悪化を助長しうる。天然資源の質の低下は,地域社会,特に女性を所得創出活動から追い出す一方で,無償労働を大幅に増やす。都市地域及び農村地域の双方で,環境悪化は住民全体,特にあらゆる年齢の少女及び女性の健康,安寧及び生活の質に悪影響をもたらしている。農村地域に住む女性及び農業部門で働く女性の役割と特殊な状況に,特別な注意と認識が与えられるべきである。農業部門では,訓練,土地,天然及び生産資源,信用,開発プログラム及び協同組合組織へのアクセスが,持続可能な開発への彼らの参加の増進を助けることができる。女性は,さまざまな化学物質の毒性の影響に対して男性とは異なる弱さを持つため,家庭及び職場における環境危機は女性に不均衡に大きな影響を及ぼす可能性がある。女性の健康に対するこれらの危険性は,都市地域並びに公害産業施設が高度に集中している低所得地域で特に高い。
248. 天然資源の管理と利用を通じて,女性は家族と地域社会に生計を提供する。女性は消費者及び生産者,また,家族の世話人及び教育者として,現在及び将来の世代の生活の質と持続可能性への関心を通じ,持続可能な開発の促進に重要な役割を果たす。各国政府は,「アジェンダ21」(注19)第24章に入れられているように,環境の持続可能性を男女の平等及び世代内・世代間の公正と統合する新たな開発のパラダイム(理論的枠組)を作るという公約を表明してきた。
249. 依然として女性は,天然資源及び環境の管理,保全,保護及び復旧における政策策定及び意思決定のあらゆるレベルで大幅に参加不足であり,適切な天然資源の管理の提唱及び監視における女性の経験と手腕は,政策及び意思決定機関,並びに教育機関及び環境関連機関の管理レベルであまりにも多く疎外され続けている。女性が,土地利用計画者,農学者,森林学者,海洋科学者,環境法律家のような,政策決定資格を持つ専門の天然資源管理者としての訓練を受けることはほとんどない。専門的な天然資源管理者として訓練を受けている場合でさえ,国内,地域及び国際レベルにおける,意思決定資格を持つ正式機関への参加は,多くの場合,不十分である。その意思決定が環境の質に最も重大な影響を与える金融機関や法人組織の運営に,女性が平等に参加していないことが多い。しかも,これらの問題に関してあらゆるレベルで活動する女性の非政府機関が最近急速に成長し,目立つようになってきたにもかかわらず,女性の非政府機関と環境問題を扱う国家機関の間の協調には制度的な弱点がある。
250. 女性は,環境倫理の促進,資源の使用の削減,余分で過度な消費を最小限に抑えるための資源の再使用及び再生利用においてしばしば指導的役割を果たし,あるいは率先してきた。女性は,持続可能な消費の決定に影響を与える上で,特に強力な役割を担うことができる。更に,環境を保護する草の根及び若者の運動を通じることを含め,環境管理への女性の寄与は,環境問題への分権化した対処が最も必要かつ決定的な地方レベルで行われてきた場合が多い。女性,特に先住民の女性は,生態学的連鎖や脆弱な生態系の管理について特別な知識を持っている。多くの地域社会の女性たちは,海産食物の生産を含む自給生産に主要な労働力を提供している。したがって彼らの役割は,食糧と栄養の供給,自給部門及び非公式部門の強化,並びに環境保全にとってきわめて重要である。ある地域では,しばしば男性が自然環境の保護と家庭及び地域社会内の十分かつ持続可能な資源配分の確保を女性に委ねて遠くの場所へ出稼ぎに行くため,概して女性が地域社会のもっとも安定した成員である。
251. 健全な環境管理に必要な戦略行動には,多くの学問領域及び部門にわたる総合的なアプローチが求められる。そのようなアプローチのあらゆる局面に,女性の参加と指導力が不可欠である。最近の開発に関する国連主催の世界会議や第4回世界女性会議の地域準備会合はいずれも,女性と男性を等しく巻き込むことをしない持続可能な開発政策は,結局は成功しないであろうことを認めている。これらの会議は,あらゆるレベルの意思決定及び管理における知識の生み出しと環境教育への女性の効果的な参加を求めた。したがって,女性の経験と生態学的に健全な環境への寄与は,21世紀に向けた課題にとって中枢的なものにならなければならない。環境管理に対する女性の寄与を認識し支援しなければ,持続可能な開発は画に描いた餅になるだろう。
252. 天然資源の保全及び管理,並びに環境保護への女性の寄与に対する十分な認識と支援の欠如に対処するに当たり,政府その他の行為者は,適当な場合,決定がなされる前に,それが女性及び男性のそれぞれに及ぼす影響の分析を行うことを含め,あらゆる政策及び計画の中心にジェンダーの視点を据える,積極的で目に見える政策を促進すべきである。
戦略目標K.1. あらゆるレベルの環境に関する意思決定に,女性を積極的に巻き込むこと
取るべき行動
253. 適当な場合,市町村当局を含め,あらゆるレベルの政府により:
(a) あらゆるレベルの環境に関する意思決定に,環境プロジェクトの管理者,企画者及び立案者,並びに実施者及び評価者などとして参加するための,先住民女性を含む女性の機会を確保すること。
(b) 科学,技術及び経済学の分野を含む情報及び教育への女性のアクセスを促進し,増大し,それによって,彼らの知識,技能及び環境に関する決定への参加の機会を高めること。
(c) 国内法に従い,かつ「生物多様性条約」(注35)を遵守しつつ,伝統的な薬物,生物学的多様性及び先住民固有の技術に関する慣行を含む,先住民社会及び地方社会の女性の知識,革新的技術及び慣行の効果的な保護並びに利用を奨励し,それらが生態学的に持続可能な方法で尊重され,維持され,促進されかつ保存されるよう保障に努めるとともに,そのような知識の保有者の承認と関与の下に,そのより広範な利用を促進するよう努力すること。更に,国内及び国際法の下に保護される,これらの女性の既存の知的所有権を守ること。必要な場合は,国内法に従って,かつ「生物多様性条約」及び関係国際法を遵守しつつ,そのような知識,革新的技術及び慣行の効果的な保護及び利用のための追加的な方法及び手段を見つけるために積極的に努力し,また,そのような知識,革新的な技術及び効果的な知識の利用から生じる利益の公正かつ公平な分かち合いを奨励すること。
(d) 「環境と開発に関するリオ宣言」(注18)で合意された予防的アプローチを考慮に入れ,クリーンな技術の適切な利用によることを含め,家庭,職場その他の環境で特定された環境公害から女性に及ぶ危険性を減少するための適切な措置を講じること。
(e) 中でも,農村地域及び都市地域における環境的に健全かつ持続可能な資源管理の仕組み,生産技術及び社会基盤開発の設計と実施にジェンダーの視点を組み入れるための施策を講じること。
(f) 家庭,地域社会及び職場において,男性とともに環境に関する効果的な行動が取られるように,女性に生産者及び消費者としての権能を与えるための施策をとること。
(g) 公共サービスのニーズの認定,地域計画,都市のインフラストラクチャー(基盤構造)の準備及び設計への地元の地域社会,特に女性の参加を促進すること。
254. 政府,国際機関,及び適当な場合,民間部門の諸機関により:
(a) 持続的開発委員会びその他の適切な国連機関の仕事,並びに国際金融機関の活動においてジェンダーへの影響を考慮に入れること。
(b) 地球環境技術センターその他の適切な国連機関の下で資金を供給されるプロジェクトの企画,承認及び実行に女性を関与させ,ジェンダーの視点を取り入れること。
(c) 地球環境技術センターの関心領域中の,女性及び女性が管理するプロジェクトに利益を与えると思われるプロジェクトの企画を奨励すること。
(d) 天然資源の管理及び環境保護・保全のための政策及び計画の企画,開発及び実施に,意思決定者,立案者,管理者,科学者及び技術顧問として,また受益者として関与する,特に草の根レベルの女性の比率を高めるための戦略と仕組みを確立すること。
(e) 社会,経済,政治及び科学機関に対し,環境悪化と,それが女性に及ぼす影響に対処するよう奨励すること。
255. 非政府機関及び民間部門により:
(a) 女性にとって関心のある環境及び天然資源管理の問題の提唱を引き受け,環境保護及び保全のための資源集めに役立つ情報を提供すること。
(b) 資源管理及び生物学的多様性の保全における,女性の農業者,漁業者及び牧畜業者の重大な役割と専門知識を支援し強化するために,知識,技能,市場サービス及び環境的に健全な技術への彼らのアクセスを促進すること。
戦略目標K.2. 持続可能な開発のための政策及び計画に,ジェンダーの関心事項と視点を組み入れること
取るべき行動
256. 政府により:
(a) 特に国土の環境悪化への対処と予防を意図したものを含む,持続可能な資源管理に関する意思決定及び持続可能な開発のための政策及び計画の開発に,先住民女性を含む女性,彼らの視点及び知識を男性と平等に取り入れること。
(b) 環境への影響及び天然資源に対する女性の平等なアクセスと平等な利用という観点から,政策及び計画を評価すること。
(c) 女性がどのように,どの程度,環境の悪化及び危険に特に影響されやすく,またはさらされているかを評価するための十分な調査研究を確保し,必要な場合は,特定の女性グループ,特に低所得の女性,先住民女性及び少数民族の女性に関する調査研究及びデータ収集を加えること。
(d) 持続可能な資源の利用及び管理に関する農村女性の伝統的な知識と慣行を,環境管理及び普及プログラムの開発に取り入れること。
(e) 持続可能な人間の居住地を開発するために,ジェンダーに配慮した調査研究の結果を主流の政策に取り入れること。
(f) とりわけ先住民女性の知識と経験に重点を置いて,食糧の採集及び生産,土壌保全,灌漑及び流域管理,公衆衛生,沿岸及び海洋資源管理,組織的な害虫管理,土地利用計画,森林保全及び地域林業,漁業,自然災害の予防,並びに新規及び再生可能なエネルギー源における女性,特に農村女性及び先住民女性の役割に関する知識を促進し,調査研究を後援すること。
(g) 持続可能な開発への女性の完全かつ平等な参加と資源への平等なアクセス及び管理を阻むあらゆる障害を除去するための変革を求める戦略を開発すること。
(h) あらゆる年齢の少女及び女性が,地元の天然資源及び生態系の管理及び適切な利用のための,地元の経済的,科学的及び環境的な優先問題の決定において,十分な情報に基づいた選択をし,十分な情報に基づいたインプット(投入)が提供できるよう,彼らに対する科学,技術,経済学その他の自然環境関連の分野の教育を促進すること。
(i) 技術,管理及び事務関係の勤労者とともに,女性の専門家及び科学者を環境管理に取り入れるためのプログラムを開発し,少女及び女性に対するこれらの分野の訓練を開発し,これらの分野における女性の採用及び昇進の機会を拡大し,これらの活動における女性の専門技術及びこれらの活動への女性の参加を高めるための特別な施策を実施すること。
(j) 女性と協議の上で企画・開発・改善された,女性及び男性双方にとって適切で環境的に健全な技術を認定し,促進すること。
(k) 地方及び全国レベルにおける,直接参加によるニーズ評価,エネルギー計画及び政策策定を通じ,住宅基盤,安全な水,並びに風,太陽,バイオマス(燃料源としての動植物廃棄物)及びその他の再生可能なエネルギー源等の持続可能で手頃な価格のエネルギー技術への女性の平等なアクセスの開発を支援すること。
(l) 2000年までにすべての人々に清潔な水の利用及び入手が可能になるよう,また,汚染された水系を元通りにし,損なわれた流域を再生させるため,環境保護及び保全計画が企画され実施されるよう保障すること。
257. 国際機関,非政府機関及び民間部門の機関により:
(a) 通信産業に携わる女性を,特に製品,技術及び工業過程が環境及び健康に及ぼす影響についての環境問題に関する意識の啓発に巻き込むこと。
(b) 消費者に対し,環境上安全な製品の生産促進に自らの購買力を利用するよう奨励し,環境的に健全で生産的な農業,漁業,商業及び工業活動及び技術への投資を奨励すること。
(c) 有機食品及びリサイクリング関連の販売,製品情報,及び消費者の年齢や識字水準に関わりなく理解される言語及び記号での,有毒化学薬品及び農薬のラベル表示を含む,製品のラベル表示の促進によって,女性の消費者の率先した行動を支援すること。
戦略目標K.3. 開発及び環境政策が女性に及ぼす影響を評価するための国内,地域及び国際レベルの仕組みを強化又は創設すること
取るべき行動
258. 政府,地域及び国際機関,並びに適当な場合,非政府機関により:
(a) 人的資源の開発及び環境的に健全な技術並びに女性の起業家精神の開発の継続的な促進を保障するために,特に開発途上国の農業,漁業,小企業,商業及び工業部門の女性に技術援助を提供すること。
(b) 以下に関し,学術機関及び地元の女性研究者と共同で,ジェンダーに配慮したデータベース,情報及び監視システム,並びに直接参加による,行動志向の調査研究,方法及び政策分析を開発すること。
(i) 持続可能な開発のためにデータベース及び情報システムに組み入れるための,天然資源の管理及び保全に関する女性の側の知識及び経験
(ii) なかでも持続不可能な生産・消費パターン,干ばつ,質の悪い水,地球温暖化,砂漠化,海面の上昇,有害廃棄物,自然災害,有毒化学物質及び残留農薬,放射性廃棄物,並びに武力紛争及びその結果から生じる環境及び天然資源の悪化が女性に及ぼす影響
(iii) 農業,工業,漁業,林業,環境衛生,生物学的多様性,気候,水資源及び上下水道等の特定部門に特に重点を置いた,ジェンダー(男女)の関係,環境及び開発の間の構造的な因果関係の分析
(iv) 環境的,経済的,文化的及び社会的な,ジェンダーに配慮した分析を不可欠な手段として開発し,計画及び政策の開発並びに監視に取り入れる施策
(v) 環境的に健全な技術を女性に普及する,農村及び都市の訓練・調査研究・資源センターを設置する計画
(c) 適切な場合は,「バーゼル条約」その他の有害廃棄物(有毒廃棄物を含む。)の国境を越えた移動に関する条約,及び放射性廃棄物の移動に関する国際原子力機関(IAEA)の実践規約を含む,関連の国際的義務の完全な遵守を保障すること。安全な貯蔵及び移動に関する環境的に健全な管理のための規則を制定し,施行すること。それらの危険で不安定な移動の禁止に向けた措置を検討すること。関連の国際的及び地域的義務に従って,有害廃棄物及び放射性廃棄物の厳重な取締り及び管理を確保し,独自に又は国際協定を通じてそのような廃棄物の輸入を禁止している国に対する,それらの廃棄物の輸出を撤廃すること。
(d) 特に,持続的開発委員会に対し,女性及び環境に関する「アジェンダ21」の実施状況を見直す際に婦人の地位委員会からデータを求めるよう経済社会理事会を通じて要請することが本行動綱領及び「アジェンダ21」の第24章の実施に必要であるので,各機関内及び機関間の調整を促進すること。
第Ⅳ章 戦略目標及び行動
L 女児
259. 「児童の権利に関する条約」は,「締約国は,その管轄の下にある児童に対し,児童又はその父母若しくは法定保護者の人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的,種族的若しくは社会的出身,財産,心身障害,出生又は他の地位にかかわらず,いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し,及び確保する。」(第2条第1項)(注11)ことを認めている。しかし多くの国では,女児は人生の最も初期の段階から子ども時代を経て,さらに大人に至るまでずっと差別されていることを,入手可能な指標が示している。世界のいくつかの地域では,男性は女性より100人につき5人多い。この乖離の理由には,とりわけ,女性器の切除,乳女児殺しや胎児期の性選別を引き起こす息子志向,幼児を含む若年結婚,女性に対する暴力,性的搾取,性的虐待,食物配分その他の健康及び安寧に関する慣行における少女への差別のような,有害な態度及び慣行が含まれる。この結果,大人になるまで生き残る少女は,少年より少ないのである。
260. 少女は,しばしば劣った存在として扱われ,自らを最後に位置付けるよう社会化されて,そのために自尊心をひどく傷付けられている。子ども時代の差別と軽視は,剥奪と社会の主流からの除外という,生涯にわたる下降螺旋階段の始まりになりうる。少女に対し,あらゆるレベルの社会的,経済的,政治的及び文化的な指導的立場に積極的,効果的,かつ少年と平等に参加する準備をさせるための率先的措置が取られるべきである。
261. 教科課程,教材,教育慣行,教員の態度及び教室内の相互作用を含む,ジェンダーに関して偏向した教育の過程が,既存の男女の不平等を強化している。
262. 少女及び思春期の女性は,その性別の役割について,親,教員,同輩及びメディアから,矛盾し,混乱させるさまざまなメッセージを受け取る可能性がある。女性及び男性は,子どもの権利並びに親の責任,権利及び義務を考慮しつつ,ジェンダーに関する執拗な固定観念を打ち破るために,後のパラグラフ267に述べるように,子ども及び青年とともに働く必要がある。
263. いくつかの国では,教育を受けた子どもの数はこの20年で増加したが,比較すれば,少年のほうが少女よりはるかにうまくいっている。1990年には1億3,000万人の子どもが小学校へのアクセスを持っていなかった。このうちの8,100万人が少女だった。これは,慣習的態度,児童労働,若年結婚,資金の欠如と十分な学校施設の不足,10代の妊娠,社会全般及び前述のパラグラフ29に述べたように家庭における男女の不平等などの要因によるものと考えられる。女性教員の不足が少女の入学を妨げている国もある。多くの場合,少女はごく幼い年齢で家庭内の重い雑用を引き受け始め,教育と家事の責任を両立させるよう期待されて,しばしば,成績が振るわず,また,学校教育から早期に脱落する結果になっている。
264. 中等学校に在籍する少女の比率は,多くの国で依然として著しく低い。多くの場合,少女は科学及び技術の訓練及び教育を追求するよう奨励もされなければ,その機会も与えられず,そのことが,日常生活に必要な彼らの知識と雇用機会を限られたものにしている。
265. 少女は,社会の社会的,経済的及び政治的な機能に参加し,それについて学ぶよう,少年ほど奨励されず,その結果,彼らは意思決定過程へ参加するための,少年と同じ機会を与えられない。
266. 栄養及び心身の保健サービスへのアクセスにおける女児に対する既存の差別は,その現在及び将来の健康を危険にさらしている。推計で4億5,000万人の途上国の成人女性が,子ども時代の蛋白質不足の結果として発育不全の状態にある。
267. 国際人口・開発会議は,「行動計画」(注14)のパラグラフ7.3において,情報へのアクセス,プライバシー,秘密保持,敬意及びインフォームド・コンセントに対する子どもの権利とともに,「児童の権利に関する条約」に認められ,また「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」に沿った権利を子どもが行使する際に,発達する子どもの能力に合わせて適切な指導及び手引きを与える,親及び法定保護者の責任,権利及び義務を考慮しつつ,「相互に尊敬しあう対等な男女関係を促進し,特に思春期の若者が自分のセクシュアリティに積極的に,かつ責任を持って対処できるよう,教育とサービスのニーズを満たすことに最大の関心を払わなければならない。」ことを認めた。子どもに関するあらゆる行動において,子どもの最善の利益をまず第一に考えなければならない。自らのセクシュアリティと生殖力に対する男性の責任を強調し,彼らがその責任を遂行するのを助ける,若者のための不可欠な性教育に対し,親からの支援及び指導の下に,援助が与えられるべきである。
268. 毎年,1,500万人を超える15歳から19歳までの少女が出産している。ごく若い年齢での出産は,妊娠中及び分娩時に余病を併発し,平均よりはるかに高い妊産婦の死亡の危険を伴う。若い母親の子どもは,罹病率及び死亡率が平均より高い水準にある。世界のあらゆる地域で,若年出産が,相変わらず女性の教育的,経済的及び社会的地位の向上に対する障害になり続けている。全体として,若年結婚及び若年出産は,教育及び雇用の機会を厳しく縮小する可能性があり,彼ら及びその子どもたちの生活の質に対し,長期にわたって悪影響を及ぼしがちである。
269. 性暴力及びHIV/AIDSを含む性感染症は,子どもの健康に破壊的な影響を及ぼしているが,少女は保護措置をとらない未熟な性関係の結果によって,少年より傷つきやすい。しばしば少女は,性的な行動を強いる圧力に直面する。自らの若さ,社会的圧力,保護する法律の欠如又は法の施行に対する怠慢のような要因のために,少女はあらゆる種類の暴力,特に,レイプ,性的虐待,性的搾取,人身売買あるいは臓器や体の組織の売却,及び強制労働を含む性暴力の被害を少年より受けやすい。
270. 障害を持つ女児は,さらなる障壁に直面しており,「障害者の機会均等化に関する標準規則」(注30)に則って,非差別,並びにあらゆる人権及び基本的自由の平等な享受を保障される必要がある。
271. 一部の子どもたち,特に遺棄された子ども,ホームレスの子ども,避難民の子ども,浮浪児,紛争地域の子ども及び少数民族又は少数人種であるために差別されている子どもたちは,特別に弱い立場にある。
272. したがって,少女たちが例外なく,教育及び訓練,栄養,心身の保健対策及び関連情報への平等なアクセスを通じて,潜在能力と技能を完全に開発できるようにするために,あらゆる障害が除去されなければならない。
273. 子ども及び若者に関する問題に対処するに当たり,各国政府は,決定がなされる前に,それらが少女及び少年それぞれに及ぼす影響の分析が行われるよう,すべての政策及び計画の中心にジェンダーの視点を据える,積極的で目に見える政策を促進すべきである。
戦略目標L 1 女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃すること
取るべき行動
274. 政府により:
(a) 「児童の権利に関する条約」に署名又はこれを批准していない国は,世界人権会議でなされた,1995年末までに署名するようにとの強い勧告を考慮して,早急に署名批准に向けた措置をとり,既に署名及び批准をした国は,必要なあらゆる立法,行政その他の措置の採用を通じ,また,児童の権利の完全な尊重を奨励することが可能な環境を促進することによって,条約の完全な実施を確保すること。
(b) 「児童の権利に関する条約」(注11)第7条に従い,児童は,出生の後直ちに登録され,出生の時から氏名を有する権利,国籍を取得する権利,またできる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有することを確保するための措置を講じること。
(c) 諸施策の中でも特に児童扶養法の施行によって,児童がその親から適切な財政的扶養を受けることを保障する措置を取ること。
(d) 中でも,児童の性別を問わず,児童の平等な継承権及び相続権を保障する法律を適当な場合は制定し,また,施行することによって,すべての児童が差別なく自らの権利を享受できるように,女児が直面する相続に関する不公正及び障害を撤廃すること。
(e) 婚姻は,将来の配偶者同志の自由かつ完全な同意がある場合にのみ成立することを保障する法律を制定し,厳格に施行すること。更に,同意の法定最低年齢及び婚姻の最低年齢に関する法律を制定して厳格に施行し,必要な場合は,婚姻の最低年齢を引き上げること。
(f) 女児の人権の完全な享受を促進及び保護し,少女の平等な機会を保障するために,その生存,保護,開発及び地位向上に向けた包括的な政策,行動計画及びプログラムを開発し,実施すること。これらの計画は,開発過程全体の不可欠な一部をなすべきである。
(g) そのようなプログラムの立案,実施及び監視にジェンダーの視点を盛り込むために,健康,教育その他の部門における,子どもに関するあらゆるデータを性別及び年齢別に分類するよう保障すること。
275. 政府,国際機関及び非政府機関により:
(a) 子どもに関する情報及びデータを性別及び年齢別に分類し,少女の状況に関する調査研究に着手し,適当な場合,その結果を女児の地位向上のための政策の策定,プログラム及び意思決定に取り入れること。
(b) 特に少女に教育機会を提供することによって,婚姻最低年齢に関する法律の施行に対し社会的な支援を生み出すこと。
戦略目標L.2. 少女に対する否定的な文化的態度及び慣行を撤廃すること
取るべき行動
276. 政府により:
(a) 少女に対する否定的な態度及び慣行の変革を促進するための取組みにおいて,非政府機関及び地域を基盤にした諸機関を奨励し,適当な場合,支援すること。
(b) 特定の伝統的又は習慣的慣行が女児に及ぼす有害な影響について大人に知らせ,その意識を高める教育プログラムを開始し,そのような教材及び教科書を開発すること。
(c) 少女の自己イメージ及び生活を改善し,また,特に数学,科学技術のような伝統的に女性の参加が不足していた分野における仕事の機会を増大するための教科過程,教材及び教科書を開発し,採用すること。
(d) 伝統及び宗教,並びにそれらの表現内容が,少女に対する差別の根拠にならないよう措置をとること。
277. 政府,並びに適当な場合は,国際機関及び非政府機関により:
(a) 適当な場合,手頃な料金で物理的に利用可能な保育施設,及び学齢期に自分の子どもや弟妹の世話をする責任のある少女たちを励まして学校教育に戻らせ,若しくは継続させて,これを修了させるための母親への教育を含め,結婚及び/又は妊娠している少女及び若い母親の学校教育を阻むすべての障害を除去する教育環境を促進すること。
(b) 教育機関及びメディアに対し,バランスがとれ,固定観念にとらわれない少女及び少年像を取り上げて描くとともに,児童ポルノグラフィ及び屈辱的かつ暴力的な女児の描き方を排除する努力を奨励すること。
(c) 女児に対するあらゆる形態の差別と,胎児期の性の選別や乳女児殺しのような有害かつ倫理に反する慣行をもたらす息子志向の根本原因を根絶すること。女の胎児の中絶につながる胎児の性別判定技術の利用の増加が,しばしば,この風潮を一層ひどくしている。
(d) 少女が知識を習得し,自己矜持を育て,自らの人生に責任をとることを支援し,可能にするためのフォーマル教育及びインフォーマル教育プログラムを優先する政策及びプログラムを開発すること。また,女性及び男性,特に親に対し,食糧配分における少女への差別,若年結婚,少女に対する暴力,女性器の切除,児童売春,性的虐待,レイプ及び近親姦の撤廃を含め,少女の心身の健康と安寧の重要性について教育するためのプログラムに特別の焦点を置くこと。
戦略目標L.3. 女児の権利を促進し,保護し,女児のニーズ及び可能性に対する認識を高めること
取るべき行動
278. 政府,国際機関及び非政府機関により:
(a) 家庭及び地域社会内部におけるとともに,あらゆるレベルの政策決定者,立案者,管理者及び実施者の間に,少女の不利な状況に関する認識を生み出すこと。
(b) 女児,特に困難な境遇の女児に自らの潜在能力を気づかせ,「児童の権利に関する条約」を含むあらゆる国際人権文書の下で女児に保障された権利,女児のために制定された法律,並びに女児の地位向上のために働いている政府機関及び非政府機関によって始められたさまざまな施策について教育すること。
(c) 少女の地位向上のために女性,男性,少女及び少年を教育し,彼らに対し,少女と少年の間の相互の尊重と平等な協力関係(パートナーシップ)に向かって努力するよう奨励すること。
(d) 障害を持つ少女に対する適切なサービス及び装具の平等な提供を促進し,適当な場合,その家族に関連の支援サービスを提供すること。
戦略目標L.4. 教育,技能の開発及び訓練における少女に対する差別を撤廃すること
取るべき行動
279. 政府により:
(a) 「児童の権利に関する条約」(注11)の第28条に明記されているように,初等教育への普遍的かつ平等なアクセスとすべての児童による初等教育の修了を保障し,現在,少女と少年の間に存在する落差を解消すること。同様に,不利な立場の者及び才能のある者を含むすべての少女と少年に対し,中等教育への平等なアクセスを2005年までに確保し,さらに,職業教育及び技術教育を含む高等教育への平等なアクセスを保障すること。
(b) 特に,学校教育から脱落した少女のための機能的識字及び数量的思考能力を与えるプログラムを開発プログラムに組み入れる措置をとること。
(c) 教育プログラムの一環として人権教育を促進し,女性及び女児の人権は普遍的人権の不可侵,不可欠及び不可分な一部であるという事実を人権教育に盛り込むこと。
(d) 適切な予算財源を配分することにより,また,キャンペーン及び融通性に富む時間割,報奨,奨学金,学校から脱落した少女のためのアクセス・プログラム及びその他の施策を通じて地域社会及び親の支援を得ることにより,少女の就学率及び学業継続率を高めること。
(e) ジェンダーに配慮した教育のための効果的な戦略を教員及び教育者に提供する目的の下に,彼らのための訓練プログラム及び訓練教材を開発し,教育課程における彼ら自身の役割についての意識を高めること。
(f) 女性の教員及び教授に男性の教員及び教授と同等な可能性と地位を保障するための措置をとること。
280. 政府,国際機関及び非政府機関により:
(a) 少女の雇用機会及び意思決定過程へのアクセスを増大するために教育及び技能訓練を提供すること。
(b) 経済,財政及び政治制度の機能に関する少女の知識及び技能を増すために教育を提供すること。
(c) 障害を持つ女児に対し,人生に完全に参加するための適切な教育及び技能訓練へのアクセスを保障すること。
(d) スポーツ,演劇及び文化活動のような課外活動への,少女の完全かつ平等な参加を促進すること。
戦略目標L.5. 健康及び栄養における少女に対する差別を撤廃すること
取るべき行動
281. 政府,国際機関及び非政府機関により:
(a) 食糧配分,栄養及び保健サービスへのアクセスにおける,少女に対する差別的慣行の撤廃に関して,広く一般に情報を提供すること。
(b) 良好な全般的な健康及び栄養に関して,女児,親,教員及び社会を敏感にさせ,若年妊娠に関する健康上の危険その他の問題に関する意識を高めること。
(c) 健康教育及び保健サービス,特に,性に関する健康及びリプロダクティブ・ヘルスを含むプライマリー・ヘルスケア・プログラムを強化及び再方向づけし,少女の心身のニーズにかない,また,妊娠中の,及び子育て中の若い母親のニーズに応える,質の高い保健プログラムを企画すること。
(d) 本行動綱領のパラグラフ267で言及した親の役割を認識しつつ,国際人口・開発会議の「行動計画」の中で合意され,その会議報告の中に入れられているように,少女のHIV/AIDSその他の性感染症への感染しやすさを減らすための個人及び集団行動を強化する目的で同輩教育(ピア・エデュケーション)プログラム及び普及プログラムを創設すること。
(e) パラグラフ267で言及した親の役割を認識しつつ,少女,特に思春期の少女に対し,生殖の生理学,国際人口・開発会議の「行動計画」の中で合意され,かつ同会議の報告の中で確認されているリプロダクティブ・ヘルス及び性に関する健康,責任ある家族計画の実践,家庭生活,リプロダクティブ・ヘルス,性感染症,HIV感染及びエイズ予防に関する教育,並びに情報の普及を保障すること。
(f) 女児の利益のために,識字プログラム及び初等レベルから始まる学校の教科課程の不可欠な一部として,保健及び栄養訓練を取り入れること。
(g) パラグラフ267で論じたように,適切なサービス及びカウンセリングの提供を通じて,性と生殖に関する健康及び行動における思春期の若者の役割と責任を強調すること。
(h) 保健立案者及び実施者のために,女児の特別な保健ニーズに関する情報及び訓練プログラムを開発すること。
(i) 「児童の権利に関する条約」(注11)の第24条に明記されているように,子どもの健康を損なう伝統的慣行を廃止するために,あらゆる適切な措置を講じること。
戦略目標L.6. 児童労働からの経済的搾取を撤廃し,働く少女を保護すること
取るべき行動
282. 政府により:
(a) 「児童の権利に関する条約」(注11)の第32条に従い,経済的搾取及び子供の教育にとって危険である,又はこれを妨げるおそれのある,若しくは健康又は身体的,精神的,宗教的,道徳的若しくは社会的発達に有害になるおそれのある,いかなる労働行為からも子どもを守ること。
(b) 既存の国際労働基準及び「児童の権利に関する条約」に則って,国内法の下に,あらゆる活動部門における少女を含む児童雇用が認められる最低年齢を規定すること。
(c) とりわけ以下を通じて,働く若い少女を保護すること。
(i) 雇用認可の(唯一の),又は幾通りかの最低年齢
(ii) 労働条件の厳格な監視(労働時間の尊重,国内法で規定されていない児童労働の禁止,勤務中の衛生状況及び保健状況の監視)
(iii) 社会保障の適用
(iv) 継続的な訓練及び教育の確立
(d) 必要な場合,児童労働を管理する法律を強化し,その効果的な施行を確保するための適切な罰則又はその他の制裁措置を規定すること。
(e) 国内労働法規及び政策の策定の手引きとして,適当な場合,働く児童の保護のためのILO基準を含む,既存の国際労働基準を利用すること。
戦略目標L.7. 女児に対する暴力を根絶すること
取るべき行動
283. 政府,並びに適当な場合,国際機関及び非政府機関により:
(a) 仕事中,あらゆる形態の暴力から少女の安全を保護する法律を制定及び施行するため,訓練プログラム及び支援プログラムを含め効果的な措置及び施策を講じるとともに,教育その他の機関における少女へのセクシュアル・ハラスメントを廃絶するための措置をとること。
(b) 家庭及び社会におけるあらゆる形態の身体的又は精神的暴力,傷害又は虐待,無視又は不注意な扱い,性的虐待を含む酷使又は搾取から女児を守るために,適切な立法,行政,社会的及び教育的措置を講じること。
(c) 暴力の犠牲になった少女のための治療,社会復帰訓練その他の支援プログラムに携わる者のためのジェンダーに対する感受性の訓練に着手するとともに,そのような少女のための情報,支援及び訓練プログラムを促進すること。
(d) 女の乳児殺し及び胎児期の性の選別,女性器の切除,近親姦,性的虐待,性的搾取,児童売春及び児童ポルノグラフィを含め,あらゆる形態の暴力から少女を守る法律を制定及び施行し,暴力にさらされている少女を支援するために,年齢に応じた,安全で守秘的なプログラム及び医療学的,社会的及び心理的の支援サービスを開発すること。
戦略目標L.8. 女児の社会的,経済的及び政治的な生活への認識及び参加を助長すること
取るべき行動
284. 政府,国際機関及び非政府機関により:
(a) 社会的,文化的,経済的及び政治的問題に関する訓練,情報及びメディアへのアクセスを少女に提供し,彼らが自らの見解を明確に述べることができるようにすること。
(b) 少女の社会における平等と社会参加を促進するための取組みにおいて,非政府機関,特に青年の非政府機関を支援すること。
戦略目標L.9. 女児の地位を向上させる上での家庭の役割* を強化すること
* 前述パラグラフ29で定義したとおり。
取るべき行動
285. 非政府機関と協力して政府により:
(a) 女児に対する家庭内の差別の撤廃に特に重点を置き,前述パラグラフ29で定義したように,家族扶養,教育及び養育の役割について,家庭を支援するための政策及びプログラムを策定すること。
(b) 女児の潜在能力を保護し,尊重し及び促進する支援策及び防止策の提供を目的として,前述パラグラフ29で定義したように,家庭の強化に資する環境を提供すること。
(c) 前述パラグラフ29で定義したように,少女及び少年を平等に扱い,家庭において少女及び少年の責任分担を確保するよう,親及び世話をする者を教育し,奨励すること。
第Ⅴ章 制度的整備
286. 行動綱領は,根本的な変革をもたらすべき一連の行動を設定する。2000年までに目標を達成しようとするならば,直ちの行動及び責任が不可欠である。実施は主として政府の責任であるが,また,地域社会,国内,小地域/地域及び国際レベルにおける公共,民間及び非政府部門の広範な諸機関にも依存している。
287. 「国連婦人の10年」(1976年~1985年)の間に,女性の地位向上を特に目的とする機関が,国内,地域及び国際レベルで数多く設置された。国際レベルでは,婦人の向上のための国際訓練研修所(INSTRAW),国連婦人開発基金(UNIFEM)及び「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の監視のための委員会が創設された。婦人の地位委員会及びその事務局である婦人の地位向上部と並んで,これらの機関が世界的規模の女性の地位向上を特定的に目的とする国連内の主要機関になった。国内レベルでは,多くの国が女性の地位向上を計画し,啓発し,その進捗を監視するための国内機構を創設又は強化した。
288. 公共,民間両部門の国内,小地域/地域及び国際機関による行動綱領の実施は,透明性,ネットワークと諸機関の間の一層の連携,及び全当事者の間を一貫して流れる情報によって促進されるであろう。明確な目標と責任機構もまた,要求される。国内,小地域/地域及び国際レベルにおける他の諸機関との連携,並びに女性の地位向上のためのネットワーク及び諸組織との連携が必要である。
289. 非政府機関及び草の根組織は,女性と男性の平等に基づいた社会的,経済的,政治的及び知的な風土の創出において果たすべき特別な役割を担っている。女性は,行動綱領の実施及び監視に積極的に関与すべきである。
290. 行動綱領を効果的に実施するためには,女性の地位向上に不利な価値観,行動,規則及び手続きを含む,機関及び組織内部の力学の変革もまた必要であろう。セクシュアル・ハラスメントは,撤廃されるべきである。
291. 国内,小地域/地域及び国際機関は,行動綱領に挙げられた責務に必要な,強力かつ明確な権限及び権威,資源,並びに責任機構を有すべきである。その運営方法は行動綱領の能率的かつ効果的な実施を保障するものでなければならない。すべての行動の基礎としての女性と男性の平等に関する国際規範及び基準に対し,明確なコミットメントがなされるべきである。
292. 行動綱領の効果的な実施を保障し,国内,小地域/地域及び国際レベルにおける女性の地位向上のための仕事を強化するために,政府,国連システムその他のすべての関係機関は,とりわけ,あらゆる政策及び計画の監視と評価に,ジェンダーの視点を主流として取り込む積極的で目に見える政策を促進すべきである。
A 国内レベル
293. 政府は,行動綱領の実施に最大の責任を有する。政治の最高レベルの関与が実施にとって不可欠であり,政府は女性の地位向上の進捗に対する調整,監視及び評価に主導的な役割を果たすべきである。第4回世界女性会議は,国内的及び国際的なコミットメント(誓約)並びに行動の会議である。このことは,政府及び国際社会のコミットメントを必要とする。行動綱領は継続的なプロセスの一部であり,このプロセスがあらゆる年齢の少女及び女性のためのプログラム及び実際的な成果に寄与する際に,それを促進する触媒効果を与えるものである。各国及び国際社会は,行動への誓約を行うことにより,この課題に対処するよう奨励される。この過程の一環として,多くの国が,とりわけその国別声明に反映されているような,行動への誓約を行ってきた。
294. 女性の地位向上のための国内機構及び機関は,公共政策の策定に参加し,民間部門を含むさまざまな組織及び機関を通じた行動綱領の実施を奨励し,必要な場合には,既存の機関の対応が及ばない分野における2000年までの新たなプログラムの開発に促進役を務めるべきである。
295. その他,立法機関,学術研究機関,専門家団体,労働組合,協同組合,地元地域社会団体,女性団体及びフェミニスト団体を含む非政府機関,メディア,宗教団体,青年団体,文化団体,並びに金融機関及び非営利団体を含む,広範かつ多様な機関行為者の積極的な支援及び参加が,奨励されるべきである。
296. 行動綱領が実施されるためには,政府が,最高の政治レベルにおける女性の地位向上のための国内本部機構,省庁内及び省庁間の適切な手続き及び職員配置,並びに政策及び計画への女性の参加を拡大し,政策及び計画にジェンダー分析を組み込む権限及び能力を持つその他の機関を創設,又はその効率を改善することが必要である。すべての機関は,自らの目標,計画及び遂行手続きを,行動綱領で求められている行動の観点から見直すことをこの過程の第一歩とすべきである。とりわけメディア及び大衆教育を通じ,行動綱領の目標に対する一般の認識と支援を促進することが,主要な活動となるべきである。
297. できるだけ早く,なるべくなら1995年末までに,政府は関係機関及び非政府機関との協議の下に行動綱領の実施戦略を開発し始め,なるべくなら1996年末までに自国の戦略又は行動計画を開発し終えてしまうべきである。この立案過程は,政府の最高権威レベルにある人間及び市民社会の関係行為者に委ねるべきである。これらの実施戦略は,目標達成期限及び監視基準を定め,実施のための資源の配分又は再配分のための提案を含めた,包括的なものでなければならない。必要な場合は,資源を含めた,国際社会の支援を加えることができよう。
298. 非政府機関は,これらの戦略又は国内行動計画の企画及び実施への寄与を奨励されるべきである。彼らはまた,政府の取組みを補足するための,自身のプログラムを開発するよう奨励されるべきである。女性団体及びフェミニスト団体は他の非政府機関との協力の下に,必要に応じてネットワークを組織し,政府並びに地域及び国際機関による行動綱領の実施を啓発し支援するよう奨励されるべきである。
299. 政府は,とりわけ,特別な仕組みの創設を通じ,特に女性候補者の推薦及び昇進を増やすことによって,適当な場合,政府が任命するあらゆる委員会及び理事会,並びにその他の関連公的機関,あらゆる国際機関及び組織における男女の均衡を達成することを公約すべきである。
300. 地域及び国際機関,特に開発機関,とりわけINSTRAW,UNIFEM及び二国間援助機関は,各国政府との協力の下に各自の権限を通じて,女性の地位向上を促進する国際機構の強化に財政・助言援助を提供するとともに,国内本部機構に対し,その情報収集,ネットワーク開発及び権限遂行の能力を高めるための財政援助及び助言支援を提供すべきである。
B 小地域/地域レベル
301. 国連の地域委員会その他の小地域/地域構造は,各自の権限の範囲内において世界規模の行動綱領の監視及び実施に当たる関連の国内機関を促進・支援すべきである。これは,経済,社会,人権及び関連分野における国連会議の調整されたフォローアップの必要性を考慮に入れ,婦人の地位委員会との密接な協力の下に,各地域行動綱領又は行動計画の実施と調整しつつ,行われなければならない。
302. 地域的な実施,監視及び評価過程を促進するために,経済社会理事会は,国連地域委員会及びその中の女性部局/フォーカル・ポイントがその権限の範囲内で本行動綱領及び地域行動綱領又は行動計画に照らしてジェンダー問題に対処する,制度上の能力について,見直しを検討すべきである。中でも,適切な場合には,この点における能力を強化することが考慮されなければならない。
303. 既存の権限及び活動の範囲内で,国連地域委員会は女性の問題及びジェンダーの視点を主流化し,また,本行動綱領と地域行動計画・行動綱領の双方の実施及び監視を確保するための仕組みと過程の設置を検討すべきである。地域委員会はその権限の範囲内で,ジェンダー問題に関して,他の地域内政府間機関,非政府機関,金融及び調査研究機関並びに民間部門と協力すべきである。
304. 国連専門機関の地域事務所は,タイム・フレーム(達成期限)及び資源の特定を含む,行動綱領の実施のための行動計画を,適当な場合,開発して公表すべきである。地域レベルにおける技術援助及び事業活動は,女性の地位向上のための明確な目標を定めるべきである。この目的のために,国連機関の間で定期的な調整が行われるべきである。
305. 地域内の非政府機関は,世界の行動綱領及び各地域の行動綱領又は行動計画に関する啓発及び情報普及を調整するためのネットワークを開発する取組みにおいて,支援を受けるべきである。
C 国際レベル
1 国際連合
306. 行動綱領は,国連システムのすべての機関の任務を通して,1995年から2000年までの間に,より広範な計画の不可欠な一部として実施される必要がある。国連の諸々の世界サミット及び会議の結果を踏まえた行動綱領の,組織立った包括的な実施,追跡及び評価を確保するために,ジェンダー問題に向けた国際協力のための一層強力な枠組みが,1995年から2000年までの間に開発されなければならない。これらのサミット及び会議のすべてにおいて,各国政府がさまざまな分野における女性のエンパワーメントを約束した事実は,この行動綱領のための追跡戦略において調整を行うことをきわめて重大なものとしている。「開発への課題」及び「平和への課題」は,第4回世界女性会議の行動綱領を考慮に入れるべきである。
307. 行動綱領の実施に対する自らの責任を遂行し調整する,国連システムの制度的な能力,並びに女性の地位向上を促進するためのその専門的知識及び作業方法は,改善されるべきである。
308. 行動綱領の実施,及び国連システムのあらゆる政策及び計画へのジェンダーの視点の組み入れを確保する責任は,最高のレベルに置かれなければならない。
309. 国内レベルの平等と女性のエンパワーメントへの支援提供におけるその能率及び有効性を改善し,行動綱領の目標を達成するその能力を高めるために,国連システムのさまざまな部分を一新し,改革し,再活性化する必要がある。これには,主流機関との関係におけるその助言,促進及び監視機能の合理化,並びに適当な場合,強化を目的とした,女性の地位向上のためのさまざまな国連機構の戦略及び作業方法の見直し及び強化も含まれよう。女性/ジェンダー部門は効果的な主流化のために重要だが,さらに進んで,ジェンダー次元の主流化に逆行する,不注意による疎外を防ぐため,すべての活動遂行を通じた戦略が開発されなければならない。
310. 第4回世界女性会議をフォローアップするに当たって,女性の地位向上のために働く国連システムのすべての機関が,フォローアップ活動の遂行に必要な資源と支援を得るべきである。各機関内のジェンダー・フォーカル・ポイントの取組みは,機関全体の政策,立案,プログラム作成及び予算編成に十分に組み込まれるべきである。
311. 国連その他の国際機関は,行動綱領に従って,自らの機関内にある女性の地位向上への障害を除去するための措置を取らなければならない。
総会
312. 国連の最高政府間機関である総会は,第4回世界女性会議のフォローアップに関する事項についての最も重要な政策策定及び評価機関であり,その資格において,ジェンダー問題をその任務全体に組み込むべきである。総会は,ジェンダー問題が社会的,政治的及び経済的政策にまたがるものである点を認識しつつ,行動綱領の効果的な実施の進捗状況を評価すべきである。1995年の第50回総会は,第4回世界女性会議の報告書を受け取ることになろう。また,総会決議49/161に従い,女性会議の勧告を考慮した,女性会議のフォローアップに関する事務総長報告も検討することになろう。総会は,女性の地位向上に関わる継続的任務の一環として第4回女性会議のフォローアップを加えるべきである。1996年,1998年及び2000年に,総会は行動綱領の実施状況を見直すべきである。
経済社会理事会
313. 経済社会理事会は,国連憲章の下でのその役割の趣旨において,かつ総会決議45/264,46/235及び48/162に従い,行動綱領の実施について国連システム全体にわたる調整を監督し,この点における勧告を行うことになろう。経済社会理事会は,婦人の地位委員会の報告を十分に考慮しつつ,行動綱領の実施状況を見直すよう要請されるべきである。調整機関として同理事会は,婦人の地位委員会の権限につき,他の関連委員会及び女性会議のフォローアップとの効果的な整合性の必要を考慮に入れて見直しをするよう要請されるべきである。理事会は,同委員会が準備した勧告を十分に考慮しつつ,あらゆる政策問題に関する理事会の討議にジェンダー問題を組み入れるべきである。同理事会は,西暦2000年までに少なくとも1回,世界銀行及びIMFを含む国連専門機関が積極的に関与・参加する,同理事会のハイ・レベル・セグメント会合を,女性の地位向上と行動綱領の実施のために当てることを検討すべきである。
314. 同理事会は,国連システム全体にわたる,女性の地位向上のための改定中期計画に基づき,西暦2000年までに少なくとも1回,理事会のセグメント会合を,女性の地位向上の調整に当てることを検討すべきである。
315. 同理事会は,国連システムの各基金及び計画が本行動綱領を実施するための指針及び手続きを設定する目的で,国連システム全体にわたる,女性の地位向上のための改定中期計画に基づき,西暦2000年までに,少なくとも一回の同理事会開発事業セグメント会合を,ジェンダーに関連する開発活動の調整のために当てることを検討すべきである。
316. 行政調整委員会(ACC)は,行動綱領の目標を実施し,そのフォローアップを援助するために,とりわけ,国連システム全体にわたる調整の確保に向けた機関間レベルの既存の手続きを通じることを含め,参加機関がそれらの活動を最もうまく調整する方策を検討すべきである。
婦人の地位委員会
317. 総会及び経済社会理事会は,行動綱領,並びに他の関連委員会及び女性会議のフォローアップとの相乗効果の必要性,さらに行動綱領実施への国連システム全体のアプローチの必要性を考慮に入れつつ,各自の権限に従い,婦人の地位委員会の権限を見直して強化するよう要請される。
318. 経済社会理事会を補助する機能委員会として,婦人の地位委員会は,行動綱領の実施に対する国連システム内部における監視及びそれに関する同理事会への助言に中心的な役割を担うべきである。同委員会は,明確な権限とともに,それを遂行するための十分な人的及び財政的資源を国連の通常予算内での再配分を通じ有するべきである。
319. 婦人の地位委員会は,国連システムの関連諸機関とともに,行動綱領の実施に関する報告の調整について,経済社会理事会を援助すべきである。同委員会は,適当な場合,国連システムの他の機関その他の情報源からの情報を利用すべきである。
320. 1996年から2000年までの作業計画を開発する際に,婦人の地位委員会は行動綱領の重大問題領域を見直し,世界女性会議のフォローアップをその課題に組み込む方法を検討すべきである。この関連で,婦人の地位委員会は,国連の活動の主流にジェンダーの視点を組み入れるに当たっての,自らの促進的役割を如何にして更に開発できるかを考慮すべきである。
その他の機能委員会
321. 経済社会理事会のその他の機能委員会もまた,その権限の範囲内で行動綱領を十分に考慮し,それぞれの任務にジェンダーの側面を取り入れるよう保障すべきである。
女子に対する差別の撤廃に関する委員会,及びその他の条約機関
322. 女子に対する差別の撤廃に関する委員会(女子差別撤廃委員会)は,「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の下におけるその責任を履行するに当たり,締約国から提出された報告を検討する際に,その権限の範囲内で行動綱領を考慮に入れるべきである。
323. 「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の締約国は,同条約第18条の下で報告を行うに当たり,同条約により保障された権利を女性が享受できているか否かについての女子差別撤廃委員会の効果的な監視を促進するために,行動綱領の実施に向けて取った施策に関する情報を加えるよう要請される。
324. 女子差別撤廃委員会の,同条約の実施を監視する能力は,専門家の法的支援を含む国連の通常予算内における人的及び財政的資源の提供,並びに総会決議49/164及び1995年5月の締約国会議でなされた決定に従って,委員会のための十分な会合時間の提供を通じて,強化されるべきである。同委員会は,「ウィーン宣言」及び行動計画の勧告を考慮し,他の人権条約機関との調整を増進すべきである。
325. その他の条約機関もまた,その権限の範囲内において,行動綱領の実施を十分に考慮し,女性の平等な地位及び人権をその任務に組み込むことを確保すべきである。
国連事務局
事務総長事務室
326. 事務総長は,関連機関の権限を考慮に入れつつ,行動綱領の実施のための,及び,国連システム全体にわたって,あらゆる活動の主流にジェンダーの視点を組み入れるための,国連内部の政策を調整する責任を持つことを要請される。事務総長は,これらの目標の実施に当たって効果的な調整を確保するために,具体的な措置を検討すべきである。この目的のために事務総長は,ジェンダー問題に関する事務総長顧問の役割を務めるとともに婦人の地位向上部と緊密に協力して行動綱領の国連システム全体にわたる実施の確保に助力する高級ポストを,既存の人的・財政的資源を活用しつつ,事務総長事務室に設置するよう要請される。
婦人の地位向上部
327. 政策調整・持続可能開発局婦人の地位向上部の主な機能は,婦人の地位委員会,女性の地位向上に関連する場合には他の政府間機関,及び女子差別撤廃委員会に対し,実質的な支援を提供することである。同部は,「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」の実施に向けたフォーカル・ポイントに指定されてきた。前述のパラグラフ313に述べたように婦人の地位委員会の権限の見直しに鑑み,婦人の地位向上部の機能も検討する必要があるだろう。事務総長は,中でも,国連の通常予算の範囲内で十分な財政的・人的資源を提供することによって,同部のより効果的な機能遂行を保障するよう要請される。
328. 同部は,婦人の地位委員会のための政策研究にジェンダーに関する影響分析を適用することを通じ,また,その他の補助機関への援助を通じて,女性の地位向上に対する障害を検討すべきである。第4回世界女性会議後は,1996年から2001年までの女性の地位向上のための国連システム全体にわたる中期計画の改正準備において調整役を果たすとともに,女性の地位向上に向けた機関間調整のための事務局としての役割を継続すべきである。また,行動綱領の実施に関して,女性の地位向上のための国内委員会及び国内機関,並びに非政府機関との情報の流れを引き続き維持すべきである。
国連事務局のその他の部局
329. 国連事務局のさまざまな部局は,行動綱領の調整のとれた実施に寄与する最善の策を決定するために各自のプログラムを検討すべきである。行動綱領実施のための提案は,1996年から2001年までの女性の地位向上のための国連システム全体にわたる中期計画の改定,及び提案されている1998年から2002年までの国連中期計画に反映される必要がある。行動の内容は,各関係機関の権限によって決まることになろう。
330. ジェンダーの視点が事務局のあらゆる活動に中心的な面として導入されることを保障するために,既存及び新規の連携が事務局全体を通じて開発されるべきである。
331. 人的資源管理局は総会決議45/125及び45/239cで設定され,46/100,47/93,48/106及び49/167で再確認された目標を達成するために,世界中の計画管理者と協力し,かつ,事務局における女性の地位改善のための戦略的行動計画(1995年~2000年)に従って,地理的バランスに考慮しつつ,特に上級政策レベル及び意思決定ポストへの女性の採用及び昇進を継続して優先すべきである。訓練サービスとして,定期的なジェンダーに対する感受性の訓練を計画・実行するか,又は同局の活動のすべてにこの訓練を取り入れるべきである。
332. 広報局は,その広報活動全般にジェンダーの視点を組み込むよう努めるとともに,女性及び女児に関するプログラムを既存の資源の範囲内で強化・改善すべきである。この目的のために同局は,新技術を十分に考慮に入れた,行動綱領の実施を支援するためのマルチ・メディア通信戦略を策定すべきである。広報局の定期出版物は,特に開発途上国において行動綱領の目標を促進すべきである。
333. 経済社会政策情報分析局の統計部は,第Ⅳ章の戦略目標H 3で述べたような,国際的な統計作業において重要な調整役を担うべきである。
婦人の向上のための国際訓練研修所
334. 婦人の向上のための国際訓練研修所(INSTRAW)は,女性の状況及び開発に関する研究及び訓練を促進する権限を担っている。行動綱領に照らして,INSTRAWはその事業計画を見直し,行動綱領の中で同研修所の権限に属する側面の実施計画を開発すべきである。同研修所は,優先度の高い研究及び研究方法を特定し,女児の地位に関するものを含む女性の調査及びジェンダー研究を遂行する各国の能力を強化し,その目的のために動員できる研究機関のネットワークを開発すべきである。また,同研修所が効果的に支援し促進できるタイプの教育及び訓練を,同研修所は特定すべきである。
国連婦人開発基金
335. 国連婦人開発基金(UNIFEM)は,あらゆるレベルの開発に女性の次元を組み込むための技術的及び財政的支援を提供することにより,開発途上国における女性の経済的・社会的開発のための選択肢及び機会を増大する権限を有する。したがってUNIFEMは,女性の政治的・経済的エンパワーメントに焦点を合わせ,行動綱領に照らして,適当な場合その事業計画を見直し,強化すべきである。その啓発の役割は,専ら,女性のエンパワーメントに関する多国間の政策対話の促進に向けられるべきである。その機能を遂行するために,十分な資源を利用できるようにすべきである。
専門機関,及び国連システムのその他の機関
336. 国内レベルの行動に対する支援を強化し,国連による調整のとれたフォロー・アップへの寄与を高めるために,各機関は,行動綱領に認定されている世界規模の優先問題に対処すべく優先順位を再調整し資源の配分を計画し直すための目的及び目標を含む,各自が着手する具体的な行動を計画すべきである。義務と責任が明確に定められなければならない。これらの提案はまた,1996年から2001年までの国連システム全体にわたる女性の地位向上のための中期計画に反映されるべきである。
337. 各機関は,最高レベルで対応に当たるべきであり,目標の追求に際しては,女性の問題に関するそのフォーカル・ポイントの役割と責任を強化及び支援するための措置を取るべきである。
338. 更に,開発途上国,特にアフリカ及び後発開発途上国において技術援助を提供する権限を持つ専門機関は,女性の地位向上の継続的な促進を保障するために,より一層協力する必要がある。
339. 国連システムは,移行期経済の国に対し,女性の地位向上に関するそれらの国の特有な問題の解決を促進するために,適切な技術援助及びその他の形の支援を検討し提供すべきである。
340. 各機関は,特に意思決定レベルにおける男女の均衡を達成するために,専門職レベルにおける女性の採用及び昇進をより一層優先すべきである。職員の雇用及び勤務条件の決定における最高の配慮が,最高水準の効率,能力及び完全性を確保するための必要条件でなければならない。地理的にできるだけ広い範囲から職員を採用することの重要性を,十分に考慮すべきである。各機関は,この目標達成の進捗状況について,各自の管理機関に定期的な報告を行うべきである。
341. 国レベルにおける開発のために国連が行う現地活動の調整は,総会の関連決議,特に47/199に従い,行動綱領を十分に考慮して,常駐調整官制度を通じて改善されるべきである。
2 その他の国際機関及び組織
342. 行動綱領の実施に当たり,国際金融機関は,投資及び計画が女性に利益を与え,ひいては持続可能な開発に寄与することを保障するよう,政策,手続き及び人員配置を見直して改正することを奨励されるべきである。また,高級レベルの地位における女性の数を増加し,職員に対するジェンダー分析の訓練を増加し,貸付計画その他の事業が男女それぞれに及ぼす異なる影響への十分な配慮を確保するための政策及び指針を作成することを奨励されるべきである。この点において,ブレトンウッズ機関,国連及びその基金,計画並びに専門機関は,女性とその家族の利益のために設けた各自の計画の有効性を強化するために,その援助のより能率的で効果的な調整に向けて,実地レベルにおけるものを含め,定期的かつ継続的な対話を確立すべきである。
343. 国連総会は,世界貿易機関(WTO)に対し,国連システムと連携した活動を含む,行動綱領への寄与の方策を検討するよう要請することを考慮すべきである。
344. 国際的な非政府機関は,行動綱領の実施に果たすべき重要な役割を担っている。さまざまなレベルにおける行動綱領の実施を促進する目的で,非政府機関と協力するための仕組みの設置を検討すべきである。
第Ⅵ章 財政的整備
345. 女性の地位向上のための財政的及び人的資源は概して不十分であった。このことが今日に至る「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」実施の遅滞の一因であった。これまでの国連サミット及び諸会議でなされた関連の約束を含めて,行動綱領の完全かつ効果的な実施には,人的及び財政的資源を女性のエンパワーメントのために利用できるようにするための,政治的な関与が必要であろう。このためには,政策及び計画に関する予算の決定にジェンダーの視点を組み入れるとともに,男女の平等を確保するための特定の計画に十分な資金を供給することが求められよう。行動綱領を実施するためには,資金があらゆる部門にまたがった,あらゆる供給源から認識され,動員されることが必要である。計画内部及び計画相互における,政策の再策定と資源の再配分が必要かもしれないが,政策の変更が必ずしも財政的な意味を持たない場合もあり得る。革新的な資金供給源を含め,公共・民間双方からの追加資金の動員もまた,必要かもしれない。
A 国内レベル
346. 行動綱領の戦略目標を実施する主な責任は,政府にある。これらの目標を達成するために,政府は,女性が公共部門の支出から利益を受けている実状を体系的に見直し,生産能力の増強及び社会的ニーズへの対応という両目的の公共支出へのアクセスの平等を確保するように予算を調整し,かつ,他の国連サミット及び会議でなされたジェンダー関連の公約を実現するために努力すべきである。行動綱領を成功裏に実施する国内戦略を開発するために,政府は,ジェンダーに関する影響分析に着手するための資源を含む,十分な資源を配分すべきである。政府はまた,非政府機関,民間部門及びその他の機関に対し,追加資源の動員を奨励すべきである。
347. 女性の地位向上のための国内本部機構,また適当な場合,行動綱領の実施及び監視に寄与できるすべての機関に対し,十分な資源が配分されるべきである。
348. 女性の地位向上のための国内本部機構がまだない場合,又は常置機関として設置されていない場合は,政府は,そのような機構のために十分かつ継続的な資源が利用できるように努力すべきである。
349. 政府は行動綱領の実施を促進するために,過度な軍事費並びに武器製造及び獲得のための過度な投資を,国家安全保障と両立する範囲内で,適当な場合,削減すべきである。
350. 非政府機関,民間部門その他の市民社会の行為者は,行動綱領実施のために必要な資源を配分することを考慮するよう奨励されるべきである。非政府機関,特に女性団体及び女性のネットワーク,フェミニスト団体,民間部門その他の市民社会の行為者がこの目的に向けて寄与できるように,政府は彼らによる資源調達に対して支援的な環境を作るべきである。この点における非政府機関の能力が,強化され,高められるべきである。
B 地域レベル
351. 地域開発銀行,地域企業団体その他の地域機関は,貸付その他の各自の事業において行動綱領の実施に寄与するとともに,この目的のために資源の調達を助けるよう要請されるべきである。これらの機関はまた,その政策及び資金提供という自らの属性において,行動綱領を考慮することを奨励されるべきである。
352. 小地域及び地域機関並びに国連地域委員会は,適当な場合,かつ既存の権限の範囲内で,行動綱領実施のための基金の動員を支援すべきである。
C 国際レベル
353. 開発途上国,特にアフリカ及び後発開発途上国における行動綱領の実施のために,十分な財政資源が国際レベルにおいて提供されるべきである。行動綱領を実施する開発途上国の国家能力を強化するためには,先進国の国民総生産の0.7パーセントを全体的な政府開発援助にという合意目標のできるだけ早い実現に向けた努力と,行動綱領実施のための活動への割り当てを増加することが必要だろう。更に,開発協力に携わる国々は,ジェンダー・アプローチを組み入れることを通じて援助の質と有効性を改善するために,自国の援助計画に対する厳密な分析を行うべきである。
354. 世界銀行,国際通貨基金,国際農業開発基金及び地域開発銀行を含む,国際金融機関は各自の贈与及び貸付を綿密に調べ,融資及び贈与を途上国,特にアフリカ及び後発開発途上国における行動綱領の実施計画に充てるよう要請されるべきである。
355. 国連システムは,開発途上国,特にアフリカ及び後発開発途上国に対し,行動綱領の実施について,技術援助その他の形の援助を提供すべきである。
356. 経済が移行期にある国々の行動綱領の実施には,継続的な国際協力及び援助が必要となろう。専門機関及び部門機関を含む国連システムの諸機関は,女性の地位向上のための政策及び計画の策定及び実施におけるそれらの国々の取組みを促進すべきである。この目的のために,国際通貨基金及び世界銀行に対し,それらの取組みへの援助を要請すべきである。
357. 行動綱領の目標実現を促進するために,債務の管理及び削減に関する,「世界社会開発サミット」並びにその他の国連世界サミット及び会議の結果が実施されるべきである。
358. 政府開発援助と開発途上国の国家予算の平均して各20パーセントづつを基本的な社会計画に向けるという相互の約束に合意したパートナーである当事先進国及び開発途上国は,行動綱領の実施を促進するために,ジェンダーの視点を考慮すべきである。
359. 国連システムの開発基金及び開発計画は,その計画及び事業が行動綱領の実施及び次のプログラミング・サイクルにどの程度向けられているかを直ちに分析し,その技術援助及び資金提供事業において,女性と男性の不均衡の解消に向ける資源を十分に確保すべきである。
360. 国連の諸基金,計画及び専門機関,特にUNIFEM及びINSTRAWが女性のエンパワーメントの促進において,したがって行動綱領の実施において,各自の権限内で,中でも女性の地位向上のための研究,訓練及び情報活動,並びに開発努力にジェンダーの視点を組み入れるための技術・財政援助に果たす特別の役割を認識し,国際社会から提供される資源を十分なものとすべきであり,それが十分な水準に維持されるべきである。
361. 女性の地位向上を促進するためのその取組みにおける国連システムの能率及び有効性を改善し,行動綱領の目標達成を促進するその能力を強化するためには,国連システムのさまざまな部分,特に国連事務局の婦人の地位向上部,並びに女性の地位向上を促進する明確な権限を持つその他の部局及び補助機関を一新し,改革し,再活性化する必要がある。この点において,国連システム内の関係管理機関は行動綱領の効果的な実施に特別な考慮を加え,この目的に向けて最も効果的かつ能率的な資金の利用を実現するために,自らの政策,計画,予算及び事業を見直すよう奨励される。行動綱領の実施のために,国連の通常予算内からの追加的資源の配分も必要であろう。
注
注1 「『国連婦人の十年:平等,発展,平和』の成果の見直し及び評価するための世界会議(ナイロビ,1985年7月15日~26日)報告」(国連出版物,販売番号 E. 85. IV. 10)第I章,A節
注2 「世界人権会議(ウィーン,1993年6月14日~25日)報告」(A/CONF. 157/24(Part I))第Ⅲ章
注3 総会決議34/180,付属文書
注4 総会決議45/164
注5 総会決議44/82
注6 総会決議48/126
注7 A/47/308‐E/1992/97,付属文書
注8 総会決議48/104
注9 「ウィーン宣言及び行動計画」,「世界人権会議報告」,第3章パラグラフ5
注10 「ウルグアイ・ラウンド多角的貿易交渉の結果:法律文書」(ジュネーヴ,GATT事務局,1994年)参照
注11 総会決議44/25付属文書
注12 「万人のための教育に関する世界会議:基本的学習ニーズを満たす(タイ,ジョムティエン,1990年3月5日~9日)最終報告」,万人のための教育に関する会議のための国際機関間委員会(UNDP,UNESCO,UNICEF,世界銀行),ニュー・ヨーク,1990年,付属文書1
注13 総会決議2200A(XXI),付属文書
注14 「国際人口・開発会議(カイロ,1994年9月5日~13日)報告」(国連出版物,販売番号 E. 95.ⅩⅢ. 18),第I章,決議1,付属文書
注15 「社会開発サミット(コペンハーゲン,1995年3月6日~12日)報告」(A/CONF. 166/9),第I章,決議1,付属文書I及びⅡ
注16 危険な妊娠中絶とは,必要な技術に欠ける者によるか,又は最低限の医学的基準に欠ける環境におけるかのいずれか又はその双方で,望まない妊娠を終結させるるための手続きである,と定義されている。(世界保健機関技術作業部会の報告,「危険な妊娠の予防と管理」ジュネーヴ,1992年4月(WHO/MSM/92.5)による。)
注17 「国際栄養会議(ローマ,1992年12月5日~11日)最終報告」(ローマ,国連食糧農業機関,1993年),第Ⅱ部
注18 「国連環境開発会議(リオ・デ・ジャネイロ,1992年6月3日~14日)報告」,第I巻
「会議採択決議」(国連出版物,販売番号 E. 93. Ⅰ.8及び正誤表)決議1,付属文書I
注19 同書,決議1,付属文書2
注20 総会決議317(Ⅳ),付属文書
注21 総会決議217A(Ⅲ)
注22 総会決議39/46,付属文書
注23 「第47回国連総会公式記録,補遺第38号」(A/47/38),第I章
注24 国連,「条約シリーズ」,第75巻,第973号,287ページ
注25 「世界人権会議報告」,第Ⅲ章,第Ⅱ節,パラグラフ38
注26 「国連軍縮年鑑」,第5巻:1980年版(国連出版物,販売番号 E. 81. IX.4),付属文書第Ⅶ号参照
注27 総会決議260A(Ⅲ),付属文書
注28 国連,「条約シリーズ」,第189巻,第2545号
注29 同書,第606巻,第8791号
注30 総会決議48/96,付属文書
注31 総会決議1386(ⅩⅣ)
注32 CEDAW/SP/1995/2参照
注33 総会決議2106A(ⅩⅩ),付属文書
注34 総会決議41/128,付属文書
注35 国連環境計画,「生物種の多様性に関する会議」(環境法・制度プログラム活動センター),1992年6月
人権に関するデータベース
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人権課題 テーマ別
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主要な人権関係条約
第4回世界女性会議(World Conference on Women)で「北京宣言及び行動綱領(Beijing Declaration and Platform for Action, Fourth World Conference on Women)」が採択
情報の種類 | 主要な人権関係条約 |
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タイトル | 第4回世界女性会議(World Conference on Women)で「北京宣言及び行動綱領(Beijing Declaration and Platform for Action, Fourth World Conference on Women)」が採択 |
時期 | 1995/09/15 |
主体名 | 国際連合 |